戦国異伝供書
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第八十話 鬼若子その八
城を明け渡し退いた、元親はその空いた城に入るとすぐに言った。
「戦わずして済めばな」
「ことを果たせれば」
「それでよい、あとじゃ」
弟に対してさらに話した。
「無闇な殺生もな」
「せぬことですな」
「戦では果敢に戦っても」
それでもというのだ。
「降った者達はな」
「この度の様にですな」
「助ければよい」
「それも戦の在り方ですな」
「間違ってもじゃ」
元親はここで顔を顰めさせて親貞に話した。
「安芸のじゃ」
「毛利殿ですか」
「あの御仁のことは聞いておるな」
「はい、奸悪無限と聞いております」
親貞もこう答えた。
「まさに」
「降った者達ですらな」
「時として皆殺しにする」
「そうした御仁と聞く」
「その毛利殿の様なことは」
「してはならぬ」
決してと言うのだった。
「間違ってもな」
「左様ですな」
「毛利殿のことはこの土佐にも伝わっております」
「やたらと策謀を使われ」
「相手を平気で裏切り騙し討ちにする」
「まさに奸悪の御仁です」
「戦国の世といえどもあれはあまりです」
元親の前に控える家臣達も口々に言う。
「無道に過ぎまする」
「家の中はまとまっていますが」
「内の政はよいとしても」
「それでもです」
「外に対するあれは」
「無道の極みです」
「あれではです」
誰もがこう言う、とかく毛利元就の無道はあまりにもというのだ。
それで元親もだ、こう言うのだった。
「わしもそう思うからな」
「あの御仁の様なことはですな」
「してはなりませぬな」
「決して」
「謀は必要でもじゃ」
このことは事実であるがというのだ。
「しかしじゃ」
「あそこまでは、ですな」
「殿にしても」
「そう言われますな」
「うむ」
まさにというのだ。
「あの御仁の様なことはせぬ、それでこの城に兵を置き」
「さらにですか」
「本山家を攻めていきますか」
「この度は」
「そうしていきますか」
「そうする、だが程々で戦いじゃ」
そうしてというのだ。
「そしてじゃ」
「それで、ですか」
「ここは程々で止め」
「そしてですか」
「戦を止めますか」
「今は本山家との戦はない」
そうだというのだ。
「だからだ」
「それではですか」
「この度は」
「戦を止めますか」
「程々のところで」
「そうする、しかしだ」
それでもとだ、こうも言ってだった。
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