おっちょこちょいのかよちゃん
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27 久しき食事
前書き
《前回》
終戦直後、かよ子の母・まき子とその知り合いの女性・奈美子は食料を探していた。そんな時、二人は御穂津姫の声を聞き、言葉通りに御穂神社に向かうと、不思議な力を持つ杖と護符を手にする。奈美子はその護符の能力を行使すると二人は海からマグロを手に入れたのだった!
かよ子は母の話を聞いて母の苦渋を改めて知るのであった。
(そうだったんだ、普通の人なら信じられないと思ったけど、お母さんは終戦後にそんな経験をしてたんだね!)
三河口も愕然としていた。
「かよちゃんのお母さんが杖を、そしておばさんが護符を貰ったんですか」
「そうだよ。あの富士神社の御守もあの護符の力が入っていたんよ」
富士神社の御守とは三河口がオリガや丸岡を撃退する際に使用していた御守の事である。
「それで、お母さんはその時、どう杖を使ったの?」
「その杖でマグロの料理を作るのに活かしたのよ」
まき子は話を続けた。
まき子は奈美子と別れ、マグロを両親の所へ持っていった。
「只今〜」
「あら、まき子、お帰り。あら、マグロじゃない!」
「うん!」
「まき子、その杖は何だ?」
父が聞いた。
「ああ、これ、不思議な杖なんだ。信じられないと思うけど御穂神社に行って神様みたいな人から貰ったんだよ」
「それは何に使えるの?」
「ええと、一緒に使い方を書いた本が書かれてあるんだ」
まき子は本を開いた。しかし、文字は見た事もないもので仮名でもアルファベットでもない。
「まき子、貴女かつがれたんじゃないの?返しに行った方がいいんじゃない?」
「そんな、あれ・・・?」
まき子は改めて本を見る。すると、見慣れない文字が自分には読めるようになっていた。
「じ、字が読める?」
「え?」
「ちょっと待って」
まき子は本をめくって他のページを開いてみた。そして、一つの項目に目をつけた。
【料理の道具に杖を向ければ、様々な料理を一瞬で作る事ができる】
「お母さん、何か料理道具は?」
「そうね、ここに鍋ならあるけど」
「うん、ありがとう」
まき子は古びた鍋に向けて杖を向けた。鍋がその時、光りだし、マグロが鍋に吸い込まれるように動き出した。
「な、何が始まるんだ?」
三人は目を丸くして鍋の様子を見た。鍋は少ししてマグロの刺身を出した。
「す、凄い!魔法の鍋だ!」
「いや、杖が鍋に魔法をかけたんだ!」
三人は感激した。母は刺身を別の器に移した。
「これでご飯やお味噌汁があればいいのにね」
母はそう言うと、鍋は茶碗に入った白米のご飯を三膳出した。
「す、凄いね!」
三人はご飯を取り出すと鍋は次は味噌汁を出した。
「凄いわね、お母さんこんなご馳走久しぶりだわ」
「うん!」
三人は久々の食事を大いに楽しんだ。あの時のマグロの味は今でも忘れられない。食べ終わると鍋が出した食器は消え、鍋は自動洗浄され、再び元の鍋に戻った。
まき子はこの杖を幾度か頼りにした。料理の時以外にもどう使えるのか本を読んでみた。色々な事が書いてある。それも見た事もない字なのに読めるのだ。
翌日、まき子は奈美子と出会った。
「ええー!?鍋が魔法の鍋になって刺身にもなったの!?凄いな!家はマグロに芋って不釣り合いな組み合わせだったんよ〜!!」
奈美子は話を聞いて羨ましく思った。
「まあ、でも、食べられただけいいじゃん」
「まあ、芋はウチの弟が何とか手にしたんだけどね。そうだ、何か他にも食べられたらいいな」
奈美子は持っている護符に何かを感じた。すると、お金が70円ほど出てきたのだ。
「ご、護符がお金を出した」
「そうだ、奈美子ちゃん、市場行こうよ!アメリカ軍から残飯を分けてもらって配っている人がいるってお父さんが前にも言ってたんだ」
「じゃあ、行ってみるか」
二人は市場へと向かった。
市場、いわゆる「闇市」は賑わっていた。二人は入って商品を見ると、食品はあれど配給時の値段の何倍もの値段だった。普通の人ならまず買えない。
「色々あるね」
「うん、これだけあるならお米も買えるよ」
その時、急に騒ぎが起きた。
「かっぱらいだーーー!」
そこで商いをしている男性の一人の声だった。二人は周りを見回すと、その時、一人の少女とぶつかった。少女は髪を伸ばし、顔は煤で汚れていた。その少女は白米や肉の缶詰を手にしていた。少女は慌てて走り去った。
「あ!お金が!」
奈美子はその少女からお金をすられていた事に気づいた。そしてすぐ先程叫んだ男性が現れた。
「どこに行ったんだ?」
「あ、あの!」
まき子はその男性を呼び止めた。
「その子はあっちに行きました!」
まき子は少女がにげていった方向と反対側の方を指差した。
「よし、あんがとよ、孃ちゃん!」
男性は向かった。
(あの子、親を亡くしちゃったんだ、だから盗みをやるしか生き延びる方法がないんだね・・・)
「まき子ちゃん」
「え?」
「さっきあの子に、お金盗られた」
「ええ!?」
「どうしよう、何も買えなくなっちゃったよ」
しかし、護符の力なのか、すぐまた新しいお金が出てきて、奈美子のもんぺのポケットの中にそれらが貯まる感触を奈美子は感じた。
「あ、新しいお金」
「よかったね、きっと恵んでくれたんだよ!」
「うん、何を買おうか・・・?」
二人は何を買おうか悩んだ。その時、油と煮込み料理の臭いがした。並んで待っている人も多い。二人は店の看板を見てみると、そこには「安いシチュー」とあった。戦中から二人にとってはシチューというのは海軍の偉い人が食べるメニューというイメージで自分達には縁がないものだと思っており、折角だから口にしてみようかと思った。
「10円なら十分間に合うね。並ぼうか!」
「うん!」
二人はシチューの行列の最語尾に並んだ。やがて15分程してやっと自分達の番にありつけた。
「シチューお願いしまーす!」
「あいよ!」
店主はドラム缶から煮込んだシチューを器によそい、二人が座る席のカウンターに置いた。中には色々な具が入っていた。人参、玉ねぎ、グリーンピース、中にはスパゲッティやうどんの切れ端と思われる物、そして欠片としてだが肉も入っていた。
「色々入ってるね!」
「ああ、アメリカ軍の人が余った食材を分けてくれたもんでね」
二人は一見雑に入っているだけの煮込み料理に栄養の多さを感じ、平らげた時には人生で初めてといえるくらい満腹となっていた。
食べ終わった後、二人は白米の缶詰と肉の缶詰をお土産に買って市場を出た。
「これ持ち帰ったらお父さんとお母さん喜ぶよ!」
「そうね」
その時、二人の人物が揉めていた。一人は先ほど盗難被害に遭った市場の男性でもう一人は先ほどのかっぱらいの少女だった。
「こら、返せ!!」
「やだ、やだ、やだ!!」
まき子と奈美子はその様子を目撃した。
(あの子、さっきの子だ!!)
後書き
次回は・・・
「戦災孤児の苦悩」
戦災孤児の少女と出会ったまき子と奈美子はその少女を救い出す。だが、少女以外にも空襲で親兄弟を亡くした少年少女の多さの実情を目の当たりにし、二人は何かできないかと考える・・・。
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