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戦国異伝供書

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第七十七話 諱その九

「とても」
「左様であるか、しかしな」
「それでもですか」
「思えばそう言う者こそな」
 自分が美しくない、立派ではないと思う者の方がというのだ。
「よいかもな」
「左様ですか」
「だからな」
 このことから考えてというのだ。
「お主はよいやもな」
「そうですか」
「そしてそうした者を妻に迎えられて」
「殿はですか」
「果報者じゃ、ならな」
「それならですか」
「これからもな」
 妻に笑顔を向けて話した。
「添い遂げようぞ」
「この命ある限り」
「わしは何があろうとな」
「私をですか」
「妻とする」
「そうして下さいますか」
「そうする、そして義兄上にもな」
 信長に対してもというのだ。
「弟としてな」
「お仕えされますか」
「血はつながっておらぬが」
 義弟であるがというのだ。
「それでもじゃ」
「左様ですか」
「そしてな」
「これからは」
「浅井家を守り」
 これを第一として、というのだ。
「そしてな」
「兄上にもですか」
「お仕えしよう」
「そしてですね」
「そなたともな」 
 市をいとおしげな目で見て話した。
「生涯添い遂げたい」
「宜しくお願いします」
「こちらこそな」
 こう話してだった、長政は市と共に暮らしはじめた。そうして織田家の盟友として生きることも決めた。
 その彼を越前から見てだった、宗滴はまた自身の家臣達に話した。
「やはりな」
「浅井殿は勝たれ」
「独立されて」
「そしてですな」
「そのうえで」
「うむ、織田家と盟約を結んだ」
 予想通りそうなったというのだ。
「まさにな」
「左様でありますな」
「殿の言われる通りです」
「そうなりました」
「この度は」
「これでじゃ」
 宗滴はさらに話した。
「織田殿は憂いはなくなった」
「では、ですな」
「間もなく伊勢と志摩を手に入れられ」
「次は美濃となり」
「そこからですな」
「上洛じゃ、上洛については」
 宗滴は苦い顔で述べた。
「我等も出来る」
「先の公方様の弟君が来られています」
「あの方を旗印としてですな」
「そして上洛出来ますな」
「しようと思えば」
「今の六角家は将軍家に忠義を尽くしておる」
 義賢は幕府に対しては従順でそうしているのだ。 
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