英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~
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第71話
~湿地帯~
「改めてになるけど……君達とこうして会うのは初めてになるな、トールズ士官学院特科クラス”Ⅶ組”。――――――俺の名前はロイド。ロイド・バニングス。”特務支援課”のリーダーを務めている。」
「私はエリィ・マクダエル。”特務支援課”のサブリーダーを務めています。お見知り置きお願いします。」
「ティオ・プラトーです……よろしくお願いします。」
「ランディ・オルランドだ。アンタ達の事はリィン達から聞いていたぜ。」
「ノエル・シーカーです。改めてよろしくお願いします!」
「あたしはユウナ・クロフォードって言います。あたしはロイド先輩達と違って、臨時で”特務支援課”の一員を務めさせていただいています!」
「え…………それじゃあ、貴女が………」
「レン皇女殿下の話にあった”本来の歴史の新Ⅶ組の一員にしてもう一人の重心”か………」
ロイド達が次々と自己紹介をした後に名乗ったユウナの名前を聞いたアリサは呆けた声を出した後複雑そうな表情を浮かべ、ガイウスは静かな表情でユウナを見つめた。
「へ…………あ、あたしが………?――――――あ。確かそれってキーアちゃん達の話にあった……」
「並行世界のキーアちゃんが今の世界へと改変する前のユウナちゃんの事でしょうね……」
「この世界ではそいつらの仲間になっていないユウ坊達の存在まで教えるとか、相変わらずいい性格をしているぜ、あの物騒なお姫さんは……」
「くふっ♪だって、それがレンだもの♪」
ガイウスの言葉を聞いて困惑したユウナだったがすぐに心当たりを思い出すと気まずそうな表情でアリサ達を見つめ、ノエルは複雑そうな表情をし、疲れた表情で呟いたランディの言葉をエヴリーヌは口元に笑みを浮かべて指摘した。
「つー事はこんなじゃじゃ馬娘が俺のクラスメイトになっていたのかもしれなかったのかよ。どうやったらこんなじゃじゃ馬がそんな重要な存在になるんだぁ?」
「ア、アッシュ君。」
「誰がじゃじゃ馬娘ですって!?しかも、”貴方のクラスメイトになっていたかもしれなかった”って事は………えっと、”本来の歴史ではあたしのクラスメイト”だったっていうアルとミュゼ、クルト君はリィンさん達と一緒にいて既に会っているから………まさか貴方が残りの”アッシュ・カーバイド”って人!?」
一方アッシュは呆れた表情でユウナを見つめ、アッシュの言葉を聞いたトワが冷や汗をかいている中顔に青筋を立てて声を上げたユウナは自分が知っている情報を思い返してアッシュの正体に気づくとジト目でアッシュを睨んだ。
「ハッ、パイセン達からすればお前の方が”残り物”扱いだったらしいがな。」
「ちょ、ちょっと!誤解を招くような言い方は止めてよね!?」
「むむ……っ!フフッ、健康的な雰囲気の女の子とは中々新鮮じゃないか♪うーん…………そこにミュゼ君やアルティナ君も加わっているのだから、その点に関しては”本来の歴史”が羨ましいねぇ♪」
「ちょっ、何なんですか、あたしを見るその目は!?」
「アンちゃん……」
「少しはその場の空気を考えろっつーの……」
鼻を鳴らして答えたアッシュの答えを聞いたアリサはジト目でアッシュを睨み、真剣な表情を浮かべた後酔いしれた様子で自分を見つめてきたアンゼリカにユウナは表情を引きつらせて一歩下がり、アンゼリカの様子にトワとクロウは呆れた表情で溜息を吐き
「は、話には聞いていたけど”Ⅶ組”の人達も中々濃いメンバーよね……」
「特にあの紫髪の女の人はアネラスさんやエオリアさんと”同類”かもしれません……」
「ハハ……」
表情を引きつらせて呟いたエリィに続くようにティオはジト目でアンゼリカを見つめるとともにアンゼリカを警戒し、ロイドは苦笑していた。
「そういえば……カレル離宮での暗黒竜との戦いで、貴方達も準起動者としてリィン達に協力していたようだが…………そもそもリィン達と貴方達はどのようにしてリィン達と知り合ったのだろうか?」
「リィン達とはクロスベルでの迎撃戦後の祝勝会で知り合ったんだ。まあ彼もエリゼさんの件で元々俺達には挨拶をするつもりだったらしいんだが……」
「え…………どうしてそこでエリゼさんが出てくるんですか?」
ガイウスの疑問に答えたロイドの答えを聞いたアリサは不思議そうな表情で訊ねた。
「エリゼさんはヴァイスハイト陛下達―――クロスベル帝国と連合を組んでいるメンフィル帝国の意向でクロスベル解放もそうですけど、”碧の大樹”の攻略にも協力してもらったんです。」
「そ、そういえばトマス教官から神機の件でエリゼちゃんがクロスベル解放や碧の大樹の件に関わっていた説明もあったよね……?」
「ああ………それを考えるとエリゼ君が経験した”実戦”も”煌魔城”を攻略したⅦ組と同等かもしれないね。」
ノエルの説明を聞いてあることを思い出したトワは呟き、アンゼリカは静かな表情で推測した。
「そういや、ヴィータの話だとあの”神速”の主――――――”鋼の聖女”はクロスベルを担当していたらしいが、まさかお前達はあの”鋼の聖女”ともやり合った事があるのか?」
「”鋼の聖女”どころか、その”前座”として”鉄機隊”全員ともやり合う羽目になったつーの。」
「あの”槍の聖女”に加えて”鉄機隊”全員とやり合って退けるなんて、凄いわね……あら?”鉄機隊全員ともやり合った”という事はもしかして貴方達も”神速”とやり合ったの?」
あることを思い出したクロウの問いかけに疲れた表情で溜息を吐いたランディの答えを聞いたアリサは驚いた後あることに気づくとロイド達に訊ねた。
「ええ。ちなみに祝勝会には彼女達も参加していて、その彼女達から聞いて後でわかった事なんだけど、デュバリィさんは星見の塔で私達とやり合ってからすぐにエレボニアに向かって、Ⅶ組とやり合ったそうよ。」
「”神速”が……そういえば、オーロックス砦で戦った時の彼女は随分と疲弊していたな…………」
「あの時彼女が疲弊していた理由は特務支援課との戦いの直後だったなんて、不思議な縁よね。」
「しかも、私達と違って”鉄機隊”全員とやり合った上で、あの伝説の”槍の聖女”とやり合って退けるとはさすがはクロスベルの”英雄”だねぇ。」
エリィの話を聞いたガイウスとアリサはかつての出来事を思い出し、アンゼリカは苦笑しながらロイド達を見つめた。
「ハハ……あの時は”鋼の聖女”と互角にやり合える使い手の人達も協力してくれていたから、何も俺達だけの力で”鋼の聖女”に勝てた訳ではないさ。」
「第一”銀の騎神”も呼んでいないんだから、あの時の戦いでの”鋼の聖女”は”本気”で俺達を阻もうって訳じゃなかったようだしな。………ちなみにそこにいるセリカの野郎なんて、たった一人であの”鋼の聖女”を僅かな時間で制圧したこともあるんだぜ?」
「そ、そういえばレン皇女殿下達はそんな話もしていたよね……?」
「あんたみてぇなマジモンのチート野郎だったら、あのマクバーンでも”雑魚”扱いだったかもな。」
ロイドの後に答えたランディの話―――セリカがリアンヌを僅かな時間で制圧した話を聞いたアリサ達がそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中トワは困った表情で呟き、クロウは疲れた表情でセリカに視線を向けて指摘した。
「マクバーン……ああ、太陽の砦でやり合った”火焔魔人”とやらか。――――――確かに奴の力は”それなり”ではあったが、俺からすれば”大した相手ではなかった。”あれならまだリアンヌの方がマシだったな。」
「カレル離宮で見せた”真の姿”だっけ?あの時はリィン達が協力して殺したけど、正直エヴリーヌ一人でも殺せたと思うよ?キャハッ♪」
クロウの指摘を聞いてマクバーンの事を思い出したセリカの話と不敵な笑みを浮かべたエヴリーヌの話を聞き、二人がそれぞれ口にしたとんでもない事実にその場にいる全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「え、えっと………それよりも私達の自己紹介はまだでしたね。私の名はセルヴァンティティ・ディオン。親しい人達からは”セティ”の愛称で呼ばれているので、よければⅦ組の皆さんも今後は私の事を”セティ”を呼んでください。」
「あたしはセティ姉さんの妹のシャマーラ・ディオンで~す!よろしくね♪」
「……同じくセティ姉さまの妹のエリナ・ディオンと申します。以後お見知り置き願いします。」
「え…………”ディオン”という事は貴女達があの”匠王”の娘さん達という事になるから……もしかして貴女達がヴァリマール達の武装をゼムリアストーン以上の武装へと強化したの!?」
セティ達がそれぞれ自己紹介をするとアリサは驚きの表情で訊ねた。
「はい。祝勝会でリィンさん達と知り合った際に、”騎神”の武装強化について相談されましたので、私達は”工匠”として武装の強化を請け負ったんです。」
「ちなみにあたし達”工匠”が”ゼムリアストーンを作れる事”を知ったら、リィンさんやセレーネさんは何故か色々と思う所がありそうな表情を見せていたんだよね~。」
「シャマーラ……”ゼムリアストーン”はこの世界にとっては貴重な鉱石との事なのですから、ヴァリマールの武装の為にⅦ組の方達と共にゼムリアストーンを集めていたリィンさん達がそのような表情を見せるのも仕方がないのがわからないのですか……」
セティの説明の後に首を傾げて呟いたシャマーラの言葉にエリナは呆れた表情で指摘し
「ゼ、”ゼムリアストーンを作れる”って……!まさか本当にセティさん達―――”工匠”の人達は”ゼムリアストーンの作り方”を知っているの!?」
「はい。元々ゼムリアストーンのレシピはお父さんが思いついたもので、そのレシピも私達のようにある一定の実力をつけた”工匠”の方達には全員開示されていますよ。」
信じられない表情で声を上げたアリサの疑問にセティが頷いて答えるとアリサ達はそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「いや~、彼女達の存在によって”ゼムリアストーン”の価値が一気に暴落するとはまさに”工匠恐るべし”だね。はっはっはっ。」
「”ゼムリアストーンを作る”という発想はなかったな……」
「そもそも、そんなとんでもない事誰も思いつけないわよ……ううっ、それを知った時のリィン達の気持ちは私もわかるわ……”精霊窟”での私達の苦労はなんだったのよ……」
「それは俺のセリフでもあるっつーの。俺なんか、お前達と違って一人で”精霊窟”を攻略してゼムリアストーンの結晶を集めていたんだぜ?ったく…………異世界の連中は”あらゆる意味”でインフレが酷すぎだろ……」
我に返ったアンゼリカはセティ達に感心した後呑気に笑い、苦笑しているガイウスに指摘したアリサはクロウと共に疲れた表情で溜息を吐いた。
「つーか、”ゼムリアストーン”だったか?パイセン達の話だとあんた達はこの世界だと貴重な鉱石を超える材料で”騎神”の武装を作ったって話だが、一体どこでそんな材料を仕入れたんだよ?」
「別に”仕入”みたいな時間がかかる事はしていないよ?リィンさん達がクロスベルにいられる期間は短かったから、なるべく早く騎神の武装を仕上げる必要もあったし。」
「え…………それじゃあどうやってゼムリアストーン以上の武装を……」
アッシュの疑問に答えたシャマーラの答えが気になったトワは困惑の表情を浮かべた。
「”ゼムリアストーン”を元に”ゼムリアストーン以上の強度がある鉱石を開発したんです。”」
「ちなみにその鉱石の名は”ヒヒイロカネ”と言う鉱石で、私達の世界―――ディル=リフィーナにも実在する鉱石で、数ある鉱石の中でも強度はトップクラスで”神具”の材料としても使われているとも言われています。」
「ゼ、”ゼムリアストーン以上の鉱石を開発した”って……!そんなとんでもない技術、間違いなく技術業界に激震を与える技術だし、シュミット博士を含めた”三高弟”でも成し遂げる事ができないと思われる技術なんじゃないの……!?」
「そういう技術方面に関してとんでもない事を自分達にとっては何でもない風に成し遂げるのがウィルさんやセティさん達――――――”技術方面の化物”なんですよ……」
「いや~、セティちゃん達の技術力に驚いているお前達のその様子、かつての俺達を見ているようで懐かしくなるよな~。」
「アハハ…………あたし達はもう慣れましたけどね……」
「あ、あたしはまだセティ先輩たちの技術の凄さに慣れていませんけど、その内ロイド先輩達みたいに慣れてしまうんでしょうか……?」
エリナとセティの説明を聞いた仲間達が二人が口にしたとんでもない事実にそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中アリサは信じられない表情で声を上げ、ティオはジト目で答え、懐かしそうな表情をしているランディの言葉にノエルは苦笑しながら同意し、ユウナは戸惑いの表情でロイド達を見つめた。
「マジであのシュミットの爺さん以上の技術者達だったとはな……シュミットの爺さんがこの事実を知った時の反応を見てみたいぜ。」
「まあ、博士のことだから間違いなく自分の研究の為に彼女たちに根掘り葉掘り聞くだろうねぇ。――――――それよりもそういう事ならば、リィン君達に届くためにも彼女達の協力は不可欠だね。」
「うん…………あの、セティさん、シャマーラさん、エリナさん。”工匠”である皆さんに”依頼”したい事があるのですけど……」
クロウと共に疲れた表情で呟いたアンゼリカはトワに視線を向け、視線を向けられたトワは頷いた後表情を引き締めてセティ達を見つめた。
「私達に”工匠”としての”依頼”、ですか。一体どのような依頼内容でしょうか?」
「それは…………わたし達が保有する騎神や機甲兵の武装をヴァリマール達の武装を強化したのと同じクラスの武装に強化して欲しい”依頼”です。」
「”ヴァリマール達の武装と同レベルの武装に強化して欲しい”という事は……」
「”ヒヒイロカネ製”の武装に仕上げてくれって事だろうね~。」
「その話の流れだと、まさか貴女達も”騎神”や機甲兵を保有しているのかしら?」
トワの依頼内容を聞いたエリナは表情を引き締め、シャマーラは静かな表情で呟き、あることに気づいたエリィは目を丸くしてトワ達に確認した。
「ああ。――――――クロウ。」
「おう。来な――――――”蒼の騎神”オルディーネ!!」
エリィの言葉に頷いたアンゼリカに視線を向けられたクロウはオルディーネを呼び寄せ、呼び寄せられたオルディーネは自分の近くに待機していた機甲兵達と共に精霊の道でトワ達の背後に現れた。
「蒼い騎士という事はあの機体が”蒼の騎神”という訳ですか……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。確か”蒼の騎神”は”太陽の砦”でリィン達が黒の工房のエージェント達を戦闘不能に追いやった際に、その内の一人が”蒼の騎神”を呼び寄せて撤退したという話だったから……まさか君は太陽の砦で襲撃してきた黒の工房のエージェントの一人――――――”蒼のジークフリード”か!?」
現れたオルディーネをティオが興味ありげな表情で見つめている中あることに気づいたロイドは驚きの表情でクロウを見つめた。
「あ~……頼むからその名前で俺を呼ぶのはやめてくれ。あれは俺の記憶を封じていたアルベリヒ達のせいなんだよ……」
「へ……”記憶を封じていた”という事は……」
「どうやら何らかの原因によって封じられていた君の記憶の封印が解けた事によって、君は黒の工房から離れてⅦ組と共にいるという事か……」
疲れた表情で答えたクロウの言葉を聞いたユウナが呆けている中ロイドは静かな表情で推測を口にした。
「ん?ちょっと待て。確かリィン達の話だと、”蒼の騎神”の起動者はリィン達と同じⅦ組のメンバーではあったがその正体は”帝国解放戦線”のリーダーって話じゃなかったか?」
「確かにリィンさん達からその話も聞いていたわね…………」
「―――という事は貴方が”西ゼムリア通商会議”でエレボニア側のテロリスト達にVIP達を襲撃させようとした超本人の一人なんですか!?」
一方あることを思い出したランディは目を細め、ランディの話を聞いたエリィは複雑そうな表情をし、ノエルは厳しい表情でクロウを睨んだ。
「あ……………………」
「そういえば…………オリヴァルト殿下達の話だと、当時オルキスタワーの警備についていた貴方達もヴァイスハイト陛下達と共に”帝国解放戦線”と戦って、その戦いの結果テロリスト達は捕らえられ、”G”は”自決”したという話だったな……」
厳しい表情でクロウを睨むノエルの態度を見てあることに気づいたアリサは辛そうな表情をし、ガイウスは複雑そうな表情でロイド達を見つめた。
「……一つだけ訂正しておこう。確かに俺達は襲撃に失敗して逃走する帝国解放戦線を追ったが、俺達が追いついた時には帝国解放戦線は彼らの逃走ルートを想定して予め待ち構えていた局長達――――――”六銃士”達との戦いに敗れて捕縛されて、彼らを率いていた幹部―――ギデオンだったか。彼も地下水道に身を投げて持っていた爆弾で自決した後だったんだ。」
「そんで、そのテロリスト達を帝国政府の委任状を持ったシャーリィ達―――”赤い星座”が”殲滅”することまで想定した上で、その場に追いついた俺達が局長達と共にシャーリィ達とやり合ってシャーリィ達を戦闘不能に追い込んだんだよ。」
「ええっ!?ヴァ、ヴァイスハイト陛下達――――――”六銃士”が……!?」
「しかも”予め逃走ルートに待ち構えていた”という事は、”最初から帝国解放戦線が通商会議に襲撃して、襲撃が失敗した挙句、帝国解放戦線の粛清の為に赤い星座が派遣される事まで確信していた”という事になるから、恐らく”六銃士”は通商会議が襲撃される以前に既に襲撃の情報もそうだけど、オズボーン宰相達帝国政府による思惑の情報も手に入れて、通商会議の際にロックスミス大統領共々オズボーン宰相を”断罪”したんだろうね。」
「うん……改めて”六銃士”の底知れなさを思い知ったね……」
ロイドとランディの説明を聞いたアリサは驚き、アンゼリカは真剣な表情で呟き、トワは不安そうな表情で呟いた。
(そのテロリスト達の襲撃や逃走ルート、更には帝国・共和国の両政府の思惑に真っ先に気づいたのは六銃士(ヴァイスさん達)ではなく、”真の黒幕”たるルファディエルさんがいたなんて言えませんよね。)
(ううっ、ルファ姉の身内として否定したいけど、否定できないのが辛いな……)
一方アリサ達の反応を見て”真実”を知っているユウナを除いた”特務支援課”の面々がそれぞれ冷や汗をかいて気まずそうな表情を浮かべている中ジト目のティオに小声で話しかけられたロイドは疲れた表情で答えた。
「……あんたの言う通り、”西ゼムリア通商会議”にギデオン達を襲撃させたのはギデオン達のリーダーである俺の判断だ。その事に言い訳もしねぇ。本当ならお前達の祖国にテロを起こした超本人の俺がお前達に何かを頼めるような立場でないのはわかっているが、それでもこんな俺を”取り戻す”為に色々と動いてくれたダチの為にも、俺はなりふり構っていられねぇんだ。俺達よりも遥か遠くへと行こうとするリィン達に届こうと足掻いているダチの為にもどうか力を貸してくれ―――頼む……!!今回の件が片付いたら、エレボニアにもそうだがクロスベルにも俺が今まで犯した罪を償うつもりだ……!」
「クロウ君……」
「………………」
静かな表情で呟いた後ロイド達を見つめて頭を深く下げるクロウの様子をトワは辛そうな表情で、アンゼリカは重々しい様子を纏って見守っていた。
「………………頭を上げてくれ。君の件に関しては君の為にレンと直接交渉をした”蒼の深淵”という元結社の第二使徒との話し合いでヴァイスハイト陛下達が君の件に関しては”手打ち”にした話も聞いているから、今の俺達は君を逮捕する事はできないし、リィン達からも謝罪を受けているからそのつもりもないよ。」
「え…………」
「リィン達はクロウの件で貴方達に謝罪をしたのか?」
静かな表情でクロウに頭を上げるように促したロイドの話を聞いたアリサは呆け、ガイウスは不思議そうな表情で訊ねた。
「ええ…………セティちゃん達がヴァリマール達の武装もそうだけど、リィンさん達の仲間の方々の武装を頼まれてそれらを開発する過程で私達はリィンさん達と交流をしたのだけど、その時に帝国解放戦線リーダー―――”C”であった彼の話も出てきて、内戦の件も含めて色々と事情を話してくれて、彼の級友として、そして親友として”西ゼムリア通商会議”でのテロの件で私達に謝罪までしたのよ……」
「リィン…………」
「ったく、あいつのそういう気づかいに関しても変わっていねぇみてぇだな……」
エリィの話を聞いたアリサは辛そうな表情をし、クロウは苦笑していた。
「それにオズボーン宰相を嵌める為に間接的ではありますがヴァイスさん達が帝国解放戦線の襲撃をも利用しましたから、正直わたし達ととしてもあの件には色々と思うところがあるんですよね。」
「……だな。それにあの件は幸いにもVIP達もそうだが、クロスベル警察、警備隊共に被害は出なかったしな。」
静かな表情で呟いたティオに続くようにランディは苦笑しながら答え
「ノエルもそうだが、ユウナも不満かもしれないが、ここは俺達の顔を立てて彼に対する不満を飲み込んでくれないだろうか?」
「……わかりました。」
「そ、そんな!あたしがロイド先輩達に顔を立てさせるみたいな恐れ多いことはできませんし、そもそもあの件に何の関りもなかったあたしに口出しするような権利なんてありませんよ!?」
ロイドに頼まれたノエルは疲れた表情で溜息を吐いて答え、ユウナは謙遜した様子で答えた。
「そういう訳だから後は”工匠”である君達の判断に任せるよ。」
そしてロイドに判断を任されたセティ達はそれぞれ少しの間考え込んだ後それぞれ視線を交わして頷いた後答えを口にした。
「その依頼、謹んで受けさせていただきます。」
「ヴァリマール達以外の騎神の武装を作る過程で知ることができるヴァリマール達以外の騎神の情報はあたし達の”工匠”としての腕を上げるいい機会にもなるからね~。」
「それと”紅き翼”の方々にはいつも特務支援課の手が回らない時に手伝ってもらっているのですから、リィンさん達の時と違ってお代は結構ですよ。」
「ほ、本当ですか……!?」
「ちなみにリィン君達は君達にお代を払ったような口ぶりだけど、リィン君達は君達に一体いくら支払ったんだい?」
セティ達の答えを聞いたトワは明るい表情をし、アンゼリカは興味ありげな表情で訊ねた。
「え~っと………騎神や神機、機甲兵の武装に関しては一つ1000万ミラだったかな~?」
「ひ、一つ1000万ミラ!?」
「リィン達はそのような大金、一体どのようにして支払ったんだ……?」
「というかセティ達がヴァリマール達の武装の件でメンフィル帝国軍から報酬を支払ってもらった話は聞いてはいたが、そこまでの大金だったなんて今初めて知ったんだが……」
「……まあ、武装の性能等を考えればむしろ”安い”くらいの値段かもしれませんね。」
「えっと………セティちゃん達にヴァリマール達の武装の代金を支払ったのはリィンさん達じゃなくてメンフィル帝国軍よね?確か祝勝会でも少しだけそのような話をしていたようだし……」
シャマーラの答えを聞いたアリサは驚きの声を上げ、ガイウスは不思議そうな表情をし、ロイドは表情を引きつらせ、ティオは静かな表情で呟き、エリィは苦笑しながらセティ達に確認した。
「ええ、お陰様で将来クロスベルで会社を設立するために必要な資金を貯めるいい機会になりました。」
(なあ……今の話を聞いて気になったんだが、セティちゃん達が作った俺達に支給された機甲兵の武装も価値にしたら同じ値段なんじゃねぇのか?)
(そ、その可能性は非常に高いでしょうね……それどころか、あたし達が今使っているセティちゃん達が作った武装も凄い値段なんでしょうね……)
エリィの確認にエリナは苦笑しながら答え、疲れた表情を浮かべたランディの小声にノエルは表情を引きつらせながら同意した。
「えっと………セティ先輩達、そんなに滅茶苦茶高い物をⅦ組の人達にタダで作ってあげてよかったんですか?」
「フフ、本当ならお代も取るべきなのでしょうけど、今後Ⅶ組を含めた紅き翼の方々とは協力する機会もあるでしょうから、その”先行投資”ですよ。」
「それに武装の値段にしたって、メンフィル帝国軍の人達が決めた値段だしね~。あたし達は最初、そんな大金要らないって言ったくらいなんだよ~?」
戸惑いの表情をしているユウナの指摘にセティとシャマーラはそれぞれ苦笑しながら答え
「ハッ、武装一つ1000万ミラを”先行投資”にするとか、随分と豪快な連中だぜ。」
アッシュは鼻を鳴らした後苦笑しながらセティ達を見つめた。
その後機会やそれぞれの目的で協力できる部分があればお互いに協力する事をロイド達に約束してもらい、更にロイド達から”レンが意図的に隠したと思われていたトワ達の知らない本来の歴史の出来事”を教えてもらったトワ達はセリカにも協力してもらう為にセリカに声をかけた。
「えっと………セリカさんでしたっけ。わたし達やオリヴァルト殿下が目指している今回の戦争を”第三の道”で解決する為にも、”巨イナル黄昏”を滅ぼせる異世界の”神殺し”であるセリカさんにも是非協力して欲しいのですが……」
「何?何故ゼムリア大陸に住むお前達が俺の正体を――――――お前達に一時的に協力しているレン達の仕業か。エヴリーヌ、お前達は”部外者”であるその連中に俺のことをどこまで話したんだ?」
トワの話を聞いてトワが自分の正体を知っている事に眉を顰めたセリカだったがすぐに心当たりを思い出すとエヴリーヌに呆れた表情で問いかけた。
「セリカが”神殺し”である事とアイドスとも関係がある人物って事くらいだったと思うよ、レンが説明したセリカについての話は。」
「……何?何故俺の事を説明する際にアイドスの名前まで出した?」
「レンさんがアイドスさんの名前も出したのは、多分そちらにいるⅦ組の人達はアイドスさんと”契約”しているリィンさんの同級生だったからだと思いますよ。」
エヴリーヌの話を聞いて新たな疑問が出たセリカにティオが自身の推測をセリカに説明した。
「……なるほど。」
「後ついでにオリビエがセリカとアストライアの関係をペラペラとしゃべっていたね。」
「………ほう。次に奴に会った時にはその口の軽さを心の奥底から後悔させてやる必要がありそうだな。」
(ご愁傷様ですが、サティアさんの事まで軽々しく口にした事にはさすがに問題があると思いますから、この場合自業自得ですよ、オリヴァルト皇子は………)
エヴリーヌから更なる情報を聞いて目を細めて呟いたセリカの物騒な発言にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ティオはジト目でオリヴァルト皇子を思い浮かべた。
「え、えっと………それで話を戻しますけど、セリカさんにも事情があってメンフィル・クロスベル連合に協力している事は理解していますが、特務支援課の人達のようにお互いの目的で協力し合える部分があれば、協力し合うことはできませんか?」
「――――――”リィン達はともかく、お前達と俺が協力し合うような事はない。”」
(クク、迷うことなく即断っただの。)
我に返ったトワに問いかけられたセリカは静かな表情でトワ達の頼みを断り、それを聞いたトワ達がそれぞれ驚いている中その様子をハイシェラは興味ありげな表情で見守っていた。
「チッ、考える事もせず即断りやがったぞ。」
「しかもセリカさんの口ぶりだと、リィン君達とは協力し合えるような事はあるように聞こえるね……」
「やっぱり、リィンと契約しているアイドスとかいう女神が関係しているのか?」
アッシュは舌打ちをしてセリカを睨み、アンゼリカとクロウは真剣な表情でセリカを見つめ
「この場合、アイドスは関係ない。――――――今回の件をリィン達のように”敵勢力を排除する”ではなく、”敵勢力とも和解する解決方法”を探しているお前達やオリビエの”馬鹿馬鹿しい考え”に付き合うつもりはないからだ。」
「わ、私達やオリヴァルト殿下の目指している道が”馬鹿馬鹿しい”って……!」
「オレ達や殿下の目指している道のどこが”馬鹿馬鹿しい”のだろうか?」
静かな表情で答えたセリカの答えにトワ達と共に血相を変えたアリサは怒りの表情でセリカを睨み、ガイウスは真剣な表情でセリカに問いかけた。
「そもそもどれほどの犠牲者を出そうとも、そして数多の人々の憎悪を受けてもなお世界を”終焉”へと導こうとしている連中に”言葉”が通じると思っているのか、お前達は。」
「そ、それは……………………」
セリカの指摘に反論できないトワは辛そうな表情で答えを濁し
「世界を”終焉”に導く等といった類の考えを持つ連中は”見逃せば後の災厄”となる事は今までの経験でわかり切っている。そして”そのような連中は和解に応じるような考えは決して持っていない上、本気で止める方法は殺す事が手っ取り早くかつ確実な方法”だ。――――――それなのにも関わらず、この状況でもなお”和解”等といった馬鹿馬鹿しい考えに付き合うつもりは毛頭ない。もはや”どちらかが生き、どちらかが死ぬ”事で解決するしか方法はない。」
「セリカさん………」
「………ッ!それでも………それでも”身内”が関わっていて、祖国が間違った道を進もうとしている以上、祖国や身内の為にも”第三の道”を見つけなければならないのがわからないの……!?それに貴方は”影の国”とかいう所でオリヴァルト殿下達と知り合ったんでしょう!?昔の仲間が困っているのに、助けてあげようなんて気持ちはないの!?”神殺し”なんて凄まじい力を持っているのに!」
「アリサ君……」
セリカの答えにティオが複雑そうな表情をしている中悲痛そうな表情でセリカを見つめて声を上げたアリサをアンゼリカは心配そうな表情で見つめた。
「―――そんなこと、俺の知った事か。オリビエ達の件にしても幾らかつて共に戦った仲間とは言え、俺はそんな理由だけで無条件で人助けをするような”どこぞのお人好し”ではない。俺は俺にとっての”害”となる連中を”斬る”だけだ。例えその相手が”国”や”神”であろうとな。」
一方アリサの言葉に対して淡々とした様子で答えたセリカはその場から立ち去り
「行っちまったか………」
「やれやれ………さすがに”神殺し”なんて凄まじい存在を味方につけるのは難しいとは思ってはいたけど、取り付く島もなかったね。」
「うん…………」
「………彼は昔からああいった人物なのだろうか?」
セリカが立ち去るとクロウとアンゼリカは疲れた表情で溜息を吐き、アンゼリカの言葉にトワは複雑そうな表で頷き、ガイウスは複雑そうな表情でロイド達に訊ねた。
「そう言われても、俺達もセリカさんと知り合ったのは最近で、すまないがセリカさんが昔はどのような性格をしていたかは俺達もわからないんだ。」
「”影の国”に巻き込まれてオリヴァルト皇子やセリカの野郎達の仲間だったティオすけなら何か知っているんじゃねぇのか?」
ガイウスの疑問にロイドは疲れた表情で答え、ランディはティオに話を振り
「……そうですね。セリカさん、一応あれでも以前と比べると性格は大分丸くはなっていますよ。」
「ええっ、あれで!?それじゃあティオ先輩が会った時の”嵐の剣神”ってどんな人だったんですか??」
ティオの答えを聞いたユウナは驚きの声を上げた後疑問を口にした。
「以前のセリカさんは”自分の敵は全員纏めて問答無用で斬る”みたいな感じでしたから、もし”影の国”で出会った当時のセリカさんだったらわたし達もそうですがⅦ組の人達の話も聞かずにレクター少佐達を全員殺していたと思いますよ。」
「確かにティオちゃんの話通りなら、以前と比べると性格は丸くなってはいるようだね……」
ティオの説明を聞いたその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ノエルは疲れた表情で同意し
「……まあ、幾ら性格が以前よりは丸くなっているとはいえ、”自分の敵は全員抹殺”という考えは変わっていませんから、Ⅶ組の人達には申し訳ありませんが、正直セリカさんが皆さんの考えに頷くような事はないと思いますよ。」
「そうか…………」
「……どうして”敵を殺す事で問題を解決する”みたいなそんな悲しい考えしかできないのかしら……?”神殺し”なんて凄まじい力を持っているんだったら、わざわざ相手の命を奪わなくても解決できる方法は幾らでもあると思うのに……」
「アリサ君……」
ティオの推測を聞いたガイウスが複雑そうな表情をしている中、辛そうな表情で呟いたアリサをアンゼリカは心配そうな表情で見守っていた。
「………セリカさん―――”神殺し”は私達の世界ではその存在が多くの勢力に恐れ、忌み嫌われている事で世界中から命を狙われているといっても過言ではありませんから、その関係で”自分の敵は必ず殺さなければ、自分や周りの人たちにとっての後の災害になる”という考えをされているかもしれませんね。」
「そうですね…………特に私達の世界の宗教の中でも相当過激な考えを持つ信者達は自分達が信仰している神々の為にどんな手段を取ってでも、自分達の敵を滅ぼすような事も躊躇いなく行いますからね。――――――それこそ、”西ゼムリア通商会議”に襲撃してきたテロリスト達よりも卑劣かつ信じ難い手段を取る事もあると聞いています。」
「テロリスト達よりも物騒とか、異世界の宗教の信者達はどんな物騒な連中なんだよ……」
「………………………」
セティとエリナの推測を聞いたアッシュは呆れた表情で呟き、セリカの”過去”をある程度知っているティオは複雑そうな表情で黙り込んでいた。
その後トワ達はロイド達に別れを告げ、ロイド達に見送られながらオルディーネの精霊の道でエリンの里に帰還した――――――
後書き
今回の話にてクロスベル編は終わりで次回からは予告通り、リィン達側の話であるノーザンブリア篇です!!
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