| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

一貫小僧

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

第一章

               一貫小僧
 鳥取県大山の裏にある噂があった、それは妖怪の話だ。
 昭和五十年代の頃真淵澄夫は祖父の幸夫からその妖怪の話を聞いた。
「一貫小僧っていうんだ」
「ああ、坊主姿の小人でな」
 祖父はまだ子供である孫に茶を飲みながら話した。
「手には数珠を持っていてな」
「この鳥取に出るんだ」
「ああ、大山の裏にな」 
 まさにそこにというのだ。
「出て来てな」
「人を襲うんだ」
「いや、悪いことはしない」
 祖父はそこは断った。
「そうしたことはな」
「悪い妖怪じゃないんだ」
「山を登る人の前にお経を唱えながら出て来てな」
 そうしてというのだ。
「言葉を一言交えさせてな」
「それで終わり?」
「ああ、姿を消してな」
 そのうえでというのだ。
「終わりだよ」
「そうなんだ」
「別にな」 
 祖父は孫にさらに話した。
「悪さをする訳じゃないしな」
「いいこともだね」
「しない、ただな」
「一言話してなんだ」
「終わりだ」
「そうした妖怪なんだ」
「ああ、妖怪にはこんなのもいるんだ」
 孫にこうも話した。
「特にいいことも悪いこともしない」
「そんな妖怪もいるんだね」
「人を驚かせたり襲って喰う妖怪もいればな」
「そうした妖怪もいるんだね」
「祖父ちゃんは学がないからこれ以上はわからないがな」
 どうしてそうした妖怪がいるか、そして彼等が元々何であってそして普段はどうして暮らしているか等はだ。
「しかしいることは知っているからな」
「こうしてだね」
「話せる」
「そうなんだね、それでその妖怪今もいるかな」
 澄夫は祖父にこのことも尋ねた。
「それで」
「さてな、祖父ちゃんが子供の頃はな」
「いたんだ」
「ああ、見たって人がいたな」
 その一貫小僧をというのだ。
「実際に」
「祖父ちゃんは会ってないんだ」
「そこに行ったことがないからな」
 だからだというのだ。
「祖父ちゃんはずっとここで畑仕事やってるだろ」
「うん、そうだね」
「戦争には行ったがな」
 第二次世界大戦、それにというのだ。
「ずっと台湾にいたからな」
「そっちにいたんだ」
「ああ、飛行場にな」
「じゃあ飛行機に乗ってたんだ」
「いや、飛行機の修理とかをやってたんだ」
 つまり整備兵だったというのだ。
「乗ったり動かしたりは出来ないからな」
「そうだったんだ」
「それで戦争から帰ってもな」
「ここでなんだ」
「ずっと畑仕事していてな」
 そしてというのだ。
「大山の裏に行ったことはな」
「ないんだ」
「ああ、だからこの妖怪のこともな」
「お話に聞いていても」
「この目で見たことはないんだ」
「聞いただけだね」
「ああ、いるって話をな」
 それをというのだ。 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧