魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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Ep7無限書庫~Infinity Library~
†††Sideルシリオン†††
一足遅れて海鳴市に戻ってきたが、ただ1人なにも出来ない無力さに、いま居るビルの屋上の壁を殴りつける。元の体なら魔力無しでも少しは崩せるんだが、今の子供の体じゃ逆にこっちがダメージを受ける。
「くそっ」
悪態を吐いて、痛む拳からもう1度戦場へと視線を向ける。ヴィータとほとんど互角と言っても良いくらいに善戦しているなのは。フェイトは苦戦はしているが、以前のように一方的に押される展開じゃなく、見事にシグナムと渡り合っていた。アルフも、ザフィーラを相手に一歩も引くことなく応戦。ザフィーラは、魔導師となって弱体化したとはいえ、あの剣神シャルに一撃与えた男だ。そんなザフィーラとやり合えるアルフを、俺は心から褒めてあげたい。
「だと言うのに、俺は何をやっているんだろうな・・・!」
だからこそ余計に歯噛みしてしまう。“闇の書”に無理やり体内から魔力炉を引きずり出され、そのうえ術式をも無理やり蒐集されてしまった所為で、固有魔術の攻性術式関連はすべて使用不可になった。それだけでなく創世結界にすら侵入されてしまったことで、複製術式・武装と言ったものにも被害が出た。
(とりあえず戦闘は出来ないが、サポートくらいは出来るだろう)
防性術式や補助術式辺りにも被害は出たが、まったく使えなくなってしまったという最悪な事にはなっていない。
――発見せよ汝の聖眼――
だからこそこうして武装隊が展開している結界の外に居ても、イシュリエルという補助魔術を使っているおかげで、結界内の様子が手に取るように判る。イシュリエルは、管理局の使っているサーチャーのようなものだ。
カメラとしての機能のあるイシュリエルを通して脳内へと映像が送られてくる。ステルス効果もあるため、そうそう容易く発見されることはないから安心して戦闘区域まで潜り込ませることが可能だ。
『クロノ。俺も闇の書の捜索に加わる』
『なにっ!? ここに来るまでに決めただろっ、無茶はしないと!』
『無茶はしない。俺にとっての無茶と言うのは、碌に攻性術式が使えないくせに戦闘に参加することだ。だからそれ以外は無茶じゃないんだよ。・・・頼む、クロノ。ただ見ているだけじゃ辛いんだ』
誰も居ないところに向かって頭を下げてしまう。
『・・・判った。だがくれぐれも無理はしないでくれ。もしこれ以上君に無理をさせて、それがシャル達に知られたら、僕はおそらく無事じゃ済まないだろうから』
『了解だ。シャル達には決して知られないように細心の注意を払う』
『ああ、そうしてくれ。それで? 君は外と中、どっちの捜索に加わるんだ? 確か君は今、僕と同じ結界の外に居るはずだが・・・』
クロノの問いに『もちろん内外両方を捜索する』と返す。そんなことが出来るのか?という返って来た疑問に、イシュリエルのことを説明する。
『そうか。なら頼む。外は僕ひとりだから少々苦労しているんだ。無理はしないように。これだけは守ってくれ』
「・・・許可も貰ったことだ。闇の書の主の捜索に入ろうか」
クロノとの通信を切り、よし、と気合いを入れる。が、頭の片隅にとある推測が引っ掛かって気持ち悪い。本当に“闇の書”の主が、この現場近くにまで来ているのか、という考え。最初の邂逅の時、“闇の書”を持っていたのは守護騎士の一員だった。
2度目の邂逅。つまり俺が襲われた時。その時も、最初に遭遇した時と同じ女、確か名はシャマルだったか。彼女が“闇の書”を持っていた。おそらく、今回も彼女が持っている可能性が大きい。それを念頭に置いて、イシュリエルを操作して“闇の書”の所有者を捜索する。
「第1エリア・第2エリア・第3エリア・・・クリア。第よ――見つけた!」
ステルス効果を高めてあるイシュリエル4thから送られてくる映像に、シャマルという騎士の姿が映りこんだ。
(あの細い腕と袖口。間違いない、なのはのリンカーコアを奪った奴だ)
脚力強化を行い、シャマルの居るところまでビルの屋上伝いに接近する。途中にも『クロノ、闇の書を所持している騎士を見つけた』と、座標と一緒に報告。クロノは『僕が急行する! ルシルはその場で待機だ、執務官クロノとして命令だぞ』と言ってくるが、シャマルは“闇の書”のページを開いているのが見えている。
『そんな猶予はないぞクロノ。闇の書を使って何かをするつもりだ』
クロノが息を呑むのが判った。俺より“闇の書”のことを知るクロノのことだ。何が起こるのか知らずとも良くないことが起こるのだけは判るんだろう。
『もう着いた』
念話を切る。最大限に気配を殺し、1つ手前のビルの貯水タンクの陰に隠れてシャマルを見る。さぁどうしようか。魔術と複製においての攻性は使えない。ならば、今扱える補助術式を。
「我が手に携えしは確かなる幻想」
“英知の書庫アルヴィト”にアクセス。複製術式の中で最も制限が緩いこの世界での魔法を使おう。発動するのはバインド系の捕縛術式。座標設定完了・・・いざ!と言う時、トンと足音が貯水タンクの上から聞こえた。確認する間もなくその場から離れる。貯水タンクを見上げると、さっきまで俺が居た場所にバインドが掛けられていた。
「悪いが邪魔をしないでもらおう」
「誰だ・・・!?」
貯水タンクの陰から出てきたのは、仮面で素顔を隠している男。鍛えられている肉体を見れば、格闘戦での分の悪さが嫌でも解かる。しかしバインドを構成している魔力光を見れば、この仮面の男が・・・。
「昨日、守護騎士との戦闘時、俺にバインドを仕掛けたのはお前だな・・・?」
仮面の男は答えず、ただ黙って片手にカードのようなものを携えた。警戒姿勢。仕方ない。シャマルの方はクロノに任せ、俺がこの仮面の男をどうにかしなければ。
――チェーンバインド――
――リングバインド――
多重捕縛術式のよる捕縛結界。貯水タンクごと捕えてやろうかと思ったが、そう簡単に終わらせることも出来ないのは百も承知。仮面の男はステルスの魔法でも使ったのかその姿をスッと消した。イシュリエルをこの場に集結させる。逃がしてなるものか。
「うぁぁぁぁぁ!」
そう思った直後、クロノの悲鳴が聞こえた。バッと周囲を見回し、シャマルの居るビルの屋上を視界に収めることでクロノの悲鳴の原因が判った。仮面の男に蹴り飛ばされたのだ。仮面の男は、俺よりクロノを優先した。これはかなり堪えるな。今の俺に仮面の男を止める術が無いのは確か。だから後回しにされた。
(まずい。仮にも最強の魔術師の一角と恐れられていたのに、ここまでスルーされると泣きそう)
悔しさと情けなさを無理やり鎮め、『クロノ、バインドで援護する。捕えるぞっ!』クロノに念話を送る。
『こっちは僕ひとりで良い! 闇の書の方をどうにかしてくれ!』
「『っ・・・任せろッ』守護騎士シャマル! 第一級捜索指定ロストロギア・闇の書の所持、他いろいろの罪名で逮捕する! 詳しい弁護云々はあとでなっ!」
クロノに仮面の男を任せ、シャマルへ突撃。
「セインテスト君っ? もう復活したのっ!?」
シャマルは本当に驚いている顔を見せてきた。複製術式まで使用不可となってしまったが、ここで退くわけにはいかない。身体強化を行い、格闘戦に持ち込む。常に補助に回っているシャマルだ。おそらく前線で戦うのが苦手なタイプの騎士なんだろう。
「ごめんなさい。本当に、ごめんなさいね、セインテスト君」
「謝るくらいなら、目的を――っと!」
――戒めの鎖――
シャマルが先端に振り子が付いている魔力ワイヤーを伸ばしてきた。脚力を重点に強化し直す。2本のワイヤーの隙間を縫うように駆け、シャマルに肉薄する。
――旅の鏡――
とここで、前面に妙な空間が生まれた。だが両足が床に付いてないために突っ込むしかなく。視界が一瞬だけ閉じられ、気が付けばさっきまで居たビルから8棟も離れたビルの屋上に居た。
「転送術式・・・!」
ミスった。少し考えればこの手を使ってくることくらい判ったはずだ。なのはのリンカーコア然り俺の魔力炉然り。体内から取り出していたのは転送術式だと判っていたはずだ。後衛であり常に“闇の書”を持っていたシャマルが、その使い手であるとすぐに行きつくというのに。
「くそっ、焦り過ぎた!」
――破壊の雷――
歯噛みしているところにそれは起こった。結界上空から強烈な雷撃が降り注いだのだ。肌にビリビリと感じるほどの魔力量。あれでは武装隊の強装結界も維持できそうにないな。
『くそ。仮面の男もそうだが、守護騎士全員に逃げられた。ルシル。シャル達に気付かれる前に、先に撤退していてくれ』
『・・・了解だ』
そうして結界は破壊され、クロノから一足先にハラオウン家に戻るように言われた。何も出来なかった無力さにまた歯噛みしつつ、シャル達とバッタリ会う前に、退散する。
†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††
シグナム達に逃げられてやることのなくなった私たちは、今回のことについての話をするために本部(仮)であるハラオウン家のマンションへと帰ってきた。
「おかえり、お疲れ様」
クロノが扉を開けてすぐ聞こえたのは、ここ数日異世界で過ごしていたルシルの声だ。
「あ・・・! ルシ――」
「いるなら来なさいよ!」
「・・・むぅ」
フェイトには悪いけど、まずは私の文句を聞いてもらおう。戦いの最中は、まぁルシルも入院しているんだから仕方ないかな、って思っていたけど、すでにこの世界に居ながら来なかったっていうのは許せない。退院したってことは、もう大丈夫だってことだもの。
「たった今ここに着いたんだよ、シャル。だからそうジリジリと近付いてくるな、怖いぞ?」
その表情に嘘は見られない・・・かも。ていうか怖いって何よ。なのはといいルシルといい、私のどこが怖いっていうの?
「・・・はぁ。それが本当ならまあ許す。とりあえず、おかえり、ルシル」
「ああ、ただいま、シャル」
「あ、私の番でいいの? おかえり、ルシル! もう大丈夫なの?」
フェイトが私を押しのけてルシルに声を掛けている。なに? 私は邪魔者とでも言いたいのフェイト? まぁ先に邪魔したのは私だから文句は言わないし言えないけど。
「ああ、ただいま、フェイト。俺はもう大丈夫だから。なのは達もお疲れ様」
「うん! ありがとう、ルシル君!」
「じゃあリンディ艦長が待っているから入ってくれ」
まあいいか。フェイトがルシルにアプローチをし続ければ、ルシルもいつか折れてくれるだろう。そうなれば私もなのは達から離れずに済むはずだ。
†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††
フェイトとなのはは今、エイミィから新しくなったデバイスの説明を受けている。どうやらある程度は強くなったらしいが、フルドライブモードというのはデバイスの自壊を招いてしまうらしいそんな危険性をはらんだ機能を望むほど、2人を守れなかったのが悔しいのだろう、あの2つのデバイスは。
「にしてもさぁ、アイツらの目的って一体何なんだろうね~」
「そうよね~。彼ら守護騎士は、何と言うか今まで管理局が相対してきたのと違うわね」
「ええ。まるで自らの意志の下に動いているというか、今までそういう事はなかったはずです」
「へ? それって普通なことなんじゃないの? 守護騎士って主に仕えているんだし、その主の為に頑張ってるってなってもおかしくないんじゃないかい? まぁ、手段は許せないし認められないけどさ。誰かの為に矢面に立つって言うのにだけは、使い魔のあたしも共感できるんだけど」
アルフ、リンディ艦長、クロノが騎士たちのことについて唸る。
「それについてだが、闇の書は自由に制御できるものじゃないんだ」
「ああ、俺もある程度資料を見せてもらったが、闇の書は完成以前・以降すべてにおいて完全な破壊特化。資料を見る限り、破壊以外に闇の書が使われた、という記録は見つかっていない」
そう、俺もクロノに頼んで見せてもらった記録の中では、ほとんどが破壊の限りを尽くし、そうして最終的には自滅していくというのが結末の大半だ。散々暴走した揚句に周囲を巻き込んでの盛大な自滅。自然災害よりタチが悪い。
「それと、闇の書の守護者である守護騎士だけど、連中は人でも使い魔でもないんだ」
ユーノも続けて守護騎士の正体に関して説明に入る。それを聞いたフェイトとなのはは驚愕している。シャルはすでに気付いているようで、「やっぱりね」と唸る。
「ああ。彼らは、魔法技術で創られた擬似人格なんだ。ただ主の命令を受けて言う通りに行動する。それだけのプログラムに過ぎないはず、だったんだが・・・」
クロノはそう言うが、俺としては反対意見だ。かつて俺とシェフィで創り上げた完全自律稼働人型魔道兵器・“戦天使ヴァルキリー”も、当初はプログラムによって稼動していた子たちだったが、あの子たちはたとえ擬似人格であっても次第に心も持ち、それぞれの裁量で成長していった。
「それはおかしな話よね。私、シグナムと戦った時にハッキリと感じたもん。フェイトもなのはもそうでしょ。彼女たちはただのプログラムなんてものじゃなかった。明らかに確固とした意思があるのは間違いじゃない」
「そ、そうだよっ。シグナムって、目的は言ってくれないけどちゃんと話してくれたよっ」
「ヴィータちゃんも、怒りん坊だけどでも話は出来たよっ、ちゃんと・・・!」
シャル達に詰め寄られたクロノは「エイミィ」と後ずさりながら一言。エイミィもクロノの頼みを察し、“闇の書”と守護騎士の画像を映るモニターを表示。クロノは少し難しい顔をして、モニターで彼らの説明をし始めた。
「まず、これだけは念頭に置いておいてくれ。守護騎士たちは闇の書に保有するプログラムの1つが人の形をとったものだ。意思疎通のための会話くらいなら以前より見せているが、感情を見せることはなかった」
「たとえそうだとしても私は間違ってない」
クロノの説明を聞いてもシャルはあまり納得していない様子だ。俺としても納得いかないな。シグナムとヴィータとシャマル(僅かな邂逅だったが)は間違いなく感情がある。プログラムなどではなく、純粋な感情だった。ヴィータは特に顕著だ。
「クロノ。たとえプログラムだとしても人と関われば心が生まれるのは当然なんだ。それが人型であり長い年月であれば尚のこと」
俺としてもヴィータ達と直接戦い知った。まず間違いなく彼らは心を持っている。その上で主のためにと戦っている。
「主のため、心を持つ、か。それが魔術師としての意見なんだな? ルシル、それにシャル」
「ああ」「うん」
モニターが消え、静まり返る俺たち。沈黙を破ったのはリンディ艦長で、「その辺りに関しては捜査員の情報を待ちましょう」と告げた。クロノもそれに同意して、主が海鳴市周辺に居ることを確信し、主を先に確保できるかもしれない、と。これでこの場はお開きかと思いきや・・・。
「ユーノ、ルシル。君たち2人にやってもらいたいことがあるんだが、頼まれてくれないか?」
俺とユーノに頼み? 俺だけなら兎も角ユーノも一緒だと荒事ではなさそうだ。それ以前に俺はまだ魔力炉の修復がまだだ。戦闘は、固有魔術の大半も宝庫や書庫、居館までが被害を受けているため不可能。今の状態で出来ることと言えば、軽い複製補助系術式くらいだ。
「クロノ。またルシルに滅茶苦茶なことをさせるつもりじゃないでしょうね?」
「え? そうなの? ダメだよ、クロノ。いくらルシルだってまた倒れちゃうよ」
「違う、そうじゃないから安心してくれ。2人には闇の書について調べ物をして欲しいだけだ。ユーノと僕の知人だけじゃ手が足りないだろうから、ルシルにも手伝ってもらおうと思ったんだ」
2人に言い寄られたクロノは後ずさりしながらもそう宥める。クロノは俺の状況を知っているからこそ、その役を任せたいんだろう。俺がいま戦闘に出たところで足手纏いになるのは確かだから。
「ふ~ん、ルシルっていう戦力を、調べ物のためだけに放棄するなんて、何か隠してない?」
シャルが俺とクロノに疑いの目を向けてくる。ここで知られてはシャルがどんな行動をとるか判ったものじゃないため、誤魔化さなければ。
「シャル、それは俺への気遣いだよ。調べ物という名目での休暇みたいなものだ」
「そ、そうだ。ルシルにはずっと動いてもらっているからね。もう少し体を休ませようと思ったんだ」
「ふ~ん・・・っそ」
苦しい言い訳だったが何とか切り抜けられたな。クロノと2人して安堵の息を吐く。そして今度こそお開きとなり、シャル達は帰って行き、フェイトとアルフは屋上で訓練へ、俺とクロノは仮面の男について、リンディ艦長とエイミィを交えて少しばかりの会議を行った。
†††Sideルシリオン⇒ユーノ†††
翌日、僕とルシルは、クロノとエイミィに連れられて管理局本局へとやって来た。ここに来るまでに僕にだけルシルの今の状況を教えてもらった。もちろんなのは達には話さないことを条件として。
「でもまさか、本当にルシルが蒐集されていたなんて」
昨日、シャルの言っていたことが現実に起きていたことでかなり驚いた。ハラオウン邸からの帰り道、シャルは様子のおかしいルシルとクロノを見て、おかしい、絶対におかしい、ってひたすら繰り返しているものだから、なのはが会議で何かおかしなことがあったのかを尋ねた。シャルはもう見えなくなったハラオウン邸を見て、こう言ったんだ。
――守護騎士の話じゃなくてルシルのこと。何か隠しているようにしか見えないの。クロノの態度もおかしかったし、私たちと一緒じゃなかった間に何かあったとしか思えない――
――たとえば?――
――たとえば・・・か。ルシルが実は蒐集されてたとか?――
その時はなのはと一緒に、ないない、って笑っていた。半年前にルシル対クロノとフェイトの1対2の模擬戦を見せてもらったからだろうか。あのシャル以上にデタラメな魔術を使うルシルを見たからこそ、負けて蒐集されるなんて思いもしなかった。だから今でも信じられい。あの2対1でありながらもフェイトとクロノに勝ったルシルが負けただなんて。
「俺の力を信じてもらっていたのは嬉しいけど、それでもやっぱり最強とはいかないよ。確かに俺が万全ならそれなりの強さを持つけど、少し崩れたら一気に脆く壊れるのも事実なんだよ。そこのところは真っ先に改善する必要性ありってところだ」
そう言ってルシルは溜息を吐いた。
「それじゃあ今は全然戦えないんだ・・・」
「ああ、全然。戦闘に関する魔術や複製術式関連は見事なまでに被害を受けた。もしかして狙ったんじゃないかって言えるくらいにな。一応、複製能力は使えるが、あくまで補助関係の術式じゃないと上手く発動できない。それで実際、昨晩、守護騎士のシャマルと言う女騎士にあしらわれた」
確かに補助だけであの守護騎士と戦うなんて無謀だ。僕が「よく無事だったね」と驚いて見せると、ルシルは「排除するに値しないと判断されたんだろうな」って肩を落として項垂れた。
「それならあとどれくらいで魔力炉って完治するんだ?」
「あと4日ってところくらいか、リンカーコアと違って魔力炉は結構繊細だ。魔力ダメージなら兎も角として、本体にダメージを受けるとなかなか治らない」
「そうなんだ」
「だからといって魔術が完全に使えないわけじゃない。暴発・不発の覚悟で使おうと思えば、攻性なども発動できるだろう」
ルシル、今ものすごいことを言ったよ。あんな威力の高い魔術の暴発なんて、それこそ一大事だよ。
「やめてよ。暴発して原型留めてないルシルなんて見たくないから」
「俺だってそんなくだらない理由で壊れたくないさ」
僕とルシルが話し終えて黙ると・・・
「リーゼ、元気にしている様で良かったね」
「元気過ぎるのも考えものだけどね」
クロノやエイミィが懐かしさを含んだ声色でそう会話し始めた。海鳴市を出る前にクロノから僕たちのやることは“闇の書”の詳しい調査だと聞いた。そしてこれから会うその“リーゼ”と言う人が、その辺りに顔の利く人たちらしい。
†††Sideユーノ⇒ルシリオン†††
時空管理局本局の一画に存在する、管理世界の情報がすべて詰まっているというデータベース・無限書庫。いま俺とユーノ、そしてクロノとエイミィに紹介されたリーゼ姉妹と一緒に、無限書庫を訪れていた。
まずリーゼ姉妹のことだが、フルネームは、リーゼロッテとリーゼアリア、という双子だ。グレアム提督の使い魔で、猫を素体としているそうだ。で、クロノの格闘・魔法技能の師でもある、と。しっかりとしている方が魔法担当のアリア(片方を呼ぶ時はリーゼは要らないそうだ)で、ユーノを捕食しようとし、クロノで遊んでいたのが格闘担当のロッテ。
「はーい! ここが我らが管理局のデータベース、無限書庫!」
「あたし達の目的は一般開放区画よりさらに奥、未整理区画ね。あ、無重力空間だから一応気を付けてね」
そんな2人の案内で、俺たちは無限書庫が未整理区画へと案内されたんだが・・・。
「・・・どうしたの? ルシル。今まで見たこともないくらいに間抜けな顔だけど」
「間抜けとはなんだ。・・・いや、そういう顔になっても仕方ないか。何せ無限書庫が、完全に俺の心を捉えているんだ。見渡す限り本の山、実に素晴らしい」
上を見ても下を見ても、どこを見ようとも本、本、本。俺にとっては正しく宝の山だ。ここに居られるなら管理局入りも悪くは・・・って違う! シャルのことも言えないな、まさか管理局に俺の理想郷があったとは。
(あぁ、本の匂いがする・・・。素晴らしい)
本好きが高じて、複製してきた魔法や魔術・能力や知識を収めた巨大書庫である創世結界・“アルヴィト”を創るほどだ。だからこう言った場所は、俺にとっては楽園、聖域と言っても良い。そんな無限書庫で調査が出来る。言ってはなんだが、蒐集されて良かったとか思い始める。
「――で、君・・・ルシリオン君だっけ。スクライアの子は検索魔法を使えるからいいとして、君は大丈夫?」
「え? ええ、俺も手はあるんで大丈夫です。邪魔にはなりませんよ」
ユーノが先ほど言っていた検索魔法を複製するか構成式を教えてもらうかすれば、今の俺でも十分扱えるはずだ。
「そうなの? それなら良いのだけれど。本当は掛かりっきりで手伝ってあげたいんだけど、私たちも仕事があるから・・・ごめんね。出来るだけ手伝えるように努力するから」
俺の言葉にアリアがそう返してきてくれた。さっきの部屋での視線からして何かあったのかと思ったが何でもないようだ。
(そうと決まれば早速読み漁るとしますか)
「ルシル、闇の書のことを調べるんだからね。そこは忘れないでよ?」
「う、何故解かったユーノ?」
思っていたことをあっさりと当てられたことで、さすがの俺もビックリだ。
「だって顔に書いてあるよ、読み漁りたいって」
「そこまでハッキリと出ていたのか?」
「「「うん」」」
ユーノだけでなくリーゼ姉妹にまで。何たる醜態だ。そんな俺を見て笑い声を上げるユーノとリーゼ姉妹、俺もつられて笑ってしまった。
「いやいやちゃんと探すから。ユーノ、探索魔法っていうのを見せてくれ」
「あ、うん」
無限書庫での調査初日はこうして始まった。結果的に検索魔法の複製は出来たし使うことも出来た。そうして調査を始めてから少し時間が経った後、そういえば、さ」とユーノが話しかけてきた。
「ルシルとシャルってこれからどうするの? 以前は別れる日が来るから何とかって言っていたけど、シャルの様子からしてこのまま管理局に入りそうな勢いだよ?」
「そうなんだよな。シャルは完全に今の生活が気に入っているから、それについてどうにか説得しないといけないんだよ」
シャルの管理局入り。フェイト達とこれからも一緒というのはいいとして、組織に入ることだけはどうにかしたいが、俺も正直揺れ始めた。何せこのような楽園があるのならそれもいいかな、とか思ってしまっている。
「ええ!? 勿体ないよそれぇ!」
次の仕事へ向かう時間まで手伝ってくれているリーゼ姉妹のロッテが声を上げる。少し離れた場所に居るアリアも「うんうん。もったいない」頷いているし。
「だってあの子ってすごい強いじゃん! 見たよ、あの子の戦闘データ!」
「それに君も強いじゃない。半年前のクロノとの模擬戦のデータ見せてもらったよ」
どれだけ流出しているんだ俺たちの戦闘データ・・・。
「えっと、それじゃあリーゼさん達は、ルシルとシャルはどこの部署がいいと思いますか?」
ユーノがこの話をさらに広げようとしてきた。リーゼ姉妹は顔を見合わせただ一言。
「「武装局員でしょ」」
「やっぱりそうですよね~」
ユーノもそれを聞いて納得するが、戦いに借り出されるのは御免だ。もし入ることになるのなら、この無限書庫関連の仕事がいい。戦闘なんぞより書物に埋もれて、何時間でも深呼吸していたい。
「ルシリオン君って嘱託の試験を全部満点通過の一発合格でしょ。武装隊って結構狭き門だけど、それだけの成績を叩き出せば君なら簡単に入れそうだよ。それに、なのはって子も武装隊に入ってくれるといいよね。一気に質が上がるよきっと」
なのはにまでその話を持っていきますか、このお2人は。なのはが武装隊なら「フェイトはどうなんです?」フェイトは何だと思い、尋ねてみた。
「そうねぇ・・・クロノに似たタイプだし、執務官に向いてるかも」
「執務官ですか?」
確かにクロノと結構能力的に似ているかもしれないし、合うかもしれない。そうとなれば会う時間が一気に減り寂しくなるが、それもまたあの子の道だ。それに、そうなるように仕向けようとしていた俺が寂しいなんて言えるようなものじゃない。
その話題を最後に、リーゼ姉妹が時間だと言って無限書庫を後にした。あの2人がいなくなったことで一気に静まりかえる無限書庫。この数時間後、クロノから連絡が入るまで延々書庫内の書物と格闘した俺とユーノはただ一言。
「「整理が必要だ、ここ」」
あまりの未整理に大きく嘆息した。
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