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NARUTO 桃風伝小話集

作者:人魚
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その45

 
前書き
その44の続き。
 

 
ごっこ遊びでもその場限りの口先だけでも。
……私をうちはに取り込む為の策略でも。
それでもイタチさんが暗に私を妹と言ってくれた事が嬉しかった。
私はうちは一族の生まれじゃないし、何よりこの里の人達にとっては九尾の器でしかないし、そんなことを望むのは過ぎた望みって類のものなのは分かっている。
けれど、ちょっぴりミコトさんやサスケ君にイタチさんの事を、私の家族と思っていてもいいと許されたような気持になった。
気のせいなのは分かってる。
独りよがりなのもだ。
そもそも人柱力の私にそういう普通の交流は無理なのは分かっているし、うちはの人達の気質的にもそんな事はあり得ないけれど。でも、私的にはむしろうちはの人達だからこそ、木の葉の里の誰よりも親近感を覚え始めていた。
なぜならば。
もう、ずーっと前に分かたれて、血の繋がり自体は遠くなっていたとしても、千手とうちはは同じ一族と看做していいと私は思う。
昔の記憶があるから余計にだ。
表に現れる能力にこそ違いがあれど、内に流れるものはきっと同じだ。
だって、うちはと千手の祖であるインドラとアシュラは兄弟だったのだから。
今を生きる二人の子孫は同族と看做してもいいはずだ。
っていうか、同族でしかない。
生物学的に分類するなら、分類上はそうとしかならないし。
どうも、この世界はその辺りの概念が発達してないみたいだけど。
きっと、子々孫々に至るまで、血みどろの兄弟喧嘩を維持し続けてきたどこかの兄弟とその末裔のせいだろうけどね。
血で血を洗う闘争を繰り広げてる違う特徴持ってる人達に、お前ら同じ一族だからなんて言っても反発しか返ってこないだろうし。
でも、争いが拮抗し続けていたということは、精神的にも同じ物を持っていたって証拠でもあるよね、絶対。
だから、千手の流れを汲んでるうずまきの私が、身近にいるうちはの人間を同族と看做すのは当然で、当たり前だと思う。
誰にもわかって貰えなくても。
私の仇だったとしても。
そんな事を、うちはシスイに家まで送られながら考えて、うちはシスイに対する警戒心が湧かない理由をこじつけた。
というか、なんでこうなったんだろう。
うちはシスイが、私と、私を家に送るイタチさんの前に姿を見せたのは、イタチさんに暗部の任務が入った事を報せる為だった。
それがどうしてうちはシスイがイタチさんの代わりをする事になって、こうして私がうちはシスイと一緒に行動することになるんだ!?
いやっ、別に、それが嫌だと思ってる訳じゃなくて。
でも、この人も木の葉の人間で。
だけど、この人も、ミコトさんやサスケ君やイタチさんと同じうちはの人で。
そして、うちはの人達は、生物学的には、うずまきの私と同じ一族と看做せてしまう訳だし。
確かにうずまきの私とうちはの人達とじゃ、遠く分かたれ過ぎていて、同じとは確かに言い切れなくて、持っている力も違いすぎるけれど。
それに、九喇嘛の敵で、私の敵だ。
でも。
正直に言おう。
里の人間達よりも、うちはの人達の方が付き合いやすい、と。
だって、一族の長の家族であるミコトさん達が私に構ってくれてるって理由が大きかったとしても、私、九尾の器の人柱力なのに。
うちはの人達にも、そういう風に忌避されてない訳じゃないのに。
そういう風に私を忌避してる人達でも、私が会釈すると会釈してくれるし、笑いかけると、狼狽えつつも、人目を避けてこっそり頭撫でてくれたり、人によってはちょっとした駄菓子を私に握らせて、それをやるからとっととうちはの敷地から出て行けと怒鳴りつけて、暗に早く家に帰れと私を心配してくれるし。
里の人間は、そんなことする人は誰もいないのに。
会釈しても無視されるし、笑いかけると嫌そうに顔を顰められる様な反応ばっかりなのに。
なんか、うちはの人達は、里の人達と同じような反応してても、ちょっと違う。
そしてそういう人ほど、私が笑顔でお礼を言うと、再犯率が高くなって行くんですよねー。
ふふふふ。
ミコトさん達ほど親しくもないし、名前も知らないけれど、私が二言三言、笑顔で世間話をするようになってきたうちはの人達もちらほら出てきてます。
もうちょっとしたら、その人達にお名前伺ってみようかなあ、なんて、考え始めても居たりする。
勿論、その会話内容は、私が九喇嘛とのお話に慣れていたことにより、うちは語翻訳コンニャクをスキルとして既に持ち合わせていたことが大きいけれど。
でも、断然付き合いやすいのは確かだ。
これって、やっぱり、本当は同族だからなんだろうか、と考えなくもない今日この頃。
思い返してみれば、そもそも九喇嘛達は十尾のチャクラの分割体で、うちはと千手の祖でもある六道仙人は、十尾の子とも言い換えられるし。
そうすると、六道仙人の中の十尾から受け継いだ九喇嘛分を、うちはの人達は継いじゃったって解釈も有りなんじゃなかろうか。
そんなアホな事を思いつつ、イタチさんに私の送迎役の代理を申し出て、こんな風に私と一緒に私のお家への道を歩いているうちはシスイをじっと見つめる。
この人は一体どんな人なんだろう。
サスケ君のお兄ちゃんなイタチさんが、そのサスケ君みたいな顔して懐く人。
色々なことはさておき、興味津々になっちゃっても仕方なくないですか!?
じいぃっとシスイさんを見つめること暫し。
私の視線に堪えかねえたらしいうちはシスイが、足を止めてふっと笑った。
「どうも、俺は君の興味を惹いてしまったようだな。少し、話をしようか。うずまきナルト」
誘いかけられ、ちょっと考えて、素直に頷く。
その瞬間だった。
「なら、少し場所を変えよう」
「きゃ!?」
その一言でうちはシスイは私を軽々と抱き上げて、あっという間に家の水源に当たる沢のほとりに移動していた。
運ばれている間に自然とうちはシスイにしがみついてしまっていて、狐に摘ままれたような気になりながら、うちはシスイの腕の中から降ろされる。
そのまま適当な倒木に座らせられて、うちはシスイは焚火の用意をし始めた。
ぼんやりとそんなうちはシスイを見つめていると、困ったように苦笑して、全ての支度を終えたうちはシスイが私の前にやってきて、膝をついて私と目を合わせて写輪眼を発動させた。
そして、こう言った。
「うちはは、幻術も視線一つで掛けられる写輪眼を有する最強の瞳術使いの一族だ。そんなに真っ直ぐに俺達一族と目を合わせていては、容易く操られてしまうぞ。君は、九尾の器だ」
じっとうちはシスイの写輪眼を見つめつつ、今まで、九喇嘛やおじいちゃんにさえ言った事のない覚悟を打ち明けた。
「今更です。フガクさんはうちは一族の長で、ミコトさんはその妻で、イタチさんとサスケ君はその長の子です」
「……成程」
私のその言葉に、私の覚悟を感じ取ってくれたんだろう。
シスイさんは写輪眼を消し去った黒い瞳で私に笑いかけてきた。
「覚悟の上という事か」
そうして、自嘲気味に呟いてきた。
「確かに、俺達うちは一族と、その覚悟もなしに親しむことはできない、か…」
寂しそうなその言葉に、ここ最近考えていて、ついさっきも考えていた事を打ち明けてみた。
「別に、それだけが理由じゃないです」
「というと?」
興味を持ったらしいシスイさんが、私に促してきた。
だから素直に口を割った。
「僕が独りだからかもしれませんけど、『一族』について、よく考えるんです」
「それで?」
「僕はうずまきで、千手の流れを汲んでて。つまり、僕は、傍系の千手一族」
「…成程」
興味深げにしつつ、腑に落ちなそうにしているうちはシスイに、その先をも語っていった。
「そして千手一族は六道仙人の直系。そしてうちは一族も六道仙人の直系。だって、両方の一族の祖は兄弟だったんでしょう?なら、見た目も能力も全然違うけど、千手とうちはは同じ一族だなって。それなら、傍系の千手でちょっと僕は遠いけど、ミコトさん達と僕は同じ一族かなって。それくらいなら、誰にも言わずにこっそり思ってるくらいなら、別に良いんじゃないかなってそう思って…」
思わぬ事を言われたとばかりにきょとんとしているシスイさんに、そう考えるようになってから気付いた事を打ち明ける。
「そう思ってから、うちはの人と、里の人間と、どっちと過ごしやすいか考えてみたら、僕、里の人間よりも、うちはの人達との方が過ごしやすくて、何を考えているのかも分かりやすいなって気付いちゃって。それってやっぱり、見た目は違くて、血も遠いけど、僕もうちはの人達もどこか同じ物を持ってるせいなのかなって」
「……成程。君にとっては、俺達うちは一族は親しみやすい、と」
目を丸くして続けてきたうちはシスイにこくんと首を縦に振る。
「成程…」
酷く考え込んでいるうちはシスイに、もう一つ、付け加えた。
「ミコトさんが、フガクさんの奥さんで、そのミコトさんが私を気にかけてくれているからって理由もあるとは思います」
「成程」
私が何を言っても成程しか言わないシスイさんに、ちょっぴりおかしくなってきた。
そうして、うちはシスイに好感を持つ。
だから、はにかみながら尋ねてみた。
「僕、うずまきナルトです。貴方の言う通り、九尾の器です。うちは一族の貴方のお名前をお尋ねしてもいいですか?」
ぱちぱちと目を瞬いたシスイさんは、夕闇の中、焚火の明かりに照らされながら、おかしそうに笑いを堪えながら謝ってきた。
「これは失礼。イタチを挟んでいたから失念していた。そういえば、初対面だったな。成程。これは確かに。君の言葉には一理ある。千手とうちはは同じ一族、か。成程な。盲点だった。俺の名前はシスイという。シスイと呼んでくれ」
「シスイさん」
イタチさんと同じようにさん付けで呼んでみれば、私の遊び心を感じ取ったシスイさんが茶目っ気たっぷりに尋ねてきた。
「俺は君をどう呼ぶべきかな?イタチと一緒でいいのかな?」
おもしろそうに笑っているシスイさんとは、きっとこれから仲良くなれる予感がビンビンします。
だって、きっと気が合う。
そんな感じがする。
イタチさんより、遊び心を持ってる人でもあるみたいだし。
私やサスケ君と一緒に、悪戯とか考えてくれそうです。
それはとっても楽しそうだ。
ちょっぴり、未来への期待を抱きつつ、私も茶目っ気を出して勿体つけてみた。
シスイさんもそれを望んでそうな気もするし。
「シスイさんにも名前で呼んで欲しいけど、呼び捨てはダメです。でも、イタチさんと同じくらい仲良くなったら、そしたら呼び捨てにしてもいいですよ」
「あははは!それも道理だ!」
結構笑い上戸らしいシスイさんは、うちはの人にしては珍しく喜を表に出している。
だからふと、思いついた事を口にしてみた。
「千手扉間は、千手の中でもうちは寄りの気質の人間だったんだろうけど、シスイさんやイタチさんはその逆で、うちはの中で千手寄りの気質を持ってるのかも。だから、うずまきの僕とも気が合うのかもしれませんね」
にこり、と笑いかければ、うちはの人らしい不敵な表情で、もう一度私に尋ねてきた。
さっきよりも格段に興味深そうに。
「というと?」
内緒話をするように身を寄せてきたシスイさんに、同じように身を寄せながら、忠告をしようと心に決める。
シスイさんも、私に忠告をしてくれたから。
自分が、悪役になってまで。
死んで欲しくないな、と、そう思ったから。
そうして、そんな風に、私の見解を添えて忠告してみたけれど。
シスイさんは、私と同じような覚悟を既に持っていました。
ダンゾウに対して。
そしてそうやって、一晩中語り明かして、大分仲良くなれたと思ったシスイさんとはそれっきり顔を合わすことは無く。
折を見て尋ねてみたイタチさんからは、シスイさんの訃報を聞かされました。
そして、念の為に尋ねてみた所、発見されたシスイさんらしき遺体には、両目とも写輪眼がなかったそうです。
だから。
今度は私、イタチさんに忠告するべきなのでしょうか。
イタチさんの様子やうちはの人達の様子からすると、里へのクーデターっぽい感じは全然しないんですけど。
だって、まだそれぞれの名前は聞けてないけれど、私を餌付けしてくれるうちはの人が増えてますし。
いや、もしかして、これがクーデターの予兆なのかも?
だって私、九尾の器ですし?
でも、こっそり人目を忍んで野良猫に餌付けするように私に構ってくれてるような人達が、そんな事考えているようには思えないんですけど。
いや、里の目を気にして…とかいう理由で、わざとそうしているという理由をこじつけられなくもないんですけどね?
でも、だったら、私への餌付け現場を、知り合いのうちはの人に見られて取り乱すとかの反応する人はいないと思うんですよね。
だけど、私に構ってくれてるうちはの人の大半が、こぞってそんな反応示すんです。
…これって、ただ単に子供の私に情が湧いて、ついつい九尾の器を構っているのを知人に知られて焦ってるって反応ですよねぇ?
そんな人達が本当にクーデターとか考えるものなのかしら。
それとも。
クーデターを考えているからこそ、九尾の器を構っているのを知られて焦っているのかしら???
確かに、そんな風に私に構ってくれるうちはの人は少数派で、大多数は里の人達と同じように私を遠巻きにして眺めてるし、悪感情剥き出しにする人がいない訳じゃないし、そういう人と目を合わせてると瞳術かけるぞと写輪眼付きで脅される訳ですが。
でもまだ、実行されてないし。
瞳術かけられちゃうのか追及すると、いっつも苦虫噛み潰した表情で逃げてっちゃうし。
そういう人達も口先だけで、里の人間みたいに簡単に手は上げてこないし。
フガクさんみたいに警務隊として私に手を出して来た人もいっぱいいるけど、うちはの敷地内では、絶対に手を挙げてこないし。
それはやっぱりミコトさん達の影響もあるんだろうけど。
……とりあえず。
何があろうと、今日も、ミコトさんとサスケ君とイタチさんと一緒に食べるうちは煎餅はおいしいです。
とても。
 
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