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戦国異伝供書

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第七十話 独立その一

                第七十話  独立
 今川軍は桶狭間で信長が率いる二千の軍勢に本陣を雨の中急襲を受け惨敗した、それも当主である義元に跡継ぎの氏真そして今川家の主な者達も織田家に捕えられた。
 この話を丸根と鷲津の砦を攻める中で聞いた元康はその報を聞いた瞬間に言った。
「吉法師殿ならな」
「この度のことも」
「信じられる、こうなってはな」
 すぐにだ、元康は言った。
「戦どころではない」
「それでは」
「すぐに兵をまとめ」
 そしてというのだ。
「岡崎まで退くぞ」
「そうしますか」
「その話を聞いたならじゃ」
 報をしたのは伊賀者だ、忍の者達だけあってその報は実に速かった。元康はこのことからも言うのだった。
「すぐに退く」
「わかり申した、それでは」
「和上にもお伝えせよ、すぐにじゃ」
 それこそと言うのだった。
「わしが殿軍となるからな」
「軍を率いて退かれよと」
「お伝えせよ、よいな」
「わかり申した」
 報をした忍は元康の言葉に頷きそうしてだった。
 雪斎の下に向かった、元康はそれを見届けるとすぐに周りの松平家の将兵達に対して強い声で告げた。
「ではよいな」
「はい、それではですな」
「これよりですな」
「退きに入りますな」
「陣を引き払い」
「そのうえで」
「吉法師殿は今は清州に戻られておる」
 元康は冷静な顔で述べた。
「そして一万二千の軍勢は美濃に張り付いておる」
「それではですな」
「我等は今のうちにですな」
「退きますな」
「岡崎まで」
「丸根と鷲津の千の兵が気付く前に」
 彼等のことも話した。
「退くとしよう、ただ」
「ただ?」
「ただといいますと」
「この度の戦は木下殿の働きは大きかったという」
 このことも話すのだった。
「あの御仁は素早く頭がよく回る」
「それで、ですか」
「木下殿に気付かれぬ様」
「その様にですな」
「退くのじゃ、速くな」
 こう言ってだった、元康は自ら軍勢の間を動き回って命を下していった。そうしてそのうえでだった。
 すぐに全軍を退かせた、その退きは迅速であり桶狭間の戦後処理を行っている織田軍が来る前にだった。
 尾張を出ることが出来て岡崎にも無傷で戻れた、岡崎に戻るとすぐにだった。
 元康は駿河の朝比奈に文をやり妻子と妻の実家の者達を岡崎に呼ぶ許しを得てそのうえで今後のことを考えることにした、まずは先の戦の詳しい話を集めたが。
 その話を聞いて元康は苦い顔で話した。
「参陣されていた今川家の方々はか」
「はい、どの方もです」
 服部が元康に話した。
「織田家の虜となられ」
「そうしてじゃな」
「どの方もご健在ですが」
 それでもというのだ。
「厚く遇されているとはいえ」
「虜となられてじゃな」
「出家させられようとしているとか」
「それではじゃ」
 元康は服部の話をここまで聞いて述べた。 
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