ようこそ、我ら怪異の住む学園へ
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其の参 鏡の世界
第二十二話 鏡の中へ
「「———わぁぁぁあああああっ‼︎」」
ドカッと大きな音を立てて、二人は“床”にぶつかる。
その際元宮が下にいたのだが、上に落ちてきた四番目に重さがなくて、少しゾッとする。
だが、問題はその後だった。
「あ、元宮くん」
朔楽の声がして、元宮は腰を摩りながら顔を上げる。そして、絶句した。
「どーしたの? ねえ、元宮くん。ねえ、ねえねえねえねえ」
顔が爛れていて、制服の至る所に血がついている。
いつも右に結んでいたはずの髪は何故か左で結んであって、目の強膜の部分も黒く染まっている。
誰でもわかる異常な変化。
今はハロウィンの時期もないし、加えてここは学校だ。だから、学校にコスプレをしてきたということは考えられない。
となると、何があったのか。
「下がれ、元宮少年! そいつは普通じゃない‼︎」
そして元宮を庇うようにして、刀で朔楽を斬る四番目。だが手応えはない。
「なっ……」
そんな事態は今まで起こったことがないようで、驚愕の表情を浮かべながら、元宮の腕を掴もうとして———すり抜ける。
最早訳がわからないといった感じを醸し出しながらも、四番目は「逃げるぞ!」と言いながら、元宮が立つのを待つ。
その間にも朔楽が血塗れの手を伸ばして元宮を捕まえようとしている。
元宮は急いで立ち上がって、その場を後にした。
社会科資料室。そこで内側から鍵をかけて、二人は元宮と四番目は座り込んだ。
「い、一体……なんだったんですかね、あれ……」
「ここに来て何故か元宮少年に触れることが出来ないし、私も怪異としての能力が一つも使えない」
そこで四番目は一度言葉を止める。一つの可能性が自分の中で浮かんだのだ。
だが、それが本当だとしたら何故そうなったのか、というのがわからない。
「……恐らく、ここは七不思議のニ番の世界だろう。そうだとしたら合点がいく」
———簡単に説明しよう。この世界では全てが反対なんだ。
生と死も反対。つまり、此岸に生きるものは彼岸に生きるものの姿になる。逆も然りだ。
だから、先程の女も現実世界では此岸に生きる者だからこそ、彼岸に存在する時の姿になってここへ出現した。
そうであるとするなら、私が君に触れないことも納得がいく。
君が彼岸の存在、つまりこの世界の怪異同然の存在になっているから、この世界の人間同然の存在の私では触れられない。
一応言っておくと、当然のように左右も逆だ。上下も逆。
恐ろしい世界だろう? だが、それだけ強力な怪異がここにいるということだ。
気を引き締めてかかれ。
「なにかと不便なことが多いから、一応実体化の方法を教えておいてやる。この缶を掴め」
「え、ちょっと待ってください。この世界の仕組みは理解したんですけど……実体化ってなんですか?」
目の前にちょうど棚にあった空き缶を差し出され、戸惑う元宮。
決して仕組みは理解したと言っても、現在自分が怪異となっていることの理解はできていない。
とりあえず缶を掴もうと手を伸ばしてみるが、その手は缶をすり抜けてしまう。
それでようやく自分が怪異であることを認めることができる。
「違う。もっと、自分の姿を想像しろ。そして、強く缶を掴みたいと思え」
言われた通りにしてみると、確かに今度は缶が掴める。
「よくできたな」と四番目が元宮の頭を撫でようと手を伸ばすと、今回はちゃんとすり抜けることなく撫でることができている。
これが四番目に触れられる時と触れられない時がある理由だ。
そして、二人で外へ出ようと立ち上がった時だった。
———ミィツケタァ。
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