包青天
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第四章
「殴り殺したのです」
「氷の棍棒で」
「貴方のお屋敷に優れた木彫り職人がいますな」
包拯はこのことも指摘した。
「氷の棍棒はその者に掘らせたのです、木も氷も掘れるので」
「ですからその証拠は。あの者が私に言われて氷の棍棒を作ったと」
「先程その者が言っていました」
彼は殺しのことは知らない、だが氷の棍棒を作ったことは知っていたのだ。
「そして永進殿が殺された日それを作り殺したあった少し前の時に貴方に言われて氷の棍棒を宮中の貴方のところまで急いで持ったと」
「くっ、それは」
「氷はやがて溶けます」
包拯はこのことも指摘した。
「殺しに使った後はもう池か川にでも放り込めば夏ならすぐにです」
「水の中に消えるぞ」
「それで終わりです、このことの弁明出来まするか」
「それは」
「出来るのならされて下さい」
包拯は厳然な声で元輔に告げた、だが彼は歯噛みした顔で何も言えず項垂れただけだった。これで全ては終わった。
元輔は捕えられてから観念し全てを白状した、そうして最後は賄賂等これまでの悪事の咎も責められて首を刎ねられた。こうしてこの事件は終わった。
この難しい事件を無事に真相を突き止めて終わらせたこともまた包拯の評判を高めた、宋の者達はまた口々に言った。
「包様がまた悪人を突き止められ裁かれたぞ」
「よく氷で人を殺したものだ」
「しかしそのことを突き止められるとはな」
「流石包様だ」
「あの方の額にある三日月にわからぬことはない」
「悪は必ず見付け出され裁かれる」
「包青天様の正しい日差しが悪い氷を溶かされたのじゃ」
そうして悪を裁いたとだ、宋の者達は口々に言った。だが包拯はこのことに驕らず次の悪に向かうだけであった。
包拯の逸話は多くの書にあり京劇でも扱われている、この話はそのうちの一つである。彼の鋭さが非常に難しい事件を解決した。今でこそ氷やそういった証拠が消えるものが使った殺人事件のトリックはあるしそれを突き止められる。だが千年程も前にそれをしてみせた包拯の慧眼のどれだけ素晴らしいことか。そう思わずにいられないからこそここに書き残した。少しでも多くの人に読んで頂ければ幸いである。
包青天 完
2019・6・5
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