パウチの砦
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第一章
パウチの砦
二十世紀の終わり頃大体バブルが弾けた頃であろうか。東京の大学生である岩坪理恵はこの時北海道の層雲峡に友人の雅奈津美と共に来ていた。
理恵は背は一六〇を少し超えた位でスタイルがよく伸ばした黒髪と整った目元に奇麗な眉、あだっぽい唇に白い肌少しふくよかな頬という容姿でジーンズとシャツというラフな格好でも妙に艶がある。奈津美はにこりとした感じの目に白い面長の顔、ふくよかな頬に黒く波がかったセットされた長い髪の毛を持っている。背は一五九で全体的に落ち着いた印象だ。
二人でその辺りを歩いていたがここで奈津美が理恵に言った。
「北海道ってコロボックルがいたのよね」
「小人ね、アイヌの伝承の」
理恵は実は北海道出身だ、奈津美は山梨だ。二人共今は東京の大学にいるが理恵の実家もあるということで二人で彼女の実家を宿にして北海道旅行を楽しんでいるのだ。
「北海道じゃ有名よ」
「そうよね」
「もうそれこそね」
理恵は自分と同じラフな身なりの奈津美にさらに話した。
「知らない人はいない」
「そこまで有名よね」
「ええ、それでここにっていうの」
「コロポックル出るかしら」
「出ないでしょ」
すぐにだった、理恵は奈津美に答えた。
「流石に」
「もういないの」
「いてもね」
例えそうであってもというのだ。
「小さいし隠れるから」
「コロボックルって人を見たら隠れるの」
「そうみたいよ、昔は人と親しかったって話があるけれど」
それでもというのだ。
「何かあったとかで」
「それでなの」
「今じゃ人を見たらね」
その時はというのだ。
「隠れるそうよ」
「それじゃあ」
「そう、コロボックルは」
それこそというのだ。
「見られないわよ」
「折角北海道に来たのに」
「いや、何処でもそうした妖精とか妖怪って」
「そうそう見られないっていうのね」
「ええ、ヒグマなら見られるかも」
「いや、それは絶対に見たくないから」
奈津美は理恵の今の冗談めかした言葉には真剣な顔で答えた。
「何があっても」
「そうよね」
「ヒグマって人襲うのよね」
「もうそれこそね」
ヒグマはとだ、理恵は北海道生まれとして奈津美に話した。
「そうしたお話多いから」
「何かとんでもない事件あったわね」
「羆嵐ね、有名よ」
北海道ではというのだ。
「小さな開拓村が襲われて」
「それでよね」
「何人も殺されたから」
「それじゃあ本当に」
「ヒグマって怖いわよ」
「わかってるじゃない」
理恵にしてもとだ、奈津美は返した。
「だったらね」
「私も絶対に会いたくないわよ」
「それでここヒグマ出るの?」
「多分出ないわ」
「多分なのね」
「ええ、それでもここは出ないから」
それでとだ、理恵は奈津美にまた話した。
「そう聞いてるから」
「多分にしても」
「だからまあ安全と思って」
そのうえでというのだ。
「見て回りましょう」
「それじゃあ」
二人でこうしたことを話してだ、そのうえで。
二人で大雪山の入り口である層雲峡の辺り特に奇岩が連なっているところを見て回った、二人共幸いヒグマには出会うことなく楽しく見て回っていたが。
その中でだ、ふとだった。
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