クラシックは人間性をよくするか
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第二章
「ナチスの反ユダヤのプロパガンダに使われても」
「不思議ではなかったですね」
「そのサンプルになっても」
「全くおかしくない」
「そんな人物だよ」
「それがあの人ですね」
「だから友人もね」
その立場にある人物もというのだ。
「非常に少ないよ、私もね」
「ご自身で、ですか」
「何故彼と友人でいられるか」
このことがというのだ。
「不思議で仕方ないよ」
「ああした人と」
「あれだけ問題それもどれも深刻なレベルでね」
「持っている人と」
「私も困ったことが多いからね」
そのクレンペラーに対してというのだ、レッグは彼の知人に対してこうしたことを話したことがあった。
そしてクレンペラーが寝煙草で床に落とした火を消そうとして手違いでその火によりによって揮発性の液体をかけた為大火事にしてしまって彼自身大火傷を負って入院した時のことだ、見舞いに来たレッグは彼を気遣う声をかけ命は助かったことを喜びその後でだった。
フィルハーモニア管弦楽団のベートーベンの交響曲全てを振る予定の話をした、入院していては振れず筈がなく各曲で代役が立てられることになった。その話は進み殆どの曲で代役が決まったがベートーベンの代表作というか代名詞であると言っていい第九の代役だけが決まらなかった。レッグはそのことに苦慮していたが。
クレンペラーは病床からそのレッグに話した。
「ヒンデミットだ」
「えっ、彼は作曲家としては素晴らしいが」
ヒンデミット、画家マティス等の名作で知られる作曲家である彼の名前を聞いてレッグはすぐに駄目だという顔になった。
そしてすぐにクレンペラーに話した。
「指揮者としては」
「ウォルター、そんなことを言わないでくれ」
レッグの異論にだった、クレンペラーは悲しい顔になって言葉を返した。
「君は私の数少ない友人だ、その頼みを断るのか」
「しかし彼は指揮者として」
「私自身の代役だ、その指名は駄目なのかい?」
「それは」
「では頼む、第九はレッグだ」
「君がそこまで言うなら」
レッグも反対出来なかった、自身の代役の指名だけでなく友人としての関係まで持ちだされるとどうしてもだった。
それでヒンデミットに頼んだが指揮者としての彼を知る者は誰もがこれはと思った。
「クレンペラーの代役にヒンデミットか」
「彼の本分はあくまで作曲家だ」
「指揮者としてはどうも」
「ましてやクレンペラーだぞ」
「代役としては格が違い過ぎないか」
「私もそう思うが」
かく言うレッグ自身も思うことだった。
「本人の指名だ、これでいくしかない」
「大丈夫ですか?」
「悪い予感しかしないですが」
「だが本人の言葉だ、切実な」
それなら聞くしかないというのだ、こうしてだった。
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