ペルソナ3 夢幻の鏡像
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前編
前書き
今更ながらのペルソナ3ポータブル、女性主人公の話です。
ハム子はお気に入りなんですが、イマイチ公式の扱いが悪いですよね。
それでもPQ2で再登場したことだし、いつかP3リメイク版でちゃんと活躍してくれることと信じています。
ペルソナ3はCDドラマが楽しかったので、そんな感じの話を考えてみたいと思って、短編漫画1本分くらいのイメージで書いてみました。
夢を見た。
特別課外活動部のメンバーが、タルタロスを探索している夢だ。
影時間にのみ現れる迷宮の塔タルタロス。その構造は、入るたびに変化して人を惑わす。
この迷宮の主はシャドウだ。人の精神が暴走して生まれる異形の怪物。
タルタロスには、この怪物が無数に巣食っている。
迷宮内に徘徊するシャドウをかわし、時に戦い、内部を探索して塔の上を目指す。
全てのシャドウを駆逐し、影時間を消すために・・・。
しかしそこに私自身の姿は無かった。
メンバーを指揮しているのは見慣れぬ男性だ。月光館高校の制服に、首から携帯用ヘッドホンを下げている。右目が隠れんばかりに前髪が長い。それほど長身ではないが、細身でフィギュアスケーターのように動きが軽やかだ。あまり表情を出す方ではなく、言葉数も少ない。冷静でクールな印象。
彼は私がいるべき場所で、私の代わりにゆかりや順平、真田先輩と言葉を交わし探索を進めている。
それは、見覚えのない階層でのこと。新手のシャドウに不意打ちされた。
まるでどこか別の空間からその場所に突然出現したかのような、唐突な現れ方だった。
見るからに奇怪な姿。ねじ曲がったパイプの集合体のような体。手足が蛇の塊のようにうねっている。身体の中央に巨大な仮面。
シャドウの氷結攻撃に順平が転倒。真田先輩も膝をつく。ピンチだ。
ゆかりが前に出て二人をかばう。
「ペルソナ!」
名も知らぬ前髪の男性が、召喚器を頭部にあてペルソナを呼び出した。
電撃攻撃。
しかし相手にダメージはない。
彼はシャドウの注意を引き付けるように移動しながら、次々とペルソナを入れ替えて攻撃を続ける。
疾風攻撃、火炎攻撃・・・
彼は複数のペルソナを使いこなす。・・・私と同じ。
彼は誰なのか。なぜ私はそこにいないのか。
わからないまま夢から覚めた。不思議なほど鮮明な夢だった。夢だと気づいてからも、実際に自分がその場で見てきたような現実感がつきまとっていた。
夢は夢だ。気にしても仕方がない。
しかし、その日1日どうしても彼のことが頭から離れなかった。何か意味のある夢だったのだろうか。なぜ、彼は私の代わりにそこにいたのか。いったい私はどうなってしまったというの?
なんだか自分の存在が危うくなるような、現実が崩れるような落ち着かない気分になる。
私がここにいることが間違いだとでも言われたような気がした。
学校帰りに思い切ってテオドアに相談してみた。
現実ではない夢の話を相談するならば、彼ほど適した人もいないだろう。
「現実は一つではありません。」
私の話を聞いたテオドアは、いつも通りおだやかな微笑みを浮かべながら静かに言った。
青い制服を身に着けた長身で銀髪の美青年。夢と現実・精神と物質の狭間にあるという、この非現実な部屋、「ベルベットルーム」の住人だ。
この部屋へは、ポロニアンモールの片隅にある、私にしか見えない扉から訪れることができる。
「この世界には、並行して無数の現実が存在しています。互いに認知できないまま、似ているようで異なる道を進んでいるのです。」
「パラレルワールドだよね。SFみたい。本当にあるんだ。」
テオドアは「はい」とうなずく。
「私が夢に見たのは別の並行世界っていうこと?」
「概ねその理解でよろしいかと。このベルベットルームは様々な現実とのつながりを持っています。そして夢はベルベットルームの入り口。夢を通じて他の現実を垣間見ることもあるでしょう。」
「私の代わりにあの前髪の男の子がいる現実もあって、同じようにタルタロスを探索してて、ベルベットルームにも来てるかもしれないんだね。」
「そうですね。こちらを訪れるお客人は、必ずしも同じ現実からいらっしゃるわけではありません。あるいはその方は私の姉が応対しているお客様であるかもしれません。」
彼がこの部屋に来ているかもしれない。
私は無性に彼に会ってみたくなった。
「その人と直接会うことはできないのかな?」
私が勢い込んで尋ねると、テオドアは少し困ったような表情を浮かべた。
「残念ながら、ベルベットルームでお客人同士が出会うことはありません。」
「そっかー。できれば話してみたかったんだけどな。」
私は肩を落とした。
そんな私をじっと見て、テオドアが言った。
「何をお話ししたかったのですか。」
私はまわりを見まわしながらちょっと考える。
さすがに今では見慣れたが、上昇し続けるエレベーターの中という奇抜な部屋。非現実なだけのことはある。その内装はテオドアの制服同様に青い。どこからかピアノの音と澄んだ歌声が聞こえている。今日、この部屋の主は不在のようだ。
「まあ、いろいろだね。自分とまったく同じ境遇にいる別人と話す機会なんて無いからさ。彼が何を感じて、何に悩んで、何を目指しているのか知りたかったんだ。
・・・私は、きっと自分が間違ってないか確認してみたいんだと思う。今いる自分でいいんだって。
あの人も同じなんじゃないかな。話したらきっといい友達になれると思うな。」
「あなたは何も間違ってなどいません。私はそう信じています。」
テオドアが優しい言葉をかけてくれる。
「運命に立ち向かう時、不安に感じることも多いでしょう。しかし人は自分自身で感じたこと、考えたことで道を定めるものです。自分で決めたことには責任は取る必要があるのですから。」
「ああ、それ前にも誰かに言われ・・・」
ふいに現実に戻る。人込みの喧騒が耳にあふれかえった。
「ねえ、大丈夫?」
「えっ」
青い世界がピンク色に変貌した。
ゆかりが少し眉をひそめてのぞき込んでいる。
「何 ぼーっとしてるのよ。」
「ああ、ごめん。ちょっと、夢と現実の狭間に行ってた。」
ゆかりが噴き出した。
「何それ、立ったまま寝てたの?」
「えーと、かなり長いことぼーっとしてたのかな?」
ゆかりが首を振る。
「立ち止まってから1分も経って無いとは思うけど。声かけても無反応だし、どうしたのかと思った。」
ベルベットルームで過ごす時間は現実の時間とリンクしていない。
結構長くいたつもりだったが、現実ではほんの一瞬だったようだ。
「今日は部活終わったの?」とゆかりに訊いてみる。
「うん、ちょっと買いたいものがあってポロニアンモールに来たんだけど、噴水のあたりで見かけたから追いかけてきたんだ。」
ゆかりは制服なのにピンクのカーディガンでミニスカ。茶髪で首にチョーカー。かなり挑戦的な格だ。よく学校側に取り締まられないものだ。
しかし彼女にはそれが良く似合っていて可愛い。性格も明るくて活発、男子にもダントツの人気だ。
こんな彼女が弓道部などどいう落ち着いた部活で、袴を穿いて静かに弓を引いているなんて不思議だ。
一度のぞいたことがあるが、弓道姿もりりしくて格好いい。
背筋をぴんと伸ばして的を狙う姿は、真っすぐ未来を見つめる彼女の生き方そのままだ。
「なーんか今日、柄にもなく一日中考えこんでたでしょ。どうしたのかなーって、ちょっと気になって・・・ね。」
「柄にもなくって・・・私だって年頃の乙女なんだから、たまには思い悩むことだってあります。」
二人で顔を見合わせて笑いあう。
「でもここで会うのも珍しいよね。どこか行こうとしてたの?」
ゆかりに訊かれたが、下手に答えてあまり突っ込まれても説明に困るので、話の流れを変えてみる。
「ううん。もう用事は済んだんだ。えーと、これから帰ったら遅くなるし・・・どこかで一緒に食べてっちゃおうか。」
「うーん、お財布事情が・・・」
ゆかりはちょっと首をかしげたが、「ま、いいか。こういうのも何気にレアだしね。」と笑顔で明るく答えた。
「ウチの生徒で、片目が前髪で隠れたクールな人? 知らないなあ。」
定食屋わかつ で「DHC盛りだくさん定食」をつまみながら、ゆかりに前髪の彼のことを聞いてみた。
「まあ私も学校で見た覚えないんだけどね。」
問いかけてくるような表情のゆかりに、ちょっと迷ってから私は話し出した。
「実は昨日の夢に出てきて・・・それがものすごいリアルな夢だったの。顔も鮮明に覚えてる。夢のはずなのにどうしても気になる人で・・・」
「そんなにイケメンなんだー。テレビかなんかに出てる人なんじゃないの?」
「別にイケメンとは言ってないじゃない。・・・まあ、確かに二枚目だったかもだけど・・・」
やはりこちらの現実には存在していない人なのかもしれない。・・・ということは彼の世界には、私が存在していないということなのか。
絶対に出会うことの無い二人。
彼も私のことを夢に見たりするんだろうか・・・
「夢に見たイケメンの王子様にひとめぼれとか・・・ほんとに年頃の乙女だねえ。」
「もうっ、そういうのじゃないって。」
ニヤニヤ笑いのゆかりに、怒ったふりをする。
楽しい・・
つくづく巌戸台寮は自分の居場所だ、と思う。
まだ数カ月しか過ごしていないのに、特別課外活動部のメンバーをまるで家族のように感じる。立場や事情は違うけど、同じ目的に向かって命がけで戦っているからかもしれない。もしかしたら戦友ってこういうものなのかな。
ここに来てから、これまでの人生には何者かの意思が働いているような気がしていた。
子供のころ、突然事故で亡くなった両親。
その事故の際、自分は何かを見たような気がする。それが何だったのか、どうしても思い出せない。
なぜ自分は 薙刀《なぎなた》など習ったのか。いずれ訪れる戦いに備えるためではなかったのか。
影時間を知り、ペルソナ能力に目覚め、タルタロスを探索し、シャドウから人間を救うために戦う。自分はこの為に生まれ、この為に生きてきたのだ、という感じが日ごとに強くなる。
しかし自分以外の誰かが自分の代わりをしている世界があるのだとしたら・・・。
その役割は必ずしも自分でなくても良かったということなのだろうか。
あなたは誰?
なぜそこにいるの?
会って話してみたい・・・
そして、深夜0時。
今夜もタルタロスに集まる。
私達の学校、月光館学園の校舎は影時間にその姿を変え、迷宮の塔となる。
私達はシャドウを駆逐し、影時間を消すためにこの塔を上る。
次の満月の大型シャドウ出現までもう間が無い。今のうちに少しでも探索を進めておく必要がある。
「メンバーはどうする?」
エントランスで、真田先輩が自分を連れていけと言わんばかりの勢いで聞いてきた。
先輩はいつでもモチベーションが高い。
「じゃあ、真田さん行きますか? それから今日は順平と・・・」
「うぃーす」と順平がおどけて剣を上げた。
「あっ、私 行きたい。」
めずらしくゆかりが手を上げた。
「じゃあ、ゆかり。」
探索メンバーが決まった。
気が付けば、昨夜の夢と同じ顔ぶれだった。・・・そう、私以外は・・・
「よし、残りのメンバーはバックアップだ。いつでも出られるようにしておけ。」
桐条先輩が凛とした声で告げる。そして、私の方に向き直る。
「シャドウも手強くなってきている。慎重に進んでくれ。」
「はい。行ってきます。」
どこまで上に続いているかもわからない迷宮の塔、タルタロス。
ただ奇妙なことに、これまで探索した階層までは一気に飛ぶことができる。
そのおかげで、毎日1時間程度の影時間でもはるか上の階層まで探索することができる。
人が進むのを拒んでいるのか、誘っているのかわからない。本当に不思議な迷宮。
「ひょっとして、なんか気を使ってくれた?」
転送ポイントを出たところで私はゆかりに訊いてみた。
ゆかりが振り向いてにこりと笑う。
「わかった? 今日、少し様子が変みたいだったし。念のため・・・ね。」
「心配させちゃったかあ。ありがとう。その気配り、きっといい奥さんになれるよ。」
「あなたぁ、ご飯にするぅ?お風呂にするぅ?それとも・・・シャ・ド・ウ?」
ゆかりが指さすその先にうごめく黒い影。まだこちらに気づいてはいない。
『右から回り込めば、シャドウを回避して階段に行けます。』
通信機から風花の声がする。
「どうする。今なら先制を取れるが?」という真田先輩に「まだスタートしたばかりです。
今は先に進むことを優先しましょう。」と答え、角を曲がって階段を目指す。
訪れた新しい階層はまた見慣れぬ景色だった。
床も壁も何か水晶のように透明度が高く平板な素材でできている。階層ごとにどんどん雰囲気が変わっていく。
見慣れぬ景色ではあるが・・・しかし、どこかで・・・
そうだ! これは昨夜の夢でみた場所だ。
『気をつけて・・・さい。そこ・・・なんだか変・・・ 』
ふいに風花の通信が切れる。
「風花、どうしたの!?」
「通信切れた?」
ゆかりが近づいてくる。
「どうした。」
ただならぬ様子に真田先輩と順平もこちらを振り向く。
その背後から・・・
突然の氷結攻撃に順平が転倒。真田先輩も膝をつく。
「シャドウ!」
何も無かったところに、前触れもなく突然シャドウが出現していた。
見るからに奇怪な姿。ねじ曲がったパイプの集合体のような体。手足が蛇の塊のようにうねっている。
身体の中央に巨大な仮面。
風化のフォローが無かったとはいえ、不自然なほどの奇襲攻撃だ。
ゆかりが倒れた二人に駆け寄る。
私は召喚器を頭に当てて「ペルソナ!」と叫んだ。
脳に軽い衝撃。一瞬、死のイメージが浮かぶ。
身体から抜け出るように私の分身が浮かび上がった。
まずは電撃。
敵にダメージはない。
続いて疾風攻撃。火炎攻撃。
次々とペルソナを変えながら魔法攻撃を放つが、敵シャドウにはほとんどダメージを与えられない。
「こいつ弱点はないの?・・っていうかこの辺のシャドウにしちゃ強すぎ!」
攻撃を続けながらシャドウの注意を引き付けて奥に移動する。
ゆかりが順平に回復魔法をかけているのが見える。ともかく倒れた二人から引き離すことが先決だ。
奇妙なデジャブ。
私は昨夜の夢での彼の行動をそっくりなぞっている。
何が起きているのかわからない。
敵の攻撃をかわし、カウンターでこちらから攻撃する。手一杯で頭が働かない。
ともかく奥へ、奥へ。
えーと、彼はこの後どうしたんだっけ・・
次の瞬間、激しい衝撃。
身体が宙に浮き、落下する。
全身をたたきつけられ、激しい痛みに呼吸ができない。
もたもたできない。すぐに動かなければ次の攻撃が来る。
やばい!!
必死になってころがって移動し、勢いをつけて身を起こすが・・・
そこにシャドウは見当たらなかった。
慌てて周りを見回すが、何もいない。
まわりの光景は一変していた。
後書き
以上、取り合えず前編です。
後半、ボス戦です。
いろいろやってみたいと思っています。
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