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提督はBarにいる。

作者:ごません
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艦娘とスイーツと提督と・46

~タシュケント:シベリア~

『君達、お腹空いてないかい?さっきそこで買ったシベリアです。食べなさい』

「あ、これ同じお菓子だよね?同志提督」

「そうだよ」

 スイーツチケット、今年の当選者6人目はタシュケント。リクエストは『日本らしいお菓子』との事だったので、ロシア生まれに因んでロシアの地名の付いたシベリアにしてみた。そして食べながらアニメ映画を鑑賞中である。

「美味いか?」

「うん!フワフワのカステラに、間のヨーカン……だっけ?それがしっとりとしてて美味しいよ!」

「そうか。ところでタシュケント」

「うん?なんだい同志」

「なんでお前は俺の膝の上でシベリア食いながら茶を啜ってるんだ?」

「なんでって……僕がこうしたいからさ!」

「いやそうじゃなくて」

「ダメかい?同志」

 そんな捨てられた子犬みたいな潤んだ目でこっちを見るんじゃねぇよ、俺は基本的に女の涙にゃ弱いんだ。

「いや、別にダメじゃあねぇが」

「やったぁ!じゃあこのままで良いよね」

 と、鼻唄混じりにご機嫌なタシュケント。特に重いわけでも邪魔なわけでもねぇから良いんだけどよ……。

「でも、不思議なお菓子だよね?シベリアって」

「あん?」

「だって、カステラって確かポルトガルのお菓子でしょ?そこに日本のお菓子のヨーカンがサンドしてあって、名前がシベリアって……何の共通点もないよ?」

 正確には羊羮はサンドしてある訳じゃなく、カステラの上に羊羮のタネを流し込み、それが固まりきる前にカステラを置いて固めているので羊羮を糊の代わりにくっついているってのが正しいと思うんだが……まぁいいや。

「あ~、まぁ名前の由来には諸説あるらしいけどな。シベリアの永久凍土の地層に見立てたとか、シベリア鉄道の線路に見立てたとか。日露戦争に出兵してた菓子職人が現地で食べたお菓子をヒントに……ってのもあったか」

「へぇ、じゃあ全く無関係でも無いんだね?」

「さてな。かなり古いお菓子だからな」

 明治後期には既にあったらしいからな、シベリア。




「それにしても……好きなのか?ジ○リ」

「うん!面白いよね、ファンタジーなのに妙にリアルで」

 日本人相手限定だが会話に詰まった時、どんな話題を振るか迷った時に使う鉄板ネタにしてる『何のジ○リ作品好き?』大概の人が最低でも2つ3つは見てるからな。そこから話が膨らまさせられれば場繋ぎにはうってつけだ。実際、俺の知り合いにもナンパしてからその話に持ち込んで最終的には結婚まで行った奴までいる。

「ちなみにどんなのが好きだ?」

「えっとね、『トトロ』でしょ、『ラピュタ』に『ナウシカ』に……あ、『魔女宅』も好き!」

「確かに、日常に潜むファンタジー的な作品が多めだな」

「そういう提督は何が好きなんだい?」

「俺か?俺は『豚』に『ぽんぽこ』だろ、『となりの山田くん』と、今観てる『風立ちぬ』も好きだな」


 ジ○リと言えば宮崎監督の作品というイメージが強いが、俺はどちらかと言うと高畑監督の作品の方が好みだったりする。社会風刺が利いてるのに、どこかコミカルで観ていても嫌な気分にならない。まぁ、戦争を題材にした作品とかはアレだが。

「ふ~ん、面白いの?」

「あぁ。特に『となりの山田くん』なんか2時間ずっと笑ってられる」

 あれは原作の漫画をよく映画化したな、という素晴らしい出来だった。あんまりTVとかじゃやらないのが惜しい。

「そんなに面白いの?見てみたいなぁ」

「ま、その内にな」





「しっかし、お前らも大変だよなぁ」

「ん?何がだい同志」

「第二次大戦であれだけ戦って、気が付いたら人の姿になってて、人が滅びそうだからまた戦ってくれって言われて……その上祖国を遠く離れて戦うとか、大変過ぎるだろ」

「そうかなぁ……僕は皆と知り合えたから楽しいよ?」

「タシュケント……お前」

 スゲェ良い娘だなお前、見直したわ。

「それに、ここなら好きなだけ飲んでも怒られないしね!」

「結局そこに行き着いちまうのかロシア勢は」

 持ち直した評価はやっぱり据え置きだ。

「しかし……あれは寒さを凌ぐ為にうと飲んでた訳だろ?南方のブルネイならそれは要らないだろ」

 アルコールのキツい酒を飲めば腹の中からカッと熱くなるからな。雪山での遭難時に山岳救助犬が首輪にウィスキー着けてたってのも、気付けの意味があるからだ。帝国海軍でも高高度を飛ぶ飛行機には気付けに焼酎やら泡盛を積んでたって歴史もあるしな。

「そうだね、寒さは心配してないよ。でもね……僕達だって不安を感じる事ぐらいあるさ」

 タシュケントはそう言って、寂しげに微笑んだ。

「敵は国じゃない。国が相手なら軍人が戦っている間に、政治家が和平なり高輪なりで早く戦争を終わらせる事が出来るだろ?でも、敵は国じゃないんだ」

 そう、敵は国家じゃない。どれだけの戦力があるのか?資源はどれだけあるのか?指揮官はいるのか?判らない事だらけだ。

「そんな先の見えない戦いを続けてるとさ、『ここがヴァルハラって奴なんじゃないかな?』ってたまに思っちゃったりもするんだ」

 ヴァルハラ……北欧神話に出てくるオーディンの居城だったか?そこには戦死した戦士達の魂が集められ、ラグナロクに備えて強い者を選別する為に延々と戦が繰り広げられているという。成る程、人間が艦娘を頼ってとはいえ戦い続けている今の状況は正にヴァルハラと言っても過言ではないかも知れん。

「そんな時にね、お酒を飲むんだ。酔うと気分が明るくなるし、嫌な事もその間だけでも忘れられる。そうすれば明日からでも戦えるんだ」

「成る程、頼りきりな俺が言う話じゃねぇが……確かに必要だな」

「でしょ?それに、同志提督だって必要だよ」

「そうか?」

「そうさ。提督の料理やお菓子、とっても美味しいんだ。また食べたいって思えば頑張って生き残ろうって思えるのさ!」

「そりゃまた、何とも現金な話だな」

 俺の飯が未練で、万が一轟沈しても化けて出てくるコイツら。

「でも、やっぱり皆同志の事が好きだからこうして同志の下に集うのさ!」

「飯やオヤツ目当てにか?」

「そうだよ……ってもう!折角いい雰囲気の話にしようとしてたのに」

 タシュケントも随分と日本文化に馴染んできたらしい。切れ味のいい、素晴らしいノリツッコミだった。

「カカカ、まぁいいさ。人間現金な位な方が意地汚く生き残るからな」

 ウチの所属の連中には口が酸っぱくなるほど言い聞かせてきたが、潔い死に方なんて糞喰らえだ。例え絶望的な状況でも、最後の最後まで足掻け。足掻けば少ない確率でも何かが起こる可能性は産まれるのだから。可能性が低いという事は、ゼロではないのだ。

「はぁ……なんかお腹空いてきちゃったな。提督、シベリアのお代わり貰えるかい?」

「あいよ」




 少し重苦しい話をした1時間後、観ていた映画がエンディングを迎える。

「いやぁ、面白かった!実際に空母の娘達が使っている飛行機が出てきたりすると見方が変わるね」

「確かにな。まぁ、ウチの鎮守府じゃあもう九六式やら21型なんてほとんど使ってねぇけどな」

「それでも、だよ」

「まぁ、後は出来たばかりの鳳翔が出てきたのは印象的だったな」

「え?ホーショーさん?どこに映ってた?」

「映ってたもなにも、劇中に出てきた空母、ありゃ鳳翔だぞ?」

「ええぇ!そうだったの!?」

「そりゃな、帝国海軍初の航空母艦だぞ?艦載機の黎明期なら当然だろ」

「そっかぁ……そうだよね。艦娘の姿でしか知らないから気付かなかったよ」

 ガックリと肩を落とすタシュケントが、ちょっと面白かった。後日、鳳翔にこの映画の話をした所『む、昔の私を見られている様で恥ずかしいです……』と頬を染めてモジモジしていた。かわいい。
 
 

 
後書き
 ラストの会話、実は俺と弟(元提督)がリアルで交わした会話だったりしますw 
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