雲に隠れた月は朧げに聖なる光を放つ
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第十話 ハルツィナ樹海
「さて‥‥これから聞くことすべて吐いてもらうからな」
「ひぃ、く、来るなぁ! い、嫌だ。し、死にたくない。だ、誰か! 助けてくれ!」
「誰も助けてくれないさ。全員死んだ」
感情の篭もらない蜂起の声に、帝国兵はより一層怯えた顔をする。
「オスカー」
「‥‥錬成」
オスカーが地面を錬成する。するとあっという間に拘束具が完成。帝国兵の自由を奪った。
「た、頼む! 殺さないでくれ! な、何でもするから! 頼む!」
「ふーん」
興味なさげな蜂起。そこで俺が問う。
「何でもするって?それなら他の兎人族がどうなったか教えてもらおうか。結構な数が居たはずなんだが……全部、帝国に移送済みか?」
「は、話せば殺さないか?」
「気分次第だ。早く答えろ。それとも今すぐ仲間の所へ行きたいか?」
「ま、待ってくれ! 話す! 話すから! ……多分、全部移送済みだと思う。人数は絞ったから……」
「ほう‥‥人数を絞った、ねえ‥‥」
〝人数を絞った〟それは、つまり老人など売れそうにない兎人族は殺したということだろう。兵士の言葉に、悲痛な表情を浮かべる兎人族たち。
俺は蜂起と一瞬だけ目を合わせ、頷きあった。俺はツェリスカを構え、蜂起はノートを用意する。
「待て! 待ってくれ! 他にも何でも話すから! 帝国のでも何でも! だから!」
「記憶抹消“会話能力”」
その言葉一つで喋れなくなる帝国兵。
ドガアン!ドガアン!
「アガァ!?」
俺は帝国兵の両足を撃ち抜いた。これで逃げられない。
「記憶植え付け“舌を噛み切りたい”」
「ッ!?」
ガブッ ブチッ
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア!?」
そして、トドメ。
「記憶植え付け“内臓を取り出したい”」
「うわあ‥‥みんな後ろ向け」
流石にグロいので聖たちには後ろを向くように促す。
「グギャア!?オェエエ!?」
後ろで帝国兵の断末魔が聞こえた。
「蜂起?どうな感じ?」
「絶命した。後は魔法でどこかに飛ばそう。馬車は有効活用できそうだから残すとして‥‥」
「了解。“風刃”」
肉塊をどこかに吹っ飛ばした。あとに残ったのは血溜まりだけである。
「あ、あのさっきの人は見逃してあげても良かったのでは……」
「はあ?」
シアが何か言ってきた。
「あくまで敵は殺す。逆に敵対しなければ殺さない。それに一度、剣を抜いた者が、結果、相手の方が強かったからと言って見逃してもらおうなんて都合が良すぎだろ?」
「うっ‥‥確かにそうです‥‥」
「‥‥それに」
聖が引き継ぐ。
「……それに、守られているだけのあなたたちがそんな目をコウと蜂起に向けるのはお門違い」
「……」
聖は静かに怒っているようだ。守られておきながら、コウに向ける視線に負の感情を宿すなど許さない!と言わんばかりである。当然といえば当然なので、兎人族たちもバツ悪そうな表情をした。
「ふむ、コウ殿、申し訳ない。別に、貴方に含むところがあるわけではないのだ。ただ、こういう争いに我らは慣れておらんのでな……少々、驚いただけなのだ」
「コウさん、すみません」
「ま、そんなこともあるさ。気にすんな」
俺は手をヒラヒラと振り、無傷の馬車や馬のところへ行って兎人族たちを手招きする。
ついでにオスカー作のバイクを二台取り出し、馬車と連結させた。
馬に乗る者と分けて俺たちは樹海へと進路をとる。ちなみにバイクに乗るのは、俺、ユエ、シアで一つと蜂起とミーナで一つだ。
「あの‥‥コウさん。ユエさん。お二人のこと、もっと色々教えてもらってもいいですか?」
「ん?装備や能力のことなら一通り話したが‥‥」
「いえ、能力とかそいうことではなくて、なぜ、奈落? という場所にいたのかとか、旅の目的って何なのかとか、今まで何をしていたのかとか、お二人自身のことが知りたいです。」
「ああ‥‥なるほどな。一応簡単には話してたけどな‥‥‥ちなみにそれ聞いてどうするんだ?」
「どうするというわけではなく、ただ知りたいだけです。……私、この体質のせいで家族には沢山迷惑をかけました。小さい時はそれがすごく嫌で……もちろん、皆はそんな事ないって言ってくれましたし、今は、自分を嫌ってはいませんが……それでも、やっぱり、この世界のはみだし者のような気がして……だから、私、嬉しかったのです。お二人に出会って、私みたいな存在は他にもいるのだと知って、一人じゃない、はみだし者なんかじゃないって思えて……勝手ながら、そ、その、な、仲間みたいに思えて……だから、その、もっとお二人のことを知りたいといいますか……何といいますか……」
「そうか‥‥それなら話すか。ユエもいいな?」
「ん‥‥‥」
ユエも了承したので、俺は過去のことを、ユエは何故奈落の底にいたのかを話し始めた。
結果……
「うぇ、ぐすっ……ひどい、ひどすぎまずぅ~、コウさんもユエさんもがわいぞうですぅ~。そ、それ比べたら、私はなんでめぐまれて……うぅ~、自分がなざけないですぅ~」
「‥‥なんか俺の境遇話したら人を必ず泣かせるんだけど‥‥。号泣の技能でもついてんかな?」
思わずそう零してしまう。シアは途中から涙を流し始め、とうとう号泣してしまったのである。
しばらくメソメソしていたシアだが、突如、決然とした表情でガバッと顔を上げると拳を握り元気よく宣言した。
「コウさん! ユエさん! 私、決めました! お二人の旅に着いていきます! これからは、このシア・ハウリアが陰に日向にお二人を助けて差し上げます! 遠慮なんて必要ありませんよ。私達はたった三人の仲間。共に苦難を乗り越え、望みを果たしましょう!」
「おいおい‥‥。まず仲間は七人な。俺、拓人、蜂起、ハジメ、オスカー、聖、ユエだぞ」
割と重要なとこにツッコみ、さらに追い打ちをかける。
「‥‥お前とミーナ、元から旅に出る予定だったんだろ?」
「!?」
シアの体がビクッと跳ねる。
「一族の安全が一先ず確保できたら、お前たち、家族から離れる気なんだろ? そこにうまい具合に〝同類〟の俺らが現れたから、これ幸いに一緒に行くってことかな?兎族二人では旅出来るとは思えないしな。それに俺たちに着いていけば家族も心配しないってのもあるんだろ?」
「う‥‥」
「着いてくるのは構わない。だが今のままなら即死は覚悟しとけ」
その言葉でシアは黙り込んでしまった。何か考え事をしている顔だ。どうするかはシア次第だ。俺はシアから視線を外し、遠くをボーッと見ることにするのだった‥‥。
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一方蜂起サイド
「あの‥‥蜂起さん。さっきのお話ですけど‥‥‥」
「ん?それがどうかしたのかい?」
現在蜂起は、ミーナを後ろに乗せてバイクを走らせている。
「私、少し考えたんです。蜂起さんは人間、私は亜人。それなのに、お付き合いしてもいいのか、と」
「そうか‥‥それで?」
「はい‥‥私みたいな亜人。しかも兎人族が、蜂起さんみたいに素敵な人とお付き合いするなんて、おこがましいかな‥‥と。やっぱり人間は人間とお付き合いするのがベストなんじゃないですか?」
「‥‥‥ミーナの気持ちは?」
「‥‥誰にも、渡したくないです。それぐらい素敵な人だな‥‥と思います」
「まず一つ。人間が人間と付き合ってベストとは限らない」
「え‥‥?」
「自分が本当に好きな人と付き合ってこそ、ベストなんだと思う」
「‥‥‥‥」
「二つ目。俺は君のことが好きだ。他の人と付き合うのは有り得ない」
「あぅ‥‥‥」
「ミーナが、俺のこと嫌いなら仕方がない。まずはそこを聞かせてほしい」
「‥‥わ、私は‥‥‥」
少しの静寂。そして‥‥‥。
「私は‥‥蜂起さんのことが好きです‥‥‥ずっと、側に居たいぐらい、大好きです‥‥」
「‥‥‥Oh‥‥」
「私で良ければ‥‥その‥‥‥」
「‥‥もちろん良いさ」
「‥‥本当?」
「この状況で嘘つけるかよ」
思わず苦笑いし、ミーナの方向へ振り向く蜂起。ミーナは顔が真っ赤だ。ウサミミも忙しなくあっちへふーりふーり、こっちへふーりふーりしてる。
「「‥‥‥‥‥」」
蜂起がウサミミに手を伸ばした。
ナデナデ‥‥
「‥‥んぅ」
モフモフ‥‥
「ほ、蜂起さん‥‥」
「‥‥やっべえ、手触り凄くいい」
モフモフ‥‥
ウサミミみょーんみょーん‥‥‥
「うふふ‥‥」
ミーナがクスリと笑う。蜂起は思わずドキリとした。蒼い瞳に見つめられ、さらにドキドキする。
「え、えっと‥‥とりあえずこれからよろしくお願いします」
どぎまぎしながらも挨拶(?)をする。
「うん‥‥よろしくね!」
はにかみながらも笑顔で返すミーナに、蜂起は心の底からノックアウトするのだった。
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一行は更に進む。樹海の中に入ってからは、ハウリアたちに囲まれながら進んでいる。行き先は樹海の最深部にある巨大な一本樹木だ。オスカー曰く、そこがどうやら大迷宮の入り口らしい。亜人たちには〝大樹ウーア・アルト〟と呼ばれており、神聖な場所として滅多に近づくものはいないらしい。峡谷脱出時にカムから聞いた話だ。
「コウ殿、できる限り気配は消してもらえますかな。大樹は、神聖な場所とされておりますから、あまり近づくものはおりませんが、特別禁止されているわけでもないので、フェアベルゲンや、他の集落の者達と遭遇してしまうかもしれません。我々は、お尋ね者なので見つかると厄介です」
「あいよ」
俺たちは気配遮断を行使する。ユエも奈落で培った方法で気配を薄くした。
「ッ!? これは、また……コウ殿、できればユエ殿くらいにしてもらえますかな?」
「ん?こうかな?」
「はい、結構です。さっきのレベルで気配を殺されては、我々でも見失いかねませんからな。いや、全く、流石ですな!」
元々、兎人族は全体的にスペックが低い分、聴覚による索敵や気配を断つ隠密行動に秀でている。地上にいながら、奈落で鍛えたユエと同レベルと言えば、その優秀さが分かるだろうか。達人級といえる。しかし、なぜか俺の〝気配遮断〟は更にその上を行くらしい。普通の場所なら、一度認識すればそうそう見失うことはないが、樹海の中では、兎人族の索敵能力を以てしても見失いかねないハイレベルなものだったとか。
しばらく、道ならぬ道を突き進む。直ぐに濃い霧が発生し視界を塞いでくる。しかし、カムの足取りに迷いは全くなかった。現在位置も方角も完全に把握しているようだ。理由は分かっていないが、亜人族は、亜人族であるというだけで、樹海の中でも正確に現在地も方角も把握できるらしい。
「‥‥‥‥時止!」
俺は何かを感知したので、時を止めて周囲を確認。すると子供のハウリアに襲いかかろうとする魔物を見つけた。当然ツェリスカで撃ち抜く。
「解除」
すると、魔物たちが静かに血を噴いて倒れた。驚いたのはハウリアだ。自分たちが感知してないうちにいつの間にか殺傷してたのだから当然といえば当然だが‥‥‥。
「お兄ちゃん、ありがと!」
子供(男の子)にお礼を言われた。
「気にすんな」
頭をポンポンと叩いて再び歩く。
「蜂起、他に何かいるか?」
「うーん‥‥まあまあ強めな気配が多数。魔物とは比べ物にならないかな」
「‥‥蜂起はミーナを守れ。俺たちは殺り方用意だ」
その声にハウリアたちに緊張の顔が表れる。それぞれがハジメとオスカーの作ったナイフを強く握りしめている。
「蜂起は後衛。他は横に広がれ。俺は先鋒をやる」
やがて、近づく気配を掴んだ。確かに数も殺気も、連携の練度も、今までの魔物とは比べ物にならない。正体にも気がついた。
その相手の正体は……
「お前たち……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」
虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人だった。
彼らはシアとミーナを捉え、驚愕した顔になった。
「白い髪の兎人族と蒼眼の兎人族…だと? ……貴様ら……報告のあったハウリア族か……亜人族の面汚し共め! 長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する! 総員かかれ!」
そこへ俺がスッと前に進み出た。すると飛びかかろうとした虎の亜人族が後退する。
「変身」
ヒュォォォォォォォオ‥‥‥
風がタイフーンに吸い込まれる‥‥‥。
最近変身するのにかかる時間がゼロに近くなったので、一瞬で姿が変わる。
サッ カチャッ
仮面を被り、クラッシャーを取り付けた。
「な‥‥‥その姿は‥‥!」
「番人の装備さ。信じられないなら‥‥‥ほらよ。蜂起と拓人も」
「そらっ」
「シュゥゥゥト」
ステータスプレートを投げつける。やがて、虎の亜人族のリーダーらしき者が目を見開いた。
「そういやステータスは長らく見てなかったな。どれどれ‥‥‥」
折角なのでステータスプレートを覗き込んだ。そこには‥‥‥。
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緋鷹幸 15歳 男 レベル:???
天職:時の番人,風の使者
筋力:19600
体力:20000
耐性:16600
敏捷:15000→アクセルフォー厶85000000
魔力:15030
魔耐:13000
技能:時止[∞][+瞬間停止]・巻き戻し[∞][+未来具現化∞]・霊力変換・全属性適正・暴走[+覚醒]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠距離操作]・魔力自動回復・護身術・徒手空拳適正・マイナスG耐性・空間制圧能力・身体能力強化・射撃・威圧・言語理解・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風爪・金剛・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒無効化・麻痺耐性・石化耐性・念話・復活・生成魔法・風力変換[+魔力][+エネルギー]・錬成[+精密錬成][+高速錬成][+複数錬成]・共鳴・時空破断・風の使者
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林拓人 15歳 男 レベル:???
天職:指揮の番人,奏者
筋力:9450
体力:26000
耐性:30000
敏捷:6200
魔力:19000
魔耐:26200
技能:指揮[+軍隊指揮][+物理指揮][+魔法指揮][+洗脳][+指揮範囲拡大]・魔力操作・複合魔法・魔力自動回復・言語理解・胃酸強化・纏雷・金剛・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒無効化・麻痺耐性・石化耐性・念話・生成魔法・交響曲・作詞作曲・マイナスG耐性・共鳴・奏者
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恷蜂起 15歳 男 レベル:???
天職:記憶の番人,役者
筋力:14500
体力:12630
耐性:10200
敏捷:13480
魔力:9380
魔耐:12000
技能:記憶操作[+抹消&書換][+植付]・能力付与・中国拳法適正・魔力操作・魔力自動回復・先読・言語理解・胃酸強化・纏雷・金剛・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒無効化・麻痺耐性・石化耐性・念話・生成魔法・高速筆記・マジック[+空間操作]・マイナスG耐性・共鳴・役者
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「‥‥‥うそん」
思わず呟いてしまった。俺だけではなく、拓人と蜂起も恐ろしいぐらいに強くなってるのだ。とりあえず一番気になる技能である、風の使者を発動させる。なんか天職にもなってる‥‥‥。
ヒュォォォォォォォオ‥‥‥
自然と風が発生した。
「‥‥‥?」
更に続ける。
ゴオォォォオ‥‥!!
今度は強風を吹かせることができた。どうやら風そのものを操れるようだ。
「はは‥‥もう人間じゃねえや‥‥」
思わず乾いた笑みが零れたのだった‥‥。
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