ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!
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第百二十九話 決戦!!ヴァーミリオン星域会戦です その2
「砲撃用意」
ブリュンヒルト艦上ではラインハルトが指示を下していた。
「閣下?砲撃とは?」
シュトライトが当惑そうに尋ねる。
「決まっている。そのままの意味だ。時間がないぞ。奴らはワープで一気に距離を詰めてくる気だ」
イルーナらを除く艦橋要員は不思議そうに固まっている。この本隊と敵との距離はまだある。本隊は安全圏内にいると誰もが思っていたのだ。
「早くしろ!時間がないぞ!」
ラインハルトが叫んだ。
「わ、わかりました。全艦隊砲撃用意!!」
この瞬間ラインハルトが初めて椅子から立ち上がった。純白のマントをひるがえし、今にもやってくる巨大な敵に立ち向かおうというかのように彼は背を伸ばし、そのアイス・ブルーの瞳は凍てつくような輝きを放っていた。
「砲撃用意完了!!」
その時、前方・下方の空間が揺らめき、次々と艦影が出現しだした。艦橋がどよめきに包まれる。もしもラインハルトが指令を下していなかったならば、本隊は大混乱に陥っていただろう。誰しもがラインハルトの先見性に舌を巻いていた。
ラインハルトにとってやや予想外だったのは、ヤン艦隊が前方のみならず、下方、上方にも展開していた事である。これではどこをねらっていいかわからない。ヤンもこのことを予測していたが、そのうえで艦隊を分散させて、最初の一撃の効果を減衰させようとしていたのである。
「中央は前方を、右翼は上方の敵を、左翼は下方の敵を砲撃しろ!!主砲斉射3連だ!!」
ラインハルトがさっと手を振り上げた。
「ファイエル!!!」
ワープアウトしてきた自由惑星同盟艦隊は次々と苛烈な砲撃を受けて、火を噴きながら爆散、爆沈していく。ヒューベリオン艦上にも衝撃が走った。直撃を受けたのではなく、付近にいた味方艦の爆沈の衝撃波が届いたのである。
「撃て!!」
ヤンも手を振った。自由惑星同盟3艦隊が一斉に砲撃を開始したのである。最初の一撃でつぶされたとはいえ、損害は7,000隻余りだった。だから、3艦隊合計47,000隻に対し、ラインハルト側は直属艦隊22,000隻に過ぎなかったのである!!
「閣下を死守しろ!!」
メックリンガー上級大将がこの様子を見て、自分の艦隊をモートン提督の艦隊に割り込ませ、さらに一部をラインハルト艦隊の援護に回すとともに、上方からヤン艦隊とカールセン艦隊にけん制射撃を行った。メックリンガーにもっと兵力があれば、このけん制射撃は実に効果的であっただろう。が、15,000隻の一個艦隊をもってして敵の一個艦隊を阻止し、かつ他の二艦隊をけん制することはメックリンガーと言えども無理があった。だが、彼の登場はヤン、カールセン艦隊の足を多少緩め、そのすきにラインハルト艦隊は息を吹き返し体勢を立て直すことができた。
ルッツ、バーバラ両艦隊は目の前で戦っていた3艦隊がワープしてしまったことに唖然とし、次に戦慄を覚えた。彼らの狙いがはっきりしたからだ。いくら本隊が2万隻を上回っているとはいえ、3個艦隊5万に襲われたらひとたまりもないではないか。
「閣下を死守しろ!!」
ルッツは陣形の乱れもそのままに急ぎ本隊に合流すべくワープ態勢に入った。バーバラもである。
ラインハルト艦隊は3艦隊の猛攻にさらされていたが、彼は孤立無援ではなかった。なぜならメックリンガー艦隊が予備兵力として控えており、彼の参戦と痛撃によってモートン艦隊は手痛い打撃を受けてその活動が鈍ったのである。
だが、それでも彼我の戦力の差はどうしようもなかった。じわじわと押されていくラインハルト艦隊とメックリンガー艦隊。誰もが戦線が崩壊しつつあることを悟っていた。
と、その時、イルーナが初めて動いた。
「閣下」
ラインハルトがわずかにうなずいた。この瞬間イルーナが自ら迎撃の指揮を執ることになったのである。
「全艦隊、主砲をE2に向けて、集中射撃!!」
「かん制機雷、射出!!」
「ミサイル、敵の先頭集団に集中攻撃!!」
イルーナの戦法は敵の火力を削ぎ落し、かつ敵に有効な砲撃位置につかせないというフィオーナの戦法をそのまま踏襲したものであるが、フィオーナの教官であるだけにそれはより一層効率的かつ敵に破壊的なダメージを与えていた。
イルーナは総参謀長として自ら指揮を執り、緩急巧みな指揮により3艦隊の猛攻を三度にわたって退け、損害を与え続けた。
イルーナ・フォン・ヴァンクラフトが本気を出したのは、これが初めてだと後々フィオーナやティアナ、そしてラインハルトまでもが話のタネにのぼせた。それほど彼女の様相は鬼気迫るものだったし、事実彼女の麾下の直属艦隊がこの戦局下にいないにもかかわらず、わかりやすく効果的な指令は全軍に波及して、誰もが彼女の指令に従って対処したのである。
中でも敵の予測砲撃開始地点を一瞬で計算し、それを狙った戦艦による徹底した集中攻撃と、ワルキューレ部隊の前衛艦隊への強襲、そして間断なく放たれるアースグリム改級の超波動砲の斉射のタイミングなどは、誰もが驚嘆する腕前だった。
だが、勢いに乗る3艦隊の猛攻は止まらない。彼我の損害も著しく増えてきていた。
■ シャロン・イーリス
勝ったわ。3艦隊の奮戦でラインハルト艦隊は崩壊しつつある。メックリンガー艦隊も同様よ。ここまで長かったけれど、ようやく引導を渡すことができる。今度はあなたたちが地獄に行く番よ。イルーナ、アレーナ、フィオーナ、ティアナ、そして、ラインハルト。
死になさい!!!!
* * * * *
「閣下」
ついにイルーナがラインハルトに声をかけた。猛攻をはねのけてきた彼女にも流石に憔悴の色が出ていた。
「戦線が押されています。ここはいったん後退し、敵の猛攻を押さえなくてはなりません。残念ですが、退却のご決断を」
その瞬間、艦橋にいた皆が目を疑った。ラインハルトが笑ったのである。それもあの勝利を確信した時の、高揚感にあふれた顔であった。
「イルーナ姉上、シュトライト!!」
戦線が崩壊しかけているというのに、ラインハルトの声は通常と変わらなかった。いや、それどころかいつもよりずっと覇気にあふれていた。
「勝ったぞ!!」
その瞬間の声を、シュトライトは後々まで思い出し、生涯忘れたことはなかったと後述している。それはまさに、常勝の天才が勝利を確信した瞬間だった。
ラインハルトは右腕を軽く上げ、手を掲げると、軽く指を鳴らした。
その瞬間、信じられないことが起こった――。
勝ち誇って殺到しようとする同盟軍艦隊全体にわたって、無数の光球が出現したのである。それは艦の爆発、四散した姿に他ならなかった。一個艦隊だけではない。すべての同盟軍艦隊に同じような症状が出てきている。
「こ、これは?!」
「どういうことだ!?」
「自爆か?それとも援軍の攻撃なのか?」
騒ぐ艦橋要員を、ラインハルトはそのアイス・ブルーの眼でにらみ渡した。
「うろたえるな!まだ戦いは終わってはいない!!オペレーター、周辺の星域に味方艦隊の兆しはあるか?」
「は、はい!!・・・お待ちください。いえ、未だ・・・いや、ありました!!ケンプ艦隊、ファーレンハイト艦隊だ!!それにこれは、シュワルツランツェンレイターです!!助かったぞ!!」
「よし!!今一度戦線を整理し、全艦隊をもって総攻撃、ヤン・ウェンリーを宇宙の塵にしてくれよう!!」
ラインハルトは純白のマントをさっと払い、手を振り上げた。
「全艦隊、総攻撃!!」
『全艦隊、総攻撃!!!』
『全艦隊、総攻撃!!!!!』
各艦隊、いや、全艦隊全将兵が総司令官の命令を唱和した。同盟軍がその声を聴いていれば、たちまち震え上がったかもしれないほどの声だった。
■ シャロン・イーリス
そんなばかな・・・・。こんなことが・・・・どうして・・・・!?つい1分前までは完全な勝利だったのに。あと一息でラインハルトを討ち取ることができる。その後の光景さえ、私はしっかりと夢想できていたのに。
ところが、そこかしこで味方艦が爆発四散し、艦隊は嵐にあったように吹き散らされていっている。艦の故障?!それともゼッフル粒子!?いいえ、ゼッフル粒子の反応は確認されていない。いったいこれは・・・・。
「閣下。・・・あれを!!??」
私は艦の外を見た。そして一瞬のうちに答えを知った。
■ ラインハルト・フォン・ローエングラム
これほど鮮やかな逆転劇はないだろう。高揚感にまだ心が震えている。この感覚は将来忘れることはないだろう。
私はこの星域に来るはるか前、すなわち一介の大将時代からこの戦法を計画していた。
いや、きっかけはさらに前にあった。
アースグリム級テスト艦を奪還しに行った際に放置されていたピンポイントワープデータを入手した時だ。
老朽艦の温存、ひそかに辺境惑星に置いて行ってきた推進装置、ワープ装置の改良テスト、その実験艦としての老朽艦隊の活用、さらには防衛と称して同盟側に近い場所に配置したこれら老朽艦隊。そこに私がプログラミングしたリモートコントロール装置を組み込んだ。組み込んだ工員たちにしても、そのプログラムが何だったのかはわからないだろう。
その答えがこれだ。私は各無人艦隊をワープさせ、この会戦において敵軍が殺到するこの地点へのワープアウトをさせた。艦同士の激突、爆発、重力場に巻き込まれて消滅する等、混乱の規模は予想以上だ。その上、味方無人艦隊はワープアウトを終了次第、敵艦を捕捉して攻撃するようにセットされている。こちらの人的被害はゼロだが、敵の被害は甚大だ。そのかわり一度使用してしまうと、もう二度と使えないことになる。何しろこちらの人的被害はゼロと言ったが、その代わり膨大な艦艇を失うことになるのだから。そう、これは私の文字通りの切り札だった。
最後の最後まで、切り札というものは取っておくのだ、覚えておけ、ヤン・ウェンリー、そして『転生者共』。
旗艦ヒューベリオン艦上――。
■ ヤン・ウェンリー
やられたか。以前私がエル・ファシル星域で使用した手を逆手に取られてしまった。それも比べ物にならない規模でだ。12万隻もの無人艦艇を自由惑星同盟艦隊の座標地点にピンポイントワープアウトさせてぶっつけることなど、誰が想像できただろう。あのラインハルト・フォン・ローエングラム公だからこそ思いついた業なのかもしれない。ガイエスブルグ要塞のような超質量のものなら、事前に重力場緩衝装置が働いて、察知できただろう。しかし、艦艇程度では、ましてこのように戦場に意識が集中しているときには、対処する前に艦艇がワープアウトしてくるため、ほとんど意味をなさない。そこを突かれてしまったか。
今や各艦隊の総数を合計しても2万に達しない。先ほどのピンポイントワープアウト、そしてそれからの強襲、さらには到着した敵の援軍と合体した敵軍の苛烈な総攻撃によって、瞬く間に戦力は逆転した。
これまでか・・・・!!!
* * * * *
自由惑星同盟の大艦隊は、もはやその大半を失って壊乱状態にあった。ラインハルトの究極の逆転の一手は、イルーナでさえ予測できなかったことだった。
(やはりこの人は天才なのだわ。私たちでは到底予測できない高みを見渡せる人)
一瞬彼女はしみじみとそう思ったが、すぐに現実に立ち返った。ここで自由惑星同盟の艦隊を逃がしてしまうことは、原作におけるイゼルローン要塞の革命軍のごとく障害となって残ることを意味する。
「閣下。自由惑星同盟艦隊を、とりわけシャロンやヤン・ウェンリーを逃がすことは、後々の禍根となります」
イルーナが話しかけると、
「承知している。私ほど彼奴等の恐ろしさを知っている者はいない・・・」
一瞬ラインハルトの目が細くなった。
「フロイレイン・フィオーナ、ロイエンタール、ビッテンフェルトに指令。私と共にシャロン、ヤン・ウェンリーを追尾、これを捕捉して徹底的に殲滅せよと伝えよ。他の艦隊は残敵掃討に当たれ」
やはりラインハルトは勝利をしても、油断はしていない。自由惑星同盟の艦隊は2万足らずにまで減少したとはいえ、まだまだ余力を隠しているのかもしれないからだ。
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