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戦国異伝供書

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第六十七話 元康初陣その四

「布陣には隙が多く鉄砲は少ない」
「そういえば鉄砲は」
「織田家は鉄砲は少ないといいますが」
「あの軍勢は鉄砲は殆どありませぬ」
「そしてです」
 そのうえでとだ、酒井も榊原も石川も述べた。鳥居もいる。
「槍も短いです」
「弾正殿の軍勢の槍は異様に長いと聞いていますが」
「槍の長さは我等と変わりありませぬ」
「それに布陣も隙が多いです」
「吉法師殿の布陣のよさはわしの比ではない」
 このこともだ、元康は話した。
「そこも見るとな」
「やはりですか」
「あの軍勢は弾正殿の兵ではなく」
「弟君の勘十郎殿の兵ですか」
「左様ですか」
「間違いない、しかもその勘十郎殿も」
 信行、彼もというのだ。
「おられぬな」
「そういえば」
「何か闇色の旗も見えますな」
「雪斎殿とお話しましたが」
「あの闇の色は」
「やはりな」
 まさにとだ、元康は話した。
「津々木殿か」
「この度の総大将はですか」
「あの御仁ですか」
「あの御仁が兵を率いられ」
「三河に来られましたか」
「何でも勘十郎殿の執権の様になられ辣腕を振るっておる様だが」
 それでもとだ、元康はさらに話した。
「しかしな」
「戦の采配はですか」
「それはですか」
「大した力量はない」
「左様ですか」
「うむ、ではな」
 それではとだ、元康は告げた。
「平八郎を先陣とし」
「そうしてですな」
「攻めますな」
「そうしますな」
「あの軍勢はな」
 まさにと言うのだった。
「平八郎が正面から一撃を浴びせ」
「そしてですな」
「そのうえで、ですな」
「次は我等が攻める」
「平八郎の一撃で崩れたところを」
「そうして攻める、平八郎は敵陣を突破し回り込み」
 そうしてというのだ。
「敵を後ろから攻めるが」
「我等はですな」
「その敵軍を囲み」
「そうして攻めて」
「勝つのですな」
「だからこの陣じゃ」
 鶴翼、この陣にしたとだ。元康は家臣達に話した。
「その様にしたのじゃ」
「左様ですな」
「ではその様にしてですな」
「敵を破り」
「その後は」
「ある程度攻めれば敵は退く」
 そうなるというのだ。
「さすればな」
「尾張まで、ですな」
「追いますが」
「それでもですな」
「尾張まで逃げれば」
「その時は」
「うむ、それでよい」
 そうなればというのだ。 
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