ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル
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第62話 命を奪う水と命を癒す水、救うための鍵はグルメ細胞!?
前書き
今回療水に独自設定が入っていますのでお願いします。
side:??
それはイッセーとトミーロッドの対決が決着する少し前の事だった。上の様子を見に行くといって別れた鉄平、彼にイッセー達の事を任せたリアス達はセンチュリースープの捜索をしていた。
「見つけましたぁ!!」
アーシアの歓喜の声が氷山内部に響きリアス達が集まる。そこには少量だが確かにセンチュリースープが存在していた。
「おおっ、見つかったのか!?」
「でもこれだけ……?限界まで分けても十数人分しかないわよ?」
シンがサングラスの下からでも分かるくらいに歓喜の表情を浮かべていたが反対にティナはスープが予想よりも少量だった事に不満を漏らした。
「あるだけで十分じゃない。さあ皆、グルメケースにスープを入れてここを脱出するわよ!」
リアス達は早々にスープを確保してこの場を離れようとする、だがその時小さな虫がスープの入ったケースを持ったアーシアに襲い掛かってきた。
「アーシアッ!」
それにいち早く気が付いたゼノヴィアはデュランダルで虫に攻撃を仕掛けた。攻撃自体は外れたが虫はそのまま逃げていった。
「何だったのかしら?」
「もしかするとあの虫使いの男の放った昆虫じゃないんですか?」
「それにしては弱かったが……」
突然襲っていた虫にイリナは首を傾げルフェイがトミーロッドの放った刺客なのではないかと話す。だがあまりにもあっさりと退けられたのでゼノヴィアが拍子抜けしていた。
「とにかく今はこの場を脱出しましょう。でもさっきみたいに襲ってくる奴がいるかもしれないから慎重にね」
「は、はいっ!」
リアスの言う通りまだ敵がいる可能性は高い、それを全員が想像してここからは更に慎重に先を進むようにする。
因みにゾンゲ達はいなくなっていた。恐らくリアス達がセンチュリースープを探している間にノッキングが解除されて何処かに行ってしまったのだろう。美食會のメンバーが他にもいるかもしれないので気にはなったがあの悪運の強さなら多分大丈夫だと思いリアス達はイッセー達との合流に急ぐことにした。
だがリアス達が下りてきた通路は崩れて塞がってしまっていた。幸いにも別の場所から上に上がることが出来てリアス達は氷山の外に出ることに成功する。
「ここは外?イッセー達がいるのはどこだったかしら……」
「向こうから爆発するような凄い音がするわ、きっとそこよ」
「なら早くイッセー達の援護に向かおう、最悪皆を連れて逃げるという事も考えておかないとな」
「そうね、でも無理はしないで……!?」
リアス達がイッセーの元に向かおうとしたその時だった、氷山の一角が割れてそこから巨大な昆虫といくつもの頭を持った化け物が飛び出してきた。
「きゃあああっ!?」
「な、なんだあの化け物は!?」
アーシアが悲鳴を上げてシンやルイ達が武器を構える。だがこの場にいる全員があの2匹は確実にヤバイ存在として認識しており体が寒さではなく恐怖で震えていた。間違いなく戦っても勝てないだろう。
幸いにもあの2匹は互いを食おうと夢中になっておりリアス達には気が付いていない様子だ。というよりも仮に気が付いても目の前の巨大な獲物の方が腹が堪るのでどっちかが死なない限りはリアス達は安全だろう。
「私達には興味が無いみたいね……」
「あんなのに同時に襲い掛かられたらとてもじゃないけど勝ち目はないわ……」
「ここはさっさとこの場を離れるのが吉ですね」
ティナとリアスはあの巨大生物たちがこっちに意識が向いていないことに安堵した。ルフェイの言う通りさっさとこの場を離れた方が良いだろう。
そう思い一同はそそくさとその場を後にしようとする。だがその時だった、宙で戦っていた2匹の巨大生物が突然バラバラに切り裂かれてしまったのだ。
「なっ……!?」
突然の出来事に足を止めてしまうリアス達、だがこの中でリアスだけが重苦しく濃厚な殺気を感じ取った。
(何この感じは……寒気が止まらない……!)
トミーロッドすら凌ぐその重圧にリアスはガチガチと歯を鳴らしながら恐怖する。仲間達はそんなリアスを見て首を傾げていた。
「リアスちゃん、どうしたの?そんなに震えて?」
「ははっ、多分あの化け物どもがいきなり死んだから驚いたんだろうな。まああんなのと戦わなくて済んだと思うと俺も気が抜けそうになるけど……」
「違う……違うの……」
ティナが首を傾げシンが化け物たちが急に死んだことに驚きながらも安堵していた。だがリアス以外の者達は異常な出来事ばかりが起きて正常な判断が出来なかった為あることに気が付いていなかった。
「あれ?向こうから誰か来ますよ?」
「鉄平か?」
それは何故怪物たちが急にバラバラになったのか、そしてそれをしたのが一体何者かという事だ……ルフェイが遠くからこちらに向かって誰かがきていると言いゼノヴィアはそれが鉄平ではないかと話す。
だがその人物は鉄平ではなかった。
「……なるほど、スープの入手が遅いので来てみればそういう事でしたか」
『申シ訳ゴザイマセン、アルファロ様。アナタ様ノ御手ヲ煩ワセテシマウトハコノユー、一生ノ不覚デス』
「仕方ありません、ミクロ型は戦闘力は皆無ですからね。スープを発見しただけでも成果です」
『ソノヨウナ御言葉ヲカケテ頂キアリガトウゴザイマス』
それはウェイターのような恰好をした男性だった。肩に何か小さな物体を乗せてソレと会話をしているようだ。
「あれは……小さいけどGTロボです!」
「なに、じゃあ奴は敵か!?」
アーシアの言葉にゼノヴィア達が警戒態勢に入った。戦える者全員が武器や魔法をかまえ男を警戒する。
「近づくな!それ以上近づくと撃つぞ!」
「……」
「コイツ、舐めやがって……!」
「ダメよ、シンさん!」
シンが氷銃を構えて警告するが男は歩みを止めることはなかった。その態度に切れたシンが発砲しようと銃の引き金を引こうとする。だがリアスの叫びと同時にシンの腕が宙を舞っていた。
「えっ……?」
肘から先がなくなり赤い鮮血が氷の大地に広がっていく。初めは呆けていたシンだったが直ぐに脳が痛みを受信して凄まじい激痛に襲われた。
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!?」
「シンさん!?」
「何が起きたんだ!?」
腕を斬られたシンを見たゼノヴィア達は何をされたのか全く理解できていなかった。だがリアスだけは男が瞬きする一瞬の内に懐から何かを飛ばしたのを見逃さなかった。
「皿……」
シンの腕を斬ったのは何と皿だった、男は皿でシンの腕を切り裂いたのだ。
「イッセーにもトドメを刺さないといけませんし早々に事を済ませるとしましょうか」
男はそう言って懐に手を入れる。それを見たリアスは即座に行動を起こしていた。
「待って!」
リアスの叫びが辺りに響き男の手が一瞬だけ止まった。リアスはそのまま必死になって叫び始めた。
「貴方はセンチュリースープが目的なんでしょう?お願い!これを上げるから私達の命だけは助けて頂戴!」
リアスが取った行動、それはなんと土下座だった。彼女は氷の大地に額をこすりつけて命乞いをしたのだ。
「リアス殿!?一体何をしているんだ!」
「そうよ!敵を前にして恥ずかしくないの!」
「貴方たちには分からないの!?目の前の男は私達が全員でかかっても勝てない実力者なのよ!」
「……ッ」
ゼノヴィアとイリナはリアスを非難したがリアスは自分達では勝てないと言い切る。ゼノヴィアとイリナも本当は分かっているのだ、目の前の存在はイッセーすら凌駕する者だと長年エクソシストとして戦ってきた戦士の感がそう告げていた。
「でも私達はイッセーと約束したんだ!スープを必ず手に入れると……!」
「そうよ!たとえ死んででもスープは守るわ!イッセー君の為にも!」
「その為に貴方たちを犠牲にすることになったら、イッセーは喜ぶような人間なの?」
『!?ッ』
その言葉を聞いてゼノヴィアとイリナは何も言えなくなってしまう。イッセーは仲間想いの少年だ、そんな彼が自分達を犠牲にしてスープを得ても喜びはしないのは付き合いの短いゼノヴィアでも分かった。
「……くっ、情けない。ここまで来て諦めなければならないのか……」
「悔しいよ……私達はなんて無力なの……」
自身の弱さに涙まで流すゼノヴィアとイリナ、そんな二人をアーシアが抱きしめた。
「良いんですよ、情けなくても。イッセーさんはいつも私達に言っていました、みっともなくてもいい、情けなくてもいい、唯生き残る事だけを考えてくれって……」
「アーシア……」
「お二人の思いはイッセーさんは絶対に分かってくれます。だから今は耐えてください」
「……分かったわ」
アーシアの言葉にゼノヴィアとイリナも引き下がった。シンやティナ達もリアスの決断に意義は言わずにいた。
「……」
アルファロはどうするか考えていた。リアス達程度なら見逃しても何ら問題はないだろう、だが例え取るに足らない雑魚でも仮にも美食屋イッセーの仲間だ。自身が仕えるあのお方の計画に0.000001%でも影響が出る恐れがあるのならばやはり始末しておくべきかと思い皿を構えようとする。
だがこの数秒間がリアス達の命運を分ける事になった。
「……ッ!?」
アルファロは空から得体の知れない殺気を感じ取る、それと同時に空から何かがリアス達の前に落ちてきた。
「ふ~、久しぶりに空を飛んでみたんじゃが良いもんじゃのう。しかし寒いね~、アイスヘルか。息も白くなってしまうじょ」
「……これはこれは美食人間国宝の節乃さんではないですか」
「うっふっふ。久しいのぅアルファロ。あの暴食バカは今も元気か?」
「……あのお方をそのように呼べるのは貴方を含めても数人しかいませんよ」
突然の節乃の登場にリアス達は驚いて何も言えなくなってしまう。いや二人が放つ威圧感があまりにも重すぎて動けなくなってしまっているようだ。
「しかし白い息とは……随分と体が鈍られたようですね。やはりあの節乃も年には勝てないようですね」
「ふん、言うようになったのう」
「節乃さん、我々美食會の元に来ていただければボスもさぞやお喜びになられると思いますが……」
「生憎あたしゃが扱う食材はあのバカを求めておらん、あたしゃのお客は食材が決める。そもそも今回は別件で来ただけで美食會には用はない、分かったらスープを持って帰るがええ」
「……」
そう言って背を向ける節乃、アルファロは今の節乃なら勝てるかもしれないと思い密かに攻撃の準備をしていた。だがそれは思い上がりだったと直ぐに気が付くことになる。
「……しまいなさい」
節乃がそう呟いた瞬間、アルファロの持っていた皿が全て粉々に砕けていく。
「……フフ、なんだ。ちっとも鈍っていないじゃないですか」
勝てないと即座に判断したアルファロはスープを入手するとその場を後にする。
「……節乃さん」
「リアスちゃん、良い判断をしたのう。あの数秒が無かったらあたしゃも間に合わなかったじょ」
「……」
節乃が現れたことによって自分たちが助かったと知ったリアスは安堵からか気を失ってしまった。
「リアスちゃん!?……ほっ、どうやら気絶しただけみたいね」
「うむ、どうやら安心して気を失ったようじゃな」
「節乃さん、ありがとうございました!」
「でもどうしてあなたがここに?」
ティナがリアスに駆け寄り様子を見るが気を失っただけで体に異常はなさそうだ。アーシアはシンの腕を癒している間にイリナがお礼を言ってゼノヴィアは何故節乃がアイスヘルにいるのか尋ねる。
「ちょいと野暮用があってのう、ついでにお前さんらを迎えに来たんじゃよ」
「そうだったんですか……でもお陰様で助かりました」
節乃がこなければ全員アルファロに殺されていただろう。気を失ったリアスに代わってルフェイが節乃にお礼を言う。
「でも節乃さん、どうして態々スープを奴らに渡したんですか?貴方ならあの男にも勝てたはずです」
「そうよ、態々渡す必要はなかったんじゃないの?」
節乃なら確かにアルファロからスープを奪えただろう。そう思ったゼノヴィアとイリナは節乃にそう質問した。
「完全な部外者であるあたしゃがスープを手に入れてもイッセーは絶対に飲まないじゃろうな。自分の力で手に入れられなかった食材をお主らは美味しく飲めるのかい?」
「それは……いえ、きっと美味しくないでしょう。自分の力で手に入れてこそ初めて味わえるものがあると思います」
「何より助けてもらっておいて図々しいことを言ってしまったわ……ごめんなさい……」
「良いんじゃよ。誰だって死を目前にして助かれば気も緩んでしまう、それ故にあたしゃの行動が納得できなかった気持ちも分かる。なぁに、若いうちは沢山過ちをおかしておきなさい。それはお主らの糧となるじゃろう」
「節乃さん……」
気の緩みからか助けてもらっておいてあまりにも図々しいことを言ってしまったゼノヴィアとイリナ、だが若さゆえの特権だと笑って許してくれた節乃の大きさを感じて改めて尊敬の眼差しを向けていた。
「所でイッセーは何処なんじゃ?一緒ではないようじゃが……」
「あっ!そうだった!節乃さん、大変なんです!」
イッセーや祐斗達がいないことを節乃がルフェイに確認すると彼女は慌てながら節乃にイッセー達の事を話した。
「なるほど、イッセー達は戦っておるのか。ならあたしゃが迎えに行ってこよう、どうやら戦いは終わったようじゃしのぅ」
節乃はここに来る際にアルファロとは違う殺気が二つあったがそれが今は消えていることに気が付いていた。恐らく戦いは終わっているのだろう。
「もう少ししたらあたしゃのリムジンクラゲと助手が来るはずじゃから中に入って休んでいなさい」
「分かりました。節乃さん、どうか師匠たちをお願いします」
「うむ」
節乃はそう言うとその小柄な体格からは想像もつかないスピードでその場を飛び立った。そしてイッセー達がいる氷山にあった亀裂に上空から入った。
「神様でも魔王でも何でもいい!皆を助けてくれ……」
そこには倒れる祐斗達と泣き叫ぶイッセー、そして目当ての人物……でなくその弟子がいた事に節乃はため息をついた。
「与作の奴め、あたしゃの依頼をほっぽって弟子に任せたんじゃな……」
この時点で節乃はかなり怒っていたが遠目で見えた小猫達の腕の痣をどうにかするために思考を切り替える。
「諦めるのはまだ早いじょ、イッセー」
「節乃お婆ちゃん!?」
まさかの人物の登場にイッセーは驚きを隠せなかった。今回のセンチュリースープの情報をくれた節乃がいきなり現れれば無理もない。
「どうしてお婆ちゃんがここにいるんだ?」
「あたしゃが依頼した再生屋がいつまでたっても出発しとらんと聞いて態々イッセー達を迎えに来たんじゃが……」
「依頼?」
節乃の言葉にイッセーは彼女が何者かにこの島の調査を依頼したことを知った。だがその人物はどうやらここには来ていないらしくそれを確かめる為に態々自分でアイスヘルまで来たようだ。
節乃の登場にイッセーはある種の希望を感じたが鉄平は何故か顔を真っ青にしていた。
「い、いやぁ……お久しぶりですね、セツ婆」
「挨拶はええ。何でお主がここにいるんじゃ?あたしゃ与作本人に依頼したんじゃがのう?」
「……」
「答えんかい!」
(う、うわぁ……節乃お婆ちゃんガチ切れしているじゃないか。こんなお婆ちゃん初めて見たぞ……)
普段は温厚な節乃がかなり怒っているのを見てイッセーは体を震わせる。心なしかこの辺りが文字通り震えているようにも感じた。
「い、いやあの……うちの師匠は今大事な食材の再生で忙しいらしく手が離せないみたいで……」
「大事な食材?あたしゃの依頼を弟子任せにするほど優先する食材とはなんじゃ?ん?」
静かながらもまるで巨人を思わせるような節乃の迫力に鉄平は隠せないと観念した。
「美食神アカシアにまつわる食材です、俺はそこまでしか知りません……」
美食神アカシア……この世界では伝説として名が残されている人物……そのアカシアの名を言われたことに節乃ですら驚きの表情を浮かべていた。
「……ふん、あやつも物好きじゃの」
節乃は取り合えずその件については納得したようでグルメショーウインドーをジッと観察する。
「……なるほどのう、ここまで枯渇が進んでおったか。概ね予想通りじゃったが派手に暴れたものじゃのう」
「えっ!?お婆ちゃんはセンチュリースープが無い可能性を知っていたのか!?」
「すまんのう、イッセー。イチちゃんから止められておったんじゃよ、センチュリースープの事を知ったイッセーがアイスヘルに向かうだろうから修行の為にあまり情報は与えないでくれとな」
「親父の奴、知ってやがったのか……何が決まったら連絡するだ、もう始まっていたんじゃねえか。まあそれについては別にいい。そんな事よりもお婆ちゃん、さっき言った諦めるなっていうのはどういう事なんだ!?小猫ちゃん達を助けられるのか!?」
今回の旅に一龍が絡んでいたことにイッセーは複雑な表情を浮かべる。恐らくこの旅も修行の一環だったのだろう。
だが別にイッセーの中に怒りはなかった。こんなことはいつものことだし寧ろ美食屋として活動してきて失敗した数の方が多い。仮にセンチュリースープが無かったとしてもしょうがないと言って次に進んでいただろう。
それに今はセンチュリースープよりも大事な事があるからイッセーはそちらを優先した。
「落ち着けイッセー、お前さんも酷い怪我をしとるじゃないか」
「俺の事は別にいいんだ!早くしないと小猫ちゃん達が!?」
「分かっとる。これを持ってきて正解じゃったな」
節乃は懐から小瓶を取り出すと中に入っていた液体を一番近くにいた祐斗に飲ませる。すると祐斗の腕に浮かんでいた痣が消えて苦しそうな表情が和らいだ。
「痣が……消えた!?」
イッセーはその光景を見て驚いていた。腕の痣がなくなったという事は豪水の効果が消えたということだからだ。
「……よし、これで一先ずは大丈夫じゃな」
祐斗から朱乃、そして最後に小猫に癒水を飲ませた。全員の腕の痣は消えて無くなった。
「良かった、皆助かったんだな」
「いや、安心するのはまだ早いじょ」
イッセーはこれで小猫達が助かったと思ったが節乃は首を横に振るう。
「どういう事なんだ?」
「小猫達に飲ませたのは『療水』という万能の水でな、グルメ細胞を活性化させてその再生力を極限まで高める効果があるんじゃ。つまりグルメ細胞が無ければ意味がない」
「じゃあ何故ソレを小猫ちゃん達に飲ませたんだ?」
「療水は豪水の効果を打ち消すことが出来るのじゃよ。過去に起きた戦争で豪水を兵士に飲ませて特攻させる国があった、その者達を救うためにアカシア様とフローゼ様が使ったのがこの療水じゃ」
「美食神アカシアと伝説の料理人フローゼ……そういえば婆ちゃんはアカシアの弟子の一人であった親父やノッキングマスター次郎と親しい仲だったな。やっぱり婆ちゃんも……」
「うむ、あたしゃもアカシア様とフローゼ様にお会いしたことがある」
イッセーは前に一龍やノッキングマスター次郎がアカシアの弟子だと知った。その両者とも親しい節乃ももしかしたらと思っていたがその予想は当たっていたようだ。
「特にフローゼ様には料理のイロハを教わってな、あたしゃにとって師でもあるお人じゃったんじゃ。この療水もフローゼ様がくださったものでな、あたしゃは僅かに残ったこの療水を大事に保管しとったんじゃが何故かここに来る際にあたしゃに語り掛けてきたんじゃよ。『連れて行ってほしい』とな」
「そうだったのか……」
以前節乃が話していた食材の声を聴く力、それが小猫達を救う事になるとは節乃も思っていなかっただろう。もしその声が無ければ小猫達は死んでいたのは間違いない、イッセーはアカシアやフローゼ、節乃に食材である療水にも心から感謝した。
「じゃが小猫達が以前命の危機であることに変わりない。そもそも豪水を飲んで死んでしまうのはその生物が本来一生をかけて使うエネルギーを一度に使い切ってしまうからじゃ、小猫達が悪魔でなかったらとっくに死んでおったわ」
節乃は前に一龍から異世界や悪魔の事を聞いているのでリアス達が人間でないことは知っていた。仮に聞いていなくても人間と悪魔では体の作りが微妙に違うので実力者である彼女なら一目で分かっただろうが。
「じゃあ小猫ちゃん達は本来一生をかけて使うべくエネルギーを殆ど使い切ってしまったって事か?」
「うむ、その通りじゃ。更にそれだけの巨大なエネルギーを引き出せば身体ももたんわい、このままでは二度と目覚めることは……」
「ふわぁ……おはようございます……」
「おはよう、小猫ちゃん。目覚めることは……お?」
「おはよう、小猫。ないじゃろうな……ん?」
節乃の話の途中で小猫が目を覚まし体を起こして二人に挨拶をする。普通に返した二人だが直ぐにおかしいと気が付いた。
「小猫……ちゃん……?」
「はい、あなたの小猫です。ふわぁぁぁあ……良く寝ました」
「小猫……?」
「あれ?何で節乃さんがアイスヘルにいるんですか?」
(どうしよう、彼らの治療で話聞いていなかったから俺空気だわ)
(あの人は誰なんでしょうか?何となく次郎さんに似ているような……)
唖然とするイッセー、珍しくうろたえている節乃、そしてマッチ達を治療していた鉄平を見てそれぞれの感想を思い浮かべる小猫……知らない人が見れば何ともおかしな光景だろう。
そして……
「えぇえエぇぇェぇえええェェぇえッ!!?」
アイスヘル中に響く大音量でイッセーの声が響き渡った。
「にゃん!?そんな大きな声を出されたらビックリしちゃいますよ……」
「……」
「イッセー先輩?」
「小猫ちゃん!?」
「きゃっ……」
可愛らしく首を傾げる小猫、だが彼女が目覚めたという現実をようやく受け入れたイッセーは体を震わせて涙を流す。そして感極まったのか力いっぱい小猫を抱きしめた。
「イッセー先輩、苦しいです……」
「バカ野郎……!俺がどれだけ心配したと思っているんだ!!」
「それはその……ごめんなさい。あの時は必死で……」
「だからって豪水なんて飲む奴があるか!……でも生きていてくれて良かった……」
「先輩……ごめんなさい、本当にごめんなさい……」
起きたばかりで少し混乱していたが自分が死にかけていたという事を思い出して小猫は罪悪感に駆られる。こんなにも想い人を悲しませることになるとは……自分は浅はかな事をしたと改めて実感して彼女も涙を流し始めた。
それから暫くお互いのぬくもりを感じ合っていたが祐斗達の事もあるのでイッセーは小猫に今の状況を説明した。
「……つまり私は療水を飲んで意識を戻したという事ですか?」
「ああ、そうだ。でも療水はグルメ細胞が無ければ唯の水らしい、でも君の体は治っているし細胞も活性化しているみたいなんだ。そうなんだろう鉄平?」
「間違いない。彼女はグルメ細胞を持っている」
療水を飲んで体の細胞が活性化して再生した。これは小猫がグルメ細胞を持っている証拠に他ならない。
「私がグルメ細胞を……」
「だが小猫ちゃんは異世界……俺達の世界で生まれたはずだ。今までの旅でも小猫ちゃんがグルメ細胞を手に入れたことなんてなかった、それなのにどうして……」
「小猫は生まれながらにしてグルメ細胞を持って生まれたんじゃろうな。今までは眠っておったようじゃが今回豪水によって死の一歩手前まで追い詰められたことによって目覚めたんじゃろう」
「生まれながらにグルメ細胞を……?」
「まあ今はそのことは後にしよう。祐斗達は依然危険な状態じゃからな」
「ん、分かった……」
小猫の体内にグルメ細胞がある、それはとても衝撃的な出来事だった。節乃が話した生まれながらにグルメ細胞を持つ人間の話も気になったが今は祐斗達の事を優先することにした。
「それで祐斗達はどうすれば助けられるんだ?」
「小猫が答えを教えてくれたじゃろう?」
「まさかグルメ細胞を二人に移植するのか?」
「うむ、それしか救う手立てはないじゃろう」
「危険だ!唯でさえ体に大きな負担をかけるんだぞ!ましてやこんなボロボロの状態じゃグルメ細胞の力に負けて死ぬかもしれない!」
「じゃがどちらにせよそれ以外に方法はないぞ。早くしなければ二人は死んでしまうじゃろう」
「ぐっ……」
節乃はグルメ細胞の持つ再生力でしか朱乃達を助ける方法しかないと話す。イッセーはリスクが高いというがそれ以外に助ける方法が思いつかなかったので悔しそうに歯を食いしばる。
「イッセー先輩、ごめんなさい。私が豪水を使おうなんて言わなければ……」
「……いいんだ。俺が不甲斐ないからその決断をさせてしまった、誰が悪いとかじゃない、全員が自分が出来ることをしようとしただけだ。反省は二人を助けてからしよう」
「……はい」
イッセーの言葉に小猫は涙を流しながら頷いた。
「なら後は細胞を活性化させる食材が必要だ。適合する食材が無ければグルメ細胞は意味を持たないからな」
「でもお二人に適合する食材ってなんでしょうか?」
「分からない、でもここには幸いにもセンチュリースープがある。伝説のスープと呼ばれる程の食材なら或いは……」
グルメ細胞は美味い食材を食べると細胞が活性化して再生力が大幅に増加する。センチュリースープなら二人の細胞を進化させて活性化させることも出来るだろう。
「そういえばスープを取りに向かったリアスさん達はどうなったんだ?」
「リアス?あの赤髪の子達か」
「鉄平、もしかして会ったのか?」
「ああ、下で会ったよ」
マッチ達の治療を終えた鉄平がリアスに反応した。イッセーの問いに彼は頷く。
「俺が上に向かう時に別れたんだがその時にオーロラがあった。敵もいなかったし恐らく入手は出来ているはずだ」
「そうか、ならスープは……」
「いや、残念じゃがスープは手に入れられなかったようじゃ」
「どういう事だ?」
「うむ。実はあたしゃがここに来る前にリアスちゃん達と合流してな、その際に美食會のアルファロに襲われていたんじゃ」
「美食會に!?」
「まさか皆は……」
「これこれ落ち着かんか。あたしゃがいるんじゃからリアスちゃん達は無事に決まっとるじゃろうが」
「あっ、それもそうですね……早とちりしちゃいました」
鉄平の話を聞いてリアス達がスープを手に入れてくれたと思うイッセーと小猫、だが節乃からスープは入手できなかったと聞かされ、しかもリアスたちが美食會と遭遇したと聞いて最悪の結果を予想する小猫だったが節乃にそう言われて安堵する。
「それでリアスさん達は無事なのか?」
「リアスちゃん達は全員無事じゃよ。今頃あたしゃの助手がリムジンクラゲまで運んで治療しておるじゃろう」
「そうか、それなら良かった……でもスープは奪われたか、リアスさん達が無事なのは勿論嬉しいがこの状況だと話しにくいな……」
「部長やアーシアさん達は仲間想いですから重く受け止めてしまうかもしれません……」
これが通常ならリアス達が無事で良かったで済む、だが今回は祐斗と朱乃を助ける為にセンチュリースープがどうしても必要だった。
眷属を家族として接し深い愛情を持つリアスや同じように仲間として心を許しているアーシア達にセンチュリースープが必要だったと話せば自分を責めるだろう。
「……イッセー、まだ諦めるのは早いぞ」
「鉄平?」
どうするか考えるイッセーに鉄平が声をかける。その顔は今までで一番真剣なものだった。
「俺はスープが誰を選んだのか見届けたい。セツ婆、良いですか?」
「あたしゃが依頼したのは与作じゃ。責任はあやつに取らせるから好きにせい」
「ありがとうございます。イッセー、まずは地下に向かうぞ」
鉄平は節乃に礼を言うとイッセーに地下に向かうように指示を出した。
「地下に?」
「ああ、グルメショーウインドーの真下に向かう」
「でも下に向かう通路は崩れていますよ」
小猫の言う通りリアス達が使った通路は既に崩れていた。これでは下に降りられない。
「あたしゃに任せんしゃい」
節乃はそう言うと懐から包丁を取り出した。すると包丁がその形を変えて鋭利な刃物に変化した。
「クックロード」
節乃がそう呟き包丁を振るう、すると地面にポッカリと穴が開いてしまった。
「なっ!?周りの氷をヒビ入れることなく一か所だけを切り取った!?」
ただでさえ激戦の影響で不安定になっているこの氷山、そんな脆くなった氷の地面に一切のヒビを入れず一部だけを切り取った節乃にイッセーは驚いた。
「これで下にまで下りられるはずじゃ。祐斗君達はあたしゃに任せてお主らはスープを取りに向かうんじゃ」
「分かったよ。行くぞ、鉄平、小猫ちゃん!」
「はい!……貴方も一緒に行こう、一人ぼっちにはさせないから」
「ユン!」
祐斗達の事を節乃に任せたイッセーはウォールペンギンの子供を連れた小猫と鉄平と共にグルメショーウインドーの真下に向かった。そして下に着くと鉄平はグルメショーウインドーを保護しているプロテクトツリーの幹に何かの液体をかけた。
「今から俺はプロテクトツリ-を収縮させてグルメショーウインドーから出汁を完全に搾り取る。運が良ければスープが出てくるはずだ」
「だがそれをすることは……」
「ああ、グルメショーウインドーを殺す事になる」
「いいんですか?再生屋っていうのは食材を守る立場なんじゃ……」
「……いいんだ。再生屋にも再生できない食材がある、そしてグルメショーウインドーはもう既に死んでしまっている。俺は再生屋として食材の終わりを見届けたいんだ」
イッセーと小猫の気遣いに鉄平は感謝しながら自身の思いを語った。
「……行くぞ!これがグルメショーウインドーの最後だぁ!!」
鉄平はプロテクトツリーを力の限り引っ張った、それによってグルメショーウインドーは締め付けられていきヒビが大きくなっていく。
(出ろ……頼む!出てくれ……!)
(お願いします……祐斗先輩を……朱乃先輩を助ける為に!)
そして限界が来たグルメショーウインドーは粉々に砕け散ってしまった。そしてその際に絞られた出汁が小猫の真上に落ちてきた。
「オーロラが……!」
小猫は素早くリュックからグルメケースを取り出してスープを受け止めた。量としては3口分ほどしかなかったが確かにセンチュリースープがそこにあった。
「こ、これが本物の……センチュリースープ!!」
イッセーはその輝く液体に目を奪われていた。
(ぐっ……駄目だ!我慢しろ!)
イッセーの中にいる鬼がスープを欲したがイッセーは何とか抑え込むことが出来た。今これを飲んでしまえば何もかもが台無しになってしまう、それ故にイッセーは必至で理性を保っていた。
「……ありがとう、グルメショーウインドー」
イッセー達はその役目を終えて静かに眠りについたグルメショーウインドーに心から礼を言う。
だがその時だった。イッセー達がいた氷山がものすごい勢いで揺れだしたのだ。
「拙いな、グルメショーウインドーを壊したことで氷山が崩れだした。このままじゃ生き埋めになってしまうぞ」
「なら急いで上に……!?」
だがイッセー達が下りてきた穴が崩れてしまった。
「くそっ、タイミングの悪い……!」
「何処かに別の出口がないか探すんだ!」
「で、でももう時間が無いですよ!」
「おーい、お前らー!」
「あっ、ゾンゲ!?」
万事休すかと思われたその時だった、遠くからゾンゲ達が走ってきてイッセーと合流した。
「一体何が起きてんだ?急に氷山が揺れだすしスープは見つからねえしとイベントが盛りだくさんじゃねえか」
「ゾンゲ様!そんな事言っている場合ですか!」
「早く外に出ましょうよ!」
「ま、待て!お前ら外に出る道を知っているのか!?」
ゾンゲ達のやり取りでイッセーは彼らが外への道を知っていると判断して聞き出す。
「俺達が氷山の中に入ってきた隠し洞窟があるぜ」
「マジかよ!ゾンゲやるじゃねえか!」
「がっはっは!もっと褒めてくれてもいいんだぜ!」
ゾンゲのファインプレーにイッセーは笑みを浮かべた。
「なら急いでそこに向かおう。この氷山はもう限界だ」
「ああ、急いで脱出しよう!」
そしてイッセー達はゾンゲの案内でその隠し洞窟に向かった。だがこの時小猫は自分が探していた存在と出会う事になるとは思ってもいなかった。
――――― オマケ ―――――
『小猫の成長』
イッセー「そういえば小猫ちゃん、さっきは戦っていたから気にならなかったけどなんか体が大きくなっていなかったか?」
小猫「ああ、あれですか?あれは仙術の一つで体を成長させていたんですよ」
イッセー「そうだったのか……」
小猫「……あの、イッセー先輩?」
イッセー「なんだ?」
小猫「こんな時にこんなことを聞くのはどうかと思いますが……その、どうでしたか?大人の私は……」
イッセー「えっと……うろ覚えだけど凄く綺麗だった。小猫ちゃんは可愛いってイメージが強いんだけどあの小猫ちゃんは大人の女性って言葉が似合う綺麗な人だったよ」
小猫「そうですか……イッセー先輩にそう言って貰えると嬉しいです。なんならこの旅が終わったらもっとじっくり見てもらってもいいんですよ?先輩が望むのならご奉仕だって……」
イッセー「んなっ!?何を言っているんだ、小猫ちゃん!?……それはやぶさかではないけど今は状況が状況だし……」
小猫「……なら祐斗先輩達を助けたら改めて見せてあげますね」
イッセー「……ん、分かった」
鉄平(なんでこの二人こんな危機的状況でイチャついているんだ?)
後書き
小猫です。まさか私の中にグルメ細胞があったなんて驚きました。でも今は祐斗先輩と朱乃先輩を助ける方が先ですからこのことは後で調べようと思います。
次回第63話『姉妹の再会!黒歌の過去と向かうは再生の国ライフ!!』で会いましょう……ってえっ?
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