曇天に哭く修羅
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第一部
世間の風潮
前書き
久し振りに更新。
予選を勝ち抜き【夏季龍帝祭】の本戦へ参加する資格を得た白髪の少年《立華紫闇》は嬉し過ぎて発狂しそうだった。
しかし敢えてそれを我慢したのは客席に見覚えの有る彼の姿を確認したから。
同じクラスの同級生で眼鏡を掛け、黒髪を後ろで束ねた鋭い視線を持つ凄腕の剣士。
(《江神春斗》なら、あいつならばこんなこと位で喜んだりはしない。さも当然と言わんばかりの態度を取る筈だ……)
彼に追い付く為にも無事に予選を抜けた程度で気を緩めるわけにはいかない。
だからといって人間なので気を張り続けているというわけにもいかないが。
「……お前は一体何を一人で笑ってんだ。知らない人からすればメチャクチャ不気味で怪しい挙動不審だぞ。つーか気持ち悪いから」
現れたのは幼馴染の《的場聖持》
「お、聖持か。一月振り」
「もうちょっと会ってないんだけどそれはまあ別に良いんだよ。この短期間にえらく強くなったな。でもあれだけ力の差が有るんなら手加減しても良かったんじゃないのか? 大体の人間は容赦が無さすぎて引いてるだろうに」
聖持の意見に紫闇は悪びれず返す。
黒鋼での修業によって相手の殺傷は呼吸するのと同じで生理現象と化しているのだと。
「気付けば急所を潰してる感じなのか……」
修業でそうなったのなら人格が歪んだり白髪になってしまうのも仕方ない。
聖持はそう判断した。
「そういやぁなんか俺、時々おかしな幻聴が聞こえるようになったんだぜ? いやはや人体ってどういう構造してんだろうなぁ~」
「いや笑ってる場合じゃねーだろ。早く病院行けや。主に頭をメインにしてる方の」
「別に気にならないから良いや。俺はその時間を修業に注ぎ込みたいんだよ」
(う~ん。以前にも増して努力馬鹿の度合いが上がったな。やってきたことが報われる快感を知ったら無理ないかもしれないけど)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
紫闇と聖持の二人が【龍帝学園】の内部に在る中型バトルスタジアムのエントランスホールを抜けて出入口に差し掛かった時だ。
「聖持君も一緒だったのか。まあそれはおいといて本戦出場おめでとう紫闇」
立っていたのは長い黒髪の少女。
紫闇を鍛え上げた師匠《黒鋼焔》
龍帝の制服を着ている。
「久し振りに来てみたわけだけど相変わらずの空気だねぇ此処は。退学にでもしてくれれば良かったのに。物好きなんだから『彼女』は」
焔は弟子の試合を見に来たが一足遅く、勝ち残ったところを確認できただけ。
かと言ってそのまま屋敷に帰るというのも愛想が無いので直接会いに来たわけだ。
「そっか。修業に夢中で忘れてたけど焔は龍帝の二年生って言ってたよな」
「一年くらい来てないけどね」
紫闇に答えた焔が聖持を見る。
「フッ。相変わらず強いことを判り難くしてるみたいだね聖持君は。君らしいけど」
「焔さんはちょっと妥協した方が……」
紫闇には二人の言葉にどういった意味が含まれているのか理解することが出来なかった。
なので教えられる。
『妥協』とは何なのかを。
焔曰く、『強者が優遇される』といった風潮は既に過去のものらしい。
人類と敵対していた側の上位存在。
つまり最後の【旧支配者】が大英雄ら七人によって倒されてから8年。
《ナイアー=ラトテップ》が置き土産として世界中に千個も残した【無明都市】
日本に存在した一つは七人の【魔神】が誕生したことにより無事に解放された。
「無明都市の四層目まで解放された時点で日本政府のトップ達は状況を楽観視したのさ。残りの三層も直ぐに解放されるって。実際そうなったしね。それ自体は良いことなんだけど」
焔は溜め息を吐く。
「でもその結果として魔神や魔神候補には以前より高い『英雄性』が求められるようになったわけだ。つまりは『プロパガンダ』だな」
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聖持によれば【天覧武踊】は最早、無明都市を解放する為ではなく、莫大な興業収入によって国庫を潤す金稼ぎのツールらしい。
「その為にも常に優秀な学生魔術師が増加することを望んでるってわけか」
紫闇は納得した。
「魔神や候補の英雄性が高いほど憧れる奴は増えていき学生魔術師が増えて儲かるような経済システムが出来上がってるんだ」
「だからもう【魔術師】にとって求められる第一の条件は『強さ』じゃない。カリスマ性の高い人格者が欲しがられるんだ。何処の学園もそうなってると思う」
日本以外もその傾向が強く、世界的な流れになっているので仕方ないと言えば仕方ないが。
「その点だとあたしは駄目だよ。憧れを抱くような人間は今の紫闇みたいなタイプが多い。つまりは少ないってことだね。それどころか魔術師のイメージを悪くする可能性の方が遥かに高い」
「だから焔さんは気を使って表の天覧武踊には出ないことにしたのさ。紫闇も一般的に見て行き過ぎた行為には気を付けた方が良いぞ」
焔自身は公式の試合で戦いたい相手が居ないわけではないのだが、ただ戦うだけなら別に表の世界でなくとも構わなかった。
だから普段は学園に通わず鍛えて備える。
「でも向子さんに誘われてますよね焔さん」
「うん。何でか気に入ってくれてるんだよ。しつこく試合への出場を打診してくるけど特別どうしても戦いたいわけじゃないから断ってる」
生徒会長の《島崎向子》とは非公式で何度も戦っているので全力を出しても良い『大丈夫』なレベルだと判ってはいるのだが。
後書き
更新してない間に読んでた小説が消えた。
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