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戦国異伝供書

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第七十二話 六角家からの話その三

「そうであるからな」
「ご婚姻より先に」
「ことを行う」
 こう言うのだった。
「つまりあと数年のうちにな」
「立たれますな」
「元服もその頃であるしな」
 このことも念頭にあり言うのだった。
「そうする」
「そのお考えですか」
「そうじゃ、しかしどうもわしが思ったより尾張ではな」
 この国のことも話した。
「大きな動きがあるな」
「織田弾正殿ですが」
 阿閉が言ってきた。
「今やです」
「尾張を一つにせんとしておられるな」
「はい、うつけ殿と呼ばれていたのが」
「それがな」
「もう尾張の主はです」
 それこそというのだ。
「あの方のものになるのも時間の問題」
「そうなっておるな」
「戦をされれば常に鮮やかに勝たれ」
 そしてというのだ。
「しかもです」
「政もじゃな」
「そちらはむしろ戦よりもとです」
「そう思うな」
「田畑はよく整え開墾も進め」
「堤も橋も道も築かれてな」
「街も整えられ商いを盛んに進められて」
 そうした政を行ってというのだ。
「ご領地は見事なまでに豊かになっている」
「それで民達も懐いておるな」
「悪人を容赦なく追い捕まえ成敗もするので」
「そうしたことでもな」
「織田弾正殿は今やです」
 まさにというのだ。
「尾張の主となられる」
「そこまでの方であるな」
「どうも」
「わしの見た通りじゃな」
 信長、彼はというのだ。
「あの方はな」
「大きくなられる」
「わしよりも遥かにな」
 自分よりも、とも言うのだった。
「なられるであろう、うかうかしておるとこの近江もな」
「織田弾正殿にですか」
「飲み込まれるやもな」
「流石にそれは」
 ないとだ、宮部が言ってきた。
「思えませぬが」
「尾張は遠いからか」
「はい、間には美濃があり」
「その美濃はな」
「斎藤家が治めております」
「そう簡単には進めぬな」
「美濃は道三殿が討たれましたが」
 己の嫡男である義龍にというのだ、美濃の兵の殆どを味方につけた彼に対して道三は討ち死にし首を晒されたのだ。
「しかしです」
「跡継ぎ殿がな」
「はい、今もです」
 まさにというのだ。
「稲葉山城を拠点に織田家と対しておられます」
「だから織田殿もじゃな」
「そうおいそれとは、しかも織田家は東に」
「今川家もおるな」
「幾ら織田弾正殿が英傑でも」
 うつけではなく猿夜叉が言う通りの者であってもというのだ。
「斎藤家、今川家の両方が敵ならば」
「天下人となることは難しいな」
「どちらの家も勢力が大きいので」
「それはその通りじゃ」
 猿夜叉は宮部の言葉を否定せずこう返した。 
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