提督はBarにいる。
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艦娘とスイーツと提督と・51
~リシュリュー:クグロフ~
「どうだい?味は」
「……ふん。まぁまぁってトコね」
「手厳しいねぇ、全く」
今回のチケット当選者は、フランスの戦艦リシュリュー。リクエスト……というか、『貴方がどれだけ料理が出来るか見てあげるわ!』と宣言されて作ってみろと課題を出されたのはフランスの伝統的な焼き菓子『クグロフ』だった。まぁ、伝統的とは言っても発祥はフランスではなくオーストリアらしいがな。それがフランスに持ち込まれたきっかけは、かの有名なマリー・アントワネット。嫁入りの際に料理人も連れてきていて、大好物だったクグロフを毎朝焼かせて食べていたらしい。そのお陰でレシピが広まり、今ではフランスの伝統的なお菓子の1つと呼ばれるまでになった訳だ。
「当然でしょう?フランス人は料理に並々ならぬ拘りがあるんだから」
「まぁ、確かにな。それは日本も負けてねぇとは思うが」
どちらも食に拘りの強い国だよな、日本もフランスも。
「けど、初めて焼いたのなら上出来だと思うわよ?」
「そうか?いやぁ、リシュリューにそう言って貰えれば少しは自信になるな」
俺の料理のレパートリーは基本、『広く浅く』だ。和洋中、フレンチにイタリアン等々、自分が食ってみたいとか作ってみたいと思った料理だけ覚えていくから、リシュリューみたいにフレンチに特化してる奴とかイタリア組みたいにイタリアンに特化してる連中に比べると、どうしても一枚落ちる。まぁ、あくまで趣味の一環だと俺は思ってるからそれで十分なんだが。それでもその道のプロ級の奴に褒められればそりゃ嬉しい。
「それにしても……色々アレンジしたのね?」
リシュリューの目の前には何種類ものクグロフが並べられている。
「調べたらクグロフってナッツとか干し葡萄とか、中身も色々入れて作るケーキ……菓子パン?みたいな扱いだったんでな。興が乗ってつい、な」
クグロフって似たような物がオーストリア、ドイツ、フランス東部のアルザス地方と広い地域に分布しててな。イースト菌を使って生地を発酵させるパンとケーキの中間位の食べ物なんだよ。お陰で基本のレシピさえ覚えちまえばアレンジは簡単だった。
《意外と簡単!?基本のクグロフのレシピ》※分量:クグロフ型(小)1つ分
・強力粉:100g
・塩:2g
・グラニュー糖:20g
・牛乳:50cc
・ドライイースト:1g
・卵黄:30g
・無塩バター:30g
・ローストアーモンド:適量
・ラムレーズン:30g
〈仕上げ用〉
・無塩バター:25~60g
・ドライフルーツ、ナッツ類:適量
・粉糖:適量
(作り方)
1.ボウルに強力粉、塩、グラニュー糖を加えて軽く混ぜる。そこに卵黄、室温に戻した牛乳、ドライイーストを加えて更に混ぜてから、軽く捏ねる。
2.生地が纏まって来たら、無塩バターを加えて更に捏ねる。この時、バターを室温に戻しておくと生地と混ざりやすい。バターがしっかりと生地と混ざったらラムレーズンを加えて更に捏ねる。
3.生地が良く混ざったら丸く形を整えてラップをして、28℃で1時間程発酵させる。
4.発酵が終わったらガス抜きをして、濡れ布巾を被せて20分程生地を休ませる。その間にクグロフの型の内側にバターを塗り(分量外)、そこに飾り用のナッツ類を敷き詰める。オーブンを180℃に余熱しておく。
5.生地を丸く広げて真ん中に麺棒等を使って穴を開け、クグロフ型に入れる。棒状にしてリング状にすると、生地の厚みにムラが出来やすいのでこちらのやり方をオススメする。
6.余熱しておいたオーブンで30分程焼く。その間に、仕上げにかける焦がしバターを作る。
7.バターを鍋に入れて溶かし、弱火で加熱していく。アクを取りつつ、色がキャラメル色になるまで加熱する。
8.焼き上がったらオーブンから取り出し、粗熱を取る。引っくり返して型から外したら、焦がしバター、粉糖をかけて完成。
「このプレーンなクグロフもいいけれど、こっちのアレンジしたのもいいわね……」
そう言いながら、リシュリューは自分で切り分けてクグロフを口に運ぶ。さながらスイーツバイキングのようだ。まぁ、メニューはクグロフしかないんだが。
〈クグロフのアレンジの例〉
(イチジクのクグロフ)
ラムレーズンを入れる代わりに、ラム酒に浸けたイチジクを刻んで入れてみた。生のイチジクともドライフルーツのイチジクとも違った味になるので中々美味い。紅茶やコーヒーのお供だけでなく、白ワインともマッチする1品。
「ラム酒漬けのイチジクだけでも美味しそうね?」
「それは言わないのがお約束だ」
(クランベリーとミックスナッツのクグロフ)
プレーンなクグロフにはアーモンドを砕かずに入れたが、こっちにはアーモンドパウダーをドライフルーツのクランベリーと練り込んだ。そこに松の実やクルミ、カシューナッツを入れて焼き上げた。
「香ばしいわね、結構好きよ?こういうの」
「うん、ウィスキーとかブランデーとかに合いそうだ」
(バナナとピスタチオのクグロフ)
今度は生のバナナをカットして練り込んでみた。そこに香ばしさを出す為にピスタチオもプラス。砂糖もグラニュー糖ではなくキビ砂糖を使って、少しネットリとした甘さに。
「バナナに熱が入って少し蕩けてるわね」
「おやつ向きな味だな、大人向けにするならラム酒たっぷりか」
「それも良いわね、かけてもらえる?」
「へいへい」
(紅茶のクグロフ)
これもパウンドケーキとかシフォンケーキなんかで良くやるよな。生地に紅茶の茶葉を練り込んだ。紅茶の風味を殺さない為に、ナッツ類やドライフルーツは無しだ。
「……まぁ、普通に美味しいわよね」
「安定感のある味だよな」
(チョコレートとオレンジのクグロフ)
定番っちゃ定番か。生地にチョコレートを刻んで練り込み、ドライフルーツのオレンジも刻んで投入。
「バレンタインに良さそうね」
「……もう過ぎたから来年、だな」
(和風クグロフ)
これもアレンジとしては定番の類いか?生地に抹茶と白餡を練り込み、ドライフルーツの代わりに黒豆の甘煮と刻んだ栗の甘露煮を混ぜて焼き上げた。
「日本人ってこういうの好きよね」
「お前は嫌いか?リシュリュー」
「いいえ、和菓子好きなのよ?私も」
「さよか」
「……ふぅ、少し食べ過ぎちゃったかしら?」
紅茶を啜りながら、リシュリューがお腹をさすっている。小さめの型で作ったとはいえクグロフを7つはどう考えても食べ過ぎだろう。
「どう考えても食い過ぎだろ。別に無理して食べんでも……」
「うっ、煩いわね!貴方が私に作ってくれた物でしょ!?だったらそれはもう私の物よ、それを私がどうしようと勝手でしょ!?」
「いや、まぁ、そりゃそうだが……」
「それに……」
「ん?」
「貴方が私の為に作ってくれた物を、残したくなかったのよ……」
消え入りそうな声で、顔を赤くしながらそう呟くリシュリュー。その右手は無意識に左手の薬指を触っていた。
「リシュリュー、お前……」
「なによ?」
「わっかりやすいツンデレだなぁ」
「はぁ!?だ、誰がツンデレよ!」
「いや、だからそういう所だって」
「ちょっと!ふ・ざ・け・な・い・で!」
そう言いながらおれの頬を引っ張ってくるリシュリュー。こういう態度が着任直後のビス子っぽいんだよなぁ、コイツ。まぁ今じゃあビス子の奴はツンが取れてデレがマシマシのデレッデレなんだが。
「ちょっと貴方、今他の女の事考えてたでしょ!?」
ほらな。こういう勘が鋭くて嫉妬深い所とかそっくりだ。まぁ、そこがまた可愛いんだが。
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