少年は魔人になるようです
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第123話 "娘たち"は駆け出すようです
Side アリア
「・・・う、?」
痛みと共に意識が覚醒する。
ほぼ見えていないぼやけた目を瞬かせ、視界をクリアにしていく。
あの主神が登場してからと言うもの、自分は足を引っ張っているだけだ。役に立てない
のは嫌だ。助けられてばかりなのも嫌だ。助けてくれたあの人を助けてあげたい。
あの人の隣に立つ、あの背中を―――槍が貫いていた。
「・・・ご、け・・・!」
動きの鈍い体に鞭打つと、体中から血が吹き出し、血を吐く。今までに無い重症だ、回復も
しない。
「それ、が・・・!」
・・・それがどうした!
自分を取り戻してくれた、命をかけてくれたあの人達の為に命をかけられないのなら、
この命に、価値なんてない!!
「・・・パパ、ママ・・・!!」
軋む体に鞭打ち―――私達は、一斉に駆け出した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
subSide 創造主神
「―――不可解……そして不快である。何故だ?」
未だに自分に向かってくる被造物を、憎々しげに――"目"と言うものを持ち合わせて
いないが――睨みつける。
元凶を排除するまでも未知の現象が起きたが、それも創造者と相対せば少ないがあった。
それらも、戦闘に長けていようと鉄壁を誇っていようと、『破創』の一撃で仲間ごと・・・
いや、威力余って傍に置いた世界まで葬ってしまっていたのだと思い出す。そういえば、
創造し直すのが面倒だった。
そう、常ならばそれで済んでいたのだ。だというのに、それを乗り越えた挙げ句、創造者
でもないただの被造物が立ち、向かってくる。
「―――創造し直すか?」
だが最も面倒な事だ。
あの魔人によって統一されてしまった『この世界』を創造し直す手間たるや。
想像するだけで億劫だ。そんな事をしてしまえば、何の為に『抑止力』を自動化させ、
創造者のみを相手する傍観者であったのか分からなくなる。
「―――手加減、か?出来るか分からぬが。」
試しに創力を魔力へ"落とす"。当然燃費は悪くなるが、それでも過剰になってしまう。
適当に細分化し、兆分の一程度まで行った所で適当な属性を割り振り、放つ。
炎が奴らを襲い、破壊不能に設定されていた宮殿の壁から翻り、幾度と襲う。
・・・成程、優先度を落とせば、この様な"創造物"も利用出来るのか。面白いではないか。
「―――面白い?ハハ、そうか、面白いか。」
自分の思考が信じられない。
所謂負の感情を抱くことはあったが、楽しんだことなど一度もなかった。
今ある"世界"らの骨子を創造し、放した時など感情のただの一つもなかったというのに。
それがどうだ、我に興味を持たせ、感心させ、不愉快にさせ、楽しませまでした。
こうなれば、創り直すなど勿体無い・・・とも思うが。
逆に言えば、このような│個体≪世界≫も出来ない事はない事の証明だ。そして、0%でな
いのなら、創造者にとっては絶対も同義。
決めた我は、未だ先程成した"炎魔法"に焼かれながらも歩を進める被造物を見る。
「―――大儀であった。せめて流儀に合わせ―――消えるが良い。」
そして、追加の炎"魔法"を創った。
Side out
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「チィ!魔法一つになんてザマだ!」
「"魔法"って時点で馬鹿にされてるけれどね!」
エヴァと真名が文句言いながら炎を攻撃するけれど、すぐに同じくらいの炎に戻って、
避けるしかなくなる。こっちは・・・なんかいっぱい居るのに、それでも進めない。
私たちだけじゃ、こんなにも弱いの?命なんかかけたって―――
「アリアッッ!!」
考え過ぎていた私の前に、更に炎が放たれる。さっきの適当に撃ったのとは違う、私を
狙った攻撃。神虎の防御も出来な
――――――やれやれ、不甲斐ない本体じゃのう
ゴゴォオオオオオオオオオオオゥ!!
「しぇんっ・・・!だめ!」
私を押しのけるように神虎が現れ、身代わりに炎に焼かれる。
戻そうとしても戻らないし、いつもと様子が違う。表情もなくて、焼かれているのに反応
してない。この使い方は・・・『神虎』の本当の使い方。
「("シュリア"・・・!)」
―――貴様もその名を使いよるか。まぁ同列に考えられても気色悪いからよいがの。
クルセウスが"私"に上書きした疑似魂を使った別人格で、本当の『神虎』の能力者。
あの時、パパにビビって引っ込んでからは声すら発しなかったし、パパも敢えて消さな
かったもう一人の私。なんで急に?
―――戯け、妾が出なければ死んでおったわ。ゆくぞ、"それ"をあの人間に届けるので
あろう?
「(てつだって、くれるの・・・?)」
―――例えあの憎き人間を助けようとも、事もあろうに創造主神が相手であろうと・・・
自分の命を最優先に考えれば必然よ。奴しか可能性はない。
「・・・・・・うん!」
今まで自分でしていた『神虎』の制御をシュリアに預る。
『全天世界観測』に意識を集中させると、脳内に浮かんでいた平面画像が立体化し、敵と
仲間の位置だけだったのが、攻撃・攻撃予測・行使タイミングが流れ込んでくる。
あとは、全員に指示を出せるように軽いリンクを脳に刺しておく。
「じゃぁ、いく。・・・ラカン!」
「うおっ!?あんじゃこりゃ!?ったく、我らが姫様のご要望とありゃあ、仕方ねぇ!」
「水クセェな、ジャックが行くなら俺らもだろ!?」
ラカンを呼んだら付いて来たナギたち。ま、多いにこしたことは無い、はず。
「じゃ・・・壁よろしく。」
「わー、扱い酷くないかのう?」
「ふふふ、いいじゃないですか。幼女を合法的に庇えるチャンスですよ?」
「ふん、なら私達も守ってもらおうか?」
皆が私を中心に集まる。
突破という目標は変わらないけれど、目的は違う。ただ、私が預かった物をパパに返す。
だから、アレを潜り抜ける。たったそれだけ出来なくて―――
「パパとママの、娘を語れない・・・!」
「フッ、随分やる気だ。なに、妹の道くらい切り開くさ。」
「・・・行く!!」
―炎魔法 前方三時・十一時 威力二万 付与永久・反射・追尾・操作
『神虎』に跨って走り出すのと同時、追加の攻撃とさっきの炎が向かってくる予測が
映像と文字で表示される。
共有すると、皆最小限の動きで避け、また集まって進む。と、少しだけ主神が反応した。
被造物って連呼していたから、侮ってたんだろう。
でも余裕なのは今のが最後。次はもっと―――
―創造魔法・炎 対象者全方位十倍 威力億倍 付与無限
予測が見えたと思ったら、私達の周囲を炎が取り囲んだ。
無限に湧く"創造"されたの炎。速度も威力も攻撃範囲も桁違いの攻撃。だけど・・・物量
だけなら私たちだけでもなんとかなる!
「とーこ、アル、任せた。」
「ええ、任されましたよ。任されましたとも!」
「変態とセットなのは複雑ですが…『呪術・箱庭藁人形』。」
刀子が小さな藁人形を取り出す。総量を変えないまま瞬時に変形して、手のひらサイズの
私達と炎を表す"この場"となる。
そのミニチュアの炎をアルがブラックホールでどこかに削り取ると、私達を囲んでいた
炎も一瞬で掻き消える。
「あ、私もう無理みたいです。」
「アルまじ役立たず、寝てて。」
「きびしーですねぇ……悪くないです。」
役目を終えたアルが倒れる様に退場する。
どんなに優先度が高くても、効果が巫山戯ていても、即応の"創造"には必ず穴があるって
パパは言ってた。主神になればちょっと難しい事も出来るかも、って。
でもここには一番すごい人達がいっぱいいる、から。
「ラカン、肉壁。」
「俺の扱いうぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぶべらっ!!」
どずむっ!!
飛んで来た追尾性の物理攻撃を全てラカンに任せる。
半ベソかいてた気もするけれど気にしない。
主神まであと10m、いつもなら一瞬の距離なのに、一生届かない錯覚に陥るくらい
進んでいない様な気がする。気圧されているせいで余計だ。
一人だったら無理だった。多分、途中で折れてた。でも、皆が居る。それでも足りない。
状況が認めろって言ってるみたいで・・・ああ、ホントは分かってる。でも凄く嫌だ。
嫌だけど―――
「"紅き翼"根性見せっぞオラァ!!ひっさぁぁああああああつ!!」
『『『クリムゾン・コレダァァァァァァァァァァァァァ!!!』』』
ズギャゥッ!!!
五人がただ同時に全力の攻撃を仕掛けるだけの脳筋技。
―被造攻撃消去 前方
創造者相手に撃つなら最悪の攻撃。主神は侮蔑もしないで無言で消そうとするけれど、
先が見えていない。
尚も早くされた"創造"の発動だけれど、その程度は織り込み済みのナギ達。攻撃が一瞬
早く地面に着弾して土煙を立てる。
目的は最初から目くらまし。勿論物理的な意味じゃなく、『全力の攻撃を消そうとしたら
読まれていて消し損ねた』って言う、精神的なタイムラグを作るため。
例え一瞬でも、その一瞬で私達は喉元まで食らいつける!
「あとは・・・!」
「囲ってタコれってなぁ!!!」
―――放て!!
主神を囲んで、全方位からの攻撃。
その間に私だけは脇をすり抜けて、パパとママの所へ向かう。
上手くいった、後はこれを渡せば―――
「パパ・・・!」
「―――これが、最後の足掻きと言う訳か。」
耳元でその声が聞こえたと思ったら、私は――私達は、走り出した位置に"戻って"いた。
そして、パパとママの傍らに立つ主神の手には、私が預けられた『帰還の融魂』握られ
ていた。
「―――妙な事だ、貴様の『創造』は初期化したと言うのに。これも貴様の見つけた
バグの一種か?健気な事だが―――」
「返せえぇえええッッッ!!!」
『神虎』を全頭融合させて、全員分の能力を掛け合わせた『大神』にして、主神に迫――
「―――『破創・神気』―――」
カッ!!
―――馬鹿者っ!
シュリアが制御して『大神』が盾になった瞬間、光に消し飛ばされた。
さっきの『破創』、その手加減された攻撃で、もう動けない。
駄目、まだ、私は・・・!
「―――これで、望みは潰えた。」
バリィン―――
「・・・・・・あ、」
パパに託された最後の希望。
二人が動けなくなったら、渡してって頼まれてた、私の魂に隠された『創造物』。
それが、主神に砕かれた。
「・・・・ごめん、なさ・・・パパ、ママ・・・・・。」
もう、ダメだった。
意識が薄れ、涙が溢れて、視界が無くなるその時。
「――――――あぁ。」
パパとママが、主神の後ろで笑いをかみ殺しているのを見て。
安心して、意識を手放した。
Side out
Side ―――
ゴォォゥァッッ!!!!
「―――なんだ?」
握り潰した玉から、自身さえ滅多に創造しない"創力"が溢れ出し、困惑する主神。
それは溢れる傍から愁磨へ吸収されていく。
例え"創力"を増やしたところで何が出来る訳でもないが、傍観する理由も無く、主神は
その奔流を止めようとし―――
「―――何……!?」
初めて狼狽した。
自身の力を以て干渉出来ないのではない。自身が力を―――『創造』を使えなかった。
存在して初めての事に、余裕や様子見から来るものではなく、ただただ"隙"を見せる。
僅か一秒か、二秒そこらの現象が収まると、愁磨がピクリと身動きした。
「……ああ、串刺しなんてひでぇ事しやがる。」
「ええ、全く、躾がなってないわよねぇ。」
床に数センチしか刺さっていなかった槍は、屹立していたのが不思議なほどにいとも
簡単に抜け、それをズブズブと体から引っこ抜く。
しかし、それもまた主神にとって『有り得ない』事。
「(―――馬鹿な、アレは即創の部類とは言え、『縫い留める』事に特化した槍だ。
"創造者"たる魔人は兎も角、ルシフェルまで?)」
『創造』は一点の能力に絞る事で絶対的な効果を齎す。
それは『創造によって創られた物』でも、与えられる能力としての『創造』でも、絶対の
原則の一つだ。それを―――"主神が一つの能力に特化させた槍"を、抜き放った。
看過出来る領域を超え、遂に己が持つ『創造』を行おうとした時、二人が動いた。
「行くぞ、ノワール。」
「ええ、シュウ。」
お互いに向き合い、左手を絡め合う。そして―――
ザシュッ!!
「な――――」
取り出した『アトロポスの剣』で、ノワールの心臓を突き刺した。
Side out
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