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神葬世界×ゴスペル・デイ

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第一物語・前半-未来会議編-
  第十三章 抗いの行く先《3》

 
前書き
 そこに立つ者は、何処へと向かうのか。
 みたいな感じでスタート。 

 
 西二番貿易区域の停泊場に、一つの影が立っている。
 右腕のない、黒髪の少年だ。
 緑の瞳を真っ直ぐ前に向け、防水用の加護を展開していない。
 彼の周りには黄森の隊員が長銃を携え、囲むように構えていた。
 彼は横目でそれを確認し、黙って雨に打たれ続けた。
 そんな彼に声が届く。
 その声は、
「おいセーラン、お前がやろうとしてることは理解出来ている。思いっきりやれ!」
「……飛豊か、他の奴もついてきたな」
 セーランは背後を確認せずに、後ろの状態を把握した。
 音だけで分かる。彼女らはコンテナを積み上げている箇所にいる。周りを黄森の隊員が囲んでいるから、近づくことが出来なかった。
 彼女らの他にも、この事態を見に来た住民は大勢いる。
 今の自分は、そんな者達の注目の的だ。
 息を吸う。
 それに反応して、銃の標準を合わせている音が聞こえる。
「ったくよお、上手く抜け出せたと思ったのになあ」
 ぼそりと吐いた。
 今朝まで自分は黄森の直接監視下に置かれ、西一番貿易区域の作業者用の小屋に閉じ込められていた。
 小屋のなかは自分と、隊員が二人体制で監視を続けてた。
 一定の時間で監視の者が変わり、今まで監視していた者とこれから監視する者とで交換する。
 そこに隙が生まれた。
 隙を伺っていたところに、通常はこらから監視する者が先に入り、その後に監視していた者が出るのいうのだった。が、隙が生じたのはその順番の間違えだ。
 監視していた者が先に出てしまい、一瞬小屋のなかには監視の者がいなくなるという状況が生まれた。
 その瞬間、木造の小屋の壁をぶち抜き逃亡した。
 拘束系術を掛けられていたが、掛け方があまかった。指先が動かせたので妨害系術を発動。術式に干渉し、拘束系術を無効にしたのだ。
 たとて協力な系術でいっても、術式に干渉され系術の構成を壊してしまえばもうおしまいだ。
 やっとの思いで逃げ続け、ここまで来たがやはり黄森には考えていることが解っていた。
 目的は宇天学勢院の長に会うこと。
 濡れた地面の上に立ちながら、眼前に見える青の戦闘艦に吠える。
「出てこいよ宇天学勢院覇王会会長ヶ長、委伊達・奏鳴!!」
 昨日の優しいのとは違う、乱暴な言葉を向こうの長に向かって声を掛ける。
 しかし帰ってくるのは、山びこのように帰ってくる自分の声と雨の音だけだ。
 そうだろうな、そして出てくるのは――。
 セーランの目に映る艦から、一つの人影が降りてくる。
 腰の中場まで伸ばした茶色の髪。前髪を真っ直ぐに揃えた、不機嫌そうに眉を立てている。しかし凛とした女性。
 宇天学勢院覇王会隊長兼指揮官、草野芽・実之芽。
 艦の出入口に設置された舷梯(げんてい)を降りてくる。
 雨から身を濡らさないために加護を発動しながら、濡れた地面に足を着く。
 水が敷かれた地の上を歩ながら、黄森の隊員に構うなと右の手を斜めに出す。
 セーランを囲むように並んだ隊員は、彼女を通すため円を裂く。開いた穴から眼前に見える日来の長に近づく。
 ある程度の距離を置き、立ち止まり告げる。
「貴方もこりないわね日来の長」
「言ったろ、俺は粘り強い男だってな」
「告白の続き?」
「今回来たのはそういうのじゃねえんだ」
「なら何用かしら」
「死んでも構わねえって言うお前の長をぶん殴りに来た」
「貴方には関係無いでしょ?」
「あるね、だって俺は、あいつに死んでほしくねえんだから」
「ならどうするの」
「決まってら」
 それは、
「覇王会として隊長であるお前を倒し、弱かったお前達に代わってあいつを助ける」
 成程、と実之芽は思った。
 これは覇王会として勝負することにより、宇天学勢院よりも自身から強いことを認めさせる。そうすることで、力があると黄森に証明でき交渉の余地を確保する気だ。しかもそれが、屈指の実力者が務める覇王会隊長ならば黄森も無視は出来ないだろう。
 だが、これには問題もある。
 それは、
「もし貴方が負ければ日来の存在価値は更に下がり、交渉の余地は無くなるわよ」 
「そうなったら困るから全力で戦う。どうだ? ここであんたが勝てば辰ノ大花の存在価値が上がる他に、黄森との交渉が上手くいくかもしれないぜ?」
 ここで実之芽が勝てば、宇天学勢院の学勢は日来を抑えることが出来ると証明出来る。
 他国との戦闘が何時行われるか分からない状況で、辰ノ大花の一地域で日来と言う地域を抑えられるということは魅力的である。
 そうね、と実之芽は考える。
 黄森の隊員が見ているこの場で、力をアピールするなら絶好の機会だろう。
 負ければそれはもう最悪な状況になってしまうが、ここで黄森に任せてしまえば、それは宇天覇王会隊長は負けることを恐れて力のある黄森に事態を任せ逃げた、となる。
 そうすれば宇天学勢院ならず、辰ノ大花に関わる。
 だから、ここは戦う一択しかない。
 これを狙っていたわけね。
 食えない人だ、と思う。が、それと同時に彼の能力の凄さに圧倒される。
 雨の中、実之芽の正面に映画面《モニター》がを表示される。
『今雨のなか甲板からそちらを観察中。色々日来の長にいい具合に流されてるけど、どうしますかあ?』
「ハイテンションね御茶丸……」
 その映画面には、丸眼鏡を掛けた少年が映る。
 ため息を吐くが、後ろを確認はしない。
『おやおや無視でしか? あっ、やべ、寒いから口が回らなくて噛んじった。でしかじゃなくてですかですよ――』
「分かったから何か用?」
『はいはーい、ストレートに勝負するなら本気でですよ』
「ほんとストレートね、というかもう勝負すること決定してるの?」
『覇王会戦術師としては戦って欲しいのが願いです。強制ではありませんが、……信じてますよ』
「なら半強制的ね」
 すみませんねえ、と御茶丸は頭を下げる。
 頭を上げたので、実之芽は彼に問い掛ける。
「私が負けると思う?」
『それは疑問ですか、それとも戦う前の掛け合いですか』
「どちらもよ」
『そうですか、なら大丈夫、勝てますよ。何故なら貴方は仲間が見ている前では必ず勝ちますからね』
「なら黙って見てなさい」
『了解』
 そして、映画面が消える。
 顔を上げ実之芽は、正面に立つ者を見た。
 日来学勢院覇王会会長ヶ長、幣・セーラン……。
 声に出さず、胸のなかでその者の名を呼ぶ。
 彼は黙ってこちらを見ている。
 返事を待っているのだろう。
 だから、彼に告げる。
「その提案に乗るわ」
「そうか、手加減は無しだぜ」
「手加減なんてものはあいにく持ち合わせていないのよ」
 二人は足の間隔を広げ、腰を落とす。
 その姿勢のまま、セーランは仲間に向かって叫ぶ。
「おい皆! これからちょっくら戦うけどさ……手、出すなよ」
 返事は返ってこない。
 だが、それが肯定の合図だ。
 その様子を見て、実之芽も自分達を囲む隊員に告げる。
「黄森の隊員達よ、ここから早々に離れさい」
 その言葉に日来の長と重なるように立つ、他の隊員とは服の模様が違う中年の男が答える。
「それは出来ない相談ですな、日来の長は何もやらかすか分からぬ今は」
 隊員を指揮している者だろう。
 その男に向かって、更に忠告を続ける。
「なら如何なる被害を受けても自己責任でお願いするわね。ぽっくり昇天しても知らないわよ?」
「……この場は宇天学勢院隊長に預ける。総員撤退!!」
 その言葉に囲むように陣を組んでいた隊員は、各方向に散らばる。
 くっ、と言う言葉が聞こえたが、実之芽は気にはしなかった。
 目の前にいる日来の長から、目を離すことはしたくはなかった。
 何故なら、合図をしてからの戦闘とは彼は言っていなかったからだ。
 こちらの様子を伺い、彼は口を上げた。
「真剣勝負準備平気?」
「文字にしたら漢字だけね」
「面白いところに気が付くもんだな、んじゃ始めるか!!」
「逆鱗の神雷と呼ばれる私の力、見せてあげるわ!」
 直後、二人は動いた。



 先に動いたのはセーランだ。
 濡れたコンクリートの地面を踏み、実之芽との距離を一気に縮める。
 そして秒にも満たない後で、実之芽も同じく地を蹴り飛ばした。
 体を飛ばした実之芽は、こちらに向かう二つの影を 見た。
 一つは、うおお、と叫んでいる日来の長。
 もう一つは、
「コンテナ!?」
 日来の長の横から、前に出るようにこちらへぶつかる軌道を描く鉄製のそれが来た。
 それを見て、実之芽は理解する。
「これは流魔操作ね!」
「ご名答!」
 セーランは横に伸ばした左の手を、右へ水平に動かす。
 その左手を追うように、コンテナは 淡い青の線に引っ張られる。
 セーランが動く直前に、自身の指の平から出した内部流魔を近くに置いてあったコンテナに繋げた。
 そして、そのままコンテナは眼前に迫っていた宇天の隊長を潰した。
 コンクリートを打ち、砕けた。
 鈍い音が鳴り、セーランは流魔の線を切り離す。
 十メートルは離れていた距離は、一気にお互いの手が届く距離まで縮んだ。
「空中に避けてからの落下攻撃か」
「さすが長と言ったところね、だけどこれならどう?」
 瞬間、セーランは息をつく暇もなく攻撃を食らった。
 空から来た右足を腕で防ぐセーランに対し、実之芽はもう一つの足を右から顎へとぶち込む。
 その衝撃によりセーランは吹き飛んだ。
 数回転げ回った後、冷たい地面に手をつき立ち上がる。
「すんげえ痛かったんだけど」
「顎を狙ったつもりなのだけど、自分から攻撃を受けに行き頬に当てたわね」
 右頬を撫でるように触るセーランの頬は、赤く腫れている。
 そして二人は再びぶつかり合う。
 今度は、実之芽が先に動いた。
 地を蹴飛ばし、地面に張った水も飛ばす。
 正面。セーランは迫る実之芽の攻撃を受け止めるために、防御体勢を取る。
「始めから防御体勢なんて、手の内明かしてどうする気?」
 そう言うと、セーランの目の前から実之芽は消えた。
 否、右へとステップしたのだ。
 雨のなか、左足を軸に右へと体をセーランは無理矢理向けた。
 そして眼前。右の拳に握り、振り抜こうとする実之芽がいる。
 セーランは一つの行動をした。
 流魔操作で操ったコンテナを再び、流魔の糸を繋げ自身の壁とした。
 コンテナが地に落ちる音と元に、打撃の鈍い音が鳴る。
 それは一つではなく、二つ、三つと続く。
「おいおい、素手でぶっ壊す気かよ!?」
 そして眼前に置いたコンテナに亀裂が入り、破裂するように瓦解した。
 破片となった鉄のコンテナが四方八方に飛び、一部がセーランの体を襲う。
 顔の前に腕を盾とし、破片から顔を守る。
 そしてセーランを襲うものが、もう一つある。
 強化系術を拳に展開し、迫る実之芽だ。
 それを見て、セーランは動いた。
 前に行き、ぶつかりに行く。
「自爆行為かしら」
「いや、こう言うことさ!」
 その時、実之芽の体は宙に浮いた。



「流魔操作の応用だね」
 そう言うのは、伊達眼鏡を掛けたレヴァーシンクだ。
 彼は映画面《モニター》を表示し、日来の長と宇天の隊長の戦いを見ている。
 戦いの場から離れた所にいる黄森の記録隊により撮られているもので、一般向けにも放送されている。
 日来の長が負ければ、日来住民は素直に監視され続ける可能性がある。もし宇天の隊長が負ければ、辰ノ大花にこれを交渉材料に出来というわけだ。
 何せ皆が見てるんだからね。
 主戦力の中の主戦力は違うな、と思う。
 映画面を見ながら、雨のなかの戦いを顔を上げ見る。
 撮影が二人の動きに追いついて行けてなく、まともに戦いの様子が確認出来ないからだ。
 今の状況は、宇天の隊長が宙に浮いているところだ。
「攻撃を受けに行くと見せかけて、流魔線を繋げたね」
「流魔操作は自身の内部流魔を使い、別のものへと流魔線と呼ばれる糸を繋ぎ、操り人形のように操る準禁忌の技の筈だがな」
 コンテナの上に立っているレヴァーシンクに対し、その下、オールバックの少年アストローゼは言う。
 その左横には、補佐のニチアがいる。
 アストローゼの言葉に、レヴァーシンクは続けた。
「体を構成するために必要な内部流魔を使うからね。使い過ぎれば体に悪影響を及ぼすけど、人類には内部流魔の回復速度が異常に早い者がいる」
「それがセーランなのだろう?」
 そうだよ、と言う。
 そのセーランは今、宙に浮く宇天隊長の下にいる。
「流魔線張り付けて宙に放り投げたんだね」
「空中ならば身動きは取れないからな」
「この戦い勝てると思う?」
 その問いに仲間は答えない。
 レヴァーシンクは、目を動かし仲間達の様子を確認していた。
 そう、もう答えは決まっている。
「愚問だったね、皆、勝てると信じてる」
 だから、
「勝たないといけないんだからね」
 それに答えるかのように、目の前にいるセーランは動いた。
 落ちてくる宇天の隊長に対して、繋げた流魔線を引っ張り加速をつけた。
 落下してくる彼女に打撃を与えるつもりだ。



 空へと上がった実之芽は、一瞬何が起きたか理解出来なかった。
 目の前にいた日来長に、右の拳による攻撃を与えようとし、それに反応したあちらはこちらに迫って来たのだ。
 普通なら、強化系術を展開した自分が勝つ筈だった。
 だが、そんな自分が宙に放り投げられたのだ。
 十数メートルまで上がった体は、重力を無視して空へと向かう。
 それがピークに達したときに、把握出来た。
 流魔操作だ。
 流魔操作はそのままの意味だ。流魔を操作する、または流魔による操作だ。
 前者の方がよく知られている。自身の内部流魔を用い、物を作り出す技だ。
 後者は前者よりかは有名ではない。それは単なる流魔線によるものの操作だからだ。
 自分は後者により、宙に放り出されたのだ。
 成程、攻撃を受けに行ったと思い込ませ、本当のの狙いは流魔線を私と繋ぐことだったのね。
 自分が着ている制服の腹の部分、そこに淡い青の線が日来長の左手と繋がっている。
 飛ばされながらも、平然とするのを妨げるように、服が引っ張られる感覚が生じた。
 そして直後、一気に落下の速度が加速した。
 腹を下にしての落下。その下にいるのは、拳を構えた日来の長だ。
 もし何もしなければ、このまま攻撃を食らうことになる。
 しかし、そんな真似は出来ない。
 意見なく攻撃を食らえば、それだけ弱さを知らしめることになる。だから、意地でも防御に入るのが得策。
 だが、ここは力を見せつけ辰ノ大花の強さを知らしめる。
 だから、
「発動させてもらうわ!」
 雨と共に落ちる身を気にせず、乱暴に右の腕を左へやり、一気に右へ振り抜いた。
 その後には実之芽の体を囲むように、無数の映画面《モニター》が現れ、各映画面には別々のものが表示される。
 それを確認し、叫ぶ。
「神化系術“御雷神《タケミカヅチ》”発動!!」
 その声と共に、空は青く轟く。
 突如、青い雷撃が地を削った。 
 

 
後書き
 バトル開始しましたね。
 覇王会で一番の実力者は隊長とされています。
 長は皆を導く、先導者のようなものなので強いわけではありせん。
 どうなるセーラン?
 次回はバトル回まっしぐらです。 
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