戦国異伝供書

「これからのことは」
「それがどうも」
　困った顔でだった、元康は雪斎に答えた。
「どうすべきか」
「わからぬか」
「主家を失いました」
　そうなったことを話すのだった。
「完全に。それではです」
「どうすべきか、か」
「とんと考えがつかず」
　それでというのだ。
「今も考えています」
「そうか、ならお主の家臣達の話を聞いてな」
「一番よい様にですか」
「せよ、お主も今言ったがお主は今主家を持たぬ」
　そうなってしまったというのだ。
「そうなったからには」
「領地、民達、家臣達、そして妻子の為に」
「最もよい様にな」
「すべきですか」
「そなたの才覚なら」
　元康のそれならというのだ。
「どの家でも重く用いられる」
「武田家からも」
「そして織田家からもな」
「そうなりますか」
「うむ、しかしな」
　それでもというのだ。
「お主は大名となってもな」
「それがし自身で立ち」
「かなりの者となるわ」
「そうでしょうか」
「うむ、このことはこれまで言わなかったが」
「それがしをそうした者ともですか」
「見ておった、大名としては百万石以上の者とな」
　そこまでというのだ。
「見ておった、天下人やもとな」
「流石にそれは」
「ははは、これは師の弟子贔屓かも知れぬが」
　内心本気で思っていたがここは冗談で打ち消した。
「しかしそれがしは大名になってもな」
「やっていけますか」
「この三河一国位はな」
　それこそというのだ。
「何でもないわ」
「そうですか」
「そしてそなたが治めるなら」
「三河はですか」
「民達も家臣達もな」
　その彼等もというのだ。
「治まる、だがその場合は」
「大名になるなら」
「尾張と隣じゃが」
　それでもというのだ。
「ここまで言えばわかるな」
「はい、吉法師殿とは」
「何があっても争うでない」
「争えば」
「今でも負けるしじゃ」
　それにというのだ。
「この数年のうちにとてつもなく大きな家になるからのう」
「何があっても勝てぬ」
「そうした相手になるからな」
「何があっても争ってはならない」
「そうじゃ、逆に手を結ぶとな」
「これ以上はないまでのお味方になってくれますな」
「そうなれば三河もお主も安泰じゃ」
　信長、彼と手を結べばというのだ。
「そのこともわかっておくことじゃ」
「わかり申した」
　実際にとだ、元康も答えた。