その日、全てが始まった
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第1章:出会い
Prelude
前書き
どうも、希望光です。
今回はバンドリの2次創作です。
ハーメルン様の方でもマルチ投稿させていただいております。
と、早速ですが本編の方をどうぞ。
ホール一帯に木霊した鍵盤の音。
奏者である彼は、束の間の余韻に浸った後に、鍵盤からそっと手を離した。
それにより、木霊していた音もピタリと止んだ。
彼は椅子から腰をあげると、客席側へ一歩踏み出しお辞儀をした。
その途端、客席からは嵐のような拍手が沸き起こった。
彼は、拍手をBGMに舞台袖へと歩いて行った。その舞台袖には、彼を迎えるかのように2人の少女が待っていた。
「お兄ちゃん!」
そう少女に呼ばれた彼は、駆け寄ってくる少女を抱きとめる。
「走ったら危ないだろ」
彼はそう少女に注意すると、もう1人の少女の方へと顔を向けた。
「どうだった?」
「凄かったよ」
「そっか」
彼はそう言うと、抱きとめていた少女を離し、2人とともに舞台袖を後にした。
「2人が喜ぶなら———幾らでも奏でるよ」
そう、呟きながら。
誰もが彼は一流の奏者になると信じて疑わなかった。
しかしこの後、彼が音楽から手を引いてしまうということを、この時まだ誰も———彼自身も知る由がなかった———
———数年後のとある日。
普段と同じように、目覚めた彼は普段と同じように朝食を摂り、普段と同じように支度をした。
そして、玄関に向かい靴を履き終えた彼は、傍の手提げを掴むと立ち上がり、玄関の扉を開いた。
そして、扉の側に停めてあった自転車の前かごに、手提げを入れると自転車に素早く跨がり、自転車を漕ぎだした。
何時迄も、こんな何の変哲も無い平凡で平穏な日常が続いていく。
この時の彼は、そのことを信じて微塵も疑わなかった———
途中、寄り道しながらも自転車を漕ぐこと約1時間。彼こと『氷川 洸夜』は、自身の通う隣町の高校———倉中第一高等学校へと到着した。
自転車通学者の指定駐輪箇所へ自転車を停めた彼は、校舎へと入った。
そして、昇降口で運動靴から上履きへと履き替えた彼は、自身の教室に入った。
「あ、洸夜ちょうど良いところに」
すると———教室に入った彼に、声がかけられる。
何事か、と思い振り向くと自身の友人の1人、ツンツンとした髪型が特徴の青年『鹿島 祐治』が手招きをしていた。
何事だろうかと思った洸夜は、彼の元へと歩み寄った。
「おはようさん。朝からなんだよ」
「おはよう」
洸夜の言葉に短く返した祐治は、実は……と切り出した。
「バンドのメンバーが1人ぶっ倒れちゃって演奏ができないんだ。だから頼む! そいつの代わりに入ってくれ!」
突然の頼みに、洸夜は動揺した。
「な、何で俺なんだよ?」
「そりゃ、アレだよ。俺の周りで頼める奴がお前ぐらいしか居なかったんだよ……」
祐治の言葉に、洸夜は頭を抱えた。
「なんだよ……その理由……」
「頼むよ〜……こんなこと頼めるのは親友のお前ぐらいなんだって……」
そう言った祐治は、自身の顔の前でパン、と両手を合わせた。
「この通り!」
「ハァ……わかったよ」
洸夜は渋々といった感じで了承した。
「……で、そのライブはいつあるんだ?」
「明後日。場所は『CiRCLE』だ」
「CiRCLEね……」
洸夜は、少し神妙な面持ちになった。
それに気付いた祐治は、洸夜へと問いかけた。
「どうかしたのか?」
「いや、なんでもない。それと場所の件は了解した」
そう言ったところで、始業のチャイムが鳴ったため、洸夜は座席へと向かった———
———放課後。帰宅した洸夜は、自宅の2階にある自室へと駆け込んだ。
そして、自室のクローゼットを開いた。
そこには、赤と白のギターが収められていた。
「……久し振り……だな」
洸夜はそう呟くと、ギターを取り出した。
そして、クローゼットの傍にあったギターケースにギターを仕舞うと、カバンと手提げの付いた箱を持ち部屋を出た。
廊下に出たところで洸夜はとある人物と鉢合わせた。
「……出かけるの?」
「紗夜か……帰ってたんだな」
洸夜が鉢合わせたのは、彼の同い年の妹である『氷川 紗夜』だった。
「ええ、たった今ね」
「そうか。で、俺の方は今から用事で出てくる。母さんに伝えといてくれ」
「わかったわ」
そう言った洸夜は、玄関へと向かった。
そして靴を履こうとした瞬間、玄関の扉が開いた。
「たっだいま〜! って、お兄ちゃん。何してるの?」
「日菜か。お帰り」
帰宅してきたのは、氷川兄妹の末っ子にして、紗夜の双子の妹である『氷川 日菜』である。
「ただいま、お兄ちゃん!」
「お、おい!」
突然日菜に抱き着かれた洸夜は、バランスを崩しかけていた。
「危ないだろ日菜!」
「んー。やっぱりお兄ちゃんは落ち着くよ〜」
「どういう意味だよ……」
日菜の言葉に突っ込みながらも、洸夜は日菜を自身からはがした。
「俺は用事があるから出かけてくる」
「わかった。いってらっしゃい」
言葉を交わした洸夜は、玄関の扉を開くのであった———
———『CiRCLE』へと到着した洸夜は、中へと入った。
だが、始めてきた場所が故か、洸夜は受付の位置がイマイチ理解できないでいた。
そこで洸夜は、近くにいた人に尋ねることにした。
「あのーすいません。少しお尋ねしたいことが……」
洸夜が話しかけたのは、自身と同い年くらいの銀髪ロングの少女と、茶髪の髪をポニーテールに結っている少女の2人組だった。
「……なんでしょうか?」
洸夜の言葉に、ポニーテールの少女が答えた。
「ここの受付ってどこにありますかね?」
「それなら———」
「———すぐそこのカウンターよ」
ポニーテールの少女の言葉に、ロングの少女が続けて答えた。
「そうですか。ありがとうございます」
そう言って洸夜は、示されたカウンターへと向かった。
「すいません」
「はーい。どうしたの?」
洸夜の対応に当たったのは、黒髪ショートの女性だった。
「ここの練習スタジオを借りたいんですけど」
「1人で?」
「はい。で、ギターとベースとキーボードも借りたいんですけど」
「……1人で?」
女性は洸夜に対し、怪訝そうな顔で訪ねた。
「え、はい」
「わかったわ。ちょっと待ってね」
そう言って女性は奥の方へと入っていった。
洸夜は、カウンターの前で立ち尽くしていた。
「———ねえ」
すると、洸夜に声がかけられた。
振り向くと、先ほどの銀髪の少女が立っていた。
「何?」
「貴方、1人であの数の楽器を演奏するの?」
「そのつもりだが……もちろん、同時に演奏するなんてのは無理だがな」
それを聞いた少女は、少し考え込む仕草をした。
「どうかしたのか?」
洸夜は、その少女へと尋ねた。
「良かったら、貴方の演奏聞かせてくれないかしら?」
「……俺の?」
「ええ」
「私も気になるな〜」
そう言って、茶髪の少女が話に入ってきた。
「……わかった。聴けばいいさ」
洸夜は悩んだ挙句にそう言った。
「本当! ありがとう!」
あ、と言ってた茶髪の少女は続けた。
「自己紹介がまだだったね。アタシは今井リサ。宜しくね。で、こっちが———」
「湊友希那よ」
と、銀髪の少女が続けて名乗った。
「俺は、氷川洸夜。なんて呼んでくれても構わない。宜しくな、今井、湊」
洸夜の名前を聞いたリサと友希那は、顔を見合わせていた。
「……どうかしたのか?」
「なんでも無いわ」
「ただ私達の知り合いにも、氷川って名字の人がいるなと思っただけ」
「そうか。まあ、俺の名字なんて珍しいものでも無いからな」
洸夜がそう言うと同時に、受付の女性が戻ってきた。
「部屋の準備出来ましたよ」
「わかりましたありがとうございます。後、見学者が入るのって大丈夫ですか?」
「そこの部屋の使用者が認めていれば大丈夫だけど」
「そうですか。えっと……」
「月島まりな。まりなで構わないよ」
そう、受付の女性は名乗った。
「わかりました、まりなさん」
「あ、部屋はCスタジオね」
「はい」
そう言って洸夜は、Cスタジオに入っていった。
それに続いてリサと友希那もスタジオに入っていく。
そして扉を閉めると、洸夜は手に持っていたケースを床に置き、開いた。
「……それは?」
「ああ、これか」
リサに尋ねられた洸夜は、それを取り出し2人に見せた。
「ヴァイオリンだよ」
洸夜の手には手入れがしっかりとなされた1台のヴァイオリンが握られていた。
「あなた、ヴァイオリン奏者なの?」
「いや。ただ、昔ちょっと弾いてただけさ」
そう言った洸夜は、近くにあった椅子に腰を掛けると演奏の構えを取った。
「何か、弾いて欲しい曲とかある?」
「そうね……なら、あなたが1番自信のある曲をお願いするわ」
友希那の言葉に頷いた洸夜は、ヴァイオリンを弾き始めた。
その曲は、疾走感があり、到底ヴァイオリンで奏でる曲ではなかった。
「す、凄い……!」
「ええ……!」
2人は、洸夜の圧巻の演奏に飲まれていた。
洸夜はと言うと、演奏に集中するため、目を閉じて演奏していた。
そして、約3分の演奏が終わった。
洸夜は、そっと目を開いた。
「凄かったわ」
「ほんとほんと。引き込まれるような演奏だったよ」
友希那とリサは、洸夜に対してそう言った。
「……そうなのか?」
「ええ。貴方相当な才能があるわね」
「そうなのか?」
「そうだよ。プロの奏者にも負けないぐらいだったよ」
「2人がそう言うなら、そう言うことにしておくよ」
洸夜は、そう言ってヴァイオリンをケースへと戻した。
「さてと……今日の本題に入るか」
「こっちにある楽器を演奏するのね」
「そう言うこと」
そう言って洸夜は、キーボードの前へと立った。
「洸夜って、普段どこ演奏してるの?」
リサは、洸夜にそう尋ねた。
「普段は……演奏やってないんだ」
「え、バンド組んでるわけじゃ無いの?」
洸夜は頷いた。
「うん。今回は、助っ人を頼まれたからね」
それに、と洸夜は続けた。
「俺は、もう……演奏とかはしないって決めてたんだ……」
「……じゃあ、なんで?」
洸夜は笑いながら言った。
「親友から頼まれたから、さ」
「友達思いなんだね」
「まあ、な。数少ない友達だし」
洸夜は、鍵盤に手を置くと流れるように鍵盤を弾いた。
「音階は……把握っと」
そう呟いた彼は、演奏を始めた。
彼が選曲したのは、知らない人はいないのでは無いのかというほど有名な、某ボーカロイドの曲。
「……楽譜を見ないで?」
リサは、洸夜の演奏を見ながら呟いた。
事実、彼は楽譜などを一切見ずに演奏している。
そして、1番のサビが終わったところで、彼は演奏の手を止めた。
「こんなもんかな」
そう言った洸夜は、今度はギターを手にした。
「さてと、こっちの感覚は生きているのかな……?」
「あ、私とセッションしようよ?」
「いいけど、今井はベースなのか?」
「そうだよ。アタシと友希那を含めた5人でバンドやってるんだけど、そこでアタシはベースをやってるんだ」
「私がリーダー兼ボーカルよ」
リサの言葉に続いて、友希那が言った。
「2人は同じバンドなのか」
それを聞いた洸夜は、どこか納得したように頷いた。
「なるほどな。あ、曲どうする?」
洸夜は、自身の持つスマートフォンに映し出した候補をリサへと見せた。
「んー、アタシが決めてもいいのかな?」
「ああ。寧ろそうしてくれるとありがたい」
「オッケー。じゃあ、これ」
そう言ってリサは、某人型決戦兵器が出てくるアニメの主題歌を選択した。
「なら、私も歌わせてもらおうかしら」
そう言って、友希那が話に入ってきた。
「3人でか。面白そうだしいいんじゃないかな」
「そうだね、でも、ドラムとかなしでも大丈夫かな?」
「その辺はご心配なく」
洸夜の言葉に、2人は顔を見合わせた。
「俺がそこまでの分を、演奏でカバーする」
「……できるの?」
友希那は、洸夜へと問いかけた。
「……ああ」
「わかったわ」
そう会話を交わすと、3人は演奏へと移った。
演奏に入って直ぐ、リサと友希那は気付いた。
彼は、宣言通り足りない楽器のパートをカバーしていることに。
そして、そのことが初めての演奏にも関わらず、完璧にシンクロさせているということも。
演奏後、リサと友希那は今までに感じたことのないような心の昂りに気づいた。
「……こんなものかな」
そう呟いた彼の耳に、2人の会話が入った。
「洸夜の演奏って、人を魅了するものがあるよね」
「ええ」
「おいおいよしてくれよ……お2人さんや」
洸夜は満更でもないと言った様子であった。
「事実よ。貴方は人を魅了する演奏ができる。それだけの才能を持っている」
改まった様子の友希那はそれに、と言って続けた。
「1人であそこまでカバーができる奏者も中々いないわ」
「洸夜はもっと胸張ってもいいと思うけど」
「そんなことないってば。第一俺は———」
口々に言われたことに対して、洸夜は反論しようとした。
しかし、彼の言葉途中で止まってしまった。
そして、唖然とした表情で、扉の方を見つめていた。
それに続くように、友希那とリサも扉の方へと視線を送る。
そこにいたのは、洸夜が最もよく知る人物。
「……洸夜、こんなところで、何してるの?」
「……紗夜?」
同時に———洸夜が今、この場所に置いて最も会いたくない人物であった。
後書き
今回はここまで。
次回もどうぞお楽しみに。
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