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戦国異伝供書

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第六十七話 元康初陣その八

「これは世にあるのじゃ」
「妖術も」
「忍の者でも使う者はおる」
 妖術、それをというのだ。
「確かにな」
「そうなのですか」
「妖術には人を惑わす者もあるな」
「そう聞いておりまする」
「だからな」
「勘十郎殿をですか」
「惑わしてな」
 そのうえでというのだ。
「取り入ったのやもな」
「まさか」
「しかし歴史にはあるであろう」
 雪斎は自分の話を否定しようとする元康にこう返した。
「鳥羽院を惑わしたな」
「玉藻の前ですか」
「その正体も知っておろう」
「異朝から来た九尾の狐ですな」
「商、周の異朝の古の王朝に天竺で暴れ」
「商では紂王、周では幽王をでしたな」
「惑わしてな」 
 そうしてというのだ。
「それぞれの国を乱したな」
「そして本朝もと来ましたが」
「紂王、天竺の王子、幽王そして鳥羽院に何で取り入ったか」
「妖術でした」
「そうじゃ、この世に妖術は確かにある」
「そういえば天下に果心居士殿もおられます」 
 元康はこの者の名も出した。
「都におられるとか」
「噂ではな」
「まことのことかとです」
「思うな、あの御仁は」
「はい、あと飛騨にみなしご達を集め忍に育てておるとか」
「そうした話もあるな」
「これもまことの話でしょうか」
 元康はいぶかしむ顔で言った。
「一体」
「それもわからぬ、しかしな」
「妖術はある」
「そうじゃ、そのことは確かじゃ」
 雪斎は元康にこのことを話した。
「だからじゃ」
「このことはですか」
「頭に入れてな」
 そうしてというのだ。
「ことを考えることじゃ」
「それであの津々木殿もですか」
「そうやも知れぬ、とかくな」
「あの御仁はですな」
「拙僧がただ思うことであるが」
 それでもというのだ。
「あの御仁には得体の知れぬ不気味なものを感じ」
「それがですな」
「妖術やそうした力ではないかとな」
「思われますか」
「なら戦の采配が不得手なのも当然」
 このこともというのだ。
「本分はそちらではないからな」
「妖術を使うこと」
「それでじゃ」
「戦の采配は然程でなく」
「この度のことはな」
「それがしの戦ぶりを見ることですか」
「ひいては今川家のな」
 元康だけでなくというのだ。
「そこまで見てな」
「そうしてですか」
「これからどうするかじゃ」
「それを考える為のものですか」
「そう思う、しかしな」
「それでもですな」
「ただ拙僧が思うだけで」 
 それでというのだ。 
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