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酔詩人

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第一章

               酔詩人
 アブー=ヌワースはムスリムである。
 だがいつも飲んでいる、それで真面目なムスリムの者達は彼に言うのだった。
「ムスリムなのに飲むのか」
「いつも飲んでいるな」
「そうして飲んでいいのか」
「アッラーへの信仰を忘れたのか」
「そうして飲んでいいのか」
「酒はいいものではないか」
 ヌワースは自分に面と向かって批判する声に平然と返した、四角い顔の形で顎鬚の先が巻いていて口髭は洒落っ気がある感じだ。ターバンも服も随分と質のいいものだ。目鼻立ちは整っていて目の光には知性がある、だが既に酔っていた。
「それを飲まずして何だ」
「だからアッラーに反しているぞ」
「この前もカリフが禁じておられる」
「それでも飲むのか」
「異教徒の様に」
「確かに禁じられている」 
 酒はとだ、ヌワース自身も認めた。
「カリフも定められたな」
「そして既にだ」
「アッラーも定められている」
「既にな」
「そのことはな」
「コーランにもあるな」
「そして飲むとだ」
 酒、それをというのだ。
「戒律に反しているぞ」
「刑罰は鞭打ち八十回だ」
「そうなるがいいのか」
「それでも」
「別に構わない」
 これといってもという返事だった。
「私はそれでもだ」
「飲むのか」
「今の様に」
「そうするのか」
「そうだ、背中を打たれてもな」
 鞭で八十回というのだ。
「そして夜も深くになるとな」
「女か」
「そして美少年か」
「そこに行くのか」
「そうするのか」
「そうだ、酒だけではない」
 ヌワースは楽しそうに話した、酒に酔っている顔で。
「女も少年もだ」
「愛するな」
「そうするな」
「この前ある金持ちの奥さんの一人と関係を持ったな」
「バグダード中の噂になっているぞ」
「若く奇麗な人だそうだな」
「奇麗なだけでなく身体もよかった」
 ヌワースは笑って関係を認めた。
「最高の一夜だった」
「人の妻に手を出すなぞ」
「しかも男もか」
「どれも罪ではないか」
「よくそこまで罪を犯すな」
「悪事には快楽が必要でだ」
 ヌワースはこうも言った、尚この名前は本名ではない。実は古代イエメンの王者の名前でありそれをいい感じだから付けているのだ。
 それでだ、こう言ったのだった。
「快楽も背教がなくして面白いか」
「だからか」
「あえて罪を犯しか」
「アッラーの教えにも背くか」
「そうするのか」
「そうだ、これからもな」
 こう言ってだった、ヌワースは酒を飲み色にも耽った。金を手に入れるとそれを早速享楽に使ってしまう。そんな男だった。 
 だがその彼のことを聞いてだった、カリフであるハールーン=アル=ラシードは宮廷において笑って言った。威厳に満ちて堂々とした長身の男だ。黒い髭も見事でありそこには王者としての風格が備わっていた。 
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