社長の息子

「こいつはだ」
「どういう人かな」
「作家と言っているが」
　その実はというのだ。
「その実は詐欺師だ」
「そうなんだね」
「ああ、政権批判はともかくな」
「その言ってることがなんだ」
「完全に北朝鮮だ」
「北朝鮮っていったら」
「お前も知ってるだろ」
　この国のことはとだ、祖父は孫に顔を向けてこうも言った。
「あの国のことは」
「有名だからね」
　壮馬はこう祖父に答えた。
「あの国のことは」
「とんでもない国だな」
「世襲の独裁で言論弾圧やって国民は餓えてて軍隊と将軍様の贅沢にばかりお金使て個人崇拝やって」
「核兵器も開発しているな」
「とんでもない国だってことはね」　
　壮馬にしてもだ。
「知ってるよ」
「そうだな、あの国はな」
「とんでもない国だよ」
「その国の言ってることそのままだ」
「あの国が好きなのかな」
「こいつもだ」
　今度は青樹敏というジャーナリストを見て話した。
「言ってることがそのままだろ」
「作家さんと同じだね」
「そうだ、だからだ」
「こういう奴にもな」
「注意して」
「そしてだ」
　そのうえでというのだ。
「言うことを聞け」
「おかしなことはだね」
「信じるな、発言もだ」
「それでその人も」
「北朝鮮だけじゃない」
　この極めて胡散臭いどころか真っ黒な国だけでなく、というのだ。
「胡散臭いものを胡散臭いとわかってな」
「そうしてだね」
「胡散臭いものは信じるな」
「それがわかることが大事だね」
「お前はな、そしてだ」
「そして？」
「偉そうにはなるな」
　このことも言うのだった。
「経営は商売だ、商売はな」
「腰が低くないとだね」
「駄目だ、わし等は客商売もしているしな」
「客商売で偉そうだとね」
「問題外だ、だからな」　
　それでというのだ。
「注意してな」
「そのうえで」
「お前はこれからも学んでいけ」
「わかったよ」
　壮馬は祖父の言葉に頷いた、そうしてだった。
　彼は会社を継ぐ者として学んでいった、あくまで腰は低く人格は穏やかになる様にだ。そして経営学も人間も学んでいった。