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戦国異伝供書

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第六十七話 元康初陣その一

               第六十七話  元康初陣
 三河に入ろうとしている織田家の軍勢を迎え撃つべく今川家は義元自らが出陣してそのうえで三河に向かった。
 義元は五千の軍勢を率い氏真や雪斎、元康達を連れて駿府城を出た。その先陣は元康であり彼は黄備えの軍勢を率いて進んでいった。
 そうして駿府から遠江、三河へと東海道を進み岡崎城に入った。義元はこの城をこの度の戦の足掛かりと定めており程なくして雪斎も自信が率いている軍勢と共に入城した。
 その時にだ、雪斎は先に入っていた元康に彼に従う三河者達も交えて話をした。
「拙僧も行軍中にでおじゃる」
「僧の方々のつてからですか」
「調べたでおじゃるが」
「それがしもです」
 元康は服部を見つつ応えた。
「半蔵にかなり念入りに調べてもらいましたが」
「それでもであるな」
「残念ながら」
 こう雪斎に答えた。
「何もわかりませんでした」
「拙僧もでおじゃる」
 雪斎は苦い顔で答えた。
「何もでおじゃる」
「津々木殿のことは」
「影も形も」
 それこそという言葉だった。
「わからなかったわ」
「左様でありますか」
「まことに」
 雪斎は眉を顰めさせ述べた。
「何者であろうか」
「何でも着ている衣は」
「黒いや闇の色という」
「それだけはわかりますが」
「闇色の衣となると」
 ここで雪斎は話した。
「大和の松永弾正殿に」
「あの悪名高い」
「そして都の天海殿に崇伝殿」
「僧の方々ですな」
 その二人の名を聞いてだった、石川が言ってきた。
「それは」
「うむ、都ではそれなりに名の知られたな」
「僧侶の方々ですか」
「左様、どちらもかなりの学識と頭の冴えであるが」 
 それでもという言葉だった。
「得体の知れぬものを感じて拙僧は」
「お好きではありませんでした」
「僧は好き嫌いを言わぬ方がよいので」
 それでと言うのだった。
「控えさせてもらうが」
「ですか」
「そして」 
 雪斎はここで服部を見て述べた。
「伊賀の」
「百地三太夫殿ですか」
「その下にいるという」
「石川殿、楯岡殿、音羽殿の」
「その御仁達であるがつながりは」
 その彼等にというのだ。
「あと公卿の高田殿も闇の色の衣を着られるが」
「どうもです」
 元康は公卿もと聞いて訳がわからないといった顔になって述べた。
「それは」
「つながりはないと」
「はい、都の公卿の方に僧籍の方、忍にです」
「そこまでだとであるな」
「ただ単に」
「福の色が同じだけでな」
「他のことは」
 どうにもと言うのだった。
「あるとはです」
「拙僧もじゃ、やはりな」
「津々木殿と他の方々は」
「何もないな」
「松永殿か伊賀者か」
「いえ、伊賀でもです」
 そこでもとだ、服部が言ってきた。 
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