英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~
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第63話
1月28日――――――
~エリンの里・ロゼのアトリエ~
「――――――それじゃあ、行ってきますね、ロゼさん!」
「うむ、心して行くがよい。おぬしらがこれから向かうラマール州側にも転位石がある。今回は”魔の森”を北に抜けた先の転位石にペンデュラムをかざしてみよ。」
「了解したよ。」
「ラマールといえば、お前の故郷の町もあるんだったな?」
「”観楽都市ラクウェル”ね。どうなってるか気になるけど…………」
「何せ皇帝が銃撃された事件の場所になっちゃったもんねぇ?」
ローゼリアの言葉にアンゼリカが頷いた後クロウはアッシュに訊ね、真剣な表情で呟いたサラの言葉に続くように意味ありげな笑みを浮かべたレンの言葉にその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中アッシュは平気そうな様子で頭をかいていた。
「えっと、例の事件のことは…………」
「…………どう伝わっているかだね。」
「ま、行ってみてのお楽しみってヤツだな。とりま、手軽に変装できる手段は用意してあるぜ。」
トワとアンゼリカに視線を向けられたアッシュは自分の事は心配無用であるかのように不敵な笑みを浮かべて答えた。
「とにかく準備を整えつつ魔の森に向かおうか。」
「ん。レッツゴーだね。」
その後エリンの里で準備を整えたトワ達は魔の森の転位石の前で同行者にフィーを選んでサラ達に見送られた後転位先を更に進んで見つけたラマール地方に向かう転位石を使ってラマール地方に転位した。
~エイボン丘陵~
「えっと、ここって…………ラマール州だよね?」
「かなり広い丘陵だね…………」
トワが目の前に広がる丘陵を見て戸惑い、アンゼリカは興味ありげな表情で周囲を見回していた。
「このあたりは”エイボン丘陵”――――――ラマール州の南東部あたりだな。ラクウェルからだと東の峡谷を超えた先だったはずだ。」
「へえ、さすが地元民だね。」
「ちと外れた場所だが、このあたりなら帝国軍の警戒も薄いだろうから結果オーライだな。」
アッシュが自分達がいる場所を知っている事にフィーが感心している中、クロウは安堵の表情で周囲を見回した。
「ハッ、マジで”騎神”とやらや機甲兵まで無事ご到着とはな。こんな長距離を質量完全無視で瞬間移動とかありえねぇだろ。」
初めて体験した転位の凄まじさにアッシュは鼻を鳴らして苦笑しながら自分達と共に転位で現れたオルディーネ達を見回した。
「ヴィータからは本来はある程度の制約はあるって話は聞いた事はあるがな。」
「オルディーネと繋がった機体なのとエレボニアの霊脈が活性化している状況下でなんとか可能になったらしいね。」
「見たところ遮蔽物はないようだし、念の為に隠した方がいいでしょうね。」
クロウとアンゼリカがアッシュに説明した後レンはステルス装置のスイッチの端末を操作してオルディーネ達の姿を隠させ、それを見守っていたアッシュは冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「ま、メンフィルのそいつもオカルトっちゃオカルトか。」
「ま、わたしたちⅦ組はこういった事にはいい加減慣れたけど。――――――とにかく行動開始だね。最初はどこに向かう――――――って、よく考えてみたら今回は”殲滅天使”が一緒にいるんだから、今回の”特異点”はすぐに見つかるね。」
「あのねぇ…………幾らレンが”天才”だからって、セントアークの時のように他のメンバーがラマールで活動している訳でもないのにそんなにすぐに”特異点”を見つけられる訳がないでしょう?」
アッシュの言葉に答えたフィーはレンに視線を向け、視線を向けられて呆れた表情で答えたレンの答えにトワ達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「…………そういや、そこのチビ猫は”本来の歴史”だったか?その本来の歴史だとかでも”黄昏”とやらが起こって、その時の事も知っていたらしいから、”特異点”とやらの場所も全部知っているんじゃねぇのか?」
「あ…………ッ!」
「フム…………言われてみれば、レン皇女殿下の話だと本来の歴史ではⅦ組は黒の工房の本拠地に囚われていたリィン君を救出する為に活動して、その救出は成功したとの事だから、当然それまでの過程で見つけた”特異点”を知っていてもおかしくないね。」
「それと”猟兵王”達の時みたいに、”特異点”を見つける前にやり合う羽目になる連中のメンツも知っていそうだよな。」
アッシュの推測を聞いたトワは声を上げ、アンゼリカは考え込み、クロウはジト目でレンを見つめた。
「……………フゥン?見た目に反して結構鋭いわね。”猟兵王”がスカウトするだけはあるわね。」
「その様子だと、どうやら”特異点”の場所も知っているみたいだね。」
意味ありげな笑みを浮かべてアッシュを見つめて呟いたレンの言葉を聞いたフィーは真剣な表情でレンを見つめた。
「ええ。本来の歴史でのラマール地方の”特異点”は”オスギリアス盆地”だったそうよ。」
「”オスギリアス盆地”は確かラマールの辺境のアルスターの近くだったから…………うげっ…………ここからだと正反対の位置だから、ラクウェルの東の峡谷を端から端まで歩く必要があるじゃねぇか…………」
「確かにそれはメンドイね。いっそ、オルディーネや機甲兵を操作してアルスターに向かった方が楽なんじゃない?」
「騎神や機甲兵みたいなデカブツが狭い道もある峡谷を超えるのは無理がある上、移動の際に絶対に目立って正規軍の連中にも見つかってもっとめんどくさい展開になるっつーの。」
「アハハ…………えっと、レン皇女殿下。ちなみに本来の歴史でも”ハーメル”の時のように新Ⅶ組の人達は誰かと戦ったんでしょうか?」
レンの説明を聞いて自身が知る場所を口にしたアッシュはすぐに距離の長さに嫌そうな表情をし、ジト目で呟いたフィーの提案にトワ達と共に冷や汗をかいて表情を引き攣らせたクロウは呆れた表情で指摘し、苦笑していたトワは表情を引き締めてレンに訊ねた。
「本来の歴史の新Ⅶ組は”オスギリアス盆地”の時はセドリック皇太子と皇太子の取り巻きの人達だった”トールズ本校”の生徒達、”赤い星座”の”紅の戦鬼”だったそうよ。」
「つー事は今の状況だと、ラマールでやり合う事になるかもしれねぇ相手は”紅の戦鬼”を始めとした”赤い星座”の連中か。」
「団長達の時と違って、”星座”に関しては要注意人物は”紅の戦鬼”だけだから、もしやり合う事になってもセントアークの時よりは楽かもね。」
「それ以前にやり合う羽目にならないのが一番なんだけどねぇ。――――――とりあえずまずはラクウェルがどのような状況になっているのかを確かめてからアルスターに向かおうか。」
「ハン、なら丘陵を超えたすぐ東にある”ミルサンテ”に寄るべきだろう。」
レンの情報を聞いたクロウは戦う事になるかもしれない相手を推測し、フィーの分析を苦笑しながら聞いていたアンゼリカの提案を聞いたアッシュは静かな表情で指摘した。
「ミルサンテ…………ちなみにそこってどういう町なのかな?」
「小せぇ町だが港に面した観光地としても知られている。――――――反対側のグレンヴィル、リーヴス方面の情報なんかも聞けるかもしれねぇな。」
「”リーヴス”というと……………………」
「本来の歴史の”第Ⅱ分校”がある町だね。」
トワの疑問に答えたアッシュの説明を聞いたアンゼリカは真剣な表情を浮かべ、フィーは静かな表情で呟いた。
「ま、”第Ⅱ分校も存在していない今の状況”だとリーヴス方面の情報はそんなに大した情報はないと思うけどね。じゃ、さっさと行きましょうか。」
やれやれと言った様子で答えたレンは先をトワ達に進むように促した。
その後丘陵と街道を超えてミルサンテに到着したトワ達は情報収集をしたが、大した情報は手に入らなかったので峡谷を超えてラクウェルに向かった。
~歓楽都市ラクウェル~
「ラクウェル…………ラマール州中部の歓楽都市か。う~ん、こんな形じゃなく、できれば夜のラクウェルで遊びたかったんだけどねぇ。」
「つーか、お前の事だから既に”こういった町”で遊び慣れしてんじゃねぇか?」
「ア、アハハ…………軍の人達が結構いるみたいだから、慎重に行動する必要がありそうだね。」
周囲を見回して残念そうな表情で呟いたアンゼリカに呆れた表情で指摘するクロウの様子に苦笑したトワは町にいる正規軍の関係者達を見つけて表情を引き締めた。するとその時トワ達の背後から変装したアッシュが現れた。
「へえ?一体いつの間に用意したのかしら?」
「里の店でいいカツラを見かけてな。メガネも見繕っておいた。」
「ん、悪くないカモフラだね。さすがに親しい人には見抜かれそうだけど。」
感心している様子のレンの疑問にアッシュが答えるとフィーが静かな表情で指摘した。
「………わかってるっつの。そんじゃ情報収集、始めるか。」
その後ラクウェルでの情報収集を開始したトワ達はまず、多くの人々が集まっていると思われる食堂に入った。
~パブ・食堂”デッケン”~
「……はあ……ああ、いらっしゃい。6名様だね?どこでも好きな席に――――――ア、アンタは…………!」
トワ達が入ると食堂の女将が覇気のない様子でトワ達に声をかけたが変装したアッシュに気づくと血相を変えた。
「……ったく、アンタって子は…………いつもいつも突然っていうか。でも……よかったよ。こうして無事に帰ってきてくれて。おかえり――――――アッシュ。」
「あ…………」
「どうやら地元の知り合いみたいだね?」
「ああ、この店は昔からの行きつけの店だ……アンタも相変わらずみてぇだな。」
安堵の表情を浮かべて親しみのある笑顔を浮かべた女将の様子にトワは呆け、アンゼリカに訊ねられたアッシュは女将――――――モーリーに静か笑みを浮かべて答えた。
「ん……女将さん、誰ッスか?ってどっかで見たような―――って、ええっ1?まさかお前は……」
「……ハハ、マジかよ。」
するとその時コックのシリュー、客の一人だったブラッドがアッシュに気づくとそれぞれ血相を変えた。その後トワ達はモーリー達と対面して会話を始めた。
「……本当に心配したよ、アッシュ。連合から送り込まれただなんてとんだ濡れ衣を着せられて……でもこうして仲間と一緒に……きっとアンタのお母さんが導いてくださったんだねぇ。」
「ハッ……どうだかな。」
「ったく、素直じゃねぇヤツだな。」
「うふふ、さすがに地元の親しい人達はアッシュの事を信じていたみたいね。」
モーリーの言葉に対して鼻を鳴らしたアッシュにクロウが苦笑している中、レンは興味ありげな表情でモーリー達を見回した。
「ハハ、まあガキの頃から知ってるお前がシカクとかそもそも在り得ねえし、なぁ?」
「……クク、まぁお前ならそれくらいこなしちまう気もするけどな。」
「……へっ、褒め言葉として受け取っといてやるよ。」
昔からの地元の友人であるブラッドの言葉にアッシュは不敵な笑みを浮かべた。
「しかし皇太子殿下が行方不明か……アンタたちも大変なんだねぇ。」
「……その関係で情報を集めています、最近、何か変わった事はありませんか?」
「んー、変わったことっつうと……近頃観光客が増えたってのと。妙に身なりのいい連中が出入りするようになったくらいかねぇ?」
「身なりのいい連中……?」
トワの質問に答えたシリューの説明を聞いたアンゼリカは眉を顰めた。
「ああ、そういえば……近頃スーツ姿の人や高そうな服を着た人をよく見かけるねぇ。海都あたりからリムジンで来て、どこかで話をしているみたいだが。」
「商談に来た商人か貴族あたりか……?」
「ん……何の用かちょっと気になるね。」
「ま、コッソリ回ってるんならせいぜい気を付けろや。誰がどこで見てるかわかったもんじゃねぇだろうしな~。」
「(……?)ハッ、てめぇに言われるまでもねぇよ。」
ブラッドの忠告に一瞬違和感を感じたアッシュは眉を顰めたがすぐに気を取り直して軽く流した。
「……ま、情報が集まったらすぐ出発することになんだろ。わざわざ顔見せに来てやったんだからもう辛気臭ぇ顔で店に立つんじゃねぇぞ?」
「アッシュ……ふふ、ありがとよ。アンタも新しくできた友達としっかり頑張っておいで!」
その後町にいるアッシュと顔見知りの者達に無事を報告しながら情報収集を終えると裏路地で相談を始めた。
~裏路地~
「さすがエレボニア有数の歓楽街だけあって、かなり情報が集まったな。」
「ふふっ、でもよかったねアッシュ君。パブのおばさんにシスターとか、みんな信じてくれてたみたいで。」
「ハッ、俺が連合の刺客なんざ、そもそも荒唐無稽な話だろうしな。だが……」
「?何か気になる事があるの?」
「……いや、こっちの話だ。それよりこれからどうすんだ?情報も集まったことだし、”アルスター”に行くのか?」
「ん……正直今の状況でラクウェルに長居するのはリスクが高いから、”特異点”の発見を優先すべきだね。」
「そうだね、それじゃあそろそろ”アルスター”に向かおうか――――――」
アッシュの問いかけに答えたフィーの話に頷いたアンゼリカがトワ達を促したその時
「―――おっと、そこまでだ。」
少年の声がトワ達を呼び留め、声に気づいたトワが振り向くといつの間にかトワ達の近くに駐車していたリムジンからビジネススーツを纏った少年が背後にスーツ姿の男達を引き攣れてトワ達に近づいた。
「君は確か1年Ⅲ組の……」
「ヒュ、ヒューゴ君?クロスベルでみんなと活動している君がどうしてラクウェルに――――――」
少年に見覚えがあったアンゼリカは目を丸くし、トワが困惑の表情で少年――――――ヒューゴに声をかけたその時
「―――ヒューゴ・クライスト。確か帝都ヘイムダルに”本店”を構える『クライスト商会』の御曹司で、学生でありながら”営業部長”も任されているのだったわね。――――――その様子だと、”リィンお兄さん達みたいに自分なりの方法で実家を守る為にトールズから離れてエレボニア帝国政府側についたみたいね?”」
「え――――――」
「何……ッ!?」
「チッ、政府の狗野郎が……!逃げるぞ―――」
意味ありげな笑みを浮かべたレンがヒューゴを見つめて推測を口にし、レンの推測を聞いたトワが呆け、クロウは血相を変え、舌打ちをしたアッシュがトワ達に撤退を指示してトワ達と共に撤退しようとしたが、トワ達の撤退先にスーツ姿の男達が立ちはだかった。
「……悪いがこちらは行き止まりだ。」
「包囲されてしまったか……」
「ヒューゴ君……どうして!?」
自分達が包囲されてしまった事にアンゼリカが厳しい表情を浮かべている中、トワは悲痛そうな表情でヒューゴに問いかけた。
「フフ、とある筋の連絡がありましてね。僕が”今の立場”にいるのは、粗方レン皇女殿下が仰った通りですよ。良い機会なので段取らせてもらいました。フッ……改めて色をつけておく必要があるな。」
「ハッ……”やっぱり”そういう事かよ。あのバカ野郎に売られたみてぇだな。――――――唆したヤツがいそうだが。」
「ま、まさか…………さっきのアッシュ君の友達が……!?」
「それに”唆した”という事は、恐らくその人物もアッシュ君の知り合いなんだろうね……」
ヒューゴの話を聞いて鼻を鳴らしたアッシュの推測を聞いたトワは信じられない表情をし、アンゼリカは厳しい表情を浮かべた。
「申し訳ありませんが情報源の子細に興味はありません。―――そこの”黒髪”の君。ウチの得意先が捜しているようだからこのままついてきてもらえるかな?それとアームブラスト先輩もできれば黒髪の彼と共に僕についてきてほしいのですが?」
「ハッ…………」
「ヒューゴ、てめぇ……」
そしてヒューゴに要請されたアッシュが鼻を鳴らし、クロウが目を細めてヒューゴを睨んだその時
「―――仕方ないわね。”クライスト商会の用心棒は全員黙らせなさい。”――――――ただし、命は奪わない事。」
「え――――――」
溜息を吐いたレンが目を細めてヒューゴ達を見つめて何らかの指示をし、指示内容を聞いたヒューゴが呆けたその時建物の屋根や物陰等から突如現れた全身黒衣と、口元だけ見える仮面を覆って顔を隠した男達がスーツ姿の男達に電光石火の速さで奇襲した。
「ぐっ!?」
「がっ……」
「うっ!?」
「ぐあ……っ」
男達の奇襲による当て身で一瞬で無力化されたスーツ姿の男達は気絶して地面に倒れた。
「な…………」
「チビ猫、その男達はお前の差し金か?」
一瞬でスーツ姿の男達が無力化された事にヒューゴが絶句している中、状況を瞬時に悟ったアッシュはレンに確認し
「せめて仔猫って呼んでもらえないかしら?――――――ま、それはともかくご苦労様。念の為に無力化した人達に関しては口と手だけ封じておいてから元の配置に戻って。」
「御意。」
アッシュの自分の呼び方に溜息を吐いて指摘したレンは気を取り直して男達に指示をし、指示をされた男達は返事をした後スーツ姿の男達の両手を背中に回して手錠で拘束して口にガムテープを貼った後素早くその場から去った。
「……今の連中はメンフィルの諜報関係者か?」
「ええ。この町にも情報収集で彼らが潜伏していた事も知っていたから、念の為にレン達がこの町にいる間だけ影からの護衛をしてもらっているのよ。――――――今みたいに、”皇帝銃撃犯”を知っている地元の人達がお金欲しさに”密告”する可能性も十分考えられたもの。」
「ハッ……………]
クロウの質問に答えたレンは意味ありげな笑みを浮かべてアッシュに視線を向け、視線を向けられたアッシュは鼻を鳴らした。
「ま、何はともあれ”彼女”と行動を共にしている間の私達を狙った事は運が悪かったようだね、ヒューゴ君。」
「そうかしら?レンはむしろ運が良い方だと思うわよ?もし同行者がエヴリーヌお姉様だったら、確実に向こうに”死者”が出ただろうし、レーヴェは加減はするだろうけど、”ヒューゴ・クライストごと敵は全員纏めて斬って痛い目に遭わせる”と思うもの♪」
真剣な表情でヒューゴを見つめて呟いたアンゼリカの言葉に小悪魔な笑みを浮かべて指摘したレンの推測を聞いたトワ達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「ヒューゴ君……”実家”を守る為とは言え、同じトールズの仲間だった私達を裏切った上政府に売る事に何も思わなかったの……?」
「……くっ…………仕方ないでしょう!この戦争でエレボニアが敗戦すれば政府との太いパイプがある『クライスト商会』もその煽りを受けて、多くの失業者達を出す事になるんです!」
気を取り直して悲しそうな表情を浮かべたトワの問いかけに唇を噛み締めたヒューゴが反論するとヒューゴの足元から黒い瘴気が発生した。
「そもそもあのリィン達が最初に僕達を裏切ったんですから、リィン達に裏切られた貴女達に僕の事についてとやかく言われる筋合いはありません。――――――ましてやこの状況になってもなお、”和解”なんて甘い事を考えているオリヴァルト皇子の考えに賛同している貴女達の事は理解できませんし、ついていけません。僕は絶対にこの”激動”の時代で商会を守り抜いてみせます……!」
そしてヒューゴはトワ達を睨んだ後その場から走り去った。
「ヒューゴ君…………」
「まさかリィン達に続くトールズから離れて別の勢力につく人が現れるなんて完全に想定外だったね。」
ヒューゴが去った後トワは悲しそうな表情で肩を落とし、フィーは複雑そうな表情で呟いた。
「それよりも一瞬だけ見えたヒューゴ君を纏っていた”黒い何か”。まさかあれも帝国の”呪い”なのか……?」
「幾ら実家のためとはいえ、ヒューゴにそこまでの度胸がある事に違和感を感じていたが…………」
「クスクス……―――でも今回の件で、トワお姉さんたちにとっては”黄昏”による”呪い”によって”最悪の事態”が起こりうる可能性も浮上してきたわね?」
アンゼリカとクロウが考え込んでいる中、レンは意味ありげな笑みを浮かべてトワ達を見回した。
「い、今より”最悪の可能性”ってどういう事ですか……?」
「!………メンフィル・クロスベル連合側についたリィン達とエレボニア帝国軍側についたトールズの連中が戦争でそれぞれがぶつかり合う事によって発生する”トールズの生徒同士による殺し合い”か?」
不安そうな表情をしたトワがレンに訊ねるとすぐに察しがついたクロウが厳しい表情でレンに問いかけ
「ッ!!」
「それは…………」
「クスクス、それどころかその”戦場”に紅き翼(あなた達)が乱入する事でリィンお兄さん達、紅き翼(あなた達)、そしてエレボニア帝国軍側についたトールズの生徒同士による三つ巴の殺し合いに発展するかもね♪」
「ハッ、とんでもなくイカレタ考えをしてやがるぜ。」
クロウの推測を聞いたトワは目を見開いて息を呑み、アンゼリカは真剣な表情を浮かべ、レンは意味ありげな笑みを浮かべて更なる推測をし、その推測を聞いたアッシュは鼻を鳴らしてレンを見つめた。
「……そんな事、紅き翼(わたし達)が絶対にさせないし、そもそも例え敵だろうと死者を出さないのが紅き翼(わたし達)の信念だからもし三つ巴の戦いになったら、リィン達も含めて全員”力づくで”無力化して黙らせるだけ。」
「問題はリィン君達の戦力が私達よりも圧倒的に上である事なんだけどねぇ……―――それはともかく、今回の”特異点”を見つけたら一度クロスベルで活動しているトールズの面々の状況を確認しておくべきだろうね。」
「うん……!―――それじゃあ他の人達が来る前に一端ここから離れよう、みんな……!」
決意の表情を浮かべたフィーの言葉に疲れた表情で答えたアンゼリカは表情を引き締めて提案をし、アンゼリカの提案にトワは頷いた後仲間達を促した。
その後トワ達は今は誰もいないアッシュの実家によってアッシュの亡き母への挨拶と部屋の風通しを行った後アッシュの実家であるアパートを出るとある人物がトワ達に話しかけた。
「ハハ、お袋さんへの挨拶は済んだみたいだな?」
声に気づいたトワ達が振り向くとそこにはブラッドと中年の男―――情報屋ミゲルがいた。
「ようアッシュ、久しぶりだな。せっかく帰ってきたのに俺には挨拶なしなんてつれないじゃねぇか?」
「―――なるほど。差し詰めオジサンがアッシュの友達を唆した”黒幕”ね?」
「え…………」
「ハッ、俺達を嵌めた癖にまんまと顔見せに来るとはいい度胸をしているぜ。」
親し気に話しかけるミゲルを意味ありげな笑みを浮かべて答えたレンの推測を聞いたトワは呆け、クロウは鼻を鳴らしてミゲルを睨んだ。
「クク、あの悪名高き”帝国解放戦線”のリーダーや敵国の皇女でありながらアッシュのように変装もせず正規軍もうろついているこの町を堂々と歩いているお二人さん程ではないぜ。」
「テメェ……」
「どうやらクロウやレン皇女殿下の事も知っているようだが……一体彼は何者なんだい?」
口元に笑みを浮かべて答えたミゲルの指摘に驚いたクロウは目を細めてミゲルを睨み、アンゼリカはアッシュにミゲルの正体を訊ね
「名前はミゲル。噂話だの裏話だのをかき集めてメシの種にしてる胡散臭いオヤジだ。」
「なるほど、所謂”情報屋”ね。」
「……一体何の用?」
アッシュの説明を聞いたレンは納得した様子で呟き、フィーは警戒の表情で二人を睨んだ。
「いやー、挨拶ついでに礼を言っとこうと思ってねぇ。おかげでいい小遣い稼ぎをさせてもらったことだし。」
「ハッ、やっぱりそういうことか。……てめぇだな、ブラッド?商会の若サマに、ミゲルを通じて俺らの情報を売ったのは。」
「やはりか……」
ミゲルの話を聞いて事情を察したアッシュは自分達から目を逸らしているブラッドに視線を向け、それを聞いたアンゼリカは真剣な表情を浮かべた。
「クク、相変わらず勘が良くて頭の回るガキだぜ。そういうところも含めて気に入らないんだよな、ブラッド?」
「ああ――――――昔からな。……正直、スカッとしたもんだぜ?スパイだか何だか知らねぇがてめぇがパクられたって聞いたときにはな。」
「っ……そんな…………それでも君はアッシュ君の――――――」
「……ハッ、バカの言う事だ。いちいち相手にしてるんじゃねえ。どうせ上手い事、ミゲルの口車に乗せられちまっただけだろうしな。」
ブラッドの話を聞いて唇を噛み締めたトワは反論しようとしたがアッシュが鼻を鳴らして反論を制止した。
「な、なんだとてめぇ――――――」
一方アッシュの言葉に頭に来たブラッドはアッシュを睨んだが
「あー、聞くな聞くな。所詮は大罪人の吠え面ってヤツだ。――――――ま、今回は失敗しちまったがせいぜい身の振り方は弁えとくことだ。」
ミゲルが制止して嘲りの笑みを浮かべてアッシュを見つめた。すると先程のヒューゴのように二人の足元から黒い瘴気が現れた!
「またこの町でデカい顔してたら次こそ吊るし上げてやるからよ?」
「ヘっ……そういうことだ。覚えてろや、アッシュ!」
そして二人はその場から立ち去った。
「ねえ、今のって……」
「ああ…………ヒューゴ君の時と同じだね。」
「帝国の”呪い”か……」
二人が去った後不安そうな表情をしたトワの言葉に続くようにアンゼリカとクロウは重々しい様子を纏って呟いた。
「……ハッ、あの小心者のオッサンが政府相手に商売、おまけに戦争相手に睨まれる可能性があるとわかっていてそこのチビ猫の情報まで売ったってのも引っかかってたが。ま、今は気にすることじゃねぇだろ。とっとと先に行くとしようぜ。」
「……そだね、今は。改めて北の峡谷道に行こうか。」
鼻を鳴らして答えた後気を取り直したアッシュの言葉にフィーは頷いた。
その後町を出たトワ達はアルスターへと向かった――――――
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