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クーぐだ♀ワンライまとめ

作者:秌薊
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第8回 やきもち(槍ぐだ♀)

 
前書き
ぐださんが眺めていた宝石から連想してしまった誰かに妬いてしまう槍(1,300文字)
キスの描写があります
 

 

 魔力の感知にやや疎い少女を霊体化したままじっと凝視する。驚かせてやろうという当初の目論見は、すぐに取り下げた。なにせ、不規則に唸り声を発しながらタブレットを操作している、その様があまりにも真剣だったから。

「しっかしまあ……」

 相変わらずな少女の耳に届かぬよう口の中だけで呟く。サーヴァントの強化、素材あたりに悩んでいるのかと思いきや、なんと彼女は輝かしい宝石の写真を見比べていたのだ。とうとう、色気付きやがったか――。
 うっかり舌打ちをしかけ、己は何にイラついているのだと我に返る。別にマスターは公私混同している訳ではないというのに。

「分っかんねぇなぁ」
「なにがー? あれ、ランサーいつの間に」
「おう。ついさっきな」

 ぎくり、一瞬だけ強張った身体には気付かれていまい。平然を装って実体化し、好機を逃がさず問いかける。のんびりとした少女の声でいくらか緩和されているものの、あの不明瞭な感覚は依然として蟠っていた。背中へ圧し掛かりながら、琥珀色の頭頂部に顎を乗せる。

「おーもーいー! やめてよー」
「オレの質問にちゃあんと答えられたらやめてやるよ」

 拒否感の薄い、言葉だけの抗議が耳に心地よい。敢えてぐりぐりと頭を揺らしてやれば、とうとう少女の笑い声が弾けた。

宝石( こ れ)?」
「欲しいのか」
「んーん、ちょっと違う、かな」

 トン、と細い指が液晶の上を跳ねる。空気と皮膚、双方から届く音に照れが混ざったことに気付かぬ己ではない。収まりつつあった靄が鎌首をもたげそうになり、表示されたままのきらびやかな画像を睨み付ける。言えよ、と互いの表情が見えないのをいいことに拘束を強めて先を促す。

「うわ、わ、力入れないでって、ちゃんと、言うからあ」
「よし」
「その、ね……。――の、色を身に付けるなら、どっちがいいかなって。出来たら両方がいいんだけど、センス良くないとダメだし」
「は?」

 思わず間抜けな声が出てしまった。聞き間違いでなければ、この少女は(オレ)の色だと言わなかったか。視線を手元へ落とした先、画面をよくよく確認してみる。ああ、確かにそうだ。ずらりと並んでいる宝石達は全て、青か赤、どちらかの色のものであった。てっきり、赤い弓兵やキャット、青いセイバーや玉藻の前あたりのそれだと決め付けていたのだ。違うのか、するりと落ちた呟きにむくれていた少女が動いた。

「これだけ一緒に居るのに、気付いてくれないの?」

 されるがまま、頬を包まれ明るい瞳を見返す。そこには激情にも似た光が揺れている。そうだな、察しが悪かった。腰元へ腕を伸ばし、正面から囲い込んで囁く。

「分かればよろしい。それに、ちょっと嬉しかったし」
「オレとしちゃあ、格好つかねえんだがな」

 密かな笑い声を咎める意味も込めて額を合わせる。先程の突き刺さるような視線は鳴りを潜め、己にだけ見せるキラキラした橙が覗いていた。

「やっぱり、どれも要らないかな」

 額に瞼に鼻に、頬。突然の言葉に、降らせていた軽いキスを止める。

「そうか?」
「うん。クーが傍に居てくれたら、それが一番だから」

 愛らしい笑顔と共にもらった想いのお返しに、とびきりの口付けを送るとしよう。もし、この少女へ宝石を贈ることがあるのならば、その時は。彼女の髪と瞳と同じ、甘い色をしていながら強い光を秘めたものがいい。



 
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