戦闘携帯のラストリゾート
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行進は流れ星のように
ワープ装置による光が消えたかと思うと、迷路の中だった。遊園地のアトラクションのように、わたしの周りは真っ白な壁が立ち、目の前には左右の分かれ道がある。空には天井がなく、アローラ以上の満天の星がとても綺麗で見とれそうになる。でも、やるべきことをやらないと。
「スズ、現在地はわかる?」
【ええ、問題なく。最短ルートを案内しましょうか?】
「お願い」
迷路を進みながらゴールを探すルールの趣旨とは違うかもしれないけれど、正体を隠していても今は怪盗。頼れるところはスズに頼る。
【検索完了しました。まずは右側の道に向かってください】
「ポケモンが出てくるって言ってたけど、どこにいるかわかる?」
【そうですね……ではこちらを】
スズがわたしのスマホに映像を送ってくる。上空から見たこの迷路の一部だ。
わたしと同じように迷路の入っている人の前に立ちふさがるように、突然ランプラーの群れが灯篭流しのように現れた。他にもバチュルやバケッチャが人の動きに合わせて出現しているように見える。
ともあれ、ポケモンをすべて避けてゴールまで向かうなんてことは不可能のようだ。
【野生のポケモンを迷路にはなっているのではなく、ポケモンカードに記録した個体を適宜出現させているのでしょうね】
他の参加者が、手にしたカードから呼び出したポケモンでランプラーたちを吹き飛ばす。倒されたそれらは、赤い光になって消えた。またすぐに迷路のどこかに出現するんだろう。
・・・・・・胸が、もやもやする。ポケモンカードに記録されたポケモンとはいえ、わたしが持つポケモンと何も違いはないように思うのに。どこか不自然に感じてしまう。
だけど今はそれを気にしてる場合じゃない。焦らず、素早くゴールまで向かわなきゃ。
「お願い、スターミー」
ボールから出てきたスターミーは、ストレッチをするように体をぐにぐにと捻る。背中の方の星をぐるぐる回すと、わたしの言葉を促すように赤い宝石をキラリと光らせた。
普通のポケモンバトルとは勝手が違うから、他のポケモンも道具を変えたりしながらあらかじめ指示を出しておく。
「目の前にポケモンが出てきたら、まとめて『波乗り』で吹っ飛ばしてほしいの。それでね……」
今のところ見えているポケモンは全員そんなに大きくないけれど、数は多い。なら真面目に一体一体相手をするよりも素早く一度に倒しながら進んだほうがいい。
ぐにゃりと体を曲げて頷いたスターミーはわたしの前を飛び始める。
「さあ、一気にゴールまで駆け抜けるよ!」
スズの指示した方向にスターミーと一緒に走り出す。右の角を曲がるとすぐに、行く手を阻むようにバチュルが4体現れた。
「波乗り!」
スターミーが水を発生させ始めると同時に、助走をつけてスターミーの上に飛び乗る。発生させた波へサーフボードみたいにバランスを取って乗り、そのまま激流がバチュルたちを押し流す。
「よし、これで全部……ッ!?」
背中に走る鋭い刺激。痺れて感覚がなくなったわたしの体が強張ってバランスが崩れる。だけど、スターミーがそれに気づいてわたしが落ちないように支えてくれた。
「一体残った……!? 『サイコキネシス』!」
波が引き、水浸しになった地面に降りると同時にスターミーが残ったバチュルに向けて念力を放つ。なすすべもなく吹き飛ばされたバチュルは、瀕死になると同時に赤い光になって消えた。
「ありがとう、スターミー。麻痺はしてない?」
スターミーは返事代わりに胸のコアを光らせつつ、『自己再生』で回復した。そして再び浮かび始める。
一撃で倒しきれるものと思ったけれど、そんなに甘くはなかったらしい。スターミーの体もちょっと電撃を受けていたところを見ると『放電』あたりを使われたのかもしれない。
【ラディも、体にしびれは残ってませんね?】
「うん、大丈夫」
スターミーと一緒に体を軽く捻ってみる。特に違和感はない。今度は気をつけないと。
「それじゃあ、気を取り直して・・・・・・」
再び迷路を走り始める。今度はバケッチャ達が三匹ころころ転がりながら現れた。ちょっとかわいい・・・・・・ううん、予選クリアのために加減はできない。
「まずは『うずしお』!」
スターミーが波ではなく水の竜巻を発生させてバケッチャを巻き込む。これだけだととても倒しきれないけれど、動きを攪乱するには十分。そして
「『冷凍ビーム』!」
放たれた光線がバケッチャごと渦を氷漬けにする。倒せたかどうかはわからないけれど、これでさっきみたいに攻撃を受けることはない。
状況に合わせた判断に満足していると、遠くの曲がり角から足音が聞こえた。
「うお、派手にやってんな」
大人の男が、わたしが凍らせた渦巻きを見て驚いている。それからこちらを見て。
「それもカードじゃなくてボールとか、こりゃ予選落ちかな」
「・・・・・・ケンカ売ってる?」
いつもより低めの、男の子みたいな声でわたしは返事をする。
「んじゃまあ、せっかく会ったしバトルといくか。親からもらって思い入れとかあるのかもしれねえが、このリゾートではボールじゃカードに勝てねえってことを教えてやるよ」
男はいやな笑みを浮かべてカードを取り出す、そこからエルフーンが飛び出してきた。
「こいつのGX技は『トイボックス』。フェアリータイプの技を一回使うだけで発動できて、あらゆる道具を五個も使えるようになる! おまけに特性がいたずらごころだから先制で確実に使えるって訳さ。それじゃさっそく・・・・・・GXスキル起動、解放条件はフェアリータイプの技一回以上・・・・・・【トイボックスGX】!!」
うんちくを垂れる男の人の説明は聞きながら、わたしは一言だけ指示を出した。
「『であいがしら』」
確かに、エルフーンの特性は強力だし、GX技は反則的だけど、彼が言ったとおり条件がある。それは特性のタイプの技を指定された回数使わなければいけないこと。
だったら、対策はできる。
強烈な一撃で有無を言わせず倒してしまえばいい。わたしが尤も得意な勝ち方だ。
ボールから飛び出した甲冑の巨体が、なにかしようとした綿毛を押し潰すように突撃し、GX技で得たであろうアイテムを使わせる間もなく勝負はついた。
「な・・・・・・!?」
「アドバイスありがとうおじさん。エルフーンのGX技、もし使われることがあったら気をつける」
「おじさん!?いや、そういうことじゃなくて──うお、なんだこれ!?」
ショックを受ける男の人。でも会話はそれ以上続かなかった。わたしに話す気がなかったのもあるし。迷路の壁が変形して男の人をぐるりと囲んで閉じ込めたからだ。
「負けたら一定時間その場で待機って、こういうことね・・・・・・」
【ちなみに今ので道が開けてルートが短縮できました。今度は左に、そのまま進めばゴールのようですね】
スズの説明通りに道を進む。何度も何度も似たような壁に囲まれた道を方向転換してきたから、正直今島のどの辺にいるかもわからない。これなら他の参加者はゴールにつくのは大変なはず。一番乗りだといいんだけれど・・・・・・
【これは・・・・・・ラディ、止まってください】
「どうしたの?」
【今までにないパターンのポケモン出現です。十分に気をつけて】
ゴール地点らしくものは、地下へ降りる階段のようだった。その前に立ちはだかるように──蛇のように長くうねった体、鱗と瞳の輝きは天使や宝石のように煌めくポケモン、ミロカロスが現れる。さらに体の周りには常に体力を回復させる技『アクアリング』、状態異常を無効にする『神秘の守り』のベールを纏っていた。
「チュニンのところに行きたかったらこいつを倒せってことだよね・・・・・・」
【時間経過による体力回復、状態異常無効、そしておそらく特性は能力を下げられると特殊攻撃力をあげる『かちき』ですね。思ったより簡単にクリアさせてくれる気はなさそうですよ?】
「ただのデータなんかに、手間取ってられない。お願い!」
スターミーを引っ込めて、最大の特殊火力を持つポリゴンZを呼び出す。
「『破壊光線』!」
ミロカロスの体よりも太い二色の光線が、こちらを敵視するように首をもたげるミロカロスに直撃する。この一撃で・・・・・・
「倒れない・・・・・・!?」
というか、傷一つついていないように見える。確かにあたったはずなのに。
【『守る』で弾いたようですね。やはりGX技を使用されるのを前提にしていますか】
「どういうこと?」
【恐らくここに来るまでの過程で発動条件を満たし、一撃で決めようとした相手の攻撃をいなすことを想定しているのでしょう】
「参加者のやることはお見通しってわけ……」
そう口にした途端、反撃の『ハイドロポンプ』が放たれた。ポリゴンZは破壊光線の反動で動けない。直撃すれば、間違いなくわたしの体は吹き飛ばされるだろう。でも、それくらいで怖がってたら怪盗なんてできっこない。だからわたしは、思いっきり横に飛んでそれを避ける。
すぐそばを激流が通り抜けて、少し濡れるけどバチュルの電撃みたいに体に衝撃はなかった。
ミロカロスは再び守りの体制に入ってる。突破しない限りゴールにたどり着けない仕組みだから、攻撃より守りに重きをおいているんだ。
ちまちま攻撃をしてもアクアリングで回復されて、大技は『守る』で防がれる。状態異常による搦手も難しい。
「でも、手はある。スターミー、お願い!『ハイドロポンプ』を受け止めて『渦潮』!」
交代で出したスターミーが、激流を直に受ける。水タイプ同士ダメージは少ない。
むしろ相手より遅く行動したときに発動する特性『アナライズ』が激流をスターミー自身が操る渦に変えて、ミロカロスの大きな体を閉じ込めた。
ミロカロスも水タイプだからダメージはないようなものだろうけれど、わたしの狙いは倒すことじゃない。
「スターミー、今のうちにゴールへ!」
わたしはジャンプしてもう一度スターミーの上に乗る。スターミーは念力でわたしと自分を運んで、渦潮の中のミロカロスを素通りしていった。そのままゴールであるワープゾーンに入り──わたしの意識は、入ってきたときと同じ様に一瞬途切れた。
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