リュカ伝の外伝
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才能と素質 完結編
前書き
やっと完結します
(芸術高等学校)
ウルフSIDE
「さ~て……ここからが本題だな。なぁサム!」
優しかったリュカさんの瞳が突然厳しい物になった。
まぁ教え子に手を出してたんだから怒るわな(笑)
「生徒に手を出した事は倫理的にとか的に拙いけど今回は大目に見る!」
あれ、違った!
倫理的に拙いんだから大目に見ちゃダメだろ!
「僕も男だから、こんな可愛い娘に迫られたら……だから今回に限り大目に見る。だからって生徒への淫行を推奨してるんじゃないよ」
当たり前だ!
「女の子の方から迫られたら、嫁や恋人が居ても心揺らぐし、歯止めが効かなくなっちゃうよね。なぁウルフ宰相」
こ、こいつ……
「さぁ……性格が悪すぎてモテない私には分かりかねます」
「おやおや……性格が悪いと大変だ(笑)」
俺個人の事情を察した教室内の連中から冷ややかな視線を浴びせられる。特に横に居るピエッサさんとディレットーレから……
「まぁ話を戻そう。今回問題なのは、サム君……お前の仕事は何なのかって事だよ。声に出して言ってみ、自分の仕事を」
生徒に音楽を教える事じゃないのか?
「わ、私の仕事は……私の持っている音楽の知識を生徒らに教え伝える事です」
「違うな」
違うの!?
「これは部下の教育がなってない上司の責任も大きいぞディレットーレ学長」
「は、はっ……も、申し訳ございません!!」
え、学長まで怒られるの? ピエッサさんに目を移すと、叔父に迷惑をかけてしまったと顔を青くしている。
「良いかい、君ら教師の仕事は“これまでの経験を生かし、若い世代にその知識と経験を伝え、その分野での成長を促し才能を育みつつ、間違った道に進まない様に注意を怠らず導き、努力を惜しませない事”だ」
……長い。
「つまり……知ってる知識を一方的に教えるだけじゃ職務怠慢って事だよ」
「何か……大変そうだなぁ」
思わず呟いてしまった。
「ウルフ宰相!」
「は、はっ陛下!」
突然厳しい口調で呼ばれ先程の生徒らの如く直立不動になってしまう。
「我が国の学校は民間企業か!?」
「いえ、今のところ全て王立制です」
入学金やら授業料やら徴収してるが、大半の資金は税金で賄われている。
「つまり彼等の給料は税金で支払われている。これは王家が……国家が未来への投資を行っているのと同義だ。未来に素晴らしい音楽家を沢山輩出する為に、国民から徴収した血税を宛がっているんだ。今回、この件が発覚しなければアイリーンはこのまま盗作を続けていただろう……学園内では教師が守れても、世に出れば守る者は居ない。それでも音楽家として生活したい彼女は、社会に出た後も盗作を続けるしか手段が無くなっていただろう。そしてグランバニアの音楽会は荒れてゆく事になる。彼女だけでは無い……盗作された生徒の方も、世の中は音楽家としての力量よりも容姿の端麗さが重要と思い込み、努力を怠り始めるだろう。もしその中にまだ開花してないがグランバニアの音楽会を覆すほどの才能を持った生徒が居たら如何する? その才能を埋没させるどころか、汚水に投げ捨てるかの如き事態だ。贔屓された本人も、贔屓されなかった者達も、税金を払っている国民をも不幸にする事態!」
「も、申し訳ございません!」
けっして捲し立てる訳でもないリュカさんの口調で教師としての重責を聞かされるサム・ラゴウスは、疎らに生える白髪の頭を深く下げて謝罪する。
因みに学長のディレットーレも頭を下げている。
「い、以後は心改め、教師として生徒を導きたいと思います」
顔を上げたサム・ラゴウスは、真剣な顔で改心を伝えた……だが、リュカさんの横顔を見る限り、そういう事ではなさそうだ。まぁそうだよなぁ……
「僕は今後の話をしてましたか?」
「は?」
リュカさんの嫌いな台詞『もう二度としません』だ。
「僕は今日以後の事で責めてたんじゃない。もう起きてしまった過去の事を言ってるんだ。今後のお前なんぞ知らん!」
「い、いや……『知らん』と言われましても……」
「先刻も言ったがお前の給料は税金だ。同じく税金から給料を貰っている国民を守る為に存在する軍人が、国民を守るどころか攻撃し始めたら如何する? 全ての悪事が発覚して『ごめんなさい、もう二度としません』って言ったからって無罪放免で許すのか? 『家族を守ってくれ』って言って金を渡したのに、その金で武器を買って家族を殺されたのに、『二度としません』で終わるのか?」
例えが極端だ。
「今の例とは違い、お前は人を殺してないが税金を不正に得て国家にダメージを与えたんだぞ。以後もその職に居られると思うなよ!」
「そ、そんな……」
クビで済むなら御の字じゃん。
「本来だったら今まで不正に取得した税金の返却を要求する所だが、何時まで遡って返却要求するのか判らんし、お前にも生活があるだろうから金を巻き上げるのは心苦しい。だから金返せとは言わんが、これ以上お前に税金を与える訳にはいかない。今後も教師を続けたいのなら個人雇用主を探せ。我が国はもうお前を雇わん」
肉体関係を迫ったのが彼女からだったからリュカさんも甘い罰で済ませてる。
国家としては本当は男女で差別をしないでほしいが、リュカさんには言っても無駄だろうなぁ。その点、誰にでも優しいティミーさんなら甘いが分け隔て無い罰則を与えるだろう。国王としてはそっちの方が理想だ。
「と言う訳で、今日までの分の給料を支払ってコイツを出て行かせろ。ウルフは学長と一緒に今回の件を個人名を伏せて世の中に伝達。既存の教師等にも再教育を! それと不在になる分の教師の補充。急を要する事案だから、宰相が手伝う事!」
「何でだよ。文部魔法学大臣がやるべきじゃねぇの?」
「文部魔法学大臣の指導がなってないから、この事態が起きたんだ。任せられるか!」
あ~あ……ストゥディオ文部魔法学大臣は今日怒られるな。少なくとも俺に!
「解ったら納得の是非関係なく行け! 僕はこれから忙しいんだ」
「忙しいって何だよ! 俺等に面倒事を押しつけたんだから暇だろうに!」
ぐったり項垂れるサム・ラゴウスの腕を引っ張る様に掴み、リュカさんへ文句を言う。
「馬鹿者。これから未来ある若人の試験の続きをせねばならぬのだ! まだ半分は試験を受けてなさそうだからね。さて……試験は名前の順で発表だっけ? 先刻入室時に発表してた君は名前なんでいうの?」
俺等に“さっさと出て行け”とジェスチャーを送ると、
「は、はい! お、俺……私はネイサン・ノーランドです!」
と緊張気味に答えた生徒に場所(ピアノの席)を譲り試験を継続させる。
リュカさん自身は先程までサム・ラゴウスが居た席に移って。
勝手だなぁ……
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奴の解雇など諸々の事務処理を終え、例の教室へリュカさんを迎えに行くと中から先刻リュカさんが弾いた曲が聞こえてきた。
試験も全て終わり、いつもの様にリュカさんがピアノを披露してるのかと思ったのだが、中に入って驚く。
なんと弾いてたのはアイリーン・アウラーだった。
リュカさんが弾いてるのかと思うほど上手く、本当に盗んだ曲かと思うほど流暢に、盗作がバレて怯えてた時の表情とは思えないくらい色っぽく曲を奏でる彼女。素人でも解るくらいのピアノの腕前だ。悪いがピエッサさんの遙か上……もしかしたらリュカさんよりも上手いのかも。素人には判らない領域だ。
みんな俺の入室に気付いてはいたが、曲の邪魔をしたくないのか誰も声も出さなかった。
そして俺は立ったまま入り口付近で静かに聴く。
暫くすると曲を弾き終えて華麗にフィニッシュをキメる。
するとリュカさんから盛大な拍手が送られ、
「いやぁ……本当に上手いねぇ。嫉妬も出来ないレベルだ」
と絶賛し、他の生徒らも殆どが頷いている。
「さて、前半の子達のは聴いてないけど、聴いた子達は全員上手かったし、全員上手い事は間違いないから、全員合格ね」
そう言うと立ち上がりアイリーン・アウラーの頭を撫でてこちらに来るリュカさん。もう帰るって事だろう。
教室を出る間際、リュカさんは室内へ上半身だけ入れると、
「そうだピエッサちゃん。『ドラクエ序曲』の完全な楽譜を近日中に書き上げるから、君が選んだ芸高校生徒だけで交響楽団を結成し、練習を重ねて何れ僕に披露してね。楽しみにしてるよ」
と、突然の重圧をかけて立ち去った。
数ヶ月間、ピエッサさんは重圧に耐え練習をし続けたらしく、芸高校の音楽堂に王家(世間に認知されてない娘等は除外。除外筆頭はマリー)を招待し披露した。
なお、アイリーン・アウラーもピアノ担当として交響楽団に参加していた。
リーダーのピエッサさんは指揮者だったけどね。
ウルフSIDE END
後書き
本当は1.2話で終わらせる予定だったのに……
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