魔法少⼥リリカルなのは UnlimitedStrikers
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Duel:30 ここまで来たんだから
皆を見ていると本当に嬉しそうで、本当に悩んでいるのがよく分かる。
この世界に深入りしていいのか? と。だからこそ期限が決まったことを皆が聞いた時、表情が硬くなった。
理由なんて言わずとも分かる。こんな夢のような奇跡、居なくなった人ともっとずっと話していたい、一緒に居たいと思うのは当然で……この世界の事を考えればそれは不味いことだ。
でも。
もしも残りたいなんて言われたら……止める事は難しいんだよな。
それでも戻るべきだと言うのは簡単だけど、彼女らの事を知らずに言うのはあまりにも酷で、無遠慮にすぎる。
……だって、俺も逢いたい人に逢えてたら、きっと揺らいでいた。
母さんの顔を見たらきっと、冷静じゃ居られなかった。
フォルモント艦長だったら、色々込み上げて来てたんだろう。
……本気の嘘をついた、俺達の世界の二人なら……泣きながら怒ったんだろうな。
自分がそんな風になりえるってわかってて、他の誰かに言えるわけがない。
だからこそ、俺はゆっくりと答えを引き出すことしか出来ないんだ。
――side響――
「ねぇギンガ? ギンガは……この世界に残りたい?」
ほとんど丸くなってる月を見上げながら問いかける。先程の様子から顔を見てるわけじゃないからどんな顔をしているのかわからない。
きっと顔を見てしまえば、この問答を続けることができなくなるから。
「……その質問なら、イエス……かな」
「その理由を聞いても?」
「もちろん。むしろ聞いて欲しい」
普通に、いやほんの僅かに声が高い。
「……きっとさ、私がここに残るって言えば、反対するのはスバルだけだと思う」
「あぁ。俺も軽い気持ちでそう言うなら反対したが、ギンガの事だ。本気で悩んだ末の答えだろうからさ」
「あんまり買いかぶらないで。私もそこまで出来てる人じゃないんだから」
……冗談。少なくとも同世代で責任感を持ってる人だよ。
「母さんが居る。お父さんも居る。その上、ナンバーズの皆もここでは普通に暮らしている。
それ以外にも、居なくなった人やありえない可能性で満ちてるよね」
「あぁ。フェイトさんのお母さんが最たる例らしいしな。はやてさんの家なんて、たらればの塊だし」
「そう……この世界は私という異物すらも受け入れてくれると思う」
多分きっと、その言葉が宵闇に溶けていく。ふと、雲が月を隠しあたりが薄暗くなる。
それと同時に――
「でも、だけどね」
ポツリ、ポツリと微かな音と共に。
「私にとっての本物は、あの日あの時死んだんだ」
……。
「母さんの部隊が全滅して、母さんの体だけが帰ってきて……よく、よおく覚えてるんだ。
冷たくなった手を、あんなに大きく見えた母さんが小さく見えたのも、もう言葉を紡いでくれないって強く理解したことも」
声が震えてる。
わかっていた、予想はついてた。ギンガとスバルにとって、自分たちを人だと受け入れてくれた人の死とは、どれほど辛く重いものなのかって……。
それでも。
「だから――私は帰らなきゃいけない」
「……あぁ」
雲が横切り、月光が再び降り注ぐ。
「……とっても優しいこの世界に残りたいと言えば、それは本当。
でも、それは私達をここまで育ててくれたお父さんを裏切る行為で……私はお父さんを裏切れない。
母さんたちを仇を追いかけたかった筈のお父さん、それでも私とスバルを精一杯、ここまで育ててくれて……それぞれの夢のために背中を押してくれた」
「……お父さんの為にって深く捉えなくてもいいんじゃない?」
心は決まってるだろう。だからあえて意地の悪い言葉を投げかける。
「うん。きっとお父さんはこの世界のことを知ったら、そこに行っても良かったって言うと思う。
でも、だけど、これに甘えてしまえば、残ることを選んでしまえば今までの積み重ねてきた私も裏切ることになるんだ」
うん、と相づちしか打たない。
「だって……母さんを失って私達はここまで来たのに、思い出があるのに……何のために生きて、進んできたのってお話に……なるじゃない」
……あぁ、やっぱり。
ゆっくりと立ち上がって、座ってるギンガの前に立って。
「……やっぱりギンガは強いよ」
「……そんな……こと」
自分が影になってるせいで、ギンガの顔はわからない。いや、気づかないようにして。
「……強いよ。その気持ちがあるのを理解して、自覚して、それでもきちんと答えを出しているのは。
そう簡単に真似できないよ」
ぽんと、ギンガの頭を抱き寄せて。
「大丈夫、今は誰も居ないし。ここに居るのはよくわからん女子だけだし、何も見えないから」
抱き寄せた、ギンガの頭が僅かに動いて。
「……誰に、も……言わない?」
「言うわけ無いだろ。こう見えても口は硬い……と言っても、これくらいしか出来ないけどね」
ギュッと服を掴んで、頭を押し付けるように。
「っ………ぅ、あ、あぁぁ」
最初から、いや皆がそれぞれ再会してからわかっていた。ギンガの様子がおかしい……いや、幼く見えていたのは。
きっと、最初から誰よりもこの世界に残りたかったのはギンガなんだろう。
フェイトも、残りたいと言うのはあってもエリオやキャロ、ヴィヴィオも居るし。何より自分の人生を変えてくれたっていうなのはさんが居るから帰るって早々に割り切っていただろう。
はやてさんもだ。逢えて嬉しいはあっても、ここに残るという選択肢は除外されてた。責任ある役職についているっていうのもあるんだろうけど……直ぐにその選択を取れるのは本当に凄い。
スバルも、残りたいという気持ちはあった。でも、憧れた人と、その夢を叶えたいということ。
だから、ギンガも……と思ってたけれど、ずっと大変だったから今こんなに反動が来てて。
こんなに悩んでいたんだな。
決して弱いわけじゃない。先に決断していた人たちも、簡単に決めたわけじゃない。
夢のような暖かい世界で、そんな意図はなかった筈なのに。まさかこんなことになるとは……。
あーあ。墓まで持っていく秘密がまーた増えたなー。
……俺も、いや俺たちも会えなくなった人に、流と震離が入ってしまったけど。あの二人の嘘を、本気の嘘を守り通さないと。
元の世界に帰った後は大変だ。帰りを待っているヴィヴィオに、震離と仲良くなったっていう海鳴の人たちにしばらく帰ってこれなくなった、しかも帰る予定は未定ですって言わなきゃいけないし。
……もっと気の利いたこと出来たら良かったんだけど、今のこの背格好じゃこれが限界だ。
――――
その日、眠った時夢を見た。
震離が居た、流も居て花霞と一緒に何かをしてて……一瞬この世界での夢か? とも思ったけれど、己の背格好が普段と変わらなくて。遠くから呆れように笑う奏の髪が短いから……きっと俺たちの世界の、あったかもしれない夢なんだって。
そういや、流と最後に会ったのは……公開陳述会前の任務前だったっけ。
あんまり表情出さない子が、あんなに感情を出してくれたのは本当に嬉しかったなぁ。
あぁ……もう一回逢いたかったなぁ。
後書き
復旧しておりましたが、ギンガの心情をどうするかで手間取っておりました。短いですがすいません。
長いだけの文かもしれませんが、楽しんで頂けたのなら幸いです。ここまでお付き合いいただき、感謝いたします。
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