戦国異伝供書

「あの方への想いが強過ぎると」
「吉法師殿をですか」
「裏切ってしまうかと。孝と信に挟まれて」
「孝が勝つと」
「その危うさも。ただ浅井殿のお父上は」
　雪斎は久政の話をさらに話した。
「もう隠居されているので」
「それで、ですな」
「何かをされることはないので」
「安心出来ますか」
「ほぼ。ですから徳川殿は」
「浅井殿とですか」
「両翼になられて」
　織田家のというのだ。
「そしてです」
「天下統一にですな」
「お力を貸されるべきです」
「それでは」
「その様に、しかし吉法師様は」
　今度は信長のことを話すのだった。
「噂では冷酷だの苛烈だの言われていますが」
「その実は、ですな」
「全く違いまする」
「温かく、ですな」
「穏やかな色の強い方です」
「それが吉法師殿です」
「そうですな」
「はい、ですから」
　それでとだ、今度は家康から雪斎に話した。
「雪斎殿もです」
「吉法師様にお仕えして」
「天下統一の為に励まれれば」
「よいですな」
「そうかと」
「その通りですな、どうも」
　雪斎も笑って応えた。
「天下はです」
「吉法師殿によって」
「一つになりますな」
「そうなりますな」
「では拙僧も」
「これからは」
「その為に」
　二人でこう話してだった。
　家康は雪斎と茶を飲みその後で酒も楽しんだ、仕える家は違う様になったがそれでも師弟の絆はそいのままであった。


第七十話　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０１９・１０・１５