アルゼンチン帝国召喚
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第二十一話「海と陸と西方」
第二十一話「海と陸と西方」
「アルゼンチン帝国は凄まじいな」
クワトイネ公国の経済都市マイハークにあるとある食堂にて元ロウリア王国海将シャークンは呟いた。彼はロウリア王国の船団4400隻を率いて侵攻したが王都攻撃を狙ったアルゼンチン帝国艦隊に壊滅させられた。幸いシャークンは生き延びる事に成功し後からやってきたクワトイネ公国の船に救助され捕虜となった。シャークンは情報を引き出す為に拷問を受けるだろう事を覚悟したがそんな事はなくむしろクワトイネ公国の兵士たちはシャークンたちを憐れむような眼で見ていた。
当初こそ分からなかったが後にロウリア王国があり得ない速度で滅亡、占領されたことを知りこの意味を知る事となった。戦後はロウリア王国の将軍という事もあり収容施設に入れられたが過ぎに釈放された。いくら敵だったとはいえ彼がしたことはほとんどないため無罪となったのだ。その後シャークンは下働きをしながら現金を貯め今では一隻の船の船長として貿易に励んでいる。大抵の貿易相手はアルタラス王国やシオス王国に食料の輸出を行っている。
最近では漸く懐も温かくなる程度には儲かってきている。その為シャークンは陸にいる時はこう言った食堂で外食をするようになっていた。
「まだ一年も経っていないのに何年の前の様に感じるな」
祖国が滅びた事に何も感じなかったわけではないがそれでもアルゼンチン帝国に逆らおうと思う程に愛国心があった訳でもない。最近ではそう思うようになっていた。
ロウリア王国は主要都市を破壊され国家としては機能しなくなった。今ではクワトイネ公国、クイラ王国、アルゼンチン帝国とその同盟国によってばらばらに分割された。唯一ロウリアらしいところが残ったのはアルゼンチン帝国の傀儡となった中央部の帝国領ロウリアだけだった。それも二か月ほど前に反乱が起きてからはヌナブト連邦共和国という国に割譲され影も形も残っていないが。
「アルゼンチン帝国の様子から遅かれ早かれこうなっていただろうな。アルゼンチン帝国から見たらロウリア王国など丁度いいカモに見えただろうからな」
パーパルディア皇国ですら領土拡張先程度の認識だったのだ。それ以下の国力しか持たないロウリア王国など抵抗力の無い餌同然だったろう。
「幸いクワトイネ公国やクイラ王国は我々の様な者を受け入れてくれている。せめてこの国がアルゼンチン帝国の毒蛾にかからないことを祈るばかりだな」
シャークンは漸く来た食事に手を付けながらそう呟くのであった。
西部方面騎士団長モイジは最近暇を持て余していた。ロウリア王国という明確な敵がアルゼンチン帝国によって滅ぼされたため西への備えが必要なくなったのだ。それでも最近までは新たに手に入れた領土の整理や騎士団の近代化に追われていた。アルゼンチン帝国の軍事力を目の前で見た西部方面騎士団は近代化に積極的であった。その為アルゼンチン帝国が無償で提供したパーパルディア皇国のマスケット銃(鹵獲品)を大量配備しその力を強化していた。他にも研究以外では必要ないとワイバーンロードすら提供してくれたため西部方面騎士団のみならずクワトイネ公国の空軍力が強化されていた(因みに帝国領パールネウスは自治領統合軍が軍関係を行っているのでクワトイネ公国よりも軍事力は高い)。
そしてつい最近それが終わりモイジは一気にやる事がなくなったのだ。妻や子と平和な時間を過ごしたり剣や新たな武器である銃の練習をしているがそれでも暇な時間が多くできた。
「……あら?貴方それはどうしたの?」
「これか?実は休暇を貰ってな。もしよければ一緒に行かないか?」
モイジが持っていた物それはアルゼンチン帝国への渡航券であった。
アルゼンチン帝国は本土への行き来を制限している。しかし、それでは国内の観光業などが衰退していますため限定的に行き来を行えるようにしていた。それが渡航券である。これがあればアルゼンチン帝国に入る事が出来る。友好国に対し多めに配っていた。
モイジは偶々ギムで売られていたのを発見し購入したのだ。
「まぁ!それはいいですね」
「あのアルゼンチン帝国だ。きっと見る物全てが新鮮に映るだろう」
「それは楽しみですね」
翌週、モイジは家族を連れアルゼンチン帝国へと渡った。最近では見慣れてきたとは言え獣人のモイジは目立ちアルゼンチン帝国の人々に改めて異世界に来たことを実感させるのであった。
「第三文明圏は正式に解散させよう」
神聖ミリシアル帝国帝都ルーンポリスにてパーパルディア皇国亡きあとの第三文明圏についての会議が行われた。
第三文明圏は元々パーパルディア皇国を中心とした文明圏だった為パーパルディア皇国が滅びた今文明圏としては存続できなくなっていた。アルゼンチン帝国を新たに第三文明圏の盟主にする事も出来たが極東国家連合という新たな文明圏ともいえる陣営を作ってしまったためにそれも出来なくなっていた。
「で、どうする?アルゼンチン帝国に使節団を派遣するか?」
「しかし我が国は世界最強の国だぞ?それなのに態々こちらから派遣するなど……」
「ですがアルゼンチン帝国は今後東方世界の代表的存在となるでしょう。それにパーパルディア皇国に代わり先進11か国会議に呼ぶのでその準備や指導を行うというていで行けば……」
「確かにそれなら問題ないな。検討と根回しを行うか」
後日、神聖ミリシアル帝国はアルゼンチン帝国に使節団を派遣する事を決定した。
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