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魔法少女リリカルなのは『絶対零度の魔導師』

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アージェント 〜時の凍りし世界〜
第三章 《氷獄に彷徨う咎人》
  白き地獄の底で②

 
前書き
ふと暁を開いたらまだPVが伸びているのを見て衝動的に書きました。
伊10、恥ずかしながら帰って参りました。 

 
「氷像群、前進を再開しました!」

 宣戦布告は終わったとばかりに動き出す無数のゴーレム達。その全てに対処できる程アースラの戦力は潤沢では無かった。

「住民の避難は?」

「おおよそ完了しています」

「……よし、武装隊はゴーレムの相手だ。性能が分からない以上一体ずつ処理してくれ」

「はっ!」

「はやては武装隊の支援だ、威力よりも手数を重視してくれ。ヴォルケンリッターは彼女の護衛を」

「了解や!」

「承知した」

「なのはとフェイト、それと僕は白峰暁人の捜索をする。奴を倒せばゴーレムも止まる筈だ」

「分かった」

「……うん」

 矢継ぎ早に指示を出すクロノ。ゴーレムの全てを受け止められない以上、中枢である暁人を叩くのは必然であった。なのはの返事がやや遅いのが気になったが、表情を見る限り迷っている訳ではなさそうだ。クロノはその表情を何度か見たことがあった。それはPT事件の時、フェイトとの決闘に臨む直前であり、あるいは闇の書事件において、暴走した防衛プログラムを吹き飛ばすと決めた時であった。覚悟を決めた、という事だろう。

「……これが奴との最後の決戦だ。必ず捕まえるぞ!」

 最後にそう締め括ると、全員で出撃するのであった。










 武装隊の魔力弾が巨人型の氷像を打ち据える。目立った損傷は無いが脚を止めるゴーレム。そこに

「《ブラッディダガー》!」

 魔力でできた深紅の短剣が雨の様に降り注ぐ。大きくよろめく氷の巨人、その前進に穿たれた様な痕が刻まれていた。

「そこまで堅くないみたいやね。集中して撃ち込めば倒せるはずや」

 はやての分析に武装隊の勢いも増す。倒すことが出来る相手ならば、必要以上に恐れる事はないのだ。しかし、

「……いえ主、あれを」

「うん?……これは厄介やな」

 最初に気付いたシグナムが注意を促す。先程より足元を動き回っていた雪だるま達、それが巨人の胴体を駆け上ると、損傷した部位に取り付き、そこで崩れる。するとその雪が巨人の傷を埋めていくのだ。瞬く間に完全に修復された巨人は、何事も無かったかの様に腕を振り上げると、反攻の一撃を降り下ろした。

「くそっ、怯むな!限界はある筈だ!」

 武装隊に広がる動揺を隊長が収める。射撃を再開する武装隊だが、与えたダメージも悉く回復されていく。

「こらアカンなあ…シグナム、ヴィータ、二人も行って加勢して」

「けどよぉ、はやての守りはどうすんだ?」

 前回の負傷でザフィーラが出れない事が響いていた。戦闘タイプではないシャマルだけでははやてを守りきれない。だが、彼女は迷わなかった。

「かまへん。いま前線に必要なのは一発の攻撃力や。私が撃ってもええけど効率が悪すぎる。二人の力が要るんや」

 観察する限りゴーレムの再生速度はそこまで速くない。シグナムやヴィータであれば再生される前に撃破できるはずであった。はやて自身は、リィンとユニゾンすれば近付いて来る相手ぐらいは中距離から封殺できる。

「いざとなったら私が転移で距離を取るわ。だから大丈夫よ」

「シャマル……分かった。主はやて、お気を付けて」

「あいつらぶっ倒した方が安全か……行ってくるぜ!」

「うん、二人も気を付けてな」

 地上へと向かう二人の背中を見送りつつ、はやては前方の空を睨む。そこでは先程までシグナム達が受け持っていた飛行型のゴーレムが、丁度彼女達に襲いかかろうとしていた。

「さて……シャマル、リィン、ちょっとしんどいけど気合い入れて行くで!」

「ええ!」

「はいです!」

 激戦はまだ始まったばかりであった。










「…粘るな。武装隊は早々に崩れると思ってたが」

 予想外の健闘を見せる相手に、暁人はあくまで無表情で呟く。ゴーレム達には予め魔力量の低い相手から攻撃するようプログラムしてあり、武装隊は真っ先に標的にされた。武装隊の崩壊からの指揮系統の混乱を狙ったのだが、このままではそれは防がれそうである。

「まあ想定の内だ。修正する必要もない」

 武装隊は崩壊こそしていないが後退を続けており、最低限の目的は達している。ゴーレムの損害もまだ余裕がある。現在のところ暁人の作戦は予定通りに進行していた。

「想定内と言えばそろそろ来る頃か」

 呟くのと同時にその場から飛び上がる。足場にしていたゴーレムに砲撃が着弾し、大爆発を起こす。しかし、その氷像は他の物とは違う特別製。僅かに欠けたのみで大きなダメージは見られない。砲撃が飛来した方を見ればそこには、白雪の舞う空の中でなお目を惹く純白のバリアジャケットが目に入った。

「お前が一番手か……なるほど、大分無茶をしたらしい」

 なのはが向かってきた方向だけ目に見えてゴーレムが減っている。恐らくは手当たり次第に砲撃で吹き飛ばしたのだろう。それでもなお衰えを見せないその魔力には流石の暁人も驚く他ない。

「………どうして」

「……何だ?」

「どうして貴方は戦おうとするの?こんな事しなくても氷雪ちゃんは…」

「治らない。氷雪を治せるのは俺だけ等と自惚れちゃいないが、管理局だけは絶対に駄目だ」

「そんな事ない!管理局には優秀なお医者さんが沢山いる!その人達なら…」

「くどいぞ、高町なのは。お前達の言葉を聞き入れるつもりは無い」

「………そう、ならーーー」

 取り付く島もない拒絶の言葉を前に、なのはもついに会話を諦めた。ここから始まるのは言葉を用いない対話。彼女はいつだって、こうして沢山の人と心を通わせてきたのだ。

「ーーー力づくでも、聞いてもらうからッ!!」

 宣言と同時にアクセルシューターを展開、一斉に発射する。その数なんと21個。その全てが複雑な軌道を描きながら暁人に突進する。対する暁人は同数のコールドシューターを放って迎撃する。不規則に動く魔力弾を一つも逃さず捉え、二人の中間で魔力が炸裂する。ハイレベルの応酬だが、二人にとってはほんの小手調べである。

 仕掛けるのは暁人。本来はカウンター型の彼であるが、近接戦の技量は間違いなく自分が勝っている。勝てる所で戦うのが彼だ。氷の刃を撃ち出して牽制し、距離を詰めようとする。それらをシールドで受け止めながらなのはは敢えて動かない。引き付けてからの砲撃で確実に迎撃するつもりだった。暁人のスピードはフェイトのそれには届かない。捕捉するのはそう難しい話ではない。

「《ディバインバスター》!」

 十八番である直射砲撃魔法。威力は勿論、愛用するが故に精度もずば抜けて高い。ギリギリで躱す暁人だが、勢いは完全に殺されている。そこを逃す彼女ではない。追撃のシューターはしかり、一薙ぎで打ち払われる。再度間合いを詰め直す暁人、なのはもレイジングハートを掲げて防御姿勢を取る。

 打ち合わされる二機のデバイスが火花を散らす。暁人のラッシュをなのはは、レイジングハートとシールドを併用して巧みに防いでいた。それでも追い込まれるが彼女に焦りはない。最初の時とは違って暁人の実力はある程度分かっているし、ここは空の上、なのはが全力で戦える空間だ。

 対する暁人にも慌てた様子は無い。真っ向勝負では一筋縄ではいかない事など始めから分かっていた相手だ。それでもなお勝てると判断したから彼はこの場にいるのである。

「《ホワイトアウト》」

 魔法を発動させると共に当たりが真っ白な雪に覆い隠される。野外での使用のため相手を凍らせる効果は薄いが目隠しとしては十分だ。

「っ!《プロテクション》!」

 咄嗟にシールドを貼るなのは。奇襲に備えて球形に展開したそれにしかし、予期された衝撃は無かった。代わりに

吹雪(ふぶ)け」

〈《BlizzardCanon》〉

 襲いかかったのは砲撃魔法。完全に不意を衝いたそれはしかし、障壁を抜くには至らなかった。

(チャージ不足?とにかく、チャンス!)

「《ハイペリオンーーー」

 砲撃魔法後の隙を狙い、カウンターを放つべく障壁を解除したなのはだが、それがミスだった。なぜチャージ不足の砲撃をわざわざ放ったのか、その意味を考えるべきだったのだ。

「あぅ!?」

 唐突に周囲から飛び出した氷の鎖に拘束され、巻き付かれた部分からじわじわと氷が広がる。威力不足の砲撃は、攻撃の失敗に見せ掛けてバリアを解除させるための布石。ホワイトアウトの発動は最初からこれが本命だったのだ。

「《フリージングチェイン》……詰みだ」

 バインドでなのはを拘束した暁人は、大技を放つべく魔力を集中させる。この拘束して大出力砲撃というのは、本来ならなのはが得意とする戦法である。その事を暁人が知っている事を前提にしていたから、なのはは暁人が近づいた時に「接近戦を狙っている」と誤認した。目隠しもその為だと思った。けれども放たれたのは砲撃であり、同時に突然降って湧いたようなチャンスに、ほんの僅かだが警戒が緩んだ。それすらも彼は計算に入れていたのだ。

 強い。なのはは暁人の事をシンプルにそう思った。戦闘技術に隙が無く、魔力運用も極めて精密。そして未来予知めいた先読み能力。才能ある体にデザインされたとはいえ、その域に至るまでに相当な苦行を自身に強いた筈である。その積み上げた時間に、その果てのこの強さに、彼女が抱いたのは心からの称賛と、一つの疑問であった。

「《アヴァランチブレイカー》」

 放たれた白き奔流は、それら全てを飲み込んだ。











「驚いたな……流石、と言うべきか」

 ぽつりと暁人が溢す。視線の先には相変わらず強い意思を秘めた瞳で彼を見つめるなのはがいた。バリアジャケットにはそれなりのダメージが入っているがまだ余裕があるのか、戦闘続行は可能なように見えた。

 前回は一撃で戦闘不能まで追い込んだ暁人の収束砲、アヴァランチブレイカーだが、今回は凌がれた。理由は単純、対応時間の有無だ。前回はダイアモンドダストを使用し、チャージ時間を驚異的なまでに短縮して放ったが今回は違う。これだけの数のゴーレム、指示するだけでもそれなりの魔力を使う上、今回は野外だ。ダイアモンドダストまで使ってはすぐに魔力が尽きてしまう。故に普通にチャージして放ったのだが、それはなのはに防御する時間を与えるという事でもあったのだ。

 障壁を何重にも張って耐えたなのはだが、それでも無傷とはいかない。むしろ見た目以上に疲弊は酷く、一応戦えるがまともな攻撃をあと一回でも受ければそうも言えなくなるだろう。それでも彼女は諦めるつもりは無かった。それまで彼女がしてきたように、限界まで全力全開でぶつかるのが彼女流である。

「……不屈の心(レイジングハート)とは本当によく言ったものだな」

〈Sir, High magicpower reaction approaching. Two.〉

 ハボクックの警告から間髪入れず、二つの影が舞い降りる。フェイト・テスタロッサ・ハラオウンにクロノ・ハラオウン。これで三対一となった。

「全く、面倒な事になった……」

 そう呟く暁人の声に、それでも焦りはなかった。 
 

 
後書き
こんな感じだったか!?
過去のプロットが消えてるので記憶頼りです……

次回予告

三対一という戦況の中、それでも余裕を崩さない暁人。
一方地上では、武装隊必死の防戦も虚しく、氷像達の進撃が続いていた。

果たして暁人の作戦とは?そして、なのはが抱いた疑問とは?

次回、《白き地獄の底で③》
そして戦いは決着を迎える……のか? 
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