NARUTO 桃風伝小話集
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その39
前書き
クシナさんとミコトさんが親友かつ、ミコトさんがうちは一族と言うところから膨らませて、捏造設定ぶっこみました第二弾。
ついでに、ナルトの髪を軽い気持ちで赤くしちゃった件と、長門さんの存在との矛盾点の解消編。
こうすればいいんだよ!!!!という、苦節云年の作者からの回答でもある。
もっと早くこれを思いつけばよかった…orz
捏造部分→ミコトさん家はイズナさんの直系のお家で、ミコトさんは一人娘かつフガクさんはミコトさんのお家を継ぐ為の分家筋からの婿養子。(根拠:イズナさんとミコトさんとフガクさんの顔立ち(笑)と、誰かさんのサスケはイズナ似発言)
ミコト達うちは一族も創設に深い関わりのある忍の里、木の葉隠れ。
その里の里長である四代目火影を継ぎ、ミコトのマンセル仲間であり、親友の夫ともなった兄弟弟子の一人でもあった波風ミナトは、木の葉隠れの里を九尾の襲来から救い、命を落とした。
妻であり、人柱力としてその身に九尾を封印していた、渦潮隠れ出身のうずまきクシナと共に。
クシナとは、クシナもミコトもまだ幼く、共にアカデミーに通っていた頃からの付き合いだ。
その頃から、ミコトは友として、クシナの気持ちを聞いていた。
たった一人、渦潮隠れから木の葉に一人やってきた、うずまき一族の直系の特徴が色濃いクシナの。
表向きは両里の友好の為。
その実は、寿命を迎える初代火影の妻であり、その身を以って、この世に存在する木の葉が所有する最凶の妖魔でもある尾獣の封印の器であり、人の身でありながら尾獣の力を振るう人柱力の次の器として。
謂わば、世界と木の葉の為の人身御供として。
その為に、縁のない木の葉に一人、生涯に渡って身を捧げる事を決定され、木の葉に身柄を移されてやって来た、他里の生まれのうずまきクシナの友として。
クシナが木の葉に来るに当たって、尾獣をも制する血継限界である写輪眼を有するうちは一族の長の家の跡継ぎ娘として育ったミコトには、次期人柱力となることが確実であるうずまき一族のクシナと同じ年であることを理由に、一族から木の葉の為の『任』が与えられていた。
同じ女。
同じ年。
そして、尾獣と写輪眼。
故に、クシナの『友』となり、『人柱力』の精神的な管理と動向の監視という任を、里には内密に、うちは一族の長である父から与えられた。
全てはうちはと『木の葉』の為。
クシナの友となるのは簡単だった。
気性が激しく負けず嫌いで、裏も表もない真っすぐなクシナは、ミコトにとって、好ましい人柄だった。
一族に与えられた任務を超えて、生涯の友とミコトが心に決めたほどに。
それほどまでに、クシナの友となるのは容易かった。
うちは故に、人柱力として強大な尾獣の力を恐れて心を張り詰めさせるクシナに、クシナに何かあろうと、うちはが木の葉にある限り、クシナの恐れる最悪は必ず防がれる、と。
折を見ては囁き、うちはを警戒する里に気付かれぬように、さり気なくクシナと『約束』するのは簡単だったし、運良く三代目火影の直弟子の三忍の一人に数えられる自来也に、クシナの想い人のミナトと共々師事を受ける事になったのも幸運だった。
自来也自身とは、彼自身が幻術の適性が低いせいも相まって、どこか余所余所しい師弟関係とはなってしまったが、それでもミコトにとって、クシナとの繋がりを思えば上々の結果だった。
何より、色恋沙汰に酷く疎くてとことん鈍いミナトの意識改革をしたり。
ミナトの情報をクシナに売ったり。
ミナトに気があるクシナの恋敵を牽制したりするのに、自来也の弟子で、ミナトのマンセル仲間という立場は、ミコトにとって大変都合の良い立ち位置だったのだ。
まあ、あまりにもミナトが鈍すぎて、ミナトに余計な茶々と横槍を入れる自来也共々、師弟揃って消してしまおうかと殺意を抱くことは常だったし、クシナからの的外れな嫉妬を受けて、何なら、二人ともミコトの写輪眼で操って、無理やりひっつけてしまおうかと煮え湯を飲むこともざらだったけれど。
それでも、だからミコトには、クシナの最も親しい『友』は自分であるとの自負があった。
そして、ミコトは、自分が一族の為に、一族の長となる婿を迎えて、一族の長の妻として、ミコトの一族を盛り立てて行かねばならず、人柱力として、三代目の次の『火影の妻の座』が確約されてしまっているクシナとは、将来、忌憚ない友のままではいられないだろうという諦めも、口には出せずとも常に胸の裡には必ずあった。
事実、念願叶ってミナトの妻となったクシナは、ミコトと距離を置いた。
四代目火影に就いたミナトの妻として、ミコトの前で、ミコトの友ではなく、『火影の妻』として振舞うようになった。
それはクシナの意思ではなく、うちはと千手の、ひいては忍の意を封じんとする火の国の意を汲み、うちはマダラを危険視し続けたという千手扉間の意を大義名分に振りかざして題目に唱える者達の暗躍の結果だ。
初代からの意を継ぎ、共に二代目の教えを受けて戦を生き延びた戦友である志村の調略に簡単に乗ってしまう三代目同様に、木の葉の本当の意義を知らぬ志村や猿飛の意思にやすやすと調略され、不自然なまでに『火影の妻』たらんとして、『うちは一族』の長の家系で、現長の妻であるミコトを警戒し、遠ざけようとするクシナに。
寂しさや不満を覚えなかった訳ではない。
ミコトやうちはをないがしろにされる恨めしさを感じなかった訳でもない。
それでも。
お互い、一人の女として。
それぞれの立場で。
それぞれの守るべきものを選んだ、と。
ただ、それだけの事なのだと、クシナに先じて母となったミコトは悟っていた。
それに。
いずれ『火影の妻』となる事が確実であるクシナの傍に少しでも近くある為に、ミコトが上忍の資格を得るまで、ミコトの婿取りは引き延ばす事はできたが、その代償はこれ以上なく痛かった。
よもやまさか、うちは一族の総領娘であるミコトの婿取りを理由に、里から忍を辞めさせられ、クシナから物理的に遠ざけられるとは思わなかった。
運良く、婿に取ったフガクが、様々な事情に理解ある、争いごとを好まない穏やかな気質の男で、結婚によって自由に動けなくなるミコトの代わりにと顔を繋ぎ、個人的にも能力的にも期待を寄せて、ミコトが次の火影にと密かに推していた、ミコトのマンセル仲間で、フガクと同じ気質の、クシナの恋人のミナトと意気投合してくれて。
クシナとミコトの縁は、お互いの夫を通して辛うじて続いたけれど、それも、途切れた。
クシナとミナト双方の死という形で。
その報を受けた時に感じた思いを、ミコトは決して忘れない。
出産を控えていたクシナの傍から、尾獣を御せる写輪眼を持つ、ミコト達うちは一族を全て排したのは、『木の葉の里』だ。
そして、その『木の葉』の為、それを良しとしたのはクシナ自身だ。
その決定が下された後、顔を合わせたクシナから、ミコトの気持ちを裏切ることへの謝罪も受けた。
年の近い自分達の子に、自分達が果たせなかったものを託そうと、新しい約束と夢も語った。
だが。
だけれども!
それでもこうして時は流れ、クシナとミナトが遺した希望が、今、ミコトの護るうちはの家の屋根の下で、健やかな寝息を立てている。
それを思えば、ミコトの胸は温められる。
うちは一族の長の妻として、うちはの集落内に閉じ込められているミコトには、クシナの次の人柱力として、全ての里人から隔離され、厳しく里に管理されていたクシナとミナトが遺した子には、想いのままに接触することが難しかった。
けれど、偶然、長男であるイタチがその子と縁を繋いで、次子のサスケを通して、その子をミコトの傍へと引き寄せることができた。
クシナと二人、語った夢のように。
クシナはもう、居ないけれど。
それでも、だから遠くから歯痒い思いで、友が遺した一粒種が里人から人柱力として迫害される様を見つめるしかない状況から、大手を振って変革を齎せる状況が整えられたのだ。
少しくらい心のままに振舞ったとて、一体何が悪いというのか。
クシナとミコトが願った些細な夢を、無残に踏み潰したのは『木の葉』の方だ。
ミコトが遠慮し、躊躇う必要など、どこにもない。
うちは一族としても、クシナとミナトの友としてもだ。
ミコトの家に顔を出すようになった、クシナとミナトの血を引く人柱力の子は、幼なすぎる時からの孤独な暮らし故に、同年代の子供達よりも小柄な体躯にミコトには思えた。
その事に痛ましさを覚えた事もあったが、身近でよくよくその子を観察したミコトは、直ぐに男児とされていた子供の不自然さに気が付いた。
小柄なのは確かだが、年と環境の割には意外と良く鍛えられているにも拘わらず、同じ年のサスケと比べて、全体的にまろく華奢な体躯の友の遺児に、ふと、違和感を覚えて鎌をかけた。
その甲斐あって、髪の色こそうずまきの特徴を宿してぱっと見はクシナに似ているものの、顔立ちや気質はクシナの夫のミナトに似ていて、優し気で穏やかな子の、思わぬクシナとミナトとの共通点も見つけることができた。
クシナとミナトが遺した遺児は、クシナと同じ女児だったのだ。
そして、クシナと同じで嘘はあまり得意じゃないらしい。
しかも、予期せぬアクシデントに弱い所がミナトに似たようだ。
クシナに良く似た大きな瞳を、ミナトによく似た色で、ミナトそっくりに丸くして。
ミナトそっくりに硬直したまま、クシナに良く似た仕草で、ミコトの鎌かけに素直にこくりと首を縦に振った。
その時、ミコトの胸にどんな思いが湧いたのか、これっぽっちも知りもせずに。
女児を男児と偽らせていたのは、碌に後ろ盾も与えぬまま、里人の憎悪を幼い身に集めさせる事への、三代目からの最低限の庇護の一つでもあったのだろう。
だからと言って、ミコトが里に感じたものが薄れることは決してないけれど。
それから改めて、落ち着いて友の遺児の動きを観察してみれば、やはり、息子達の動きとはかなり違った。
ミコトから見ても、結構強引に振り回しているように見える、ミコトの下の子のサスケに良く懐いて、嬉しそうにサスケのやんちゃに付いて行っているけれど、それよりも、本当は家の中の事に興味があるらしい。
ふと気付くと、細々とした家の中の事を進めているミコトの背中や手元を、じっと見つめている姿をしばしば見かけるようになった。
そんな大人し気な姿に、喜怒哀楽がはっきりしていて、結構なお転婆だったクシナのアカデミー時代の姿より、何事にも能天気でマイペースにおっとりしていたミナトの姿が重なる。
見た目の印象そのものは、うずまき一族の象徴である、燃えるような緋色の髪の色のせいで、ミコトの親友のクシナの物であるというのに。
クシナとミナトの遺した、ミコトの友人達のたった一人の遺児は、記憶の中の友人達との姿とのちぐはぐさが、紛れもなく友人たちの遺した子である証のようで、ミコトには愛しく思えてならなかった。
だからこそ、サスケの友として、大手を振って堂々と。
うちはの集落内のミコトの家に、いつでも招き寄せられるようになった友人達の子を。
ミコトは手離したくないと、自然とそう思うようになった。
このままミコトの手元に引き取れたら、と。
引き取り、我が子と呼べたら、と。
そう思うようにもなった。
そして、そう出来るだけの大義名分と状況が揃いつつある。
もともとうちはは、尾獣に有効な写輪眼を有する強力な血継限界を受け継ぐ忍の一族。
ミナトともクシナとも縁の深いミコトに、あからさまに懐いた『孤児』の保護を、子供の出自と、クシナとの『約束』を盾に、うちはが里に願い出るのは本来容易い事なのだ。
それを留めているのは、ひとえに里の安定と一族と里の確執を慮っているだけの事。
それに、ミコトの出す答えよりも、夫の出す答えの方が、クシナとミナトの出す答えに近く。
ミコトの父に代わり、一族の長となって後を継いだのは、娘のミコトではなく、ミコトの夫のフガクだから。
だから、多少の不満はあれど、ミコトも大人しくフガクの決定に従っている。
けれど、だからこそ、夫も腹を決めれるように種を撒き、その種を芽吹かせようと、常々サスケを通して家に呼びつけ、こうして家に泊まらせて、サスケと同じ部屋にも寝泊まりさせる事を日常にして来ているというのに。
存外鈍いサスケは、あの子の秘密にも、隠し事にも気付く気配も全くない。
恐らく、疑う事をあまり知らない素直なサスケは、ミナト譲りの観察眼を下敷きにした、クシナ譲りの口の達者さによって、簡単に友人達の子に丸め込まれてしまっているのだろうが、それでは忍の子としては少々失格と言わざるを得ない。
忍としての目を養わせる為に、そろそろまた何か、サスケに仕掛けてみるべきだろうか。
イタチにでも相談してみるのもいいかもしれない。
暗部としてのイタチの任務の所為とはいえ、最近、二人が顔を合わせる機会が極端に減っているから。
けれど、サスケのその子供らしい素直さも不器用さも、ミコトとしては愛しくてならない。
夫に似た繊細な気質の上の子のイタチとも違う、サスケの年相応の天真爛漫な無邪気さも、慈しんで愛おしむべきものだった。
それに、素直に男と信じて開襟している相手の、真実と真相を知ったサスケの動揺と葛藤も、ミコトは今から楽しみで仕方がない。
年の頃も丁度良いし、クシナとの『約束』通り、成長したサスケの傍に、娘らしく成長した友人達の遺児が添ってくれたら、ミコトとしてはもう何も言う事は無いのだけれど。
そういう未来が訪れるには、問題となる事があまりにも多すぎたとしてもだ。
先ず、二人の間に子は望めないだろう。
それだけで、一族の反発は目に見える。
うちはではない人間を、一族に加えようというだけでも反発は必死なのにだ。
人柱力の出産は、試すにはリスクがあり過ぎる。
しかし、逆を言えば、それこそが里がうちはを忌避する所以として、人柱力をうちはに引き取り、『うちは』を名乗らせることを一族に承諾させられる因ともできる。
くだらない里の柵に囚われて、友人達は尾獣に有効な写輪眼を持つ『うちは』を遠ざけた環境で出産に挑ませられて、命を落とした。
ミコトがクシナの傍に居れば、そんなことは起こさせなかった。
『うちは』の力を恐れる我欲に満ちた者が、『うちは』を遠ざけ、ミコトの友に命を散らせたのだ。
クシナは『火影の妻』だったのに!
『火影の妻』が、最高の環境で、安全な出産を出来るように、『うちは』であるミコトも力を貸す、と。
昔から。
そう、それこそクシナがミナトの妻になるずっと前。
クシナやミコトが顔を合わせたアカデミー時代の子供の頃から、ミコトはクシナの『友』として、クシナと約束をしていたのに!
その為にこそ、ミコトは上忍の資格を得たのに。
なのに、結局、里と一族の持つ柵に囚われて、ミコトはクシナの力になれず、何もできないうちにクシナとミナトは散ってしまった。
もう、二人にミコトがしてやれることは何もない。
だからこそ、ミコトは決して里の上層部の友への仕打ちを忘れない。
けれど。
親友だったクシナが、密かに腹の子に願っていた未来を贈る手助けくらいなら、今のミコトにも可能だ。
ミコトにしか、きっと出来ない。
友人であるクシナの、人柱力としての本音と弱音を、ミナトの前に、友として聞き続けてきたミコトにしか。
クシナの子は、クシナと同じ人柱力にされてしまったから。
クシナは元来、嘘の苦手な素直な子だった。
長じて多少は感情を隠す術を覚えたようだが、ミコトからしてみれば、ミナト共々、分かりやすいくらい考えている事が周りに筒抜けな人間だった。
だからこそ距離を置かれたのは分かっていたし、その事を気にするなと、常にサインを送り続けた。
人として、二人とも、好ましい人柄だったから。
だからか、人の目が届きにくい場があれば、クシナは変わらぬ友情を示してくれた。
そうして、お互い、子を身籠った状態で、偶然産院で顔を合わせた時、ふいにクシナが漏らしたのだ。
産まれてくるお腹の子が、男でも女でも、ミコトの子と友になって欲しい、と。
自分達のように、と。
口を滑らせて漏らした途端に、お互いの現在の立場を思い出し、慌てて否定するような言葉を捲し立て始めた照れたクシナに、それまで少なからずミコトが抱えていたクシナへの隔意は露と消えた。
ミコトに満ちたのは、クシナの願った美しい夢だ。
木の葉創設の元となった、うちはと千手の友愛に満ちた未来想像図だ。
それは、うちはが創設期から求め続けた『木の葉の里』だったから。
だから、忍になる前の、ただのミコトとクシナとして、アカデミーに通っていた子供の頃のように、冗談めかして茶化してみたのだ。
お腹の中のクシナの子が産まれて来た時。
その子がもしも女の子だったら、『うちは』にお嫁に頂戴ね、と。
これからミコトが産む子は男の子で、クシナは妊娠が分かったばかりだったから。
戸惑うようにきょとんとするクシナに、火影の娘が『うちは』に嫁入りすれば、里とうちはの確執が薄れるきっかけに十分だし、何より、そうして『家族』になれたら、また、昔みたいに一緒に過ごせるわね、と。
そう言って、いつものように微笑みかければ、クシナはみるみるうちにミコトの好きなクシナの笑顔を見せてくれた。
一切の曇りのない明るい笑顔を。
そうしてすっかりその気になってしまったクシナは、さっそく夫のミナトにそう伝えると嬉々として飛ぶように帰宅して、後々火影室での火影の奇行に繋がる原因になったようだが、ミコトに後悔は一切ない。
そうすれば、穏やかに、自然な形で一族と里の軋轢が解け、クシナとミコトが思い描いた『木の葉の里』が実現するのだから。
親友を親友と呼んで、親友と遇せる環境の構築と奨励に励んで、一体何が悪いというのだろう。
きっと、初代火影の千手柱間とうちは一族の当時の長だったうちはマダラもそうだったに違いない。
だからこそ、うちはは木の葉創設に力を貸した。
ミコト達の代でその夢が為せなくとも、ミコトの子と、クシナの子が、その夢を継いでくれれば。
甘いと言わざるを得なくても、クシナの仄めかした未来に囚われたのはミコトもで。
そうして、その手助けと種蒔きが出来る環境が整ってしまっているのだ。
こっそり子供達を誘導するくらいしてしまっても、別に構わないだろう。
下らぬ体裁と疑念に囚われて、ミナトにうちはへの助力を切り捨てさせたのは、三代目含む里の上層部なのだから。
内々で、フガクとミナトの間では、クシナの出産時への協力体制について、ミナトとクシナの結婚当初から話がついていたのに。
うちはの全面的な支援の下、クシナは万全の態勢でもって、安全に出産する筈だったのに。
そうして母となり、ミコトと共に、母となった喜びと、子供達の成長を見守る幸せと、子育ての苦労を分かち合う筈だったのに。
なのに、ミナトもクシナも、もう、居ない。
二人の子の中に、災いの源となった九尾を残して、二人とも、死んだ。
里の、上層部の判断で。
その判断を、決してミコトは許さない。
決して。
それでも、クシナの残した子は生かされていた。
人柱力として。
里の管理下で。
だから、せめて、クシナの子が生きてさえいてくれたら。
いつか、もしかしたら、ミコトとクシナの描いた夢が叶うやも、と。
蜘蛛の糸のように、儚いその希望に縋りながら、じりじりと不満と屈辱の日々を過ごし。
そうして、大手を振って、堂々と子供達に干渉できる『今』を手に入れたのだ。
欲が出たとて構うまい。
二人の友人の面影が色濃い二人の遺児も、我が子のように愛しく感じてしまうのだから。
いっそのこと、このまま強引に引き取って、我が子にしてしまいたい。
そうするには、うちはと人柱力では縛りも柵も多すぎるが、二人の面影が色濃いあの子を、娘と呼べたらそれでいい。
身近に置いて過ごすうちに、ミコトはそんな風に思うようになってしまった。
ミコトの家にサスケに連れられて遊びに来た友人の子を、ミコトの家から帰すのが辛くて仕方がない。
何かと理由を付けて、家に引き留め、泊まらせる事が多くなった。
今日も引き留め、同じ屋根の下に休ませている。
サスケと共に、サスケの部屋で眠っている。
それに、一年かけて漸く緊張が抜け、家人の気配があっても、ミコトの家で熟睡してくれるようになったクシナの子が、我が子と並んで無防備な寝顔を見せてくれる幸せを、どうすれば抑えられるというのだろう。
抑える事など、きっと出来ない。
今はまだ、抑えなくてはならないと知ってはいるけれど。
何故ならミコトは、創設期から長年里との軋轢を生じさせているうちは一族の長の妻で、ミコトが手元に置こうと願っているのは、その木の葉の里の人柱力なのだから。
それでも、子の寝顔に感じるものは隠せない。
家の中の戸締りと見回りを終えて、寝室の床の中で、寝床は違えど、同じ方向を向いて同じ部屋で、揃って無邪気な寝息を立てていたミコトの子のサスケと、クシナとミナトの遺した子の寝顔を思い出し、ミコトは幸せな気持ちに包まれ、思わずくすりとした。
闇に閉ざされた褥の中で、ひっそりと漏らしたミコトの笑みを、共に休もうとしていた夫が捉えて尋ねてきた。
「どうした?」
柔く、眠気の滲む優しい声で。
夫に気遣われた喜びに、小さく微笑みながら、隠すことでもないので、素直に打ち明ける。
「ナルトちゃんの事です」
どうも夫は、人柱力である友人達の残した子に思う所が有るようで、あまり親身になろうとせず、積極的に構うミコトにもあまりいい顔はしていない。
けれど、黙認はしてくれている。
ミコトとて、一族の長を務めている夫が何を危惧しているのか分からない訳ではない。
ミコトは、マダラが木の葉と袂を別った後、マダラに変わって、長の座を継いだマダラの甥を祖父に持つのだから。
ミコトが里に警戒され、クシナから遠ざけられたのは、ただ、うちは一族だったからだけじゃない。
ミコトが、『木の葉』に弓引いたうちはマダラと近い血縁にあるからだ。
ミコトが男だったのなら、ミコトはもっと里から警戒されただろう。
先代の長である父と同じように。
それでも、先の人柱力はミコトの友で、今の人柱力はミコトの友人達が遺したたった一人の子なのだ。
一族の安寧には変えられないとは言えど、無視もできない。
我儘だとは分かっている。
けれど、ミコトはもう、これ以上、下らぬものに気兼ねして、ミコトの大切な者を手離して、永遠に失う事にはなりたくないのだ。
たとえそれが、木の葉と一族の双方を煽り、相争わせる因になろうとも。
これ以上、ミコトの大切な者達を奪われてなるものか。
里に。
木の葉に。
一族に。
だからミコトは、忌憚なく己の胸の内を曝け出した。
夫は、ミコトのこの気持ちを知っていて、きちんと受け止めてくれているから。
「あの子、漸く私の気配に目を覚まさなくなったんですよ」
夫に告げる口調に喜色が混じるのも仕方ない。
初めて友人達の子をミコトの家に無理やり泊めた日は、気を張り過ぎて一睡もしてくれなかった。
それでも諦めず、何度も家に呼び、理由をつけて泊まらさせて、そうして、少しづつ警戒を緩めてくれて、少しづつミコトの家で眠ってくれる様になっていった。
きっかけは何だったか。
そう。
サスケに連れられて家に来て、サスケの我儘でサスケとイタチに扱かれて。
泥だらけになったあの子を引き留めて、週末だからと幾度目かに家に泊めた翌日だった。
家事の手が空いた時間に、いつの間にか静まり返った家の中に気が付いて、子供達の姿を探した時だ。
サスケと二人、陽だまりの中で眠っていたのを初めて見つけたのだった。
睡眠の足りない体で、朝からサスケのやんちゃに付き合わされて、きっと体の限界だったのだろう。
サスケの方も、朝から遊び相手がいる珍しい状況に、はしゃぎ疲れてしまったのだろう。
お互いの肩にもたれ合うようにして、縁側の日向で眠っている微笑ましい姿に、風邪をひかぬようにと掛布を手に近付けば、その時はまだ、警戒も露わに一瞬で跳ね起きられてしまったけれど。
あれから、少しづつ、あの子はミコトの家で眠りに就く時間が増えて行った。
戸締りの見回りで顔を出すと、どうしても目を覚まさせてしまうようだったが、それでも今日は。
安心しきった健やかな寝息を立てたまま、ミコトがサスケの部屋を後にしても、終ぞ覚醒してくる事はなかった。
一年かけて、漸くだ。
喜びと深い感慨で、ミコトの胸は一杯になる。
恍惚とした溜め息交じりに夫に述懐していった。
「戸締りの確認ついでにサスケの部屋に顔を出すと、いつもあの子は意識を覚醒させて目を覚ましてしまうのに、今日は私が顔を出しても、サスケの部屋で二人そろってぐっすり眠りこんでいて。部屋を後にしても、ずっと寝息を立てていてくれたのが嬉しくて」
そう。
漸く、本当の意味で、クシナの子は、ミコトに気を許してくれたのだ。
今まで、人柱力としてどんな環境に置かれていたのか。
これまでの振る舞いで、上忍でもあったミコトには考えるまでもなかった。
うちはは、忍の一族だ。
ミコトの話に、夫も察するものがあったのだろう。
夫の沈黙には、深い理解の色が滲んでいた。
だからついつい、浮かれた気持ちで、普段は秘めている願望を口走ってしまった。
とてもとても嬉しかったから。
「将来、あの子がイタチかサスケのお嫁さんになってくれる未来も捨てがたいけど、このままあの子を引き取って、家の娘として育てられたら、それもまた素敵だなと、そう思ったんです」
「は?何を言っている?」
年甲斐もなく、うきうきと浮かれた素振りを隠さず告げた途端、存外頭の固い所のある夫が、不審そうな声を上げた。
咎めの色が乗った夫のきつい声に、ミコトの浮かれ、喜ぶ気持ちに水が差された。
うちは一族の長の妻という立場の自分を、強制的に呼び覚まされる。
すっと真顔で、立場を考えない浮ついたミコトの言動への叱責だろう夫の二の句に備えた時だった。
「ミコト。常々思っていたが、あの人柱力にクシナ殿を重ねて女扱いするのは止めろ。ちゃん付けするのもだ。どんなに面影があろうと、あれは男だ。クシナ殿ではない。それに、中身はミナト殿に似ておっとりしていて、疑問も持たずにお前のお遊びに大人しく付き合ってくれているようだが、女扱いはないだろう。その、なんというかだな。流石にやはり、それはないと、そう思うぞ」
そうして続いた、苦々しさを隠さない渋い声で為された、頓珍漢な夫の諫めと叱責に、ミコトは思わず絶句した。
イタチに似ない、サスケのあの鈍感さが、一体どこから生まれて来たのか。
その源泉を発見したような気分になる。
イタチのあののんびりとした気性はフガク似で、サスケの好悪がはっきりした気性は自分似だと、ミコトは今までそう思っていたのだけれど。
上の息子のイタチも、ミコトにも何も言っては来ないけれど、どうやらミコトと同じく察しているようだというのに。
由緒ある忍の誉れ高いうちは一族の長ともあろう者が、一体何を言っているのだろうか。
くらくらと微かな眩暈を覚えつつ、滔々と、女扱いされる男の悲哀と屈辱を語っている夫の口上を、疲労を感じながらミコトは遮った。
「あなた」
遮らねば、どこまで夫の的外れな叱責が続くか知れたものではない。
流石に就寝しようという今この時に、夫の奇行を黙って見守る酔狂さはミコトにはない。
むしろ、早々に打ち止めたい。
よって、端的に事実を突き付けた。
「ナルトちゃんは女の子です」
「……は?」
「ですから、対外的に男とされて、里からそのように扱われて育てられているようですけど、ミナト君とクシナの遺した人柱力のあの子は、まぎれもなく性別は女の子です」
丁寧に繰り返せば、全く気付いていなかったらしい夫は、無言になって沈黙してしまった。
「家でナルトちゃんの事に気付いてないのは、サスケ一人だと思ってましたのに」
夫から返ってくる沈黙が、ばつの悪そうな雰囲気を持っていた。
思わず呆れが溜め息となって吐いて出る。
「気付いてらっしゃらなかったのは、あなたもでしたのね…」
落胆と呆れが綯交ぜになった、情けない心地で感想を述べれば、沈黙の下からくぐもった声で反応が返ってきた。
「…………イタチは気付いているのか」
「ええ。扱い方が女の子に対するものでしたもの」
「……そうか」
極端に口数が少なくなってしまった夫に、最終通告を述べるような面持ちになりながら、質問の体を取りつつ、ミコトは己の考えを断言した。
「男として暮らしているナルトちゃんには、同性である私の保護と手助けが必要だと思うのですけど、あなたはどう思います?」
無言しか夫からは返って来ないが、ミコトの主張の正しさは、夫も理解している事だろう。
勘違いとはいえ、クシナとミナトの子への、不当な扱い方をミコトに止めさせようと、夫は苦言を呈したのだから。
そうして訪れた程よい沈黙に、そのまま眠ってしまおうと瞳を閉じたその時だった。
夫が要らない事に気が付いて、床の中から身を起こして声を荒げて騒ぎ出した。
「待て!と言う事は何か!?お前は女の子をサスケと同じ部屋で一緒に寝起きさせているという事か!?何を考えている!!二人はまだ幼いとはいえ、男女だぞ!間違いを起こしたらどうする気だ!?」
寝入り端に騒がれて、少々気を滅入らせつつ、ミコトはおざなりに返事を返した。
「…あなたこそ何を言ってるんです?それならそれで、九尾共々、うちはが四代目火影の血を引く人柱力であるクシナとミナト君の遺したあの娘を引き取る大義名分が出来るじゃないですか。それに何か問題でも?」
うちは一族としては、人柱力を引き取ることに、何の問題もない。
御せる自信もあるくらいだ。
困るのは、既存の権力を手放したくない里の上層部のみだ。
クシナとミナトを殺した憎い仇の。
「いや、それは…。確かに、そうだが…。しかし……」
ミコトの言の正しさを認めつつ、常識的な事に囚われて葛藤している夫が、意外と気にする質であることも忘れて、眠気を堪えていたミコトは、心の底から残念な気持ちで溜め息を吐いた。
夫のフガクの懸念通りだったのなら。
そうしたら。
早く、サスケが気付いてくれたら、そうしたら。
可愛いサスケとあの娘の、今よりももっと楽しいやり取りを、ミコトはあの子達の間近で見守れると、ミコトは心からそう思うのに。
なのに。
その日はきっと、確実に遠い。
何故ならば。
「そんなに心配なさらなくても平気です。そんなことは絶対あり得ませんもの。こんなに私がお膳立てしてるのに、サスケったら、誰かさんに似て、ナルトちゃんの事に全く気付いてないんですもの。お風呂に入ってるナルトちゃんの所にお使いに出したこともあったんですよ?それなのに、ナルトちゃんが女の子だなんて、全く気付いてないんですもの、サスケったら」
「な、なに…!?」
夫の戸惑う声をうつらうつらとしながら耳にしつつ、ミコトは秘めた思いを口にしていく。
「男だと全く疑っていないサスケに、あんなに乱暴に扱われているのに、ナルトちゃんはいつもニコニコと嬉しそうにサスケに懐いてくれてて。男の子として暮らしているナルトちゃんが不憫になるくらいです。クシナだって、そんな事はなかったのに。あの子はクシナと同じなのに、男の子の身なりで、男の子の振る舞いを里から強制されていて。クシナはそんな事、あの子に望んで居なかったのに。なのに…」
ぼんやりと、半分寝惚けつつ、言葉を吐き出した。
「サスケは私達が教えてあげなくては、きっといつまでもナルトちゃんの事には気付きません。一年も同じ部屋で寝泊まりさせていたのに、気付く素振りもないのですよ?私達が教えてあげなくては、あなたの心配しているようなことにはなりませんから、そんな事、心配するだけ時間の無駄です。そんな事より、クシナの娘のあの子を、穏便に家に引き取るにはどうしたらいいかを考えてくださいな。クシナとミナト君の遺したあの子は、人柱力とはいえ女の子なのに。これ以上、この件について、里になんか任せてなんて置けないじゃないですか。あの子は人柱力とは言え、ミナト君とクシナの子なのに。私達はうちはだけど。だからせめて、ミナト君とクシナの子のあの子の事だけは…」
うとうとと、胸に温めていた思いを吐き出しながら、縋る思いで祈りつつミコトは眠りに就いて行った。
ミコトの言葉を聞いた夫が何を考え、何を決めたか、気付くことも思い至ることも無いまま。
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