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戦国異伝供書

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第六十九話 善徳寺にてその九

「留守を守りますぞ」
「それでは」
「そして雪斎殿と松平殿で」
「先陣を務めさせて頂きます」
 元康が応えた。
「必ず」
「それでは」
「はい、そして」
「そのうえで、ですな」
「尾張に入り」
 そうしてというのだ。
「織田家の砦も城も」
「攻め落とされますな」
「そうしていきます、半蔵からの話ですが」
 元康は忍である彼からの情報も話した。
「今織田家の兵は一万五千ですが」
「その一万五千を、ですか」
「一万二千を斎藤家に向けていて」
「残るは三千ですか」
「二万五千の兵で」 
 それだけの兵で、というのだ。
「三千の兵をです」
「攻めるのですな」
「そうなりますので」
 だからだというのだ。
「数だけ見ますと」
「勝てますな」
「必ず、しかし」
 ここでこうも言った元康だった。
「それがしは妙に思います、当家の動きはです」
「織田家も知っていますな」
「それでもです」
 そうした状況でもというのだ。
「斎藤家の備えとしてです」
「一万二千もの兵をですな」
「割くとは」
「斎藤家は斎藤家で東の武田家と西の六角家、浅井家に備えておりまする」
 雪斎がこのことを話した。
「ですから決してです」
「一万二千もの兵をですな」
「割かずとも」
 織田家の兵のそれだけをというのだ。
「よい筈ですが」
「三千で勝てる、勝つ策がある」
 朝比奈は眉を曇らせて述べた。
「そうなのでしょうか」
「それは普通に考えて」
「ないですな」
「戦の常道では、ですがこちらへの兵が三千しかいない」
 このことをだ、雪斎は朝比奈に話した。
「殿はこのことを聞かれて」
「喜ばれていますか」
「それも上洛をです」
「進められていることですか」
「その一つでして」
「では」
「はい、この戦は」 
 まさにというのだ。
「拙僧はおかしなものをです」
「感じられていますか」
「何か誘い込まれている」
 その様にというのだ。
「その様な気も」
「ですからここは」
 元康がまた言ってきた。
「それがしが先陣を率い」
「そのうえで」
「まず尾張に入り」
「清州城まで、ですな」
「一気に攻め落とすつもりです」
「それが松平殿のお考えですか」
「はい、ですが最初の丸根と鷲津の砦も」
 信長がもうけているこの二つの砦もというのだ。
「非常に堅固でしかも互いに連携しておるとか」
「だからでありますな」
「攻めにくいかと、しかも優れた将も入ったとか」
 その二つの砦にというのだ。
「佐久間大学殿に何でも木下藤吉郎という」
「木下殿?誰でありますか」
 その名を聞いてもだった、朝比奈は首を傾げるばかりだった。そのうえで元康に対して問うのだった。 
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