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お爺さんがいなくなっても

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第一章

                お爺さんがいなくなっても
 ベベは野良犬である。種類は雑種で腹や足の先や腹、顔の口の部分や首は白いが他の部分は茶色である。そして耳は垂れている。
 そのベベを見てだった、河原崎麦人は言った。白髪で穏やかな感じの老人で車椅子に座っている。
「今日もいるね」
「ええ、ですが」
 付き添いの若い女性の看護士が応える、河原崎は入院していて付き添いが必要なのだ。もっと言えば病で先は長くなくかつ自分の臓器をドナー登録もしている。亡くなれば移植出来る臓器は全て他の人に移植されることになっている。
「あの子は野良犬なので」
「それでだね」
「はい、あまり近寄ることは」
「いいよ、私はもう長くない」
 河原崎は看護士に微笑んで答えた。
「だからね」
「野良犬でもですか」
「気にしないよ、それにベベはいい子じゃないか」
 そのベベを見て言う。
「大人しくて人懐っこくて」
「それで、ですか」
「うん、だからね」
 それでというのだ。
「一緒にいて和むからね」
「だからですか」
「そう、だからね」 
「今日もですか」
「ベベとね」 
 是非にと言うのだった。
「一緒にいさせてもらうよ」
「では」
「ここにいていいね」 
 病院の庭、そこにというのだ。実はベベは野良犬だが半分病院にいる様になっているのだ。院長が彼を気に入っていてそれで庭の出入りも許していて飼い主も探しているのだ。
「今日も」
「それでは」
「ベベ、お前がいてくれるとね」
 河原崎は自分のところに尻尾を振ってきたベベに微笑んで声をかけた。
「入院生活も和むよ」
「ワン」
 ベベは尻尾を振って彼のところに来る、だがそれ以上はせず身体を寄せることも何もしない。まるで彼を気遣う様に。
 河原崎はそのベベを見て目を細めさせる、そのうえで看護士に話した。
「今日も暫くは」
「ここで、ですね」
「ベベと一緒にいさせてもらうよ」
 こう言ってだった。
 河原崎は静かに微笑んでベベに息子が持ってきてくれたパンを彼にやりつつ微笑んでいた。ベベはそんな彼を奇麗な黒い目で見ていた。 
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