曇天に哭く修羅
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第一部
乗り越えろ
前書き
_〆(。。)
6月末。
一年生のみによるトーナメント戦【夏期龍帝祭】が開幕する時がやって来た。
舞台となるのは【龍帝学園】の専用ドームとなっているドラゴンズガーデン。
何万もの観客が来ている。
白髪が目立つ《黒鋼紫闇》は整列した選手一同の中に紛れていたのだが、彼はこの毎年行われている大会の様子が違うと感じざるを得ない。
昔から映像で見ていた。
だから判るのだ。
「幾ら何でも客が多すぎる……」
夏期龍帝祭がこれ程に注目されているのは大会初まって以来のことだろう。
夏期は一年のお披露目や新人戦という扱いであり【冬季龍帝祭】のように全学年が参加する選抜トーナメントほど見応えは無いのだから。
なのにドームの席が埋め尽くされるくらいの客数が集まったのは金髪少女で一年生の序列一位《クリス・ネバーエンド》が原因で間違いない。
(人気高けーからな)
彼女を見る為に客は来た。
紫闇と同じ一年だが最上級生の五年生でも圧倒されることが珍しくない実力。
ルックスも抜群。
それは人気が出るというもの。
『さあ今年もやって参りました! 第50回目になる夏期龍帝祭ッ! 参加者は57名!』
熱くなっていく観客とは逆に紫闇の心は冷えていき他の参加者に意識が向かう。
大半は知らない奴だ。
(《江神春斗》が居ないのは残念だが優勝すれば彼奴と戦えるからな)
クリスには悪いが踏み台になってもらう。
この大会は五日から七日に一度の試合日で進行していき1か月に渡って続く。
司会が選手の紹介を終えると参加者は広い控え室に通されて試合を待つ。
「立華紫闇君」
出番が来るまで時間を潰していた彼は呼ばれると胃が痛くなってきた。
「《佐々木青獅》君」
紫闇の気が重くなる。
自分を叩きのめしたまるで小学生のような体格しかないクラスメイトには何れリベンジしなければならないと思ってはいたのだが。
(初戦で当たるとは)
紫闇が視線だけ向けると青獅には以前戦った時の怖い笑みが無く、真剣そのものといった眼差しで紫闇を睨み付けてきていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
二人は控え室を出ると並んで歩く。
「き、君は、どうして、ここに居るの? どうして、戦おうとするの?」
「何で、そんなことを?」
紫闇は当惑する。
「こ、答えてほしい」
青獅には大事なことのようだ。
「理由は沢山ある。けど、一番大きいのは……諦めたくないから、かな」
「あ、諦めたく、ない?」
「そうさ。英雄になりたいって夢を、輝きたいって願望を諦めたくない。だから学園に戻ってきた。だからお前ともう一度戦うんだ」
青獅の瞳が鋭くなると炎が宿り、紫闇からの睨み据える視線を受け止める。
「ぼ、僕にも……立華君と、同じように、ま、負けたくない、理由が、有る……!」
闘技場への通路が分かれていた。
互いの入場口に向かって。
そこで青獅が吼える。
まるで獣が伝えるように。
「ぼ、ぼくの方がッ! 強いッッ!」
紫闇が戦った時とはまるで別人。
遊ぶつもりなどまるで無い。
「俺も前とは違うぜ佐々木……!」
(笑っていた奴等に証明してやる。過去を乗り越えたことを。お前を倒してな)
もう胃の痛みは消えていた。
会場に入ると眩いスポットライト。
紫闇を照らす。
それを浴びて花道を歩く。
耳には歓声。
舞台に上がり青獅と対峙。
舞台ごと結界で包まれる。
バトルフィールドが形成された。
同時に紫闇の右腕が肘まで装甲に覆われたが少し、しかし確実に様相が違っている。
形状は変わっていないものの、以前までは灰色だった【魔晄外装】が黒い。
『一回戦第六試合! 東方は立華紫闇選手ッ! 彼の外装はなんとっ、超稀少でありながら何の価値も無い『規格外』ですッ! そこに一年生の序列最下位という肩書きならば誰もがこう思うはずです! 一体彼はどうやって予選を勝ち抜いたんだ!? と!!』
ブーイングは無視。
(黙って見てろ。直ぐに教えてやる)
立華紫闇が如何な存在か。
対する青獅はと言うと。
「やっぱ中身だけ変わったんじゃないか」
紫闇の見る彼も外装が変わっている。
以前は灰色の棒だったが今は蒼穹色の槍。
外装の形状は本人の成長などによって変化することが有ることが知られている。
『西方は学年序列12位! 佐々木青獅選手ッ! 無礼を承知で断言しますが彼には何の才能も有りませんッ! しかしながら負けん気と根性は天下一ッ! 心の強さで限界を超えてきました! 常軌を逸した凡人は何処まで登るのかッッ!!』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
現在の龍帝一年で序列12位。
元は紫闇と同じ三軍の中でも最底辺。
青獅は紫闇と焔のような出逢いが無かったにも関わらず自力でそこまで駆け上がった。
「佐々木。俺、ずっと謝りたかったよ」
「な、何、を?」
「お前を見下してた。凄い努力家だけど上には行けない。絶対俺の方が上だってな。それを今、謝っておきたい。本当に、馬鹿なこと思ってたよ。過去の俺は節穴野郎だ」
「べ、別に気にしてない……。み、見下されるのは、慣れてる、から」
「佐々木は本当に凄い奴だ。俺にとっては正にトラウマなんだよ。だから───」
試合の開始まで10秒足らず。
「そんなお前を踏み越えて俺はッ!」
青獅が槍を構える。
「先へと進むッッ!」
紫闇は試合が始まると地面を蹴って一直線に相手と間合いを縮めていく。
そして【禍孔雀】を発動。
右手が黄金に輝き固く握り締められた。
振られた腕は真っ直ぐに青獅の顔へ。
直撃した拳がめり込む。
顔面で爆裂。
金色の粒子は花から花粉が撒き散らされるように周囲へと広がっていく。
結界にぶつかった青獅の体は受け身も取られず地面へと落下していった。
10カウントされる間に青獅の【古神旧印/エルダーサイン】は輝く筋となる。
それは紫闇の体に入り込む。
『試合終了ーーッ!! 12秒でノックアウト! 凄まじい圧勝劇ッ! 一発ですッ! まるで歴史的な瞬間に立ち会ったような気分だぁッ!』
ドーム内には数万の色々な声が響いている。
「俺は、乗り越えられたんだな……」
気絶した青獅を見ながら紫闇が呟く。
声援を浴びながら退場。
彼は堪らず胸に滾る思いが口を吐いて言葉となり発露してしまった。
「待ってろよ江神……!」
後書き
_〆(。。)
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