| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝供書

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第七十八話 紺から紫へその十一

「近いかと」
「そうであろうな」
「では」
「今川家を退けてな」
 そしてとだ、信長は林に答えた。
「そのうえでな」
「伊勢や志摩、そして美濃ですか」
「そうしていく」
「左様ですか、では」
「そのことは案ずるでない」
 まるで何でもない様にだ、信長は述べた。
「終わらせる」
「その時が来れば」
「そうする」
「また何でもない様に言われますが」
「そうではない、今川家は兵が多く侮れぬ」
 それはとだ、信長は林に淀みない声で答えた。
「だが攻める時期は違っても来る場所は一つしかない」
「東海道を上がってですか」
「それしかないからな」
 だからだというのだ。
「それなら対し方があるからじゃ」
「既に殿は」
「考えておる、しかしその時は」
 信長はここで笑って林だけでなく他の家臣達も見て話した。
「お主達は驚くであろうな」
「殿、それはまた冗談が過ぎますぞ」
 笑う信長を金森が諌めた。
「驚くなどとは」
「わしが何をしても驚かぬか」
「はい、殿のなされることにこれまでどれだけ驚いたか」
「だからか」
「もう何があろうとも」
 信長が何をしようとも、というのだ。
「それがし達はです」
「驚かぬか」
「殿の傾きについては」
「そうか、ではその言葉忘れるでないぞ」
「またその様なことを」
「しかしわしは必ずな」
 信長はあらためて言った。
「今川家を退けてな」
「そうしてですか」
「そのうえでな」
「あらためてですな」
「天下を目指す、尾張を確かなものにするのは当然としてな」
 それで終わらずというのだ。
「そうしていく、そしてやがて四国にもな」
「進むと」
「そうする、出来れば十年のうちにな」
 それまでの間にというのだ。
「上洛し近畿を掌握し」
「そのうえで」
「四国じゃ、そしてあの者が素直に降ればよいが」
「そうでないなら」
「戦ってな」
 そうしてというのだ。
「そのうでな」
「降して」
「家臣にしたい、そしてお主達と共に」
「天下布武とその後の治にですか」
「働いてもらいたい」
 遠く尾張にあってだった、信長は弥三郎のことを言っていた。そして彼の初陣の時を彼の弟達と同じく楽しみにしていた。
 それでだ、彼が元服をしたがそれでも初陣は見送られたと聞いてこう言った。
「土佐の者達は後になってしまったと思うわ」
「長曾我部殿の初陣を遅らせたことを」
「そうじゃ、姫に見えてもな」
 丹羽に対して話した。
「それでもな」
「その実は鬼であられるので」
「鬼の働きを見るのが遅れたとな」
「そう思われて、ですか」
「悔やむわ」
 そうなるというのだ。
「必ずな」
「ではこの度のことは」
「迂闊であった、だが初陣の時に」
「まさにですな」
「あの者のことがわかる」
「今初陣を遅らせた者達も」
「必ずな、わしは尾張から見るわ」
 弥三郎、元服して諱を元親とした彼のそれをというのだ。信長はこう言って尾張から彼を見ていた。


第七十八話   完


                 2019・12・15 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧