戦国異伝供書
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第七十六話 美濃に進みその六
「その野良田で我等は勝ち」
「以後は、ですな」
「六角家から離れ」
「自分達で進んでいきますな」
「生きる道をな」
新九郎の声に淀みはなかった、彼は浅井家のほぼ全軍を率いて野良田に向かう。その途中においてだった。
ふと前を見た、そこには空があり晴れ渡っていたが。
青空は雲一つない、彼はその空を見て言った。
「よい空じゃ、このままの天気ならばな」
「鉄砲も使えますな」
「使えぬ時も考えていましたが」
「では鉄砲も使い」
「そうして戦いますな」
「それが出来る、六角家の軍勢は数は多いが」
とかくこのことが問題であった。
「だがな」
「あちらの鉄砲は非常に少ない」
「しかし我等にはそれなりにある」
「ならですな」
「晴れならば」
「その鉄砲が使える」
浅井家にとって切り札と言えるそれがというだ。
「だからな」
「はい、この青空はですな」
「我等にとって僥倖ですな」
「まさにそうですな」
「全くじゃ、よい空じゃ」
新九郎は笑みを浮かべていた、そのうえでの言葉だ。
「この空の下で戦うぞ」
「ですな、では野良田に向かいましょう」
「あの地に」
家臣達も応えてだった、野良田に向かった。そしてその地に着いた時まだ六角家の軍勢はいなかったが新九郎はすぐに布陣した。
「先陣は百々内、磯野、下野の三名とその軍勢とする」
「わかり申した」
「さすればです」
「先陣として戦いまする」
すぐにその三人が応えた。
「ではですな」
「今我等は宇曽川の北におります」
「その北の岸にいますな」
「まずは川を渡るでない」
新九郎は三人に確かな声で話した。
「手筈通りな、背水の陣はせぬぞ」
「ですな、この戦ではです」
「そうして戦うことはしませぬな」
「背水の陣とはしませぬな」
「それはせぬ、普通に戦う」
これもまた新九郎の考えだった。
「では二陣の話もする」
「それでは」
「二陣、後陣であるが」
その陣はというと。
「赤尾、上坂、今村、安養寺、弓削、本郷にわしと他の者達じゃ」
「殿もですな」
「後陣におられ」
「ご自身が、ですな」
「戦う、槍を持ってな」
総大将自ら得物を手にするというのだ。
「そうして戦うぞ」
「承知しました」
「ではです」
「その様に戦いましょう」
「是非な、そしてな」92
新九郎はさらに話した。
「六角家が来ればな」
「その時は、ですな」
「攻めますな」
「そうしますな」
「守ることはせぬ」
それはしないというのだ。
「よいな」
「こちらから攻める」
「そうしますな」
「川の北の岸に布陣して守るではなく」
「川を渡ってですな」
「そして攻めますな」
「攻めてこそ最大の守りじゃ」
これもまた新九郎の考えだった。
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