魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第7章:神界大戦
第229話「前を見据えて」
前書き
再び地球組sideに戻ります。
「……じゃあ、行くよ」
「うん」
「……ッ!!」
―――“破綻せよ、理よ”
“パキン”と、何かが割れる音が司の脳裏に響く。
そして、何かが切り替わったと確信する。
「……凄い。本当、言葉に言い表せないけど……確かに変わった……」
「……ふぅ」
驚き、感心する司。
一方で、自分ではなく他人に破壊の瞳を使うため、緋雪はかなり集中力を使い、既に疲労の色を見せていた。
司にする前に、確実に他人に使えるように、再生能力の高い葵で何度か練習していたため、その疲労もあった。
「大丈夫?緋雪ちゃん」
「うん……こうすれば……!」
―――“破綻せよ、理よ”
再び、破壊の瞳が握り潰される。
すると、今度は緋雪の顔色が良くなった。
“疲労”を破壊したのだ。
「……この短時間で、緋雪ちゃんかなり万能になったね」
「でも、今はまだ集中しないと出来ないよ。……本当に必要なタイミングじゃあ、きっと集中出来ない。それだと、今までと変わらないよ」
確かに、今の緋雪の破壊の瞳は強力だ。
しかし、まだ戦闘中では物理的な破壊しか出来ない。
その場でしっかりと集中しなければ、まだ概念の破壊とまではいかない。
だからこそ、緋雪にとってはまだ足りない。
「……あれ?緋雪ちゃんと……司さん?それに椿さんと葵さんまで……」
「あ、なのはちゃん、奏ちゃん」
そこへ、なのはと奏がやってくる。
二人は体の調子を確かめた後、しっかりと休息を取って、改めてここに来ていた。
ちょうど、休息のタイミングで司や緋雪が部屋を使っていたのだ。
「……皆も、諦めていないのね」
「当然だよ奏ちゃん。諦められる訳がない」
呟くように言った奏の言葉に、緋雪が悠然と返す。
「二人は何しにここに?」
「体の調子を確かめに……一応、休憩前もしたんだけど、その時は全然疲労が取れてなくて……それで、改めてここに来たの」
「そっか……あ、緋雪ちゃん。二人にもしてあげられる?」
「いいよ。ちょっと待ってね。まずはなのはちゃんから……」
「……?」
緋雪がなのはに手を翳し、その様子になのはは首を傾げる。
“瞳”を掌に出した所で、一体何をするのかとなのはは顔を引き攣らせる。
「えっ、緋雪ちゃん……?」
「じっとして。結構集中するんだから……!」
―――“破綻せよ、理よ”
そして、司にやったように“瞳”を握り潰した。
「え……?今、何を……?」
「緋雪……?」
「次は奏ちゃんだよ」
―――“破綻せよ、理よ”
驚くなのはと奏を余所に、緋雪は次に奏に手を翳す。
そして、同じように“瞳”を握り潰した。
「っ……?これは……?」
「“限界”の破壊だよ。それと、もう一つ……!」
その後緋雪は二回も“瞳”を握り潰す。
“パキン”という音が、二人の脳裏に響いた。
「神界と私達。その間にある決定的な“壁”の破壊」
「さっきまでより早くなってるわね」
「連続だからだよ。やっぱり、集中する必要はあるみたい」
先程までより、集中する時間は短くなっている。
しかし、それは“捉え方”が分かって来ただけで、強く集中するのは変わらない。
「えっと、何をしたの?」
「緋雪の言った通りよ。一回目は“限界”の破壊。これで鍛えれば限りなく強くなれるわ。そして、神界と私達の間に存在する決定的な差。その“壁”の破壊よ。これで、“格の違い”って言うのをはっきりと理解出来るでしょう?」
椿の説明を受けても、なのはは理解しきれずに首を傾げる。
少しして、ようやく理解が及び、“えっ”と言って固まった。
「今のままではいけないから、限界を超える。言葉にするのは簡単だったけど、実際に為そうとするのは至難の業。……それを、緋雪は解決できるようになったの」
「それが……今の“破壊”」
「神の権能に匹敵……いえ、それ以上の力を持つわ。それこそ、神界の方の神と同等よ。だからこそ、私達に勝ち目が生まれる」
「今までは“格の違い”が何がどうなって、どうすれば追いつけるのか分からなかったけど……今なら分かるでしょ?」
続けられる椿と葵の説明に、なのはと奏は驚きを呑み込むように喉を鳴らす。
「……うん。それに、もしかしたら今なら神界の存在に攻撃が通じるかも……!」
「さすがにそれは……」
“まだ無理だろう”と、司は苦笑いして……その笑みが引き攣った。
なのはと奏から微かに漏れた魔力を感じて、“格”が違うと確信したからだ。
“格の違い”を理解出来る今だからこそ、気づけた事実。
さすがに神界の存在にそのまま通用するとは思えないが、少なくとも神降しをした優輝よりはかなり上の“格”だった。
「あ、貴女達、その“格”は一体……?」
司以外も気づいたようで、椿が尋ねる。
そこで、司は思い当たる事があった。
「……もしかして、“天使”……?」
「……うん」
「だ、大丈夫なの?」
“自分であって自分じゃない”。その感覚は表現しがたい恐ろしさがある。
その事が心配で、司は二人に問いかける。
「大丈夫だけど……?」
「……いつかは向き合う必要がある。その時がもう来ただけよ」
しかし、二人は平気そうにしていた。
奏の言う通り、“向き合う時”が来たのだ。
「……そっか。もう、心配ないんだね」
「そうよ」
実際に対話した事を、司は知らない。
それでも、奏の目を見れば心配の必要がない事は分かった。
『なのはさん、少しいいかしら?』
「リンディさん?」
いざ体の調子を確かめようとした時、なのはにリンディから通信が入る。
『フェイトさんが目を覚ましたそうよ』
「っ!分かりました、すぐに向かいます!」
重傷者の一人だったフェイトが目を覚ます。
その知らせを聞いて、なのはは飛び出すようにフェイトの元へと向かった。
「フェイトちゃん、目を覚ましたの?」
「うん!ごめん奏ちゃん、また後で!」
「いえ、私も行くわ」
「私達も行く?」
「そうね」
「行こー行こー」
なのはにつられるように奏や司、緋雪達全員もついて行く。
「フェイトちゃん!」
「なのは……」
「……随分、大人数で来たね」
部屋に辿り着くと、そこにはフェイトだけでなくリニスやアリシアもいた。
アリサとすずかも先に来ていて、さすがに部屋がいっぱいになる。
「あー、私達は出ておくわ。同年代同士や家族の方がいいでしょ」
「あ、じゃあ私も扉の前にいておくから、落ち着いたら呼んでね」
そこで、すぐさま椿と葵が遠慮して部屋を出る。
それに倣って、司も外に出ておく。
「……かなり恐怖を抱えていたわね」
「……そうだね」
外に出た椿と葵は、壁にもたれつつフェイトを見た感想を言う。
「やっぱり……。フェイトちゃんから感じた感情、かなり乱れてたから……」
感情に鋭い司も、同じような意見だった。
「……そうだよね。あんなに何度も殺されたのだから、トラウマになってもおかしくはない。私だって、優輝君を助ける気持ちがなかったら、絶対に挫けてた」
「ええ。でも、私達も、緋雪も、奏も、何人も立ち上がったわ。フェイトも、大丈夫なはずよ。きっと、立ち上がってくれる」
「そうなの……?」
フェイトとは特別親しくしている訳ではないが、椿は断言する。
そのため、本当なのか司は聞き返した。
「私はフェイトの魂に触れた事があるわ。貴女が神夜と戦った日にね」
「あ……あの時の」
司が珍しくキレ、神夜を痛めつけた日。
あの時、椿は神夜の魅了を解くために、フェイトの魂に触れていた。
「だから、分かるのよ。彼女は繊細に見えるし、実際に繊細な部分もある。……でも、とても我慢強いわ。そして、周りに支えてくれる人がいるなら、きっと乗り越えられる。そんな人間よ」
「そっか……そうだよね」
司もフェイトの事を何も知らない訳じゃない。
強い所も知っている。……だからこそ、信じる事にした。
「……皆は、怖くないの?」
一方、部屋の中では。
アルフが持ってきたお粥を食べながら、フェイトはポツリと皆に尋ねた。
「……怖いよ。凄く、怖い」
「そうね……皆、怖いのは変わらないでしょうね」
アリシアが寄り添いつつ答え、アリサも同意する。
「なら、どうして……」
“そんな平気そうに振る舞えるのか”。そういう前に、フェイトはハッとする。
見せかけだけで、本当は平気ではないのかもしれないと、そう思ってしまう。
「……まぁ、ちょっとは無理してるかもだけどね。……でも、“どうにもならない”、“途轍もなく怖い”と思った所で……何か変わる?って思ったんだ」
「っ………」
「怖いよ。凄く怖い。それは今も変わらない。でも、それでも、諦めたくないんだよ。皆も、諦めきれないから、まだ諦めていないんだよ」
「諦めきれないから……」
だけど、違った。確かに、平気ではなかった。
でも、その上で前を向こうとしている。それをフェイトは理解した。
「フェイトは、諦めきれる?」
「私は……」
すぐには答えられない。
アリシアもそれを分かって問うたのか、それ以上は追求しなかった。
「まぁ、目覚めたばかりだからね。気晴らしに散歩とかしてもいいよ。ただ、誰か付き添いか連絡出来るものを持ってね」
「……分かった」
思う所はあっても、気持ちに整理がつかないのだろう。
フェイトは、アリシアに言われた通りに、気晴らしに散歩をする事にした。
付き添いとして、アリシアも連れて。
「……フェイトは我慢強いよね」
「……そう、かな?」
廊下を歩きながら、ふとアリシアが呟く。
自覚はなかったのか、フェイトは首を傾げていた。
「そうだよ。過去が過去だから、そうなったのかもしれないけど……それじゃあ、本当に辛い時がさらに辛くなるよ」
「………」
「誰か、自分の弱さを見せられる人がいないとね」
そう言いながら、ふとアリシアは気づく。
“優輝に、そんな相手はいたのか?”と。
「……優輝は……そっか、だから、なんだね」
「……お姉ちゃん?」
「んーん、何でもないよ」
優輝は最後しか真に誰かを頼る事をしなかった。
それが、先程気づいた疑問の答えだった。
「それより、やっぱりフェイトも辛いんだね」
「え……」
「普段と違って、私の事“お姉ちゃん”って言ったでしょ?」
普段、フェイトはアリシアの事を名前で呼ぶ。
姉として呼ぶとしても“姉さん”だ。
“お姉ちゃん”と呼ぶのは、寝ぼけている時など、平静じゃない時だけだった。
それ故に、本当にフェイトが辛そうにしているのだと、アリシアは見抜く。
「あっ……」
「……んー、そっか。まぁ、恐怖っていうのは抱え込みたくなるものだからね。私にも打ち明けられないのは何となく分かるかな」
「……ごめんなさい……」
「謝る事はないよ!私がもっと頼れる雰囲気出せてたらなぁとは思うけど、フェイトに落ち度はないから!」
そう言いつつも、アリシアは付き添いは自分以外の方がよかったと思っていた。
母親であるプレシアはまだ眠っているが、リニスもあの場にはいたのだ。
家族兼、フェイトの魔法の師匠でもあるリニスなら、上手く対応していた。
何となく、アリシアはそう思ってしまった。
「……あれって……?」
「え?どうしたの?……あっ」
ふと、フェイトは廊下の先にいる人物を見つける。アリシアも遅れて気づく。
「神夜……?」
「あ、フェイトにアリシアか。……二人共目を覚ましていたんだな」
神夜もフェイトとアリシアに気付く。
そんな彼は、どこか疲れ果てている様子だった。
「神夜は……」
「俺もそう早く目を覚ました訳じゃないが……まぁ、ずっと考え事してた」
神夜は神界での最後の戦いで、他の皆を守るために盾になっていた。
そのため、肉体はともかく精神や魂へのダメージがあったため気絶していた。
時間としては、アリシアと同じぐらいに目を覚ましていたが、今の今までずっと考え事をしていたらしく、外出していなかった。
「考え事?」
「大した事……でもあるか。今じゃ。……葛藤してたんだよ。俺に魅了の力を与えた神に負けて、諦めたい気持ちと諦めたくない気持ちでな」
「それって……」
神夜もまた、フェイト達と同じように思い悩んでいた。
あれ程の力を見せられて、敵うはずがないと諦めたくなる。
だけど、そうするともう何も残らないため、諦めたくない。
そんな、相反する二つの考え。
それを神夜も持っていたのだ。
「……でも、考えれば考える程、諦めたくない気持ちが強くなってな。……俺はまだ贖罪が出来ていない。それをしないまま、終わる訳にはいかないからな。……それに」
「それに?」
―――「その鬱憤はお前に力を押し付けた元凶にぶつけてやれ」
「……奴らを倒す理由が増えたからな」
魅了の力を持たせられていた事に気付かされ、酷く凹んでいた時。
神夜は帝の言葉で立ち直っていた。
その帝も、今はもういない。生死不明ではあるが、助かる見込みはないだろう。
……だからこそ、神夜は立ち上がった。
「“仇を取る”……なんて、そんな大それた真似をする資格があるかはわからないけど、まだ諦める訳にはいかないんだ」
「神夜……」
「……そっか。……ちょっといいかな?」
「ん?」
「フェイトはちょっと待っててね」
嘘ではない。アリシアは神夜の目を見てそう判断した。
だからこそ、ふと気になった事を問うために一度フェイトと引き離す。
会話を聞かれないように軽く防音の術を掛け、アリシアは神夜に問う。
「これは確認だよ。……ジュエルシード事件の時、フェイトのために動いたのは、相手が“フェイト”だったから?」
「……どういう、事だ?」
「以前、帝から聞いたんだ。私やフェイト、なのは達は、転生者の皆にとって元々はアニメとかの登場人物だったって。……神夜も、そうだったの?」
「それ、は……」
神夜は言葉を詰まらせる。
それは、アリシアが“自分達はアニメ上の存在だった”と知っている事への驚愕や、アリシアの言う通りだったから……などではない。
当時の自分の気持ちをしっかりと思い出し、正直に答えるためだった。
何度か逡巡した後、答えをはっきりと口に出した。
「……一番最初、それこそ行動を起こすきっかけはそうだった。……だけど、そんなのは結局はきっかけでしかなかった。……打算やどう動けばいいか、なんて考えは確かにアニメを基準にしていたさ。……でも、“助けたい”という気持ちは、本物だ。これは断言できる」
「……そっか。そうなんだね」
「アリシア?」
神夜の答えに、アリシアは安心したように呟く。
「……うん。今の神夜なら、フェイトの事任せられるよ」
「任、せる?」
「そうだよ。私じゃ、弱さを見せてくれなかった。ママかリニスでもいいけど、家族だからこそ弱さを見せてくれないかもしれない。……でも、神夜なら」
どういう事なのかと、神夜は呆気にとられる。
「確かに、魅了の力で仮初の感情を植え付けられていた。でも、それでも神夜が本心からフェイトを助けた事に変わりはない」
「けど、任せるって……」
「……フェイトが弱さを見せられる相手になってほしいの」
「………」
“信じて、頼られる”。魅了が判明してから、初めての経験だった。
魅了という所業を知ってなお、アリシアはフェイトを任せると言ったのだ。
「……俺なんかでいいのか?」
「魅了という真実があっても、フェイトを助けたのも真実に変わりないよ。まぁ、後はフェイト次第だけど……神夜は元々悪意があった訳じゃない。心の折り合いさえつければ、十分信用できるからね」
そう。何度も言われているように、神夜は善人の類だ。
思い込みが強い所を除けば、十分に信用できる。
「……分かった」
「うん。フェイトを二度も裏切るような事をしたら、今度こそ許さないからね?」
「百も承知だ」
力強い返答を聞き、アリシアは満足そうに頷く。
そして、防音の術を解除した。
「……何を話してたの?」
「んー、ちょっと神夜に関して確かめたい事があっただけだよ。うん、安心できる」
「……?」
わざわざ聞かせないようにしたのだから、フェイトも深くは聞かない。
しかし、やはりはぐらかした返答では訳も分からず首を傾げるしかなかった。
「それより、気は晴れた?」
「えっと……少しは」
「そっか。よかったよかった」
一人満足そうにするアリシアに、終始フェイトは首を傾げるばかりだった。
その様子に、神夜も苦笑いするしかなかった。
「情報を纏めると、やな」
しばらくして。
あの後、フェイトだけでなくほとんどの者が目覚めた。
未だに目覚めないのは、アミタやキリエなどのかなりの重傷者ぐらいだった。
時間もかなり過ぎたため、一度情報を整理するために会議室に集まっていた。
そんな中、戦闘時の映像を整理していたはやてが発言する。
「これは希望的観測になるし、事実とは限らへん。でも、戦闘時の映像や神界での法則を照らし合わせると、一つの特徴が分かった」
「特徴?」
「私含めて、皆は神達の戦闘技術を、その強さに反してそんな高くないと思ってたはずや。もちろん、普通に高い神もいたけどな」
はやての言葉に、ほとんどの者が“確かに”と頷く。
「“戦闘”として成り立つのは、少なからずあっちもこっちの法則に引っ張られているから。そして、戦闘に関する“性質”を持つ神はそれに対応して、かなりの強さを誇る。……実際、物理的な戦闘力のある人すらも競り負けてた程や」
だが、そこではやては“けどな”と続ける。
「逆や。そんなのは全くの逆の発想やったんや」
「逆、というと?」
リンディが聞き返す。
話を進めるのは実際に神界で戦った者が主体としているが、それはそれとしてリンディは代表してその情報を纏めている。
他にも、何人か管理局や退魔師から情報を纏める者もいる。
「“性質”の相性で、神の戦闘技術が左右されてたんやない。なまじ戦闘に関する“性質”やから、こっちの法則に引っ張られてたんや」
「「「っ……!!」」」
その言葉を瞬時に理解した者は、驚愕に息を呑んだ。
「……つまり、“戦闘技術が低い神相手なら勝ち目がある”などではなく、むしろこちら側の法則に引っ張られている戦闘技術が高い神の方が、やりようはあるということかい?」
「……推測でしかないけどな」
紫陽が要約し、理解が及ばなかった者も驚愕する。
「まぁ、やりようがあるゆうても、神の力がそのまま戦闘力になってるせいで、普通に勝つ事も難しいんやけどな」
「……反則的な身体強化をした優輝で、何とか攻撃が防げる。そんな神もいたしね」
優輝、とこよ、サーラ。直接的な戦闘力ではこの三人がトップを張っていた。
しかし、その三人がかりでようやく足止めが出来る程強い神も神界にはいた。
さすがに、それで“やりようはある”と言われてもピンとこないだろう。
「私からも一つ、神界の事で分かった事が」
続けて、とこよが挙手する。
「神界では、“意志”を強く保つ事で致命傷すら覆す事が出来たんだけど……それって、本当に“意志”だけの力なのかなって」
「とこよはあたし達のほとんどが洗脳されていた時、最後の足掻きとして自身の思い出や心象を形とする術を行使した。結局は“格”の昇華がなくなってすぐに破られたけど、それまでならきっちり耐えていたんだ」
とこよの言葉に紫陽も補足するように続ける。
「つまり……“意志”を強く保つのは、飽くまで手段でしかないと思うんだ」
「では、何が重要と捉えているのですか?」
「自分を自分として定める……所謂自己の“領域”。“ここまでなら出来る”“この程度では倒れない”とか、自分が定めたものを自分のものとして支配下、または制御下に置く事で成立させる、まさに“自分を自分として成り立たせるモノ”。それが神界では重要だよ」
「領、域……?」
抽象的な表現だったからか、ほとんどの者が理解しきれていない。
だが、とこよもこれ以上分かりやすい表現は出来なかった。
「これは理屈じゃない。ただ“そう在る”だけだ。表現しようにも的確な言葉が“領域”しかない。自己を成り立たせる“領域”。とにかく、それが重要なのさ」
「理屈じゃない……なるほどね……」
ごく一部の者は理解したのか、納得したように頷く。
椿もその一人で、理解したからこそ冷や汗を掻いていた。
「“性質”もその“領域”から来るものって訳ね。神がそう言った存在且つ、“領域”を持つのなら、当然“性質”もそれになる」
「椿の言う通りだな。霊脈の調査がてら、色々推測していたが……はやての憶測を混ぜれば全部が全部的外れとも考え難い」
“性質”を持つから、それに類した雰囲気や容姿を持つのではなく、“領域”が形を為し、力と為す故に“性質”とその容姿を持つのだと、椿は言う。
「戦闘に関する“性質”を持つ神は、当然“領域”も似通ったモノだろう。そして、神界ではその“領域”を侵食、または破られる事で敗北が決定する。……ここから考えると」
「戦闘に関する“性質”を持つ神界の神にとって、“戦闘する”というのはそれだけで“領域”に踏み込まれている事になる」
「ッ……!だから、やりようはある……!」
「そうなるさね」
ハッとしたようにアリシアが呟き、紫陽が肯定する。
“戦闘”という状況に持ち込んだ時点で、戦闘に長けた“性質”を持つ神達は大きなハンデを背負っていたのだ。
「……でも、だからこそ、それ以外の神をどうにかしないと、ですね」
「……そうだね」
だが、ユーリの呟きに全員が静かになる。
そう。決定的な差は未だに解決していないのだ。
それをどうにかしない限り、勝ち目はない。
「……でも、それもどうにかなるかもしれない。ううん、どうにかしないといけない」
「……そうだね」
それでも、緋雪と司はもう挫けない。
そして、圧倒的不利を覆す可能性のある手も、既にあった。
後書き
数少ない情報から、神界の法則を的確に理解していくスタイル。
頭脳面でもかなりのメンツが揃っていますからね(グランツやジェイルなど)。
今回の会議には出ていないですが、発言したとこよや紫陽はその二人に情報の事で相談したりしています。
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