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戦国異伝供書

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第六十八話 上洛に向けてその九

「しかも家臣の方々や民達との約束は必ず守る」
「そうした方だからこそ」
「手を結んでもな」
「よいのですな」
「そうなのじゃ、お主も他の者達もな」
 元康だけでなく彼の家臣達にも話した。
「そこはわかっておくのじゃ、岡崎の者は律儀揃いじゃが」
「その律儀は、ですか」
「信じてはならぬ者に向けてはならぬ」
「決してですな」
「若し剥ければ利用され」
 そうしてというのだ。
「己の身を滅ぼされる」
「その相手によって」
「そうなる、武田殿それに北条殿も信義はあるが」
 雪斎はここで一呼吸置いた、そして元康達にこうも話した。
「長尾殿はな」
「越後のあの方は」
「特にな、拙僧が見たところ」
「信頼出来る方ですか」
「そうじゃ、敵に回しても」
 例えそうなってもいうのだ。
「信じられる」
「そうした方ですか」
「そうじゃ、当家も今度長尾家と戦うことになっても」
「長尾殿はですか」
「信じられてじゃ」
「そこは安心出来まするか」
「戦国の世にあれだけの方がおられるとは」 
 まさにというのだ。
「そのことが信じられぬ」
「長尾殿については」
「戦国の世は裏切りが常」
 そうした世だからだというのだ。
「そこでじゃ」
「信義を徹底的に守られる方は」
「稀じゃ、さもないとな」
「生きられませぬな」
「あえてお主に言うが」
 元康を見て言うのだった。
「裏切りには気をつけよ」
「さもないとですな」
「背から切られる」
「祖父殿や父上の様に」
「そして死ぬことになる、拙僧は決してじゃ」
 その竹千代を見て言うのだった。
「お主に若くして死んでもらいたくない」
「だからですか」
「あえて言う」
 こう言うのだった。
「だからな」
「それで、ですか」
「死ぬでない、その為にな」
「裏切りにはですな」
「気をつけよ、しかしな」
「長尾殿は」
「信じられる」
 そうした者だというのだ、輝虎は。
「だから敵になってもな」
「信じてよく」
「味方になれば」
 その時はというと。
「安心してじゃ」
「裏切られることを心配せず」
「頼るのじゃ」
 そうせよというのだ。
「あの方だけはな」
「戦国の世にはそうした方もおられるので」
「そのことを頭に入れてな」
 そうしてというのだ。
「ことをしていけ」
「わかり申した」
「そしてその長尾殿にもな」
「これよりですな」
「お会いする」
 このことも話した。
「それもまたじゃ」
「それがしにとって」
「よい経験になるであろう」
「だからですか」
「この度連れてきた」
 こう元康達に話した。 
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