両手のハンマー
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第一章
両手のハンマー
一八七〇年代のアメリカ南部の話である、当時この地域にジョン=ヘンリーという線路工夫がいた。
大柄で逞しい身体と縮れた短い髪の毛と黒く大きな目を持つ愛嬌のある顔立ちのアフリカ系の男であり最初は波止場で綿花輸送人夫をしていた。
線路工夫としては両手にハンマーを持って線路施設やトンネル掘削においてこれ以上はない腕を見せていた。しかも鷹揚で気前がよくしかも仲間思いの性格なので誰からも好かれていた。
「ジョンがいて本当に助かるな」
「ああ、立派な奴だ」
「いつも自分から率先して働いてな」
「誰よりも勤勉でな」
「体力もあるし仲間思いでもある」
「あんな凄い奴はいないな」
「最高の工夫だぜ」
仲間達特にアフリカ系の者達からこう言われて評価を受けていた。とにかく彼は最高の労働者として知られていた。
アメリカは発展していて線路は次々に敷かれ人手は幾らあっても足りないと思われた。しかしその矢先に。
ジョンが働いている工事現場の工夫長がある日工夫達にあるものを見せた、それは円錐型で渦巻の突出が付いた鉄製のものだった。
ジョンも他の工夫達もそれが何かわからず首を傾げさせた。
「あれは何だ?」
「一体何なんだ?」
「鉄なのはわかるが」
「見たこともないものだな」
「あれは一体何なんだ?」
「これはドリルっていうんだよ」
工夫長が彼等に笑って話した。
「蒸気で動いて穴を掘るんだよ」
「掘削するのか」
「そうしたものか」
「それがドリルか」
「蒸気で動くのか」
「蒸気で動くからな」
だからだというのだ。
「物凄い勢いで穴を掘るぞ」
「どんな勢いなんだ?」
「ちょっと見てみたいな」
「そうだよな」
「凄い勢いっていうけれどな」
「具体的に」
「それを今から見せるな」
こう言って実際にだった、工夫長は上気ドリルを動かしてみせた。するとドリルは彼の言う通り人では考えられない位の勢いでだった。
掘削をしてみせた、このことに工夫達は仰天した。
「何だあの速さは」
「凄い勢いで掘ったな」
「これはまた凄いものが出て来たな」
「全くだ」
「あんなものが出て来たら」
ここである工夫が言った。
「俺達の仕事はどうなんだ」
「ああ、そうだな」
「それが心配だな」
「あんな仕事をしたらな」
「俺達の掘削の仕事がなくなるな」
「それで俺達の仕事がなくなって」
「俺達は失業するのか」
こう思った、それでだった。
多くの工夫達が失業の不安を感じだした、すると仲間思いのジョンはその彼等を見て工夫長に対して申し出た。
「あの、勝負をさせてくれますか」
「勝負だと?」
「俺がドリルに掘削の勝負を挑みます」
こう工夫長に言うのだった。
「それで俺が勝ったらです」
「その時はか」
「はい、仲間達をこれまで通り雇ってくれませんか」
「ああ、ドリルが入ってか」
ジョンが何故今の様に言ったかだ、工夫長もすぐにわかった。彼も工夫達の責任者として彼等のひそひそ話を現場で聞いていたからだ。
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