祝え!令和2年2月2日、22時22分!ツインテールのグランドクロスとも言うべき、この瞬間!全ての始まりとなった物語が不死鳥の如く復活を遂げた、記念すべき瞬間を!!
俺リア、これから少しずつ投稿していきたいと思います。
ただ、既存エピソードの復元から新作まではしばらく空きますので、悪しからず。
伴装者の執筆もあるもんネ。
突然だけど、皆はカップル……俗に言うリア充ってどう思ってる?
①爆発しろ!!
②別にどうでもいい
③見てて微笑ましい
大抵の人は②、自分に彼氏或いは彼女がいないという人なら多くが①を選ぶだろう。
だが、世界はそう狭くない。たまに③を選ぶ物好き……いや、むしろ③をひたすらプッシュし続けるような人間だっているもんだ。
ちなみに、俺にとっては③一択。他の答えなんか眼中に無いね。
つまり何かと言うと、俺は道端だろうが学校の廊下だろうが、デパートのフードコートだろうが映画館の座席だろうが特に場所を選ばず、リア充している男女二人組を見てしまえば無条件・ノータイムで顔が緩んじまう人種だってことだ。
おっと、自己紹介が遅れちまった。
俺の名前は仲足千優なかたりちひろ。
特撮ヒーローとアニメ、それからリア充が大好きな男子高校生だ。
道行くカップルを見かけたら心の中で「お幸せに」とか「末永く」とか呟いてしまう。リア充はとにかく祝福せずにはいられない。そんな人間が俺だ。
そして、そんな俺が小学生だったころから応援している、マイ・フェイバリットなリア充が一組……、
近所に住んでいる1つ下の弟分の「
観束総二」と、その幼馴染で総二の家の隣に住んでいる妹分、「
津辺愛香」だ。
ただ残念な事に、俺が2人と出会ってもう10年近く経つが、一向に進展はない。
その理由は、大きく分けて二つある。
1つは、総二がおそらくこの世界で最強レベルと言っても過言では無い程のツインテール馬鹿だからだ。
異性への興味をツインテールへの愛へ全振りし、その反動で鈍感になってしまっている……というわけだ。
そしてもう1つは、愛香が生粋の超絶ツンデレ娘だったことだ。
俺自身、ツンデレは好きだから別に否定はしないが、そのせいで愛香には積極性に欠けている。
そのクセ愛香自身は中々のむっつりさんだから、困ったものである。
彼女は総二の方から告白してくれる事を望んでいる為、自分から告るという一番の近道を捨て、今でも遠回しなアプローチを繰り返している……というわけだ。
総二、いい加減気付いてあげなよ……。
え?お前そんなに美味しいポジションなんだから、ちゃちゃっと介入してくっ付けちまえばいいだろって?
ごもっとも。でもそれは、差し出がましい事ではないだろうか……なんて、思ってしまう面倒臭い自分がいるのも事実。
この手のカップルには、自分達の手で愛を掴み取って欲しい……って拘りが俺の中にもあるわけで。
それに、恋愛経験ゼロの俺が口を挟むのはともかく、手まで出すのはちょっと烏滸がましい気がしなくもない。
だから、もしも俺があの二人の関係を進める為、何らかの手を加えるとしたら……それはきっと、俺自身にも彼女が出来てからだと思う。
まあ、そう言いつつも未だにアテはないんだけど……な。
──なんて、俺自身の恋愛事情はどうでもいいな。流してくれて構わないぞ。
まあ、そうゆう理由わけで俺と幼馴染の紹介は終わりだ。
色々と濃ゆい人達に囲まれてこそいたが、俺たちの日常は変わらなかった。
あの日、異世界の向こう側から、未知なる侵略者がやって来るまでは……。
□□□□
日本、とある山中にて、世界の命運ツインテールをかけた決戦が行われていた。
「はあ、はあ、はあ」
膝をつく1人の少女……テイルレッド。彼女の体力は、既に限界に達していた。
「惜しかったな……。確かに凄まじい力だ。だが……、我との戦いの年季の差が…………明暗を分けたな!!」
彼女の前に立つ、身長3メートルはあろう体躯を厳しい鎧で包み、後頭部には金色の二房を靡かせている黒竜の怪人……「ドラグギルディ」が言い放つ。
「まだだ……」
それでも、彼女は立ち上がろうとする。
「素晴らしき健闘だった!我が生涯最強の敵……そして、我が最高の想い人よ!!」
「くっ……!」
彼女の手にしていた炎の剣、ブレイザーブレイドがドラグギルディの持つ乱れ刃の大剣に弾き飛ばされる。
放物線を描き、大地に突き刺さる刃。
「さらばだ────―っ!!」
ドラグギルディの大剣が彼女の脳天に振り下ろされる──はずだった。
「オーラピラー!!」
テイルレッドの体を炎の柱が包み込む。
「むっ!?」
本来、拘束用の補助技であるためあっさりと砕け散るオーラピラー、だが、かろうじてドラグギルディの大剣を弾き返す。
──そして、霧散する炎の中から現れたのは、右手にブレイザーブレイドを握ったテイルレッドだった。
「何ィ!?二刀だと!?」
「伊達にツインテールじゃねえ!ってな……!!」
動揺するドラグギルディの肩口に二刀目のブレイザーブレイドが叩き込まれる。
「ぐあっ!!」
「ブレイク!レリーーーーーーズ!!」
ブレイザーブレイドがドラグギルディの肩で変形し、炎を噴き上げる。
真ん中から二つに割れ、巨大化した刃は傷口を広げていった。
「テイルレッドォォォォォォォォォォォォォ!!」
「グランドブレイザアァァァァァーーーーーー!!」
袈裟懸けに振り下ろされる炎の剣。ドラグギルディの身体に炎のように赤く亀裂が走る。
「────―美しい……まさに神の髪……神、型……初めから一刀目は囮であったか……」
「いや、咄嗟の思い付きさ。二人守るんだ、二本剣が必要なのは道理だろ」
共に戦う仲間達を思い浮かべながら彼女は語る。
「み、見事……!見事だ、テイルレッド!!」
「……ツインテールがか?」
「無論だ!わーっはっはっはっはっはっは!!」
雄叫びのような笑い声を上げながらドラグギルディは身体から放電させていく。
「来世いつか……また逢おうぞ」
「お前がツインテールを愛する限り……そんなこともあるかもな」
彼女が背を向けると同時に、ドラグギルディは爆散した。
こうして、テイルレッド/観束総二の戦いは一段落し、変身解除とともに駆け寄ってきた津辺愛香/テイルブルーと、
2人に変身アイテム「テイルブレス」を与えた異世界の科学者「トゥアール」に支えられながら秘密基地へと帰って行った。
「黒竜、か……。モチーフとして、丁度いいかもしれないね」
──岩山の上で密かに、彼らの戦いを観戦していた青年がいた事に気付かずに……。
□□□□
数日後
5月、私立陽月学園、高等部
「起立、礼」
『ありがとうございました!』
終業のベルが鳴る。今日の授業はこれで終わりだ。教科書やノートをリュックに片付け、帰る準備をする。
「千優、今日暇か?」
「ん?なんか用でも?」
俺に声をかけてきたのは中等部の頃からの親友、「
黒川光太郎」。
俺と同じ特撮ファンで、好きな特撮は仮面ライダーだ。その名前から「ブラック」というあだ名がある。
ついでに言うとゲーマーで、休日は部屋でゴロゴロしながらゲームばっかりやっていたりする。
「いや、面白い装備組んだから見せようかと思って」
「ネタ装備?それともガチ?」
「両方。見た目はネタで中身はガチなやつ」
「面白そうだな。でも、また今度でいいか?」
光太郎の言うネタ装備は気になるが、今の俺には用事がある。
「また、一年生の教室か?」
「ああ。最近ちょっと噂になってる、新しい部活を覗いてくる」
「あ~。確か、“ツインテール”部だったか?」
「そうだ。あんな部活作る奴、俺はこの世で一人しか知らねぇ。十中八九、俺の知ってるやつが部長だろうよ」
そう、こんな部活作るのなんて、あのツインテール馬鹿以外に誰がいるってんだ。
「分かった。邪魔しちゃ悪いし、また今度な」
「おう!」
黒川に手を振って荷物をまとめ、教室から出る。目指すはツインテール部の部室だ。
「そういえば、二人とゆっくり話せるのも久し振りだな……」
廊下を歩きながら、ふとそんな事を呟いた。
何せ入学式の後、俺は帰り道で交通事故に巻き込まれ、そのまま入院しちまったからな……。
今から約一か月前、入学式の片付けを終え、下校している途中の事だった。
公園の前を通りかかった時、ボールを追って飛び出した男の子を助けようとして、俺はトラックに轢かれた。
幸い、男の子は軽傷。俺が突き飛ばした時にかすり傷を負った程度で済んでいた。
俺自身はというと、暫く入院する羽目になった。
酷い怪我だったらしく、担当医の先生からは助かったのが奇跡だとさえ言われた程だ。
しかし、俺はこうして元気に過ごしている。予定されていた日よりも早くに退院出来たくらいには、俺の元気も有り余ってるってわけ。
父さんや母さん、弟の守友と一緒に、総二と愛香も見舞いに来てくれた。
だが、二人は部活が忙しいらしく、あまりゆっくりと話す事が出来ない日々が続いていたのだ。
幼馴染で親友で、かわいい弟分と妹分の二人が居ない朝は、やっぱり少し寂しさを感じるものだ。もはや日常の一環なんだよなぁ。
ってか、俺が入院している間に、俺の知らない“海外の親戚“が総二の家に居候しているのが気になるんだが。怪しさと修羅場の予感しかないんだが!?
……っと、そんな事を思い返しながら歩いていると、掲示板のポスターが俺の目を惹いた。
貼られているのは部活動の勧誘ポスターだったが、中でも一番目立っているのはマンガ研究同好会のポスターだ。
ポスター一面に描かれているのは今、世界中で人気を誇っている存在……「テイルレッド」だ。
入学式の日の午後、丁度俺がトラックに轢かれた頃に現れ、翌日には全世界へと向けて宣戦布告した謎の怪人軍団「アルティメギル」に立ち向かう、赤いメカニクルなスーツに身を包んだ赤髪ツインテ少女……なんて言えば、深夜帯のバトルアニメっぽく聞こえるかもしれない。
だが、実際に怪人が現れ、彼女が戦っているのは紛れもない現実だ。あの日以来、全世界のテレビ番組は彼女の話題で持ち切りだ。
最近、新たに青い鋭角的なバトルスーツと、荒々しい戦闘スタイルが特徴的な青髪ツインテ少女、テイルブルーが仲間に加わり、ちょっと戦隊っぽく……いや、まだイエローが現れると決まったわけじゃないからな。
どちらかと言えば、やっぱり深夜アニメの主人公サイドっぽくなってきた。
こう……魔砲少女的な。いや、あのメカメカしさはどちらかと言えば、歌って戦う戦姫の方が近いか?
ともかく今やこの世界に、彼女を知らない者はいないだろう……。
──だが俺は、連日報道される彼女達の姿を見て、何処か既視感のようなものを感じていた。
赤い髪にツインテール、何よりテイルレッドの前髪の上にあるあのアホ毛……。
まさかそんな事は無いだろうとは思っているんだが……テイルレッド、彼女はもしや総二と何かしら、関係があるのではないか?
俺の心にそんな疑問が浮かび始めていた。
根拠はない。しかし、動画サイトに残っていたアルティメギルの宣戦布告を聞いた時、奴らのツインテールに対する謎のこだわりを聞いて。
そして、テイルレッドの姿を見て思ったのだ。
ああ、総二の頭の中に世界が追いついたな……と。
そうなるとテイルブルーにも自然と既視感が湧いてくる。あのツインテールの形、戦い方、そしてあの破壊力……。
もしかして、テイルブルーは愛香なのではないか?
そこで俺はこの疑問に確信を得る為、ツインテール部へと向かうことにしたのだ。
勿論、可愛い弟分と妹分に元気な顔を見せたい……というのもあるんだけど。
廊下の角を曲がるとその先に、ツインテール部の部室が。そして、部室の入り口の前には総二と愛香が並んでいた。
俺はその姿を確認し、自然と笑を零しながら近付いて行った。
□□□□
私立陽月学園 ツインテール部 部室内
「う~ん、おかしいですね」
部室の天井から出ているモニターを見ながら、腕を組み考え込んでいる白衣の銀髪少女、トゥアールは呟いた。
今モニターに表示されているのはレーダーのようだ。街の地図がエリア分けされ、細かく表示されている。
「おかしいって、何が?」
特にやることもないので、三人分のお茶を淹れていた藍髪ツインテールの幼馴染、愛香が俺より先に質問する。
「いえ、最近レーダーの表示が変だったじゃないですか」
「ああ、この前のアレか」
それなら俺も覚えている。ここ一週間、レーダーに妙な反応が表示されることが続いたのだ。
トゥアール曰く、「エレメリアンに似てはいるんですが、反応がとても微弱で、すぐに消えてしまうんですよ」との事だ。
「故障したんじゃない?」
愛香の言葉に、トゥアールは首を振って答える。
「その可能性も考慮して、基地のレーダーとこの部室に備え付けたレーダー、両方調べてみたんですが……」
「何も無かったのか?」
「はい。全く異常が見受けられません」
「確かに妙だな……」
トゥアールの科学力は、この世界の水準よりも遥かに高い。
俺たちが変身するのに必要なテイルブレスを開発し、一晩で俺の家の地下に秘密基地を作ったほどだ。
この部室だって、トゥアールが数分でここまで改造したんだ。だから故障だと言われても、何処か腑に落ちない……。
「……もしかして、アルティメギルの新兵器とかじゃないか?例えばレーダーに映りにくくなる装備とか」
「なるほど、その可能性もあるかも」
愛香も同意見らしい。だが、トゥアールは納得していないのか不服そうな表情をしている。
「……一度、レーダーをメンテナンスし直してみます」
総二様と愛香さんは外で待っていてくださいね、と付け加えられ部室を出る俺たち。
「なんなんだろうな……」
「どうせ故障か、そーじの言う通りアルティメギルの新兵器でしょ」
「トゥアールに限って、そんなヘマすると思うか?」
「弘法も筆の誤り、って言うでしょ?あいつにだって、失敗の一度や二度くらいする筈よ」
愛香はこう言っているが、もしアルティメギル側の新装備だとしたら、かなりの脅威になるはずだ。
レーダーに映らず、俺たちの到着が遅れたら多くの人の属性力エレメーラが奪われてしまう。
だが、おかしな点もある。
「あいつらに、そんな小細工を使う理由があるのか?」
「え?」
「いままで戦った奴らは皆、目立つことが目的だったはずだ。なんで今更、コソコソする必要があるんだ?」
その世界で最強のツインテール属性を持つ者に、わざと流出させた自分たちの技術を使わせ、英雄として祀りあげる。
そしてツインテール一色に染まった世界から一気に属性力を狩り尽くす。それがアルティメギルのやり方だった。
つまり、奴らはわざと目立って活動する必要があるのだ。
だが、俺たちがドラグギルディを倒したことにより、その作戦は潰えてしまった。
新しい作戦の可能性もあるが、突然今までと違う作戦を実行できるものだろうか?
しかも反応が消えた後、念のため現場に行ってみたが、何処も人が近づかないような狭い路地が多かった。
現場そのものも、誰かが争ったような痕跡はあったが、それ以外には特に何も見つからなかった。
それがずっと、胸の奥で引っかかっている。
「ツインテールの事だったら、こんなに難しく考えなくても分かるんだけどなぁ……」
その時、頭を抱える俺の視界の隅に人影が見えた。
「……え?あれって、まさかヒロ兄!?」
その人影を確認した俺は驚いた。隣の愛香も同じ表情だった。
廊下の向こうからこちらに向かって歩いてくるのは、俺たちの1つ上の学年に所属する幼馴染。
兄のような存在だったお隣さん、仲足千優。通称ヒロ兄だったのだ。
「よう!元気だったか?」
右手を挙げ、笑顔で声をかけてくるヒロ兄。
そういえばツインテイルズの活動が忙しくて、一昨日の退院祝い行けなかったんだった……。
でも、愛香が嬉しそうな顔をしている。多分俺も、同じくらい顔が綻んでいるんだろう。
ヒロ兄も久しぶりに会えたからか、満面の笑みを浮かべている。
「二人とも、元気してたか?」
「もっちろん!」
「ああ、元気だよ。それでヒロ兄、なんでここに?」
二年生の教室からわざわざ訪ねてきたんだ。何か理由がある筈だ。
「ちょっと用事があってな」
「用事?」
「かわいい弟妹分がつくった部活がどんなものか、見に来てやったってことさ」
相変わらずヒロ兄は俺たち2人を本物の兄弟のように思っているらしい。
ヒロ兄とは、俺たちが小学部に入学する前からの付き合いだから、俺たち2人にとっても本物の兄のような存在だ。
そのヒロ兄がこのツインテール部を見に来てくれたんだ。嬉しいに決まっている。
でも今、部室は……
「せっかく来てくれたのは嬉しいけど、今部室の改装中でさ……」
「そうそう、天井に穴とか開いてて……」
レーダーの修理中です、なんて言える訳ないし、そもそも俺たちがツインテイルズだって事は、誰しも知られてはいけないんだ。
ゴメン、ヒロ兄。たとえヒロ兄でも、誰かに正体がバレるわけにはいかないんだ。
「そういやここ、噂の幽霊部室だったか。そりゃ改装も必要なわけだ」
幸い納得してくれたようだ。心の中で安堵する俺。愛香、ナイスフォロー。
そのとき、ヒロ兄のポケットからアラームが鳴った。
ヒロ兄はポケットからスマホを取り出し、画面を見ると溜息を吐いた。
「すまん、ちょっと用事思い出した。また今度、出直す事にするよ」
「用事って?」
「ん~……まあ、ちょっとな。んじゃ、そういうわけで!」
そう言うとヒロ兄は、俺達に手を振りながら早足で行ってしまった。
「行っちゃった……」
「まあ、部室の中を勘繰られる可能性もあったし、結果オーライ?」
俺たちが肩を竦めていると、トゥアールが部室から顔を出した。
「終わりました~。総二様~、トゥアールちゃん疲れちゃいました~」
「なーに自然な動きでそーじの顔にその胸押し付けようとしてんのよッ!!」
「ひでぶっ!?」
うん、流石のヒロ兄とはいえ、愛香とトゥアールが毎回繰り広げている、このバイオレンスなやり取りを見せるわけにはいかないよなぁ……。
その時、警報を示すアラーム音がけたたましく鳴り響いた。
「エレメリアン反応確認!総二様、愛香さん、出動してください!!」
「今度は本当なんでしょうね!?」
「はい!反応がハッキリしています。場所も、人が多く集まる場所ですので、間違いありません!」
「よし!愛香、行こう!!」
俺達は急いで部室に入ると、腕のテイルブレスに強く念じながら、家の地下にある基地へと繋がるロッカーの中へと駆け込んだ。
□□□□
市内某所 路地裏
居ない、何処にも居ないぞ……。
表示されたポイントに到着したが、”奴ら“が何処にも居ない。
「一体何処に……」
『千優、不味いぞ……』
「どうした?」
スマホから機械の合成音じみた、若い男性の声が聞こえる。
『奴ら、どうやら移動してるらしい』
「ッ!?目的地は?」
『市内ビル街……今、エレメリアンがいるところだ』
「なんだと!?」
不味いな……。奴ら、エレメリアンに取り憑くつもりだ!
『急げ、時間がないぞ!』
「分かった!フルスロットルで急行する!」
□□□□
数分後 都内ビル街
「ブレイザー!ブレイドォォォォォ!!」
「グゥゥゥゥゥ!!」
「ウェイブランス!!」
「ガァァァァァ!!」
炎の剣と荒波の長槍、赤と青、二つの刃が、コブラ型エレメリアンの体を切り裂く。
その日出現したエレメリアン、
煙草属性のコブラギルディは煙幕に紛れてアルティロイドと供に、左腕に装備された小型キャノンで射撃を行う戦法を得意としていた。
相手の居場所がわからず、探しているうちに狙撃されてしまう。シンプルだがあいつらからは攻撃し放題だ。
しかも煙が目に染みて涙が出てくる。俺たちは防戦一方だった。
だが、トゥアールの機転で、レーダーの範囲を俺たちの周りに絞り込み、コブラギルディの位置を把握できるようになった俺たちは指示された位置に攻撃を叩き込み、煙幕から抜け出して今に至る。
攻勢は逆転し、コブラギルディは追い詰められていた。アルティロイドはもう全滅し、あとはコブラギルディのみだ。
「オーラピラー!!」
「う、動けん!」
「食らえ!
完全開放!!」
オーラピラーで動きを封じ、ブレイクレリーズの構えをとる。
「グランドォォォォォ!!」
「エクゼキュートォォォォォ!!」
いつものように俺はブレイザーブレイドから炎をあげさせながら突っ込み、愛香は荒波を纏うウェイブランスを投擲する構えをとる。
『総二様!愛香さん!ちょっと待っ……』
通信機からトゥアールが叫ぶ声が聞こえたが、もうブレーキは効かない。
だが──、必殺の刃がコブラギルディを貫くことはなかった。
ブレイクレリーズが命中する直前、オーラピラーに動きを封じられたコブラギルディを
黒い霧のようなものが包み込んだ。
「うおおおォォォォォ!!」
雄叫びを上げると、コブラギルディは自力でオーラピラーを破り、その身を震わせた。
「何ッ!!」
動揺した俺の身体に、コブラギルディの右腕から正拳突きが叩き込まれる。
「ぐぁぁぁぁぁ!?」
「レッド!!」
間髪入れずにテイルブルーの背後に回り込むと、コブラギルディはゼロ距離で、左腕の小型キャノンが発射した。
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
「ブルーッ!!」
俺の方に飛んできたブルーをしっかり受け止める。
「な……何なのよアイツ……。いきなり……強く……」
「分からない……。一体何で……」
コブラギルディを見ると、牙は更に鋭くなり、毒液のようなものを滴らせている。顔つきは凶暴になっており、広がった頚部には禍々しい模様が浮かんでいる。
最大の特徴は、その身体全体を黒い靄のようなものが包み込んでいる事だ。
「グガァァァァァァ!!」
雄叫びを上げて俺たちを睨み付けるコブラギルディ。一歩づつゆっくりとこちらに歩みを進めてくる。
「殺ス……。オ前タチハ、ココデ、殺ス!!」
喋り方までカタコトになってるぞ……。何だ?まるで何かに取り憑かれたようだ……。
『総二様、愛香さん、何が起きているんですか?総二様!愛香さん!』
クソッ……ヤバい……。身体が動かない……。このままじゃ……。
「おい、アイツ何か強いぞ……」
「負けるな、テイルレッド!頑張ってくれ!!」
「お願いレッド!立ち上がって!!」
「ブルー!負けないで!!」
ギャラリーの声が聞こえる。今日の敵は何かが違うと悟ったらしい。
数は圧倒的に少ないけど、珍しくブルーへの声援も聞こえる。隣を見れば、愛香が顔を上げた所だった。
今日は珍しく応援されて、その顔はいつもより自信にに満ちている気がした。
「そう……だ、俺たちは……」
「負ける……わけ……に……は……」
俺たちが立ち上がろうとした瞬間、
「ガーラガラガラァァァ!!」
それよりも早くコブラギルディの毒牙が俺達を襲う。
腕を交差させて防ごうとした、その時だった。
「させるかぁぁぁぁぁ!!」
ドゴォッ!
飛びかかってきたコブラギルディの顔面に、真横から飛び蹴りが叩き込まれる。
「ガーラガラガラガラァァァァァ!!」
不意を突かれたため、派手にぶっ飛ぶコブラギルディ。
驚く俺たちの前に着地したのは、黒いロングコートにサングラスを掛けた男だった。
「お前は……」
「ここは俺に任せて、ちょっと休んでろ」
この声……まさか!?
愛香も同じことを考えたらしい。驚愕の表情を浮かべている。
「ヒロ兄……なんで……」
「おっ?その声、やっぱり愛香か。って事は俺の予感、見事に的中してたってわけね」
男……いや、ヒロ兄はそう言って笑うと、コブラギルディの方に向き直った。
「何故ここに居るのかって?そりゃあ、戦う理由があるからに決まっているだろ?」
起き上がったコブラギルディは、ヒロ兄を認識すると舌打ちする。
「ッ!?マタ貴様カ!」
「ちょこまか逃げやがって。だがもう逃がしはしないぞ!!」
また?アイツ、ヒロ兄を知っているのか?
「今日コソハ、貴様ヲ、排除スル!」
「やれるもんならやってみな!」
啖呵を切ったヒロ兄は、ポケットからスマホを取り出すと、その画面をタップした。
『Change! Standby……』
電子音声の後、スマホを腹部に当てる。すると、スマホカバーの両端から形成されたベルトが自動で巻かれ、スマホがバックルに変わる。
まず、右腰の部分のボタンを左手で。次に左腰の部分のボタンを右手で押す。
胸の前で左手を上、右手を下にして球を作るように腕を回しながら、身体の左へと流した。
その間なんと3秒間。キレッキレの変身ポーズだ。
そしてヒロ兄は、こんな場面でのお約束とも言える”あの言葉“を叫び、顔の前で腕をクロスさせた。
「変身!!」
『Start-up!!』
ベルトから流れる電子音声とともに、ヒロ兄の身体が光に包まれていく。
やがて光が弾けると、そこには黒いプロテクターに身を包んだ、仮面の戦士が立っていた……。
□□□□
「なんだアイツ!?」
「なんか仮面ライダーみたいな奴が出てきたぞ!?」
「新しい戦士だ!写せ!!」
案の定、ギャラリーが騒がしい。そういえば人前で変身するの、初めてだったな。
竜を模したマスクには、金色に輝く角と装飾。目元はバイザー状になっており、首には真っ赤なマフラーが巻かれ、風に靡いている。
アンダースーツは肩から腕、そして腋から脚部にかけて黄色いラインが入っており、パッと見まさに仮面ライダーのような出で立ちだ。
「来タナ、我等ノ邪魔ヲスル者……」
「なあ。名乗った方が良い状況かな、これ?」
『俺に聞くな、好きにしろ』
相棒であるAIにそう言うと、ぶっきらぼうにそう答えられた。
まあ、聞くまでもないか。ああ、そう。と呟き、俺は目の前にいる敵を見据える。
それじゃ、と息を吸い込む千優。
「俺は愛と正義の戦士!テイルドラゴン!!邪悪を断ち、この世界の光を守る者である!!」
丁度、狙ったようなタイミングで風が吹き、首に巻かれたマフラーが靡いた。
「テイルドラゴン……オレガ潰ス!」
「行くぞ、コブラギルディ!その穢れた魂、俺が取り戻す!」
「来イ!!」
命名ジェラシーコブラギルディ(以下Jコブラギルディ)が構えると同時に、俺も走り出す。
Jコブラギルディは、左腕の小型キャノンからビームが発射する。だが……!
「ナ、ナン……ダトォ……!?」
発射されたビームは俺に全て躱され、一気に距離を詰められる。
「食らえ!!」
Jコブラギルディの顔面に、俺は容赦なく拳を叩き込んだ。
「ガラッ!!」
そのまま吹き飛ぶJコブラギルディ。
更にその腹部に蹴りを入れる。だが、Jコブラギルディもやられっぱなしではない。その鋭利な牙で俺に噛み付こうとして来た。
「うおっと!?あっぶねえ!」
間一髪で回避した俺の目の前で、Jコブラギルディの牙から飛び散った毒液に触れた瓦礫があっという間に溶けていった。
『あの毒液、触れたらこのスーツでも10分ともたないな。酸性が強すぎて、金属繊維でも溶け落ちちまう!』
「マジかよ!?」
ならまずは、あの牙を破壊しないとな……。
「ドラゴファング!」
武器名を叫ぶと、右手に黒い刀身に白い刃を持つ二本の短剣が、両手に現れる。
「ガラァァァァァ!!」
俺の身体を、炎天下にさらしたアイスの如くドロドロに溶かすため、再びJコブラギルディが牙を剥いた。
「ハアッ!!」
噛み付かれる瞬間、ドラゴファングをキバの根元に叩き込む!!
「グガッ!」
ついでにもう一本、背中から左側に回り込み、一閃!
「ガッ!!」
「これでもう、毒は使えないな。……猛毒だけに」
『そのギャグは誰に向けて言ってるんだ……?』
相棒にギャグを軽くスルーされつつ、敵に向き直る。
牙をもがれたJコブラギルディは怯んでいた。浄化のチャンスだ!
「今、元に戻してやる」
ドラゴファングの鍔の位置にある吹き口にマスクの口を当て、息を吹き込む。
するとドラゴファングからは、フルートのような美しい音色が奏でられ始めた。
「ヤ、ヤメr……ガラァァァァ!!」
Jコブラギルディの身体から黒い靄が噴き出す。演奏を続ける程、黒い靄はどんどん噴き出し続けていった。
「ウオオおおぉぉぉぉ!!」
全てのもやが消滅したとき……、Jコブラギルディの姿は、元のコブラギルディに戻っていた。
「コブラギルディが……!?」
「元に……戻った……?」
テイルレッドとテイルブルーも立てるようになったようだ。
「うぅ……、俺は……一体何を……?確か、黒い霧のようなものに包まれて……ッ!?俺の身体は、俺はどうなっている?」
「鏡でも持って来るか?そこには紛れもなく、お前の姿が映っているはずさ」
自分の身体を手で触って確かめるコブラギルディ。しばらくして、ホッと胸を撫で下ろしていた。
「敵だが、礼は言わねぇとな。ありがとよ」
「自分が自分じゃなくなったまま死ぬのは、嫌だろう?俺は当然のことをしただけさ」
「そうか……」
フッ、と笑うとコブラギルディは俺たちから距離を取った。
「勝負の続きだ。……決めろよ、テイルレッド」
「……え?」
「潔い奴だ……。レッド、やれるか?」
俺が決めてもいいんだが、あの時コブラギルディにトドメを刺すのは、テイルレッドだった筈だ。
「あたしがやってもいいんだけど……」
ブルーからの提案に、レッドは首を横に振った。
「アイツは俺に倒されることを望んでいるんだ。その希望を叶えてやらなきゃ、アイツも浮かばれないだろ」
そう言ってレッドは、自分の得物を構えた。
「オーラピラー!」
「来い!テイルレッド!!」
「グランドォォォォォ!ブレイザー!!」
炎の刃がコブラギルディを切り裂く。
「ドラグギルディの旦那ァ!!敵取れなかったことは面目ねえ!せめて、旦那を葬った剣で俺も散ることにするぜ!!」
爆散する直前、コブラギルディは満足気な顔で、テイルドラゴンの方を向く。
「ありがとよ……テイル……ドラゴン……」
その言葉を最後にコブラギルディは爆散した。後に残ったのは、喫煙属性の属性玉だけだ。
一件落着、これで解決だ。
「さてと、帰りますか」
「いや、ちょっと待てよ!」
さっさと帰ろうとした俺は2人に呼び止められる。
「なんでヒロ兄が変身できるんだよ!!そのベルトは何なんだ!!」
「あの黒い靄は何?なんでエレメリアンがパワーアップしちゃったの?」
あ~、やっぱり質問攻めか。
「それは後で全部答えてやるから、今は……」
周囲を見回すと、戦いが終わったのでマスコミの連中がわんさか集まっている。
急いで離脱しなければ、我先にと押し寄せて来るギャラリーに、もみくちゃにされてしまうだろう。
俺は脱出経路を確認し、フィンガースナップで合図を送る。すると、マスコミやギャラリーとは逆の方向から、黒いバイクが走ってきた。
レッドもブルーも、誰も乗っていないのに動いているバイクを見て驚いている。
「ほら、後ろ乗って」
「え、でも私たち3人だよ?」
「レッドの体格ならギリギリ乗れるさ」
『早くしろ!マスコミにもみくちゃにされるぞ!』
「え、今の声何?」
「質問は後だ、いいから乗れ!!」
俺の勢いに押され、レッドとブルーは俺の後ろに乗った。
「それじゃあ、全速力で……」
アクセルを全開にし、マスコミと逆方向にバイクを方向転換させる。
「逃げるんだよォォォォォ!!」
「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
マスコミが、さっき俺たちがいた地点に来る頃には、もう俺たちの姿は見えなくなっていた。
こうして、俺は秘密基地がある総二の家、喫茶アドレシェンツァへと進路を摂るのだった。
おそらくそこで待っているであろう、二人に力を与えた存在とコンタクトを取る為に。