デート・ア・ライブ~Hakenkreuz~
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第五十四話「美九と美亜」
「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!」
精霊【SS】こと誘宵美亜は天宮スクエアのセントラルステージの一番前の席に座っていた。ステージの上には淡い輝きを放つパイプオルガン、〈破軍歌姫〉がそびえその前では精霊【ディーヴァ】こと誘宵美九が霊装を纏い光輝く鍵盤に指を走らせながら歌を歌っていた。
そんな美九に〈破軍歌姫〉の効果で洗脳され熱狂的な美九のファンとなった観客たちが黄色い歓声を送っていた。ここに男性の姿はない。美九の命令で外を見張っているからである。故にステージに立つ美九に向かって歓声を送るのは全て女子であった。
「(そしてこの歌もスピーカーにのり外へと放出されている。これを聞いた者は美九の先兵となり五河士道を捜索するという訳か。よほど男だったと言う事が答えているのか)」
彼女は口には出さなかったがそのように思っていた。因みに彼女が精霊と判明した後も美九の態度は特に変化しなかった。自分はそれほど気にいられている、彼女はそう思ったが不思議と悪い気はしていなかった。このまま目的を忘れ美九と過ごしてもいいと思えるほどには。
「……うっ」
一瞬美九が言葉に詰まった。恐らくあの男の事を思い出したのだろう。幸いなのはそのまま演奏が終わったため気付いた者はいなかった事だろう。演奏が終わった事で割れんばかりの拍手と歓声が美九を包み込むもとうの本人はあまり気分は良くないようであった。
『……疲れたので、少し休みますぅ。再開まで好きにしててくださぁい』
そう言うと美九は残念がる観客たちの声に耳も貸さずに舞台袖に戻っていった。彼女も美九に用意された特等席から立ち上がり美九の後を追って舞台袖に向かう。
「お、お疲れ様です……お姉さま。あの、よ、良かったら……これを……」
彼女が舞台袖についた時に汗を軽くかいた美九にタオルを渡す存在がいた。メイド服に身を包んだ小柄な少女、【ハーミット】こと四糸乃であった。
小柄な体躯と保護欲をそそるその様相に美九の顔はとろけていた。恐らく場所が場所ならそのまま襲うくらいには。因みに四糸乃は本来メイド服ではなく私服を着ていた(天央祭には客としてきた為)。しかし、来禅高校が行ったメイドカフェの制服が余っていたため美九の指示で着るように言っていたのである。
「あーもう、可愛いですぅー!たまりませんねぇ!たまりませんねぇ!」
「き、きゃっ!……お、お姉さま……!?」
『わぁーお、美九ちゃんったら意外とダ・イ・タ・ン~!』
思わずと言った様子で美九は四糸乃に抱き着いた。突然の事に驚き戸惑いながらも四糸乃は笑みを浮かべている。そして突然の行動をした美九に声をかける者がいた。それは四糸乃の左腕に付けられたウサギのパペットからであった。最初に見た時は独特な子だと彼女は思っていたが美九がその事について聞いた時四糸乃の友人と言う事らしい。
美九は腹話術をする四糸乃が可愛らしいためにそのままにしているらしいが彼女にとっては何度見ても慣れる光景ではなかった。とは言え別にやめさせようとは思わない。美九の指示と言う事もあるが四糸乃自身がそれがないと不安定になるからだ。
美九はある程度四糸乃を抱きしめ頬ずりすると四糸乃の頬にキスをして身を離した。四糸乃の顔が一瞬で真っ赤になる。
「ありがとうございます、四糸乃さん。私の為に待っててくれたんですねー」
「あ、あの……は、はいっ」
四糸乃は真っ赤になった顔を伏せながら右手に持ったタオルを美九に差し出す。美九はそれを受け取ると汗を取るが四糸乃に抱き着いた際に半分ほどは拭われていた。彼女はそんな美九に声をかけた。
「お疲れ、美九」
「あ!美亜さん、来てくれてたんですねー!」
美九は彼女の姿を見ると一瞬で笑顔になる。先程も笑みを浮かべていたのだが今の美九は純粋な笑みを浮かべていた。作り笑顔ではない純粋な笑みに自然と彼女の頬が緩んでいく。
「くく、さぞ疲れただろう、姉上様。ゆるりと休むがよいぞ」
「誘導。こちらへどうぞ、お姉様。美亜お姉さまもこちらに」
ふと、美九を呼ぶ声がする。美九と彼女がそちらに顔を向ければメイド服の少女が二人経っていた。一瞬鏡でもあるのかと思えるほど瓜二つの顔立ちの少女たち。風の精霊【ベルセルク】こと八舞耶俱矢と八舞弓弦である。
そんな二人は控室に椅子と飲み物を用意して美九をねぎらっていた。そして、美九一番のお気に入りの為か彼女の分と思われる椅子と飲み物も用意されていた。
「ふふっ、ありがとうございます♪さあ、美亜さんも一緒に」
「…ああ」
美九の催促に従い美九の座った隣の椅子に腰かける。八舞姉妹はそれぞれ耶俱矢が美九を弓弦が彼女のお世話をする。
「確認。美亜お姉さま、気持ちいですか?」
「ああ、とても上手ね」
「ふふふ、姉上様もどうだ?」
「あ~ん、気持ちいいです~」
耶俱矢は美九の肩を揉み、弓弦は彼女の両足を揉む。二人とも一流のマッサージ師にも劣らない実力を発揮し彼女も思わずリラックスしてしまう程だ。
すると美九達の方に心地よい風が流れてくる。前を見れば四糸乃が団扇を持ちこちらに仰いでいた。恐らくこのままでは美九が八舞姉妹に取られてしまうと思っての行動だろう。
「ありがとうございます。四糸乃ちゃん。とても気持ちいですよ」
「あ、あの……その、は、はい……」
四糸乃は嬉しそうに顔を赤らめ俯く。
「ああ……」
その様子に美九は恍惚とした表情を浮かべる。美九にとって今の艦橋は自分の理想と言ってよかった。自分の歌を聞いてくれる女の子たち。そして自分に精一杯尽くしてくれる絶世の美少女たち。そして、この世で最も愛おしい存在である彼女が隣に、傍にいてくれる。
余りにも充実した現状に夢ではないかと何度も疑っていた。その度に頬をつねっては現実だと確認する。そのすべてが痛かった。
理想郷、ここに成れり。美九は今幸せの絶頂にいるのであった。
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