戦国異伝供書
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第七十六話 美濃に進みその三
「六角家の軍勢とですな」
「ぶつかる、そしてその時こそ」
「雌雄を決しますな」
「そうなる、当家は必ず勝つ」
浅井家はとだ、新九郎は言い切った。
「野良田でな」
「野良田は隅から隅まで見ました」
遠藤が言ってきた。
「我等は」
「庭の様なものであろう」
「今や」
「ならな」
「縦横に戦えますな」
「家の庭で迷う者なぞおらん」
新九郎は言い切った。
「だからな」
「何度も隅から隅まで見たからこそ」
「存分に戦える、長槍も鉄砲も持ってきておる」
見れば一万一千の軍勢が持つ槍は長い、しかも鉄砲もある。その数は六角家はおろか盟友朝倉家よりも多い位だ。
「打てる手はな」
「全て打ちましたな」
「後は手筈通り動き」
「戦うのみにですな」
「そうじゃ」
新九郎は家臣達に話した。
「それだけじゃ」
「既に戦ははじまっている」
遠藤は強い声で述べた。
「左様ですな」
「今のことも手筈じゃ」
「その手筈通りにことを進める」
「ただしな」
「ただしとは」
「ここで何かあってもな」
不測の事態が起こってもというのだ。
「よいな」
「それに対しますな」
「全てがこちらの思い通りに進むか」
「そうしたことは、ですな」
「有り得ぬ」
新九郎はこうも考えているのだ。
「思わぬ事態が起こるものじゃ、雨だの強い風だのな」
「そうしたもので、ですな」
「こちらの考えが狂う、しかしな」
「それに対することもですな」
「戦じゃ、わしは何があってもな」
不測の事態が起ころうとも、というのだ。
「落ち着いていく」
「それでこそです」
阿閉は主のその言葉に確かなものを見出してそれならばと頷いた、そのうえで彼に対して言うのだ。
「戦は勝てまする」
「雨が降った時も考えておる」
「戦の時に」
「降り方にもよるが」
「降ってもですな」
「しかとな」
雨に動ぜずというのだ。
「戦うのみ」
「雨が降れば鉄砲は使えませぬが」
「弓矢があるしじゃ、長槍もじゃ」
「ありますか」
「それならそれで戦う」
鉄砲が使えずともというのだ。
「そしてわし自身もな」
「ご自身自らですな」
「戦う、この度の戦は当家の全てがかかっておる」
「敗れれば危うい」
「だからな」
「如何な事態でもですな」
阿閉はさらに言った。
「何があろうとも」
「勝つ為にこちらの思わぬ様な事態でもな」
「対されることをですな」
「念頭に置いておる」
そうだというのだ。
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