ようこそ、我ら怪異の住む学園へ
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其の壱 四番目の鬼神様
第五話 退治
反射的に声がした方を向く元宮。対し、四番目はこめかみを抑え、顔を顰めている。
二人の視線の先には———
『許さない……許サナイユルサナイ‼︎ 人間如きが、わたしたちの愛を馬鹿にするなんて……‼︎‼︎』
四番目のものとはまた異なる軍服を纏った男女が居た。二人の小指は赤い糸で結ばれているが———
男性の方は心臓部分に小さな穴が開いていて、女性の方は首に大きく抉ったような痕がある。
彼らこそ、この『愛の桜』の噂がもたらした怪異である。
「はぁ……全く、一人でやるつもりだったのに。下がっているんだ、少年」
元宮の肩を掴み、庇うように前へ出る四番目。即座に鈍色に光る刀を抜き、そして怪異に刃を向けた。
『き、鬼神様‼︎ 何故ここに……そのような下劣な人間と恋愛など‼︎』
「貴様、他人を見る目がないな。この者は私が特別想いを寄せている人間だぞ?」
『な、なんと……‼︎ ですが、いくら“鬼神の噂”が四番目である貴方様の仰ることでも、それは聞けない‼︎』
『僕達を———この学校の怪異らが誇る“七不思議”である僕達を態々呼び出しておいて偽の告白など……許さない‼︎』
彼らも負けじと、男性の方は銃を、女性の方は糸を構える。
その瞬間、瞬きよりも早い速度で彼らは元宮の頭に銃を押し付け、首に糸を巻き付けた。
そして声も出せず、呆然とする事もなく、彼は頭を撃ち抜かれ、首を飛ばされ、死ぬ———
「———甘い」
はずだった。
彼が引き金を引き絞った瞬間、彼女が糸を握る手に力を込めた瞬間、二人の手は四番目によって斬り落とされる。
そうすれば、二人は絶叫しながらお互いを見る。二人で、痛みを耐えるために。
「確かに、偽の告白についてはすまなかったな。貴様らを“退治”するために必要だった」
抱き合いながら蹲る二人に、四番目は刀を近付ける。すると視界に映った刃に二人は恐怖を覚え、小刻みに震え始める。
『いやだ……殺さないでくれ‼︎ もう、彼女と離れ離れになりたくない‼︎』
『……いや、いやっ‼︎ 鬼神様、お願いします‼︎ 私達を助けて‼︎』
「悪さをしたら退治される。当然のことだよなあ?」
四番目が刀を振り上げたその時だった。
「———鬼神様‼︎‼︎」
黙っていた元宮が声を荒げた。四番目と二人の間に入り込み、両手をいっぱいに広げて庇う。
「……さっさと退け。君ごと斬るよ」
「いやだ、退かない! なんで殺そうとしてるんですか⁉︎」
「元凶は君なんだがね……」
一つ溜息を吐いてから、四番目は続ける。
「いいか? 怪異というものは、簡単に言えば悪だ。だから、退治しておく必要がある」
「退治なんて……酷いじゃないですか! 他に、何か方法はないんですか‼︎」
反論してきた元宮の言葉に、四番目がピクリと反応する。そして、ようやく刀を下ろした。
元宮と二人の怪異はその様子を見て、安心してほっと胸を撫で下ろす。
だが、その安心もすぐに緊迫に変わる。
「……ある、あるよお? そいつらの依代をぶっ壊すんだよ。そうすれば、そいつらは綺麗さっぱりなくなる」
退治する以外の方法はないのか、と頭を抱える元宮。
だが、まるで退治するのが楽しいのかのように、四番目は笑う。
そして、四番目は刀を振りかぶる。
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